アニメ「BANANA FISH」のレヴューです。ニューヨークを舞台に、金髪碧眼のイケメン主人公アッシュが腕と知力と運を味方に、巨大な悪に立ち向かう、かっこいいアクション満載のTVアニメです。



DATA

原作は約30年前の吉田秋生の漫画

「バナナフィッシュ」は、1985年~1994年にかけて「別冊少女コミック」で連載された吉田秋生による漫画。連載当時から熱狂的なファンに支えられ、現在も根強いファンをもつ人気作です。2017年の吉田秋生デビュー40周年プロジェクトの一環としてアニメ制作され、2018年にフジテレビのノイタミナで2クール全24話が放送されました。

 

アニメ化のきっかけは、担当プロデューサーが原作の大ファンだったことから企画書を版権をもつ小学館に持ち込んだことから。そのため、極力、原作をリスペクトしたつくりを心がけたそう。

 

アニメーション制作はMAPPA。第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション部門作品賞など数々の賞に輝く映画「この世界の片隅に」を制作したことで知られる。本作「バナナフィッシュ」でも、原作の良さにさらに磨きをかけ、力強く印象的な作品に仕上げている。

 

CAST

原作ファンも納得の声優陣

アッシュ・リンクス/内田雄馬(普段のクールさと同時に英二にみせる少年らしいかわいらしさが感じられるとアッシュ役に決定)

 

奥村英二/野島健児(包容力ある優しさが感じられると英二役に決定)

 

ディノ・ゴルツィネ/石塚運昇(外国映画のような骨太なトーンの演技が見もの。完成を待たずに亡くなったが、ディノの声はすべて収録済みだったので代役はなし)

 

MUSIC

躍動感と深い精神性を感じさせる珠玉の楽曲

1期(1~13話)オープニング

「found & lost」作詞・作曲・編曲・歌/Survive Said The Prophet

1期エンディング

「Prayer X」作詞・作曲 / 常田大希  編曲・歌 / King Gnu

2期(14~24話)オープニング

「FREEDOM」作詞・作曲 / 田邊駿一  歌 / BLUE ENCOUNT

2期エンディング

「RED」作詞・作曲・編曲・歌/Survive Said The Prophet

 

STORY

 

舞台はアメリカ、ニューヨーク。ダウンタウンのストリート・ギャングを束ねる17歳のボス、アッシュ・リンクスは、ある夜、路地で瀕死の男を見つける。男は謎の言葉「バナナフィッシュ」と、カリフォルニアの住所、小さなロケットを残して息を引き取る。「バナナフィッシュ」は、イラク戦争から廃人同然で帰還した兄グリフィンが口にする言葉だったことから、アッシュは「バナナフィッシュ」の正体を探り始める。

 

「バナナフィッシュ」は、コルシカ・マフィアのボス、ディノ・ゴルツィネが関わる巨大な陰謀の根管をなすもので、ゴルツィネは「バナナフィッシュ」を嗅ぎまわるアッシュと衝突するようになる。

 

一方、19歳の大学生・奥村英二は、知り合いのジャーナリスト伊部のアシスタントとしてニューヨークに渡り、取材先のパブでアッシュと出会う。体つきも大きく、眼光鋭く、腰に銃をさしているアッシュの迫力に最初は気おされていたが、行動をともにするうちアッシュの良き理解者となっていく。

 

ゴルツィネ側についた元アッシュの部下だった裏切り者オーサーとの闘い、ゴルツィネの陰謀に加担するチャイナタウンのボス・李月龍(リー・ユエルン)との闘い、ゴルツィネが雇った傭兵との闘い。果てしないとも思える壮絶な戦いを超人的な戦闘能力と強靭な精神力、カリスマ的な人望の厚さで辛くも乗り越えてゆくアッシュ。アッシュの活躍と、もろさを併せ持つアッシュを支え続ける英二との心の交流を描く作品です。

 

「BANANA FISH」のここがすごい!

 

ストーリーはもちろん、映像も楽曲も、魅力だらけの「BANANA FISH」のみどころを4つに絞って紹介します!

 

1、圧倒的なカリスマ性!主人公アッシュ・リンクスがチートすぎる!

主人公のアッシュ・リンクスは、金髪碧眼の端正な顔立ちにIQ200を超える頭脳をもち、銃の腕もたちナイフ術にもたけ、人種を問わず多くのストリート・ギャングたちを従える圧倒的なカリスマ性。かと思えば寝起きが悪く、目を覚まさせるために英二に放りこまれたバスタブで丸まったまま寝ていたり、幼い頃のハロウィンの思い出からかぼちゃが恐くなったと打ち明けたり、少年らしいかわいらしさも覗かせる。冷酷に銃を撃つかと思えば親友の死にぼろぼろ涙を流したり、さまざまな表情をみせるアッシュがとにかくチート級に魅力的です。

 

敵を蹴り上げるアッシュ、銃を乱射するアッシュ、ナイフを手にサシの勝負をするアッシュ、親友の死に涙を流すアッシュ、納豆を食べてなんとも言えない表情をするアッシュ、タキシード姿のアッシュ・・・。どんな一瞬も美しく強くしなやかで、目が離せません!

 

2、深い人物造詣に裏打ちされた、ダイナミックかつ自然なストーリー

主人公のアッシュ、もう一人の主人公の英二はもちろん、脇を固めるディノ・ゴルツィネ、アッシュの親友のショーター・ウォン、裏切り者のオーサー、敵対するチャイニーズ・マフィアのユエルン、アッシュに戦闘術を教えた元教官のブランカなどなど。登場人物は多いけれど、皆それぞれの人物造詣がしっかり作りこまれていて、ストーリーに破綻がなく自然に練りこまれているのが見事です。

 

3、美しく印象的なシーンと滑らかで力強い戦闘シーン、どちらの映像も見ごたえあり!

「BANANA FISH」は、とにかく映像がきれいです。英二が塀を乗り越えたときにアッシュの瞳に映る映像、夕陽に涙する静かな情景、光が当たるにつれじょじょに小さくなっていくアッシュの瞳といった印象的なシーンが随所にちりばめられ、映像が本当に美しい。かと思えば鮮やかだったり凄惨だったりする戦闘シーンもていねいに作りこまれていて、見ごたえがあります。ハードボイルドな内容を彩る武器の正確な描写も見どころの一つです。

 

4、オープニングもエンディングも、楽曲も映像も素晴らしい!

緑色の蛍光灯に照らされた地下鉄の駅から始まる1期のオープニングは、高い壁のように立ちふさがる敵に果敢に立ち向かうアッシュの姿が躍動感あふれる映像とともに描かれます。この楽曲がまたいいんです!叫び出したくなるような混沌にもがくアッシュと、支えようと奔走する英二の姿が前半の物語をぎゅっと集約して魅せてくれます。

 

2期のオープニングは、アッシュと英二の心の交流を中心にアップテンポに描いています。1期で亡くなったスキップや親友ショーターが登場したり、俯いて悲しそうな表情に曇るアッシュの姿があったりと、精神性に焦点をあてた映像は「これだけで泣ける」と評判を呼びました。

 

エンディング曲も素晴らしく、流れる映像もアッシュの悲しさや英二に向ける愛しさが溢れていて、胸が苦しくなるほどです。

 

「BANANA FISH」感想/少年の心の揺れと救いをハードボイルド・アクションにのせて描いた珠玉の名作【注意】ここから先、完全ネタバレです

アッシュを殺したのはだれ?

「BANANA FISH」は、政府をまきこむ恐ろしい陰謀に、たった一つの切り札を手に立ち向かうアッシュの活躍と、心の祈りを描いた傑作です。無謀とも思えるアッシュの行動と、次々と辛くも凌いで乗り越えていくストーリーは、ハラハラ・ドキドキの連続で、とにかく面白いです!

 

アッシュはただ強いだけでなく、親友の死に涙し、英二を心のよりどころにしなければ耐えられない心のもろさが垣間見られるところも秀逸。アッシュは戦いながら、ずっと救いを求めていました。破滅に向かって突き進みながらも、自分の不幸な過去も弱さも含めて包んでくれる英二を求めていました。そのいっぱい、いっぱいの姿が胸を打ちます

 

事件をとおしてアッシュは精一杯生きて魂の自由を得、心から信頼できる親友を得、そしてラスト数分であっけなく逝きます。辛かった過去は去り、これからというときに、薄い笑みを浮かべて幸せを感じながら眠りにつきます。最後にはハッピーエンドが待っていると信じていた視聴者は、心をガツンと殴られ一気に涙があふれてしまうのだけど──。

 

最後の最後になんの心の準備もないままあっけなくアッシュが逝って、物語が唐突に閉じて、呆然と涙するしかなかったわたしが最初に感じたのが「かわいそうに」でした。

 

アッシュが死んだからかわいそうなんじゃなくて、こんな人生を送らなければいけなかった彼の境遇がかわいそうに思えたのです。どうやら満足して逝ったらしいアッシュの一生は、ほんとうに辛いことの連続で、それを乗り越えようとめいっぱい頑張ってきて、けれど人並みな幸せをつかむこともできずにあっけなく死んでしまった。

 

彼に関わったたくさんの大人たちは、ゴルツィネもブランカも、それぞれのやり方でアッシュを愛し、救いたかったのに、だれも救うことができなかった。英二はアッシュに幸福をもたらしたけれど、やっぱり運命からアッシュを救うことができなかった。

 

アッシュ自身が救いの手をこばんだというところもあるけれど、ゴルツィネが示したコルシカ・マフィアの次期ボスという未来も、ブランカが示したカリブで穏やかな日々を送るという未来も、英二が示した一緒に平和の国・日本に行くという未来も、アッシュには馴染まなかった。終盤アッシュは自分の手が汚れていることを自覚していて、自分の存在を恥ずかしいと感じていて、自分の居場所はニューヨークのダウンタウンにしかないと思っている。

 

そんなことを10代の子どもに思わせてしまった社会が、ほんとうに情けないと思った!

 

社会は大人がつくったもので、子どもはその社会で生きていかなければいけない。アッシュのような子をつくってはいけないよ!

 

もしアッシュの母親が家を出なければ、もしアッシュがもう少し不細工だったら、もし兄のグリフィンが従軍せずにずっとアッシュと暮らしていれば、そして──社会がもう少しまともだったら。ほんのちょっとの「if」があるだけで、アッシュの人生はこうならなかったはず。

 

アッシュを殺したのは実際にナイフを突き立てたラオじゃなくて、社会とか、彼を取り巻く環境だよね。アッシュのような子を二度と出さないように、大人はもっとしっかりしなくちゃと、大人の一人としてアッシュに謝ると同時に約束しなければ! という気持ちになりました。

 

政治家でもないわたしにできることはそんなに多くないけれど、まずは身近なところから。自分の家族をしっかり愛していこう! 溢れる涙の底で、そう思わせてくれました。

 

この物語が伝えるメッセージはとても多様で、年齢により、境遇により、さまざまなものを受け取ることができると思います。人によっては「本当に必要なのは虚飾ではなく、心のつながりなのだ」と思えるかも知れないですね。もしかしたら「社会を相手に立ち向かうにはアッシュのようにチート級のカリスマでなければムリで、それでも最後には破滅が待っているから、どこかで折り合いをつけて生きていくのが現実を生き抜く賢い知恵だ」と学ぶかもしれません。

 

結局アッシュは燃えるような短い生をまっとうし、駆け足にこの世を去ったけれど、そのくっきりとした生き様は、ひとり一人の心を育てる貴重な糧になりました。多くの人に影響を与えた人物の偉業と生き様をわたしたちはこう呼びます。「伝説」と。

 

アッシュの祈り

 

本作の各話タイトルは、サリンジャーやヘミングウェイの小説のタイトルから引用されていて、最終話はサリンジャーの代表作「ライ麦畑でつかまえて」となっています。

 

「ライ麦畑でつかまえて」は、思春期の少年ホールデンが、大人社会の偽善や規範の窮屈さに違和感を覚えていら立つ様子を描いた小説です。

 

たしかに、アッシュはどこかホールデン少年に通じるところがあります。アッシュの場合は不幸な幼少期の経験からまっとうな生き方から外れてしまっているわけだけれど、その過去に縛られ、大人社会の汚さに目をつぶり適応することができないでいます。ホールデンがただただ逃げ出すのに対してアッシュは徹底的に戦います。その戦いとあがきの軌跡が「BANANA FISH」という物語の骨格だと思うのです。

 

じつは「ライ麦畑でつかまえて」という日本語タイトルは正確ではありません。英語タイトルはThe Catcher in the Rye」なので、そのまま訳せば「ライ麦畑のキャッチャー(捕手)」となります。小説のなかでホールデンは、将来何になりたいかと問われて、「ライ麦畑で遊ぶ子どもたちが崖から落ちないように捕まえる役目をする人」(つまりThe Catcher in the Rye)になりたいと答えます。原題は、ここからつけられたタイトルなのです。

 

では、日本で長く愛されている「ライ麦畑でつかまえて」というタイトルはただの誤訳かというとそうではなくて、作者の意図を十分に汲んだ名訳と言われています。「The Catcher in the Rye」になりたいと言うホールデンこそが「つかまえてほしい」と、自分の純粋な心を分かってほしいと、救いを求めているのがこの作品の本質です。だから直接的には語られていないホールデンの心の叫びを表現した「ライ麦畑でつかまえて」こそがもっともふさわしいタイトルなのだと分析されています。

 

同じようにアッシュもだれかを守りたいと、そしてだれかに救ってほしいと願っています。アッシュが守りたかったのは、まっとうな社会から足を踏み外しかけているストリート・ギャングのみんなでしょう。これ以上落ちていかないように、水際で踏み留めさせてあげたいと願っていたのかな、と思います。

 

同時に、アッシュ自身もだれかに守ってほしかった。心のよりどころがほしかった。それをくれたのが英二だったということなのだなぁ、と。

 

2クール目のエンディング映像をながめながら、漠然とそんなことを思いました。

 

金色に染まる麦畑を歩く英二とアッシュ。本編のなかでは常に英二を守り先を歩いていたアッシュが、ここでは英二の跡を追っています。太陽を背に振り返った英二をまぶしそうにながめているアッシュの眼差しが、手を伸ばしても届かない自由への羨望と、英二へのあふれる気持ちを思わせて、胸がつまります。

 

アッシュ・ロスと英二の後日談

 

スポットライトのように強い光を放っていたアッシュを失って、多くの視聴者がアッシュ・ロスに悩むんですが、それはアッシュを支え続けてきた英二にとっても同じこと。そんな英二の心がアッシュという思い出を消化して自分の心に受け入れられるまでを描いた後日談があります。「光の庭」と名づけられた短編漫画は、アッシュの死から7年後のニューヨークが舞台です。

 

髪を伸ばしたもの静かな雰囲気の英二は28歳。写真家としてニューヨークで暮らしています。英二は、アッシュが最期を迎えた図書館の見えるところにすら行けなかったり、アッシュに似た金髪の少年を見つけると思わず走り寄ったり、まだまだアッシュの死を受け入れられていません。

 

すっかり青年になったシンは、アッシュの死を英二とは違った視点でとらえています。シンはアッシュの亡骸を見ていて、アッシュがまるで楽しい夢でもみているように微笑んでいたのを知っています。アッシュは満足して逝ったのだと。

 

だから、もう英二を解放してやってくれと、シンはアッシュに心で訴えています。英二には幸せになってほしいから、もうアッシュを忘れてほしいと願っているのです。けれど英二は言います。

 

ぼくは彼を忘れない。忘れようとも思わない。でもそのことが、ぼくが幸福じゃないということにはならない。

 

あの奇跡のような”生”と、わずかな間でもいっしょに過ごすことができたことを・・・ぼくは誇りに思う。

 

自らの言葉に背中を押されるようにして、封印していたアッシュの写真を開くと、そこに写るアッシュは少年そのもの。笑ったり、眠そうに目をこすったり、まじめな顔をしていたり・・・英二の前では、アッシュはいつも表情豊かなただの少年でした。これまでだれの目にも触れさせなかったアッシュの写真を、英二は自分の写真展に飾ります。アッシュの本名(アスラン~ヘブライ語で”暁”の意味~)からとって「夜明け」と名づけたその写真は、死まで含めたアッシュのすべてを受け入れた英二の新たな「夜明け」でもあります。

 

ここまで観て、「BANANA FISH」は本当のエンディングを迎えます。「光の庭」は、多くのファンにアニメ化を切望されている作品です。未読の方には、ぜひ読んでいただきたい作品です!

 

アニメ「BANANA FISH」で不満なところ

 

パーフェクトの出来ともいえるアニメ「BANANA FISH」ですが、アラ探しをするとすれば、やはりその展開の速さでしょうか。原作はコミック本にして19巻の大作です。それを全24話にまとめているのですから、仕方がないといえば仕方ないのですけれど──。

 

「BANANA FISH」の登場人物はかなり多いめです。誰が誰か覚えきれないままにどんどんストーリーが展開するので、ときどき話についていけなくなることがありました。

 

さらに、この作品の大きな魅力のひとつであるアッシュと英二の心の交流を、しっかり堪能する隙なく、ストーリーに流されていく感じも受けました。

 

息つく間もなく進んでいく展開の速さは、視聴者のワクワク感を盛り上げ、心をわしづかみにして引っ張っていってくれるというメリットはもちろんあります。それがこの作品の魅力であるのは確かなのですが──最後まで観終わったとき、この作品には大切なものがたくさん込められていたように思えるのに、それをしっかり把握できていない物足りなさを感じてしまうのです。

 

アニメ視聴後に原作を購入して「BANANA FISH」の世界をより深く堪能する方が多いのも、この作品に込められたメッセージ性と同時に、アニメが駆け足だったからという理由も大きいように思えます。

 

「展開早すぎるよ! 24話じゃなくて、もう1クール追加の36話で作って欲しかった!」というのが、正直なところですかね。ここだけが小さな不満です。

 

オススメ度★★★★★

[char no=”1″ char=”あいびー”]オススメ度は文句なく★5。[/char]

アニメ「BANANA FISH」は、かつて原作に熱狂したファンにも絶賛されているアニメーションです。アッシュと英二のBLと見るファンもいるようですが、そんなことはまったくなく、純粋な心の絆を描いた傑作です。

 

ただ面白いだけでなくメッセージ性にも優れた、大人も楽しめる重厚なつくりです。

 

多くの方に観て感じて、心の糧にしていただきたいです。ほんの小さな不満の種は見つけられるとはいえ、オススメ度は文句なく★5です!

 

BANANA FISH 公式サイト

バナナフィッシュの幅広い情報は公式サイトでどうぞ!


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