「ついにたどり着いた地下室で見つけたグリシャが残したこの世界の真実、第2弾!」。TVアニメ「進撃の巨人」シーズン3、第2クール第58話「進撃の巨人」の感想と考察を、詳細あらすじとともにお届けします。圧倒的な力をもつ巨人と人類の果てしない戦いを描いた人気アニメ「進撃の巨人」。【注意】完全ネタバレです!



第58話/「われわれが相手にしていた敵の正体は、人であり文明であり言うなれば”世界”です」話が飛躍的に大きくなってきた!

▲青ざめながらも自らの使命を受け入れるグリシャ 出展/TVアニメ「進撃の巨人」公式

 

#58

進撃の巨人

 

大陸で「楽園」と呼ばれる「パラディ島」の海沿いで、一人の巨人が暴れている。巨人はマーレ当局の兵士をその手で握りつぶし、つぎつぎ海に投げ入れていく。それはエルディア復権派の間で「フクロウ」と呼ばれているスパイ、エルディア人でありながらマーレ政府に潜り込み情報を流している男・クルーガーが姿を変えた巨人だった。

 

巨人から人間に戻ったクルーガーはグリシャの両手を縛っている紐を切った。クルーガーの目の下にはくっきりと巨人化の痕が残っている。

 

グリシャ「フクロウ、あんたは何者だ」

 

クルーガー「オレはエレン・クルーガー。今見せた通り、9つの巨人の一つを宿している。つまりはおまえと同じユミルの民だ」

 

グリシャ「マーレ人になりすまし、当局に潜入したのか。血液検査はどうした?」

 

クルーガー「医者に協力者が一人いれば済む話だ。医者は諜報員に向いている。実際おまえはよくやってくれた。結果こそはグライスが嘆いた通りだったがな」

 

そう言われてグリシャは表情をくもらせ視線を落とす。

 

グリシャ「その通りだ。オレはダメな父親で、ダメな夫で、ダメな男だった。なのになぜ、オレだけ人の姿のままここに。ダイナは、王家の血を引くユミルの民は特別だ。巨人の進化を引き出す。おまえがもみ消したりしなければ──ダイナは──答えろ。なぜオレだけ生かした?

 

グリシャは、拷問で切り落とされた指のない手でクルーガーの襟をつかみ力をこめた。とたんに両手に巻いた包帯が赤く染まる。

 

クルーガー「よせ、指が傷むだろう?」

 

グリシャ「お気遣いに感謝するよ。人の指をちょん切るのは気にならないらしいがな! なぁ、あの巨人でもっと早く暴れていれば、皆も巨人にされずに済んだんじゃないのか? オレたちは何のためにここで巨人にされたんだ?」

 

クルーガーは急にその場に膝をついた。肩で息をつき、ひどく辛そうだ。鼻血すら出ている。

 

クルーガー「同胞だけじゃない。何千人ものユミルの民の指を切り落とし、ここで巨人にしてきた。女も子どももだ。すべてはエルディアのためだったと信じている。時間がない。グリシャ、おまえに最後の任務を託す。他の誰かではなく、おまえにだ

 

真剣な表情で語るクルーガーの次の言葉を、グリシャは息を詰めて待った。

 

「これから壁内に潜入し、始祖の巨人を奪還しろ。オレから巨人を継承してな」

 

前回は「この世界の真実」に迫る数々の重要な情報が語られた中身の濃い回でした。続く今回もまた濃いです。これら把握してこそ、次の物語に繋げていけるのでしょうから、今回もまたしっかり書き起こしながら、情報を整理していきたいと思います。

 

グリシャとクルーガーは相変わらずパラディ島の入り口につくられた巨大な壁の上に座り話している。

 

クルーガー「あの日、初めておまえと会った日。あんなことが起きなければ、おまえはここまでマーレに強い憎しみを抱くことはなかっただろう。敵国、父親、自分。おまえの目に映る憎悪は、この世を焼き尽くさんばかりだった。かつてはオレもそうだった。大陸に留まった王家の残党は革命軍となり、父はその一員だった。しかし、何も成し遂げることなく、生きたまま焼かれた。幼かったオレは、その様子を戸棚の隙間から観ていることしかできなかった。それ以来、マーレへの復讐と、エルディアの復権を誓った。──だが、オレが実際にやったことは、同胞の指を詰め、ここから蹴落とし、巨人に変えることだ。それに徹した結果、今日まで正体を暴かれることはなかった。オレはいまだあのときのまま、戸棚の隙間から世界を見ているだけなのかも知れない」

 

グリシャ「教えてくれフクロウ、オレに残された任務とは何だ?」

 

クルーガーこれから壁内に潜入し、始祖の巨人を奪還しろ。オレから巨人を継承してな

 

話を反芻するようにしばらく間を置いてから、ようやくグリシャは言葉を発する。

 

グリシャ「何だって? じゃぁ、あんたは」

 

クルーガー巨人化したおまえに食われる。同じようにして始祖の巨人を持ち主から奪え

 

グリシャ「なぜあんたがやらない?」

 

クルーガー9つの巨人の力を継承した者は、13年で死ぬ。オレが継承したのも13年前になる

 

ユミルの呪い」。フクロウはそれをそう呼んだ。「13年は、始祖ユミルが力に目覚めてから、死ぬまでの年月に相当する時間」だと。

 

グリシャの記憶を継承しているエレンは、壁の上で交わされているグリシャとクルーガーの会話も鮮明に覚えている。今、エレンは懲罰室の中で二人の会話をそのままを語り、傍らの机でアルミンがそれを書き取っている。

 

ふとアルミンはペンを走らせる手を止めた。

 

アルミン「ボクはあと13年。エレンは──」

 

エレン「残り8年──も、ないな」

 

ミカサ「違う。これは、何かの間違い。間違ってる」

 

隣の懲罰室の壁際に座っているミカサが言った。

 

エレン9つの巨人を宿す者が、力を継承させることなく死んだ場合、巨人の力はそれ以降に誕生するユミルの民の赤子に、突如として継承される。あたかもユミルの民と、皆一様に見えない何かで繋がっていると考えざるを得ない。ある継承者は道を見たと言った。巨人を形成する血や骨、ときには記憶や意思も、その道を通り送られてくる。そしてその道は、すべて一つの座標で交わる。つまりそれが始祖の巨人だ

 

クルーガーすべてのユミルの民は、その座標へと繋がっている

整理その1、クルーガーの願いが、グリシャを通して今、エレンの中に宿っている!

 

グリシャとクルーガーの壁の上の会話はまだ続きますが、ここで一旦、整理しましょう。まずクルーガーの正体から順に整理していきます。

 

クルーガーの正体

クルーガーは、エルディア復権を胸に誓いながらマーレ政府下に潜入しているスパイです。エルディア復権派からは「フクロウ」と呼ばれています。つまり、クルーガーはエルディア人です。

 

クルーガーの父親は、大陸に留まった王家とともにエルディア復権を目指して活動していた革命家でした。ところが父親はマーレ政府に捕えられ、戸棚に隠れているクルーガーの目の前で生きたまま焼き殺されました。その憎悪から、エルディア復権派となったのです。

 

クルーガーは、9つの巨人の力を継承しています

 

グリシャが託された任務

クルーガーは、グリシャに任務を託します。それは壁の中に潜入し、「始祖の巨人」を奪還することです。

 

彼らが座る海沿いの壁からウォールマリアまでは遠い。しかもその間には、これまでマーレ人が巨人化してきた数千人からの「無垢の巨人」と呼ばれる知能をもたずただ人間を食らうことのみを目的にしている巨人がうろついています。普通の人間ではウォールマリアまでたどり着けません。

 

そこでクルーガーは、自分の宿す巨人の力をグリシャに継承させて、ウォールマリアまでたどり着かせようとしているのです。

 

ユミルの呪い

なぜクルーガーが自分でやらず、グリシャにその任務を託すのか──それは「ユミルの呪い」のせいでした。巨人化能力を宿した者は13年で死ぬ──それが「ユミルの呪い」です。13年というのは、ユミル・フリッツが巨人の力を宿してから亡くなるまでの時間でした。

 

このときクルーガーは巨人の能力を宿してから13年目だったので、彼は使命をグリシャに託したのです。

 

もし巨人の力を持つ者が、力を継承せずに死んだ場合、その後生まれたエルディア人の子どもに、突如巨人の力を持つ者が現れます。出どころの知れないユミルの巨人の力は、もしかしたらこうしてもたらされたものなのかも知れませんね。

 

「始祖の巨人」=「座標」

「始祖の巨人」の力とは、グリシャがレイス家から奪った巨人の力だと思われます。その力は今、エレンに宿っています。

 

巨人の力の継承は、その力だけでなく、もともとその力を持っていた人間の記憶や意思も継承されます。それはあたかも1本の道を通って送りこまれてくるようなもの。実際、力の継承者はそんな道を見た者もいて、その道はすべてが1点の座標で交わっていたと言います。その「座標」が「始祖の巨人」だとクルーガーは説明します。

 

だからエレンは、グリシャとクルーガーの会話を記憶しているのですね。

 

「始祖の巨人」の力は、他の巨人を従えることができる力です。これがあれば、エルディア人はエルディア復権を果たせるし、マーレ人も今よりさらに強力な力を持つことができます。両陣営が「始祖の巨人」の力、つまり「座標」を奪取することを狙っているのです。

 

クルーガーの本名

クルーガーの本名は「エレン・クルーガー」。グリシャはカルラとの間に生まれた息子にクルーガーの名をつけました。グリシャは息子が生まれたときから、自分のもつ巨人の能力を継承させる気だったのでしょう。だから、クルーガーと同じ名をつけたのでしょう。

 

クルーガーから力を継承して13年。その期限が迫っていたのもあり、グリシャはエレンに力を継承したのだろうと思われます。

 

グリシャの逡巡と決断

 

グリシャとクルーガーが話す壁の上には二人の影が長く伸び、夕暮れの空が広がっていた。

 

グリシャ「始祖ユミルの正体は、いったい何なんだ」

 

クルーガーマーレ政権下では悪魔の使いエルディア帝国の時代では神がもたらした奇跡有機生物の起源と接触した少女。そう唱える者もいる」

 

グリシャ「は?」

 

クルーガー「この世に真実などない。それが現実だ。誰だって神でも悪魔にでもなれる。誰かがそれを真実だと言えばな」

 

グリシャ「ダイナは王家の血を引く者だと言ったのもあんただ。それもあんたの真実か?」

 

クルーガー「残念なことに、ダイナが王家の血を引くのは事実だ

 

グリシャ「では、なぜ見捨てた?」

 

クルーガー「王家の血を引く者だからだ。敵の手に渡すべきではなかった。ジークがマーレにすべてを話す前に」

 

グリシャ「それでも!」

 

クルーガー「それでも? 死ぬまで敵国の子を産まされ続ける生涯の方が良かっただろうか?」

 

疑問を投げかけ続けたグリシャは、クルーガーの目を見返すことができずに視線を落とした。エルディア人とエルディア王家、さらにマーレ政府との間に長く身を置いてきたクルーガーには、グリシャよりはるかに多くの知識があり、その知識に基づいた深い考察があった。

 

たしかにダイナがエルディア王家の末裔と知れば、マーレ政府はダイナを放っておかないだろう

 

クルーガーオレは務めを果たした。おまえもそうしろ。ここから生きて壁までたどり着けるのは、巨人の力を宿した者ただ一人だけ」

 

グリシャ「正直に言って、オレに務まるとは思えない」

 

クルーガー「おまえがやるんだ」

 

グリシャ「あれを見ろよ。生きたまま巨人に食われて死んだ。あんたはオレに訊いた。これが面白いかって。面白くなかったよ。ヤツの断末魔は聞くに堪えないおぞましさだった。オレは、なにも分かっていなかった。これが自由の代償だと分かっていたなら、払わなかった」

 

壁の下には、ついさっき巨人に食われたグロスの顔が半分だけ残っている。クルーガーの巨人の力を継承するには、グリシャは巨人化し、クルーガーを生きたまま食べなければならない。やれと言われて、そうそう「ハイ」とも言えない。

 

グリシャの逡巡をみて、クルーガーは一つため息をつき立ち上がった。

 

クルーガー「立て、戦え。エルディアに自由と尊厳を取り戻すために。立て!」

 

グリシャ「オレは・・・もう」

 

エルディア復権のために使命を果たせと迫るクルーガー。それに対して、すっかりおじけてしまっているグリシャ。

 

クルーガー「おまえを選んだ一番の理由は、おまえがあの日、壁の外に出たからだ。あの日おまえが妹を連れて壁の外に出ていなければ、いずれ父親の診療所を継ぎ、大人になった妹は結婚し、子どもを産んでいたかも知れない。だがおまえは壁の外に出た。オレはここで初めて同胞を蹴落とした日から、おまえは妹を連れて壁の外に出た日から、その行いが報われる日まで、進み続けるんだ。死んでも、死んだ後も。これは、おまえが始めた物語だろ?」

 

グリシャは意を決して顔を上げ、クルーガーと向かい合わせに立ち上がった。グリシャの決意を感じ取ったクルーガーはしばらくの沈黙の後、言葉を続けた。

 

クルーガー「9つの巨人には、それぞれ名前がある。これからおまえに継承される巨人にもだ。その巨人は、いついかなる時代においても、自由を求めて進み続けた。自由のために戦った。名は進撃の巨人

整理その2、「エレン巨人」の名は「進撃の巨人」

▲エレン巨人の名は「進撃の巨人」 出展/TVアニメ「進撃の巨人」公式

 

ここで語られているのは、自分の落ち度のせいで同胞を巨人にしてしまい、ダイナすらも巨人にしてしまい、すっかり絶望しているグリシャが、クルーガーの進言を受け入れるまでの過程です。ここに新しい情報はほとんどありませんが、ひとつ、大きな情報が込められていました。

 

クルーガーがもつ巨人の名前は「進撃の巨人」。クルーガーはその巨人についてこう説明しました。「その巨人は、いついかなる時代においても、自由を求めて進み続けた。自由のために戦った」と。

 

この巨人の力はグリシャを経て、今、エレンの中にあります。エレンにも、自由への強い意思があります。エレンはまさに、クルーガーから「エレン」の名をもらい、「進撃の巨人」を受け継ぐにふさわしい器といえますね

 

クルーガーは務めを果たした?

クルーガーはグリシャに「オレは務めを果たした。おまえもそうしろ」と言います。これ──どう思いました? だってクルーガーのしてきたことって「オレが実際にやったことは、同胞の指を詰め、ここから蹴落とし、巨人に変えることだ」って、自分で言ってるし。それって、どうなの? そんな胸張って言えることじゃないでしょっ! って、思ったんですけど──。

 

でも、ふと冷静になって考えたんです。無垢の巨人を人間に戻す方法があるなら? もしそうならマーレの弾圧から逃れさせ、いつか人間に戻れる道を残したってことですよね? コニーの母親も巨人化しているし、きっといつか人間に戻す方法が解明されるような気がしてきました! だとすれば、クルーガーは確かに同胞を救う務めをはたしてきたと言えますね! 憎まれ役の辛い仕事ではあったけれど・・・。

現在公開可能な情報

9つの巨人

ユミルの民に眠る人知を超えた力。知性をもつ巨人の正体であり、その力と記憶は、空間を超越した道を通じて継承される。その道のすべてが交わる一点たる”座標”こそが始祖の巨人である。

ユミルからの手紙

 

「進撃の巨人・・・」懲罰室の壁にもたれてエレンは呆けた顔でつぶやいた。それを鉄格子の向こうのハンジは聞き逃さない。

 

ハンジ「なにしてるの? 進撃の巨人──てやってたよね、今。えぇ? やってたよね? 二人とも今の見たでしょう?」

 

アルミン「えぇ。でもまぁ、それは──」

 

ハンジ「君の巨人の名前でしょ? なんで誰もいないのに一人でしゃべっていたの」

 

リヴァイ「もういいだろハンジ。こいつは15歳だぞ。そういう時期は誰にでもある」

 

ハンジ「はぁ? なんだよそういう時期って・・・」

 

これまでエレンが記憶をたどって得た情報は、すべて地下室から持ち出した3冊の本に書かれているらしく、ハンジはエレン巨人の名を知っていた。エレンとミカサの懲罰は短縮され、もう釈放になるようだ。女王(つまりヒストリア)の謁見があるから身支度をしろと、リヴァイは告げる。

 

一方ヒストリアはハンジが持ち帰ったユミルからの手紙を読んでいた。

 

親愛なるヒストリアへ。

今わたしの隣にはライナーがいる。わたしが恋文をしたためる様子を覗き見している。悪趣味な野郎だ。絶対にもてない。だが、おまえにこの手紙を届けると約束してくれた。あのとき、こいつらを救った借りを返したいのだと。あのときはすまない。まさかわたしがおまえよりコイツらを選んでしまうなんて。わたしはこれから死ぬ。でも後悔はしてない。そう言いたいところだが、正直、心残りがある。まだおまえと結婚できてないことだ。

ユミルより。

 

読み終えたヒストリアは手紙にそっと右手を載せた。その瞬間、ユミルの記憶がヒストリアに流れ込んできた。貧しい孤児だった子どもの頃。神の子としてまつりあげられた頃。追放され巨人化してから長く一人でさまよっていた頃。人を食べた後、人間にもどって見上げた夜空に見えた幾筋の道とそれらが一点に交わる様子

 

その道は、すべて一つの座標で交わる。つまりそれが、始祖の巨人だ」。エレンの声が響き、最後に不鮮明に見えたのは、レイス家の聖堂に誰かが繋がれている様子と、その前に立つ一人の男の姿──。

 

ヒストリア「なに? 今の・・・」

 

そこに兵団服に着替えたエレンとミカサ、さらにアルミンがリヴァイに連れられ入ってきた。

 

御前会議

 

グリシャが3冊の本に残した数々の情報から、現状を共有するための御前会議が開かれる。そこに調査兵団の生き残り9名も参加している。正確には8名──体調の悪いサシャはまだ病室だ。

 

ザックレー総統「グリシャ・イェーガー氏の半生、巨人と知りうる歴史のすべて、壁外世界の情報、この3冊の本の存在を知る者は、この部屋にいる者のみである。これは彼ら調査兵団9名とここにはいない199名の戦果だ。本日は女王の御前で今一度われわれの状況を整理し、この会議の場で意思の共有をはかりたい。調査兵団団長ハンジ・ゾエ」

 

ハンジ「われわれ調査兵団は、エルヴィン・スミスを含め、多数の英雄を失うことと引き換えにウォールマリアを奪還し、超大型巨人の力を奪うことに成功しました。ですが、われわれ壁内人類は、いまだ極めて危険な状態にあります。敵が巨人と言うバケモノだけであればどんなに良かったことでしょうか。しかし、われわれが相手にしていた敵の正体は、人であり文明であり言うなれば”世界”です

 

会議室の前面中央には女王ヒストリア。その右隣にザックレー総統。左右の壁際に並べられた机にはそれぞれ各兵団の重鎮たちが首を連ねる。中にはピクシス指令の姿も見える。部屋の中央には3列の机が並べられ、それぞれ生き残りの調査兵団員が3名づつ座っている。一番前の机の中央にいるハンジはザックレー総統に促されて立ち上がり、説明を続けた。

 

ハンジ「手記によれば、われわれは巨人になれる特殊な人種”ユミルの民”であり、再び世界を支配する可能性がある。だから世界はわれわれユミルの民をこの世から根絶するのだと」

 

ハンジが説明をしている間、エレンはまたグリシャの記憶をたどっていた。

 

クルーガー「始祖の巨人がマーレの手に落ちれば、エルディア人は終わりだ」

 

グリシャ「そんなこと、壁の王が許すはずがない」

 

クルーガー「壁の王は戦わない。エルディアが再び罪を犯すというのなら、われわれは亡ぶべくして亡ぶ。我は始祖の巨人と不戦の契りを交わした──壁の王は大陸の王家にそう言い残し、壁の門を閉ざした」

 

グリシャ壁の巨人が世界を平らにならすとも、言い残したのではないのか」

 

クルーガーその言葉が抑止力になる間に、つかの間の平和を享受するらしい。壁の王は民から記憶を奪い、壁外の人類は滅んだと思いこませた。無垢の民に囲まれ、そこを楽園だとほざいている。もはや民を守らぬ王は王ではない。必ず見つけ出して、臆した王から始祖の巨人を取り上げろ。それがオレたちの使命だ

 

会議では、まだハンジが説明を続けている。

 

ハンジ「イェーガー氏はその後使命を果たし、始祖の巨人は息子エレンに託されました。始祖の巨人がその真価を発揮する条件は、王家の血を引く者がその力を宿すこと。だが、その者が始祖の巨人を宿しても、壁の王の思想に囚われ、残された選択肢は自死の道のみとなる。おそらくそれが”不戦の契り”。しかしながら、過去にエレンは無垢の巨人を操り、窮地を逃れたことがあります。王家の血を引く者でないエレンにも、その力を使える可能性があるのかも知れません

 

ハンジの説明を聴きながら、エレンはかつて無垢の巨人を操れたときのことを思い浮かべる。それは、母親カルラを捕食した巨人が現れたとき。そのときエレンはどうしても巨人化できず、目の前でハンネスまでもその巨人に捕食されてしまった。どうしようもなくなったエレンは、拳を固め、巨人の手のひらにパンチした。

 

エレン(──そうだ。あのときは一瞬だけ、すべてがつながった気がした。どうして、あの一瞬だけ)

 

そこでエレンはグリシャの記憶の一片を探り当てる。あの巨人はダイナだった。そしてダイナは王家の血を引く者──。そう考えたエレンは弾かれたように立ち上がった。

 

エレン「まさかっ!」

 

ハンジ「・・・びっくりした。どうしたの? 突然」

 

エレン「あ、あの。今──」

 

言い淀んだエレンは「何でもありません」と、気まずそうに着席した。結局ハンジは、エレンを「そういう時期にあるようだ」と説明した。「突然、恰好をつけたり、叫んだりしてしまうようです」と。それに対してザックレー総統は「それは気の毒に、年頃だしな」と、理解を示した。

 

結局ハンジはエレンをいわゆる「中二病」だと言い、それでなんとなくその場は納まったが、エレンは「始祖の巨人」の力を目覚めさせる方法を思いついていた。

 

もし、王家の血を引くダイナ巨人にパンチしたのが、始祖の力を引き出すカギだとしたら──と、エレンは考えたのだ。もしエレンが、その可能性があると言えば、兵団がヒストリアを巨人化するかもしれないと思い至ったので、何も言えなくなってしまったのだった。

 

「さぁ、分からない。誰の記憶だろう?」絡まる記憶

ついに決意を固めたグリシャの前で、クルーガーは巨人化の注射器に液体を込める。

 

クルーガー「家庭を持て。壁の中に入ったら所帯を持つんだ」

 

グリシャ「なにを言ってる。オレにはダイナがいる。それにそんなことを言われても、巨人になる直前の記憶はなくなるんだろう?」

 

クルーガー「そうとも限らん。後で誰かが見てるかも知れん。妻でも子どもでも、街の人でもいい。壁の中で人を愛せ。それができなければ、繰り返すだけだ。同じ歴史を。同じ過ちを。何度も。ミカサやアルミン、皆を救いたいなら使命を全うしろ

 

グリシャ「ミカサ? アルミン? 誰のことだ」

 

グリシャに問われたクルーガーはやや呆然として言葉を切り、視線を空にさまよわせた。

 

クルーガー「さぁ、分からない。誰の記憶だろう?」

 

「ミカサ」に「アルミン」。その言葉は、本当にかつてのクルーガーが発した言葉なのだろうか? エレンの感情とグリシャから受け継いだ記憶が混線しているのだろうか?

 

整理その3、「不戦の契り」と、エレンが「始祖の巨人」の力を発動する条件とは?

▲ダイナ巨人にパンチするエレン 出展/TVアニメ「進撃の巨人」

 

グリシャが3冊の本に残した情報を共有するため開かれたヒストリア女王の御前会議で、エレンは考えを巡らしています。ここでは重要なことが2つ語られます。「不戦の契り」、「始祖の巨人の力を引き出す方法」について。

 

「不戦の契り」とは

大陸に留まりエルディア復権を願う王家と違い、パラディ島の壁の中に逃げ込んだ王家は戦うことを放棄しました。始祖の巨人と不戦の契りを交わした」というのです。つまり「始祖の巨人」を継承する王家の者は「不戦の契り」により戦うことを選ばず自死の道へと進んでしまう。そこで壁の王が選んだのが、「壁の巨人が世界を平らにならすだろう」という脅しが有効な間だけつかの間の平和を謳歌して亡ぶ道だったというのです。

 

王家の者が「始祖の巨人」を継承すれば戦うことができない。かといって王家以外の者が「始祖の巨人」を継承すればその力を発動することができない。ジレンマですね。

 

始祖の巨人の力を発動する条件

無垢の巨人を意のままに操れる「始祖の巨人」の力を発動する直前、エレンはダイナ巨人と接触していた。グリシャの記憶から、ダイナは王家の末裔だと判明した。ということは。もしや王族の巨人と接触すれば「始祖の巨人」の力を発動できるのではないか? と、エレンは仮定します。

 

記憶の混線

ユミルからの手紙にしたためられた文字にヒストリアが触れたとき、ユミルの記憶がヒストリアに流れ込みました。また、まだクルーガーが「進撃の巨人」を保有している時期の過去に、クルーガーは「ミカサとアルミン」と、エレンの幼なじみの名前を出しました。

 

9つの巨人の継承者、さらに王家の人間は、簡単に記憶が交じり合うのかも知れません。

 

グリシャがエレンへの伝え方に苦慮した結果

最後にひとつだけ追加します。

 

グリシャは、息子のジークを自分の考えに洗脳し、自分の意思を継がせようと必死で教え込みました。けれどジークは反発し、そのためすべてのエルディア復権派の同胞もダイナすらも「楽園送り」となってしまいます。それはジークの気持ちを尊重しなかったから起きたこと。幼い頃、自分自身も同じ反感を親に抱いたというのに、グリシャもまた同じ過ちをおかしてしまいました。

 

そこでグリシャは、エレンには何も伝えませんでした。何も伝えず、ただコッソリと力を継承させました。エレンの意思などお構いなしに実力行使に出ました。

 

その方法が正しいかどうか分かりません。でも、グリシャなりに苦慮した結果なのでしょう。幸いエレンは自分の使命を受け入れていますが、辛い道なのは変わりありませんね。

 

[char no=”1″ char=”あいびー”]グリシャの少年期から始まった半生。グリシャの人となり、グリシャが託された使命、巨人の力を得た経緯。さらに大陸の情報、壁内人類の情報、壁内人類が大陸の人類すべてから狙われているという事実が57話、58話の2回を使って詳細に語られました。これらの新しい情報を元に、ついに壁内人類は壁の向こう側を目指します。次回第59話「壁の向こう側」。まったく新しい展開が待っています![/char]

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