TVアニメ「蟲師 続章」第15話「光の緒」(ひかりのお)。ヒトとは在り方の違う「命の別の形」それが蟲。「蟲師」は、蟲が人に影響したときに現れる奇妙な現象を集めた奇譚集。案内役のギンコと共に「蟲師」の世界の詳細あらすじを追う。感想・考察も加え、作品を深掘り!



第15話/命の輝きが見えるようになった母親が織る光る衣が美しい! 視聴後感バツグンの温かい物語。

出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

第十五話

光の緒

hikarinoo

 

 

「蟲師」第2期の「続章」は中盤を迎え、映像づくりも音づくりも非常に充実した、美しい世界観の作品が続く。物語の方は、前作「隠り江」、今作「光の緒」、次作「壺天の星」、このあたりはどれも少し不思議だが優しいハッピーエンドを迎える視聴後感の良い作品だ。

 

ただ、この先はそうとばかりも言えないモノになる。厳しい現実を描いた作品に展開してゆく。今しばらくは、ふんわりと美しい作品世界を楽しみたい。

 

ちなみに、タイトル「光の緒」の「緒」は、「糸」の意。

 

ゲンのケンカの理由

▲大人にケンカを止められるゲン 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

今作の主人公は「ゲン」。年齢は8歳くらいだろうか、きかん気の強い子だ。その「ゲン」が、年上の子に馬乗りにぶん殴っているところから物語は始まる。

 

「またゲンだ」「やり返せー!」と、周りの子たちは相手の子を応援している。そこに大人がやってきて、子ども同士のケンカを止めた。ゲンは大人の手を振り払い、モノも言わずに走り去る。里の大人たちはこう噂する。

 

「まったく・・・年上の子相手に、何て怪力だ」

 

「おまけに癇癪もちで手に負えん。今に何やらかすか・・・末恐ろしいな」

 

顔じゅう痣だらけにして帰ってきたゲンに父親は驚く。

 

父親「ゲン! どうしたその顔、またケンカしたのか、相手は誰だ」

 

ゲン「あっちが悪い。陰でコソコソ言うからだ」

 

父親「母さんの事か?」

 

ゲン「病気なんかウソだって。おれが嫌いで出て行ったんだって・・・」

 

父親「そんなわけないだろう。おまえがいい子にしてれば、母さんの病気も今に・・・」

 

ゲン「そんなのウソだっ! おれを産んだせいで病気になったから、おれに会いたくないんだ」

 

父親「ゲン! いいか、父さんの話をちゃんと聞くんだ。おまえは元気すぎるから、会わせると病気に良くないんだ。わかるな?」

 

父親は腰を落とし、ゲンの両腕に手をかけ正面から話しかける。が、ゲンの方は目の前の父親を見ず、視線を外して何かを見ている。ゲンは水瓶のところにいる、光る奇妙なモノを見つめていた。

 

それに気づいた父親が、両肩をつかんでゲンを咎めた。

 

父親「一体何を見てる。こっちを見ろ!」

 

ゲンは父親を突き飛ばし、走って逃げた。どうやらゲンは蟲が見える性質で、父親は見えないようだ。

 

見てはいけないモノ

▲行李から光る衣が! 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

物置に逃げ込んだゲンは、やり場のない気持ちを布団にぶつけていた。ぼすぼす、布団を叩いたあげくに突っ伏したゲンの上に行李が落ちてきた。行李から布類がばらまかれたその中に、ゲンは見た事もない美しい衣をみつけた。

 

それは黄色や桃色、緑が勝った色が交じり合い輝く不思議な衣だった。

 

ゲン(なんだこれ。いろんな色がゆらゆら動いて、まるで生きてるみたいだ。・・・きれいだな。でも、きっとこれは見たらいけないものだ。あれらと同じもの。見たと言ったら叱られる)

 

ゲンが言う「あれら」とは、ゲンには見えるのに父親には見えないモノたち。蟲や、天女のような──。もっと幼い頃、ゲンは里の一本杉の上に、白い人のようなモノが浮かんでいるのを指さした。

 

ゲン「空に人がいる。お父ちゃん、あれ天女?」

 

父親「ゲン、おまえ・・・。何を言ってる、気のせいだ」

 

ゲンの言っているものが見えない父親は、息子の手を引き、その場から離れようとした。しかしゲンにはそんな事わからない。

 

ゲン「あそこだよ」

 

父親「そんなもの見ちゃいけない。そんなもの、いやしない」

 

それからゲンは、あれらは見てはいけないものだと理解した。しかし、どうしても気になって、夜にもう一度、衣を手に取ってみた。そして、妙なことに気づく。

 

ゲン(あれ、この衣、どこにも縫い目がない。天女の衣には、縫い目がないのだと草紙で読んだ。もしかしてあれは、この衣を探しているのかな・・・)

 

ゲンには、この衣が天女の羽衣のように思えたのだ。

 

ギンコの蟲切り失敗

▲ギンコ登場 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

またケンカをしたゲンが口をヘの字に歩いていると、田んぼのあぜ道にギンコが座っていた。稲がすっかり刈り取られているので、季節は10月か11月頃だろう。

 

ギンコ「おまえがゲンか。ずいぶんとたくましく育ったもんだ」

 

ゲン「誰?」

 

ギンコ「おまえの赤子の頃に、ちょいと縁があってな。あの貧相な子が、ここまでになぁ」

 

ゲン「何か用?」

 

ギンコ「変わった衣がおまえの家にあるだろう。あれは、俺がおまえに着せたもんだよ」

 

ギンコは、ゲンの赤子の頃の出来事を話して聞かせた。

 

▲父親に光る衣は見えない 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

生まれたばかりの頃、ゲンはひどく弱々しい子だった。そこに突然、訪ねてきたのがギンコだった。「こちらの赤子がとても体が弱いと聞きましてね」と。そして背負い箱から取り出した、例の衣をゲンに着せた。しかし父親にはその衣が見えない。

 

父親「何をしている」

 

ギンコ「特別な衣を着せています。この子が生きる力を取り戻すまで、この衣はこのままにしてください」

 

父親「・・・衣だと。でたらめを言うな。どこにそんな・・・」

 

それまでぐったり目を閉じていた赤子のゲンが目を覚ました。

 

父親「ゲン、気がついたか」

 

ギンコ「少し、このまま様子を見てみませんか。お礼は、この子が立派に育ってからで構いませんので」

 

ここまでが、ギンコがゲンに話した内容だ。

 

ギンコ「──とまぁ、そういう事だったんだが、少し効果がありすぎたかね。おまえ、怒ると自分でも力の加減ができんのだろ。ちっと”蟲切り”が必要かもな」

 

ゲン「蟲?」

 

ギンコ「おまえは、蟲を見る性質が強くなりすぎた。そうすると子どものうちは特に自分で自分を思い通りにできなかったりする。そういうの嫌だろう? なら、手ぇ貸してみろ」

 

ギンコは背負い箱を下ろし、小引き出しを開けて何か取り出した。

 

▲ゲンには天女が見える 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

ゲンは空に浮かぶ天女を見上げて訊く。

 

ゲン「それをしたら、あれは見えなくなる?」

 

ギンコ「ああ、嫌なら全部は抜かんよ」

 

ギンコも空を見上げた。

 

▲「いや、普通なら指の先からこう・・・」 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

そしてゲンの掌に緑色のものを塗りじっと見つめる・・・。

 

ギンコ(ん、出てこんな・・・)「いや、普通なら指の先からこう・・・おかしいな」

 

これは「蟲師 続章」第13話「残り紅」のpic upのところで書いた、かつて呪医がやった「虫切り」または「虫封じ」とそっくりだ。wikiには、その方法がこのように書かれている。

 

施術の概要は乳児の手のひらに真言、梵字などを書き、粗塩で手のひらをもみ洗いして、しばらく置いてみると指先から細かい糸状のものが出ているのが見えるといい、これが虫であるとされた。

 

──が、ゲンの指先からは何もでなかった。ギンコ、蟲切り失敗だ。

 

ゲンの母親は出産後、妖質をもってしまった

▲ギンコは光る衣に目をとめた 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

そこに父親がやってきた。父親は、ギンコに見覚えがあった。

 

ギンコ「息子さん、立派に育ちましたな」

 

父親「たくましく育ってくれたのはありがたいが・・・。いくらか手に負えんところがある。あの時は藁にもすがる思いだったが。ゲンがああなったのは、あんたのせいじゃないのか。あんた一体、あの時ゲンに何をした」

 

父親には例の衣は見えないので、もともとギンコを胡散臭いと思っていたはずだ。それでこんな失礼な事を言いだしたわけだが・・・仕方ないのでギンコはあの衣の由来を話した。「本人に口止めされていたのですが」と、前置きして。

 

ギンコ「あの時、ここへ来る前にあの子の母親に会いました。あれは、彼女の作ったものですよ」

 

ゲンが生まれた直後。母親の「ゆい」は体調を崩して実家にいた。たまたま通りかかったギンコが、衣桁にかけられた光る衣を見つけて声をかけた。

 

ギンコ「きれいな衣ですな。一体どこで手に入れたんです?」

 

ゆい「あなた、この着物が見えるの? これは、私が紡いだ糸で織ったものです。でも、私にもその糸が何なのかわからない。急に、見えるようになったんです。息子を産んだ時、生死を彷徨ってから・・・」

 

そしてゆいは、この衣についてギンコに話して聞かせた。

 

出産の後、しばらく生死の境を彷徨ったゆいは、蟲が見えるようになっていた。それと同時に草木が光を宿したように美しく見えた。

 

ある日、庭の木の枝をなでたゆいの指先に、光る糸がついてきた。何だろう? と訝しがりながらも、あまりにきれいなので、ゆいはその糸を紡いだ。ゲンの晴れ着を作ろうと思い立ったからだ。しかし、その糸はゆいにしか見えていなかった。

 

▲ゆいがゲンの頬を撫でると・・・ 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

ゆいが赤子のゲンを抱く。ゆいの目に、ゲンも草木と同じように光を宿して見えた。ゲンの頬をなでると──ゲンからも光る糸が採れ・・・途端にゲンはぐったりしてしまった。

 

ゆい「ゲン? ゲン!」

 

父親「どうしたんだ」

 

ゆい「あなたゲンが・・・。急にぐったりして」

 

父親「何があった」

 

ゆい「わからない。この子をなでたら光る糸が抜けて・・・それで」

 

父親「何を言ってるんだ。かせっ、早く医者に!」

 

こうして父親はゲンを連れていき、ゆいは一人実家に取り残された。その夜、ゆいはゲンのために作ったあの衣が、脱皮するのを見た。それを見たとき、ゆいは思った。

 

ゆい「その時、私は、あれは生きているのだと・・・。あの糸は、触れてはいけない何かだったと・・・」

 

ここまでが、ゆいがギンコに話して聞かせた内容だ。

 

漫画やアニメでは誰が話しているのか絵で明確に分かるので、あまり混乱することはないが、改めて見るとここの構造は複雑だ。現在の8歳くらいになったゲンに会いに来たギンコが、ゲンが赤子の頃にここに来た当時のことを父親と話す。その話の中で、さらに遡ること数日前にゲンの母親のゆいに会った時のことに触れ、その時ゆいがギンコに話して聞かせた内容を現在の父親に話しているという、ものすごい入れ子構造になっている。

 

ギンコ「こいつは驚いた。あの糸は、我々蟲師が”妖質(ようしつ)”と呼ぶモノだ。あんたが急に持った・・・今まで見えなかったモノを見せる力の事だ。それを薬も使わず、ただ指で紡げるって話は聞いた事がないが」

 

ゆい「それを抜くとどうなるの。あの子は・・・」

 

ギンコ「成長した子どもなら障りはないが、赤子のうちは妖質は生きるのに必要な要素だ。ほとんどの者が持って生まれる。むやみに抜けば生きる力を失う」

 

ゆい「そんな。どうすれば・・・あの子は・・・」

 

ギンコ「ひとつ望みはある。この衣をあの子に着せればあるいは・・・」

 

こうして、ゆいから衣を預かったギンコは、ゲンの父親の元を訪れたのだ。これまでの話を、ゲンの父親は黙って聞いていた。

 

ギンコ「結果は、ご存知の通りです。あの子は人一倍たくましく育った。が、少々、妖質を持ちすぎた。普通なら我々蟲師が薬で抜けるものが、あの子には効かないくらいに。・・・あなたには信じられない話かもしれませんが、あの子に話して母親に会わせてみては。今、あの子の糸を抜けるのは、あの子の母親くらいですよ」

 

父親「・・・それは、無理だ」

 

二人の会話を戸の裏で立ち聞きしていたゲンが急に入ってきた。

 

ゲン「どうして? 母さん、おれの事、嫌いじゃなかったんだ。おれ、母さんに会いたい」

 

ゲンは涙をためていた。

 

▲「おれ、母さんに会いたい!」 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

ゲンは、ずっと誤解していたのだ。自分を産んだせいで病気になったから、自分は母親に嫌われていると・・・。里の子たちと喧嘩が絶えないのも、すべてそれが原因だった。

 

父親「ゲン、すまない。もっと早く、会わせてやるべきだった」

 

父親は、ゲンがそんな勘違いをしていることも、一人で辛い思いを抱えていることも知っていた。それなのに母親を遠ざけてきたのは、理由があった。

 

ゆいの異変

▲抜け殻のようになってもう二年近く 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

父親は、ゲンとギンコを伴いゆいの実家を訪れた。ゆいは、目を開けたままぴくりともせず布団に横になっていた。(目は閉じてやらないと、乾いて仕方がないと思うのだが・・・)。

 

父親「もう、二年近くこの状態なんだ。まるで・・・抜け殻のように。もっと早く許してやれてたら・・・」

 

「もっと早く許してやれてたら」とは、おそらくゲンが急にぐったりしたのを、この父親はゆいのせいだと決めつけたのだろう。それで、もう二度とゲンをここに連れてこなかったのだろう・・・。可哀想なゆいは、ただひたすら後悔していたに違いない。

 

たまたまギンコが通りかかり、あの衣を見つけたのは、ちょうどそんな頃だった。ギンコは赤子のゲンに衣を着せ、その報告にまたゆいを訪れたはずだ。ゲンが少し元気を取り戻したと聞き、ゆいはどれだけ安堵しただろう。そして・・・。その後のゆいの行動にまで、ギンコは頭が回らなかった──。

 

ギンコ(あの後も糸を紡いでたのか。新しい衣を作るために。妖質に触れすぎて、蟲の気を帯びてしまってる。もっとこっちに注意しとくべきだった・・・)

 

光る衣を着せればゲンが元気になると知ったら、そりゃ母親ならこういう行動にでる。最初は初宮詣り用の産着を作ったが、次は七五三用の晴れ着を作ろうとか、そんな風に考えたはずだ。

 

「おれ、この人知ってる」と、ゲンが言いだした。「覚えてるのか」と父親は言ったが、そんなはずはない。赤子の頃に離されそれきりのはずだ。少し顔を上げ、嬉しそうにゲンは言う。

 

ゲン「そうじゃないよ。いつも、おれを見てる天女だ!」

ゲンの笑顔

▲ゆいが頷くとゲンは見た事もないような笑顔に! 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

その後、ゆいの体は父子の住む家に移された。しばらくすると、その体に生気が戻っていった。

 

ゲン「お母さん、聞こえる?」

 

ゲンが話しかけると、ゆいは少し微笑みゆっくりと頷いた。見た事もないような笑顔をゲンは浮かべる。やがて、天女の姿が消えた。

 

ゆい「ある時、すうっと体が軽くなって、気がつくと空からあの子を見てたの。あの子がちゃんと育ってて嬉しかった」

 

父親「ごめんな、ゆい」

 

ゆい「ううん、私こそ・・・」

 

しばらくすると、ゆいはすっかり元気になり、床に起き上がれるようになった。話し方もずいぶんしっかりしている。

 

▲「これほどの珍品はまたとない」 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

ゆいの布団の側で、ギンコは光る衣を手にしている。

 

ギンコ「この衣、約束通り、いただいていきます」

 

ゆい「本当にそれだけで、よろしいの?」

 

ギンコ「十分ですよ。これほどの珍品はまたとない」

 

ゆいとの約束で、ゲンが元気に育ったらこの衣をもらう約束だったようだ。これもまた、化野のコレクションに入るのだろうか? しかし化野にこの衣は見えないはずだ。だとすれば、またどこかで妖質を抜かれてぐったりしている子がいたら着せてやるためギンコが持ち歩くつもりかもしれない。

 

ギンコ「・・・あの光、まだ見えるのか?」

 

ゆい「それが、もう全く」

 

ギンコ「そうか。なら、その方がいい。しかし、だとしたら結局どうしたもんか。強力な薬を開発するしか・・・」

 

ゆい「え?」

 

ギンコが言っているのはゲンの件だ。もともとギンコはゲンの「蟲切り」に失敗している。それができるのは、赤子のゲンから妖質を抜いたゆいくらいだと、ギンコは父親に話していた。「今、あの子の糸を抜けるのは、あの子の母親くらいですよ」と。

 

▲ゲンの笑顔を見てギンコは去る 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

帰り道、里の子らと笑いながら走り回っているゲンを見かけた。

 

ギンコ(何だ。もう、その必要もないのかもな・・・)

 

ゲンの笑顔は子どもらしくくったくがなく、明るかった。

 

いい夢が見られそうな優しい良作!

▲友達と楽しく遊べるようになったゲン 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

ゲンの子どもらしい思い込みと、自分が母親に嫌われているわけじゃなかったと知った安心感から問題行動がすっかり治まったという物語だった。最後のゲンの笑顔が眩しく、視聴後感が非常に良い。寝る前に観れば、気持ちの良い睡眠に繋がりそうだ。

 

今作ではギンコが物語にしっかり関与しているのも良かった。ギンコファンとしては、やはりギンコの活躍があると嬉しくなる。ギンコが「蟲切り」を失敗するところも、クスリとさせられる。

 

また、いつもながら映像が良かった。妖質を紡いだ衣がどんなに美しいのか、そこに説得力がないと成り立たない物語だが、衣の美しさが十分に描かれていた。

 

ハッピーエンドの良作として、くり返し視聴したいと思えた。

 

これは思い付きだが──。続章の第1話「野末の宴」に、飲めば一時的に蟲が見えるようになる酒が登場した。今作の父親は、蟲が見えないために妻の事も息子の事も理解してやることができなかった。その感情のずれを埋めるため、「偽光酒」を飲ませるという下りがあっても面白かったかもしれない。

 

「野末の宴」には「偽光酒」の他に、蟲師が講を行う時の案内に使う「猩々髭(しょうじょうのひげ)」という蟲も登場する。これらがまたどこかの作品で登場すればいいのに、と常々思っていたので。

 

子どもは誰でも”妖質”を持っている

▲ゲンには蟲が見えている 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

世間一般に言われている少し不思議なことを、蟲を使って分かりやすく説明するという事が「蟲師」ではよくある。たとえば「蟲師」第1期、18話「山抱く衣」に登場する「産土(うぶすな)」がそうだ。故郷に対する特別な思いを「産土」という蟲を使って説明しているのだが、これが非常に説得力がある。

 

今作では「子どもは大人に見えないモノが見える」という俗説だ。ギンコによると、蟲が見える性質は”妖質”と言い、ほとんどの者が赤子の頃は持って生まれるのだという。そしてそれは、「成長した子どもなら障りはないが、赤子のうちは妖質は生きるのに必要な要素だ」と。

 

子どもの頃、たしかに世界はもっと輝いて見えた。ギンコの説明から解釈すると、光酒は生命の源で、それらが見えるから子どもの頃は樹々が美しく見えたということだ。これはもう、真理としか思えないほど説得力があるではないか。

 

こう考えると、じつは我々が知らないだけで、世の中のしくみは本当にこうなのかもしれないと、どこかで信じてしまいそうになる。「蟲師」はほんとうによく考えられた設定だと、今更ながら感心する。

 

あと、今作の創作ヒントには、「幽体離脱」もありそうだ。

 

pic up/独特な雰囲気をつくる手足の表現

▲光る糸を採るゆいの手 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

「蟲師」は独特の世界観をもつ作品だ。「蟲」という奇抜で説得力ある設定、唯一洋装で、白髪、碧眼の片目という特徴的なギンコのキャラクター、よく練られた秀逸なヒューマンドラマ、緻密で美しい美術背景、東南アジアの民族楽器を使ったり声の反響までしっかり意識した個性的かつ凝った音響、作中の楽曲までとにかく良く磨かれている。

 

これらに加えて「手足の表現」もまた、「蟲師」世界を独特に見せる要素のひとつだと思う。じつはこの特徴は第1話「緑の座」から顕著に現れている。

 

「蟲師」では、とにかく手が大写しになることが多い。そして、足は裸足のことが多い。

 

今作では、ゆいが光る糸を採る手が大写しになっている描写から始まる。アニメでこれだけ手が大きく表現されることは稀だと思う。そしてその動きの滑らかなこと! じつは原作漫画でも、手足がよくアップで描かれている。裸足について、原作者・漆原友紀さんは、単行本の見返しにこう書いている。

 

裸足、になるのも描くのも好きです。足の裏で感じた事は、手よりも直に心に響く気がする。足の裏は、色んな記憶を呼び覚ましてくれる、大事な場所だと思うのです。

 

そういえば、ギンコは革靴を履いているが、靴下姿を見たことがない。少し歩きにくいんじゃないだろうか・・・。

 

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