「ユーリ!!! on ICE」を視聴しての個人的な感想です。結論から言うと、作者の愛と熱量が詰まった傑作!さまざまな視点から考察もしているので、読んでいってね♪



視聴後感が最高!世界中で愛されるべき傑作!!

▲勇利とヴィクトル、二人でグランプリシリーズ制覇に挑む

「YURI!!! on ICE」は、日本のフィギュアスケーター勝生勇利(かつき・ゆうり)と、グランプリシリーズおよび世界選手権5連覇の偉業を成し遂げたフィギュアスケート界の生きる伝説、ロシアのヴィクトル・ニキフォロフが出会ったことから始まる、フィギュアスケートを舞台にした愛と絆、そして成長の物語です。

 

あなたの身近にある、たくさんの愛に気付いて!それが本作のテーマ

▲昨年のグランプリファイナルはミスの連続で最下位に

初出場したグランプリファイナルの大会でメンタルの弱さから実力を発揮できず最下位に撃沈してしまった勇利は、失意のうちに5年ぶりに故郷の長谷津に帰ります。

そこにグランプリファイナルで金メダルを獲得し、グランプリシリーズ5連覇の上に世界大会5連覇まで達成したヴィクトルがおしかけコーチにやってくるところから勇利の世界は一転します。

▲「グランプリファイナルで優勝させるぞ」と全裸で宣言

じつはヴィクトルは、勇利が幼いころからの憧れの選手。勇利の部屋はヴィクトルのポスターだらけです。まさに青天の霹靂!

▲ヴィクトルは勇利を知ることから始める

勇利の地元・九州の長谷津は、かつては温泉産業で栄えたものの、今では勇利の実家「ゆーとぴあ・かつき」だけを残して温泉もすたれ、人口減少が深刻な地方都市です。

勇利とヴィクトルはここを拠点に練習を始めます。

▲地元のスケートリンク「アイスキャッスル・ハセツ」

ヴィクトルはコーチとして、まず勇利を知ることから始めます。そして勇利を取り巻く環境を知るにつけ、長谷津にはなんでも揃っていることに気づきます。

営業時間外でもいつでも自由に練習させてくれる地元のスケートリンク「アイスキャッスル・ハセツ」。

▲温泉旅館の女将は勇利の母。得意料理はカツ丼

勝っても負けてもいつも勇利を暖かく応援してくれる家族。1日の疲れを癒す温泉に、勇利の母特製の美味しい食事。特にカツ丼!

どうやらヴィクトルも勇利の地元が大好きになったようです。

▲ミナコ先生のバレエ教室でまずはダイエットから今季を始動

勇利の母親の先輩で、近所でバレエ教室をやっている奥川ミナコ先生。

勇利はミナコ先生の勧めでフィギュアスケートを始めていて、フィギュアスケートを始めてからもずっとミナコ先生が勇利にバレエを教えてくれました。

▲二人でつくったFPの曲名は「YURI on ICE」

勇利のFP(フリープログラム)のテーマは「ボクの愛について」。曲名は「YURI on ICE」。本作のタイトルそのままです。

「愛」という短い言葉で表現しているけれど、そこには家族愛や地元愛、幼馴染、師弟愛、絆、ペットへの愛情、さまざまな愛が含まれています。

FPのテーマを決めたとき、勇利はこう言っています。

──今までずっと一人っきりで戦ってると思ってた。でも、ヴィクトルが現れてそれは一変した。昔と変わらないもの、変わってしまったもの、すべてが新鮮に飛び込んでくる。失ったものをもう一度手繰り寄せることはできないかも知れないけど、何がそこにあったのか、今はよく見える。

ヴィクトルが現れたことで、当たり前に身近にあるものが、失ったものさえも、より新鮮にクリアに見えるようになった、と。

勇利を取り巻くさまざまな愛に先に気付いたのはヴィクトルだったのかも知れません。ヴィクトルの目を通して、改めて勇利は、自分がさまざまな愛に育てられたことに気付けたのでしょう。

身近に当たり前にある幸せに、人はなかなか気づけませんから。

▲グランプリファイナルで完璧なFPを滑り終えた勇利

ヴィクトルとともにいくつもの大会を乗り越え、ついに勇利はグランプリファイナルでFPを完璧に滑りきり、世界歴代最高得点をたたき出します。孤独な気持ちでいた昨年には成し得なかったけれど、愛を知ったことで大きな飛躍を遂げたのです。

愛を知って変わったのは勇利だけではありません。ヴィクトルも、勇利をライバル視するユリオも、それぞれが関わり合うことで世界は良い方向に変わっていきます。これはなにもトップスケーターでなくても、誰にだってあてはまること。

身近にあるたくさんの愛に気付いてほしい。気づくことで人生はより豊かに美しいものになる

という普遍的なメッセージが、本作で作者が伝えたかったことでしょう。

 

じょじょに色づいてゆくオープニング映像にもテーマ性がハッキリ示されている

じつはこの作品、オープニング曲のバック映像が話数を経るごとに少しずつ変化してゆきます。第1話では比較的背景色は薄く、ほとんど彩色されていないシーンも多くあります。

話数を経るごとに、勇利の背景はこんな風に主に青く色づいてゆきます。

ヴィクトルはくすんだ暗色から鮮やかな金色に。第11話の背景では、J.J.、クリス、オタベック、ユリオ、そして勇利とさまざまな選手がヴィクトルの背後に浮かび上がります。

勇利と関わることでヴィクトルの世界が劇的に輝いてゆくのが、そしてヴィクトル自身も光となってさまざまな人に影響を与えてゆくのが表現されています。

ユリオは濃いピンク色~紫。ユリオの指先から、ヴィクトルの影響を示す金色のエフェクトが発せられています。

曲の最後の方では、第1話の背景に色がないのに対して、第11話の背景は青、金色、濃いピンク~紫色、それぞれが混然と影響し合い美しく彩られています。

「ユーリ!!! on ICE」のオープニングは、手描きとは思えない滑らかで美しいスケーティングの作画が素晴らしく、さらにテーマ性を際立たせる背景の演出、もちろんDEAN FUJIOKA作詞・作曲のOP曲「History Maker」も作品世界をよく表現しており、かつオシャレな雰囲気もあって、毎回飛ばすことができないとファン絶賛のOPです。

文句なしに素敵です!

 

物語の中心は、試合ごとの勇利の浮き沈みとメンタル調整に悩むヴィクトルの奮闘。そして次第に縮まる二人の距離

▲作中、勇利は同じプログラムを4回滑る

「YURI on ICE」は、スポーツを題材にしています。多くのスポーツを題材にした作品が技術習得と強敵を倒しながら主人公が成長してゆく姿をメインにしたスポ根モノなのに対して、こちらはプログラムでなにをテーマにするか、またはその解釈や表現をメインにしています。

これには2つの理由があります。ひとつにはフィギュアスケートが採点競技であるということ。直接相手を殴り倒すことで勝敗が決するのではなく、自分の精度を高めることが求められる競技だから。

ふたつめには登場人物たちが既に世界のトップスケーターなので、技術習得は4回転ジャンプを習得するシーンが少しあるていどで十分という理由です。

▲プレッシャーから夜眠れなかった勇利

主に描かれるのは、メンタルに難のある主人公の勇利が世界の強豪たちとどう戦っていくか、それをヴィクトルがどうサポートしどう乗り越えていくか。

そして、勇利・ヴィクトルともにそれぞれの大会で何を得、人間としてどう成長していくかに力点を置いて描かれています。

▲いつも自分を驚かせてくれる勇利にヴィクトルもドッキドキ

とくに丁寧に描かれているのが、試合ごとに深まる二人の関係性。

勇利の弱メンタルが引き起こす好・不調の波を鎮めるために、ヴィクトルが苦労しながらじょじょに二人の距離が縮まってゆく様子に毎回ドキドキハラハラさせられる展開が、本当に楽しいです!

▲泣き虫勇利といつも前向きなヴィクトル

勇利のプログラムはSP「愛についてエロス」とFP「YURI on ICE」の2つ。国内予選、中国大会、ロシア大会、グランプリファイナルと、4つの大会で同じプログラムを滑ります。

同じプログラムが繰り返されるのに、勇利のメンタルは大丈夫か?ジャンプは成功するか?と、そのときどきで状況が変わるので、まったく飽きさせません。

本作の見どころである、8カ月におよぶ勇利とヴィクトルの奮闘と、じょじょに近づいてゆく二人の距離、すれ違いとハッピーエンドまでをダイジェストにして、1本の記事にまとめました。

まとめて見たいかたは、そちらをどうぞ。

二人の軌跡ダイジェスト

 

嫌な人が誰もいない、最初から最後まで愛に溢れた作品で、視聴後感が最高に良い!

▲いつも温かい声援を送る地元のみんな

「YURI on ICE」の世界には、嫌な人がだれ一人登場しません。勝っても負けても勇利を信じて温かく見守ってくれる家族や地元のみんな。

▲グランプリファイナル出場選手たち

ライバルとなる、ほかの出場選手たちも、それぞれが、それぞれの表現力を磨きただ自分の滑りの精度を上げることに力を注ぎます。

ライバルは蹴落とすべき相手でも倒すべき相手でもないので、非常にクリーンな戦いで、お互いがお互いをリスペクトし合っているのが、とても美しく心地よい。

▲初登場時のユリオは勇利いわく「ロシアンヤンキー」

波風を立てるのは、口の悪い15歳のロシア選手「ユーリ・プリセツキー」通称ユリオ。自己主張が激しく、思い通りにならないと悪態をつくが、口のききかたを知らないだけで、根はやさしい子なのがすぐに分かります。

▲「美味いだろ!?」と天使の笑顔

大好きなおじいちゃんが作ったピロシキを勇利に振る舞うときには、この笑顔。おじいちゃんっ子なのです。

▲試合直前にボロ泣きすることも

もう一つの波風は、センスも技術も体力も超一流なのに自己肯定感が低く、気持ちのムラが激しい勇利の感情の波と奇行です。

▲棚ボタでグランプリファイナル出場が決定したときのハグ大会

でもそれも、すべて意味があり、勇利の一生懸命さからくること。勇利はコミュニケーションが下手なところはあるけれど、感性が豊かで、好奇心に満ちた、基本的に明るい性格で好感がもてます。

▲いつでも安定して勇利を受け入れるヴィクトル

勇利を導くヴィクトルも、最初から最後まで勇利を信じサポートし続けます。その気持ちは変わらず一途で、真っすぐで愛に溢れた人間性が魅力的です。

▲愛にまっすぐで照れのないところは、やはり外国人

勇利のような浮き沈みはないけれど、さすが根っからの表現者。豊かな感情表現に加えて、引き締まった身体とこの美貌。ヴィクトルの圧倒的な魅力が、この作品を特別なものにしています。

▲4回転フリップに感激したヴィクトルは勇利に抱き着いて

そして散りばめられる、勇利とヴィクトルの愛に溢れたシーンの数々。

▲讃美歌流れる教会の前で指輪を

キスを思わせるシーンや、勇利が望んでお揃いの指輪をつけるシーンも。BL作品と言われるゆえんではありますが、嫌な感じはあまりなく、どれも幸せが伝わってきます。

▲穏やかな表情で踊る二人

途中すれ違いはあったけれど、最後はしっかり絆を繋ぎなおした二人が踊るペアスケーティング。愛に溢れたショーのエンディングは感動的で最高です!

▲ヴィクトルの心からの笑顔が眩しい

この作品には2段階のエンディングが用意されています。感情が揺さぶられる愛に溢れたペアスケーティングが最初のエンディング。

そしてもう一つはリンク外でのエンディング。これからもフィギュアスケーターとしてともに人生を生きてゆく結末に至った二人の日常を描いています。本気でぶつかったからこそ獲得できた、迷いの消えた笑顔がすがすがしくて眩しい。

最後の最後まで愛に溢れた作品で、何度観ても多幸感を届けてくれる傑作だと思います!

 

未来に続くラストも余韻があって味わい深い!

▲金メダルはユリオ、銀メダルが勇利、銅メダルはJ.J.

勇利とヴィクトル8カ月に及ぶ奮闘も、目指した金メダルは取れずじまい。勇利は銀メダルに終わりました。

文句なしの大団円を描こうと思えば「勇利とヴィクトルがいろいろ頑張った末に金メダルを獲得!」というのが分かりやすい構成でしょう。

そこをあえて銀メダルにしたというのが日本人作者らしいところだし、作品をより深みのあるものにしています。

▲トップ選手たちの戦いに完結はない

グランプリファイナルでJ.J.のFPに注がれる歓声を聞きながら、勇利が心でつぶやく言葉。

──完結しない物語ほど、魅力的な物語はない

この言葉通り、本作のラストは完結ではなく、未来に続く余韻があります。

▲「いいねぇ、もう一声!」これも銀メダルならでは

金メダルを取るまで、いや、金メダル以降もずっと、二人の関係は続きます。この完結しないからこその未来に続く余韻は、なにものにも代えがたく魅力的です。

この着地だからこそ視聴者は第2期を望みます。

競技復帰したヴィクトルの活躍も観たいし、よりパワーアップした勇利も観たい。もしかしたらユリオは少年の姿から青年の姿に変貌するかもしれないし、戦いの舞台はオリンピックになるかも知れない。今度こそ勇利に金メダルを取らせてあげたいし、満足げに金メダルにキスするヴィクトルも観たい。

でも、このまま未来をアレコレ想像できる余地を残したまま全12話で置いておくのもアリです。このままで十分完成された作品だと思います。

 

短編だからこそ生きる額縁構造

次は作品の構造的な特色を分析します。

本作は全12話の短編です。短編だからこそ生きる、特別な手法が採用されています。それが「額縁構造」です。

第1話の冒頭は、オープニング曲が流れる前に、暗い室内で踊るヴィクトルの影から始まります。最初は長い髪をなびかせ踊るジュニア時代のヴィクトルの影。

やがて影のヴィクトルは成長し、髪を短くした今の姿になります。

影をじっと見つめるのは、幼いころの勇利。

大人になり、眼鏡をかけても、やっぱり勇利は驚きの表情でヴィクトルを見つめます。

勇利「彼はいつもボクをびっくりさせる。初めて彼のスケートを観たときから、ずっと驚きの連続だった」

オープニング曲が終わると場面は、グランプリファイナルで最下位に沈んだ勇利の紹介に変わります。

▲ウエブ上の紹介画面にある勇利

勇利「ボクの名前は勝生勇利。どこにでもいる日本のフィギュアスケート特別強化選手で23歳」

▲勇利の実家、九州・長谷津にある温泉「ゆーとぴあ・かつき」

引退も噂されるなか、勇利は失意のうちに5年ぶりに地元に戻ります。そしてグランプリファイナルから4か月後の4月のこと。

▲筋肉質な美ボディをあらわに決め顔するヴィクトル

勇利の実家に、あの憧れ続けたヴィクトルが現れ「勇利、今日からオレはおまえのコーチになる。そしてグランプリファイナルで優勝させるぞ☆」と、突然言います。「えぇぇぇ~~?」と勇利が絶叫し、次の言葉で第1話が終わります。

勇利「彼はいつも、ボクをびっくりさせる天才だっ

これ、気になりませんでしたか?わたしは最初からすごく気になりました。

なぜ過去形なんだろう?つまりこの物語は過去の物語。すでにヴィクトルは過去の人ってこと?いずれそういう悲しい別れが待っている?ずっとそんな感情を引きずったことを覚えています。

答は最終話の第12話で明かされます。

▲両手の中にある過去を慈しんでいるかのような演技から始まる

グランプリファイナルでの勇利のFP直前から、勇利のモノローグが始まります。

──ボクの名前は勝生勇利。どこにでもいる日本のフィギュアスケート選手で24歳。

突然の、どこかで聞いたような自己紹介。

続いて流れる、ヴィクトルの影が踊る映像。

最初は長い髪をなびかせながら、

次のシーンでは髪を短くした今のヴィクトルに。

驚きの表情で勇利はヴィクトルを見つめます。幼いころも、

大人になった今も。

第1話の冒頭と完全に一致しています。つまり、額縁構造になっているわけです。

第12話で勇利がFPを演じているときが額縁で、第1話の冒頭も額縁。話者・つまり勇利は、どちらも同じ時間、つまり第12話のFPを演じている最中にいます。

そして額縁に縁どられた中は、すべて話者が現時点から振り返っている過去の物語になるのです。だから第1話の最後のナレーションが過去形になっていたのです。

勇利「彼はいつも、ボクをびっくりさせる天才だっ

と。

▲演技最後のポーズ。これ以降が現在進行形

長い過去の振り返りが終わり、これ以降が現在として描かれます。

FPを演じている時点で勇利は、本当に引退するかどうか、ヴィクトルとの関係を終わらせるかどうか、迷いの中にいます。

勇利の過去を額縁の中で追体験してきたからこそ、視聴者はここでの勇利の迷いや感謝、さまざまに溢れる万感の思いを共有できます。

全12話という短編ならでは可能な、額縁構造が生きた作品です。ここまで大がかりな額縁構造は、アニメ作品ではかなり珍しいのではないかと思います。

ただし、最後の最後までヴィクトルに何か不幸があるのではないか、結局二人は別れてしまうのではないかという勘ぐりは、ずっとつきまといました。冒頭の過去形は、嫌な想像をかきたててしまうのが厄介ですが、そんなミスリードすらも作者の意図したところだったのかも知れません。

 

一人称視点がもたらすミスリードからの大暴露

▲元コーチ・ヤコフとお別れのハグを交わすヴィクトル

さらに構造的な話をすると、この作品は「なんちゃって一人称視点」で描かれています。

一人称視点というのは、主人公=話者が、自分で見たシーン、自分で思ったことのみを描き、それ以外を描かないという制約をつけて描写する手法です。

なので一人称視点の場合、自分以外の人の心の内は覗けません。自分がいない場所で何が起きているかを描写することもできません。

▲幼いころのユリオとヴィクトルの約束

「YURI on ICE」の場合、少なくとも第1話~第12話のFPまでの間、つまり勇利の回想である額縁の中の描写は勇利の一人称視点で描かれるべき。ヴィクトルとヤコフがロシアで別れるシーンやユリオがショッピングモールで虎顔のトレーナーを買ったり、ましてヴィクトルとの思い出のシーンなんて、本来なら描けるわけがないのですが・・・。でもしっかり描かれています。

だから「なんちゃって一人称視点」なのです。ただし、モノローグは勇利しかしていないので、そこは意識してつくられているようです。(ただし第10話は除外。第10話はヴィクトル視点になっていて、ヴィクトルのモノローグで進行します)。

▲漫画やアニメならだれが話しているか分かりやすい

この一人称視点というのは、基本的に小説で使われる手法です。文字情報だけに頼る小説では、だれの視点で描かれているか、だれがどんな状況で話しているのかが分かりにくいので、ある程度固定しないと読者が混乱してしまいます。そのために作り出された手法です。

対して漫画やアニメは、通常、神視点で描かれます。これは神の目のように、すべてを描くことができる手法です。

状況説明は絵で一発で分かるし、話者の混乱もないので、漫画やアニメでわざわざ一人称視点を取り入れるのは枷でしかないのですが、メリットもあります。

▲ちょっと情けない感じの選手情報

それはミスリードです。

話者を通してのみ世界が語られるということは、本来の姿ではない話者のバイアスがかかった情報を与えられるため、視聴者がミスリードされてしまいやすい。これを上手く利用するために、わざわざ一人称視点が採用されることがあります。

本作でも、明らかにコレを狙っています。第1話の前半で、勇利は自己紹介でこう言っています。

▲「現実がまだ受け止めきれないよー」

勇利「ボクの名前は勝生勇利。どこにでもいる日本のフィギュアスケート特別強化選手で23歳。強そうな名前だけど、初グランプリ大会で最下位。現実がまだ受け止めきれないよー!」

明るい声で「どこにでもいる」なんて自虐的に言ってますが・・・これは自己肯定感の低い勇利のバイアスを通して見せている仮の姿。

この時点で勇利はフィギュアスケートの強豪国である日本を代表する、少なくとも世界6強に選ばれるほどすごいトップ・スケーターなわけです。グランプリファイナルに出場するだけでも相当ハードルが高く、たとえ6位だったとしても世界に誇れることなのです。

これはヴィクトルと挑んだ次シーズンのグランプリシリーズの状況をみれば明らかですが、この時点であまりスケートの知識をもたない視聴者なら、「あぁ、なんかメンタル弱くて、大きな大会で失敗しちゃった可哀そうな選手なんだね」と、勇利を軽く見てしまいます。つまりミスリードさせているわけです。

話数を経るごとに「あれ?じつは勇利ってメンタルに難があるだけで、じつはフィジカルも表現力も優れた、一流のアスリートじゃない?」と気づくわけですが、最初はとっつきやすさ重視で、情けない主人公として見せたかったのでしょう。

▲ダンス表現は勇利のオハコ

そしてもう一つ、特大のミスリードがこれ。ミスリードというか、ネタバレですね。

じつは勇利は去年のグランプリファイナルのバンケットで、ユリオとクリス、さらにヴィクトルにまでダンスバトルを仕掛けていて、

▲「ビーマイコーチ、ヴィクトール!」

ダンスバトルに勝ったらコーチになってくれと、直談判していたのです。

世界一のフィギュアスケーター・ヴィクトルがどうして突然勇利の実家に現れて「コーチになる」と言い出したのか、そんな都合のいい話あるわけない! なんて視聴者に思わせておいて、過去にこんなことがあったことを第10話になってようやくバラしています。

これがずっと語られてこなかったのは、へべれけに酔っぱらった勇利は覚えていなかったから──ということで。勇利の一人称視点だからこそ、ムリなく隠すことができた、特大のネタバレでした。

額縁構造と一人称視点で、作者が上手く視聴者の気持ちを誘導しているのが分かります。わたしも、しっかりしてやられました!

 

ヴィクトルの進化の物語

▲世界選手権で披露した「離れずにそばにいて」

本作には、もう一つ額縁のようなものがあります。それが、もう一人の主人公・ヴィクトルの演技が繰り返されているところです。

最初は第1話。最初のグランプリファイナルの後、日本で3月に開催された世界選手権でのFPの演技です。

▲勇利とペアで踊った「離れずにそばにいて」

2度目は勇利が銀メダルを獲得した後のエキシビション。勇利とヴィクトル二人でペアスケーティングで演技します。試合ではないのもあってか、ヴィクトルは穏やかに満ちた表情をしています。

これは同じ演目だけれど額縁ではなく、内容が進化しています。つまり、この作品を通してヴィクトルが成長したことを表現しているのです。

勇利は愛を知って強くなり、ヴィクトルは愛を知って豊かになったというところでしょう。1度目と2度目の対比が際立つ、美しい表現ですね。

 

ヴィクトルについては、また別の記事をつくっています。詳しくはそちらでご覧ください。

ユーリ!!! on ICE 私的な考察「ヴィクトル!!! on ICE」

 

密度が濃くてテンポが良く、最後まで飽きさせない

▲特殊エンディングには重要シーンが収められている

このアニメの1話の時間は24分弱です。この短い時間に、これでもか! と情報盛りだくさん。本編に入れられなかった情報は、エンディング曲を削って入れています。

これだけ密度の濃い内容をよく24分×12話にまとめたものだと、何度みても関心してしまいます。

▲勇利の幼馴染の三つ娘・アクセル、ループ、ルッツ

本作は愛とスケート競技をテーマにした作品で、ともすれば分かりにくく重くなりがちなところを、可愛らしい脇役や面白い表現をふんだんに取り入れ、テンポよく楽しくまとめています。

▲「温泉 on ICE」に向けて特訓中の勇利

たとえば、エロスの表現に悩んだ勇利は「わかったカツ丼!それがボクのエロスだ」と・・・。ヴィクトルとの特訓でも

ヴィクトル「勇利!もっと卵を絡めるように、カツ丼をイメージして」

勇利「はい!」

大真面目に取り組んでいます──いや、真面目な分よけい面白いってw

 

濃密なのに最後まで飽きずに楽しめるところも秀逸です

 

BLを匂わせるサービスショットで話題づくり

ここまででも十分傑作なわけですが、さらにサービスショットが満載です。

勇利の実家が温泉設定なため、ヴィクトルの美しく引き締まった身体がこれでもかと登場します。上のシーンも、自己肯定感の低い勇利の気持ちを上げようと、自分が勇利のどこに魅かれたのか話しているだけ。そこがたまたま露天風呂だっただけなわけですが──こういうサービスショットはあちこちにあります。

いくつか紹介します。

勇利の演技に感激したヴィクトルが勇利に抱き着きキス?二人の唇が妙にツヤツヤしています

中国の火鍋屋で、飲みまくって楽しくなったヴィクトルは、下着まで脱いでしまっている模様

勇利の高得点に、思わずスケート靴にキス

福岡空港でのプロポーズ。ヴィクトルは永遠を願います。

お互いの右の薬指にお揃いの指輪を。右手の薬指は恋人との絆の印。

昨年のバンケットでのダンスバトル。二人とも楽しそう。

パーフェクトなFPの後のキス&クライでもハグ

勇利「ヴィクトル、ボクと一緒にあと1年競技生活続けてください!」

と、またしてもハグ

そしてエキシビションでの幸せのペアスケーティング。

欧米人にとってハグやチークキスは普通のことだし、ヴィクトルはヤコフやユリオともハグしているし、そんなに過敏になる必要はないと思うけれど。二人の愛は、ただのBLというくくりに入れるよりもっと大きい、強い絆を感じさせます。

ただただ楽しそうで、幸せそうで、ずっと二人で笑っていてほしい。BLだからと敬遠するには本当にもったいない作品だと思います。

ただし──作者がそこを匂わせることで一定のファンに人気が出るのを狙ったのは確かだと思いますけれど!

 

最後に、ドラマを彩る楽曲がいい!

▲OP曲の手描きのスケーティングの動きが素晴らしい!

最後は楽曲について。

OP曲は「History Maker」作詞/DEAN FUJIOKA・作曲/DEAN FUJIOKA、梅林太郎、松司馬 拓・歌/DEAN FUJIOKA。この楽曲に対してのDEAN FUJIOKAさんのコメントをどうぞ。

この曲”History Maker”は、勇気を持って日々限界に挑戦するあなたに捧げる応援歌です。 厳しい競争の中でチャレンジし続けるアスリートの方々はもちろん、それぞれの立場で新しい歴史の1ページを作る挑戦をしている方々への応援歌。そして自分もネクストレベルを目指し努力し続ける”History Maker”でありたいという思いも込めてレコーディングを行いました。 「ユーリ!!! on ICE」の主人公勇利の視点、勇利を導くヴィクトルの視点、そして皆で歴史を作っていくんだ、というより普遍的で広い視点。それぞれの視点が絡み合った構成にメッセージを込めています。

比較的ゆっくりとしたテンポの優雅な曲調から、力強いサビまでどこをとっても美しい。上の方で紹介したように、曲に合わせて踊る3人の動きも超絶なめらかで、話数を追うごとに色鮮やかになってゆく凝った演出とともに、本当に素晴らしいOPです。

▲「YURI on ICE」は、氷上の愛をテーマにした勇利のFP曲

勇利のFP曲「YURI on ICE」。氷の粒がキラキラと煌めく感じが本当にキレイで、何度もリピートして聞いてしまうほど大好きです。

▲ビーチのシャワーで仲良く髪わしゃわしゃ

エンディング曲は、あまりスケートぽくないけれど、それがまたいい。人生楽しんだ者勝ちって感じで^^

ほかにも勇利のSP「愛についてエロス」もユリオのSP「愛についてアガペー」も、何度繰り返しても飽きず、美しいです。

 

結論

作者のスケート愛と熱量が詰まった傑作!

 

 

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