2019年1月~放送のアニメ「どろろ」。第24話「どろろと百鬼丸の巻」の詳細なあらすじと見どころを紹介します。「オレは人だ。あんたも鬼神になるな。人として生きろ」百鬼丸キマッタ! あわせて感想もどうぞ!【注意】完全ネタバレです!



第24話/「アニキ、オイラ待ってるからな。アニキはぜったい戻ってくる。そうだろう?」──YES!

▲祝ハッピーエンド! 出展/TVアニメ「どろろ」

 

どろろと百鬼丸の巻

dororo to hyakimaru no maki

 

はぁ~。まさかの優しいハッピーエンドでしたね。百鬼丸が最後に得たもの。それは目であると同時に、他者の痛みを知ることでした。想像より甘いラストでしたが、2019年版「どろろ」のクライマックスとエンディングを見ていきましょう。

 

前回の続き、燃える醍醐城で百鬼丸と多宝丸が激しく戦っている場面から最終回は始まります。

 

百鬼丸にくりだした多宝丸の刀が柱を斬り、多宝丸はハッとなります。その柱には、幼い日に多宝丸が兵庫と陸奥と一緒に背比べをした懐かしい傷が残っていたのです。

 

多宝丸「汚らわしい、我が醍醐の城を汚すな。本来ならばここは、きさまなどが入れる場所ではない!」

 

百鬼丸「醍醐の城。なら、オレのだ!」

 

多宝丸「ほざくな、キサマのものであるものか! ここは、私の城だ。生まれてよりここで育った。この庭を走り、剣を学んだ。これは私の部屋だ。文机は父上からいただいた。馬もだ。母上もそうだ。母上はいつも・・・」

 

ここまで言って多宝丸は、縫の方がいつも百鬼丸にばかり心を寄せ、自分を見ようとしなかったことを思いだします。

 

百鬼丸「母上──」

 

多宝丸「私の母上だ! キサマはここにいなかった。キサマの思い出など、何一つ刻まれてはいない」

 

多宝丸、ついに本音が出ましたね。醍醐のためと言いながら大人びた顔をしてきたけれど、本音ではずっと縫の方の愛情が欲しかった。心のうちでは、庭の木に登り母親の気を引こうとしていた、幼いあの頃のままなんです。

 

百鬼丸「おまえ、なぜだ。おまえはいた、ここにずっと」

 

多宝丸「あぁ、おまえとは違う」

 

百鬼丸なら、なぜ足りない。おまえは足りない。オレのように。なぜだ、なぜ足りない?

 

多宝丸「だまれ! だとすれば、キサマが奪ったのだ。陸奥と兵庫も──母上も。だから返せ、キサマのすべてをこの国に!」

 

この会話の間、多宝丸の鬼神の目は閉じていました。多宝丸の人としての感情が勝っていたのでしょう。再び敵意をむきだしにした多宝丸は、猛然と百鬼丸に襲い掛かります。額を斬られた多宝丸の鬼神の目が再び見開かれました。

 

その目には、百鬼丸の魂の炎が見えます。百鬼丸の魂の炎は以前と同じ、ほぼ人と同じで、少しだけ赤い炎がくすぶっています。彼は決して鬼神になっていません。

 

エンディングテーマは「人として生きる!」サブテーマは「それぞれが成すべきこと」。

 

百鬼丸は「いつ鬼になってもおかしくないほど、怒りに満ちた人物」として描かれてきました。それは生まれてすぐに両手、両足、目、嗅覚、聴覚、顔の皮膚・・・身体のさまざまな部位を鬼神に奪われたからです。その分かりやすい描写と対照的に、弟の多宝丸はすべてを持っていました。

 

五体満足な身体をもち、裕福な暮らし、満足な食事、両親、幼なじみ・・・なんでも持っている。でも目で見えないところが、心が欠けていました。もっと愛情が、母親の愛情が欲しかったのです。

 

一方、百鬼丸は目で見えないところ、心は欠けていませんでした。寿海に川で拾われ、失った手足を与えてもらい、愛情をかけて育てられました。目は見えなくても、耳は聞こえなくても、寿海の愛情を感じて育ちました。妖を退治する旅に出た後はどろろと出会い、どろろと一緒に旅をする間に身体を取り戻すと同時に人の心を育んでいきました。だから百鬼丸は心は欠けていないのです。

 

二本松の丘で妖のミドロとともにつむじ風のように侍を斬りまくっていた百鬼丸は、もしかしたらかなり鬼神に近かったかも知れません。多宝丸と戦っていた間も、この傷だらけの弟に心に欠損があると気づくまで、やっぱり魂の炎は赤く燃え鬼神に近かったのかも知れません。

 

でも。

 

百鬼丸は気がつきました。

 

多宝丸の心も怒りで満ちている。今にも鬼神に堕ちようとしている。それは何かが欠けているから──。

 

百鬼丸が多宝丸の心の痛みに気が付いた。

 

燃える城内に入る道を探していたどろろは、井戸の側に琵琶丸をみつけます。井戸の中には縫の方。「オイラも行く」と言ったどろろを拒み、縫の方は言います。

 

縫の方「どろろ、あの子の側にいてください。これまでのように」

 

覚悟を決めたような言葉に、琵琶丸の表情が少し曇りました。城内では、百鬼丸を探してもう一人のおっかちゃん寿海もさまよっています。縫の方と寿海は途中で合流します。

 

寿海「百鬼丸の母上か?」

 

一目見て、寿海は縫の方が百鬼丸の母親だと分かりました。それくらい、二人はよく似ています。

 

相変わらず、激しく打ち合う百鬼丸と多宝丸。ここ、すばらしく動きがいいです! 多宝丸の視界が煙で塞がれた一瞬の後、煙の中から現れた百鬼丸は多宝丸の刀を折り頭上の柱を右から左に斬りつけます。

 

多宝丸「なぜ、なぜ外した。今の一太刀、私の首も落とせたはず。なぜ?」

 

百鬼丸「分からない。ただ、同じだ。おまえも。おまえは人だ」

 

多宝丸「かなわんな。いや、私はずっとかなわなかったんだ。ずっと・・・

 

柱の下にへたりこんで、多宝丸はやや自虐的に笑います。百鬼丸の存在を知らなかった頃から、多宝丸はずっと嫉妬してきました。母親の縫の方の心をつかんで離さない「何か」に。そのことを言っているのでしょう。多宝丸の怒りが収まっている間、鬼神の目は閉じています。

 

優しい表情の百鬼丸が「多宝丸」と、多宝丸の前にかがみこんだとき、多宝丸の3つの目が紫色に怪しく光りました。

 

多宝丸うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 今こそ約定を!

 

そう叫ぶと多宝丸は両手の拳を固めて立ち上がります。鬼神に操られているようです。

 

百鬼丸「鬼神」

 

多宝丸「鬼神とは、往生際が悪いな!──兄上、これはお返しいたします

 

多宝丸は右目と額の目に指をつっこみ、二つの目をえぐりだします。多宝丸はもうすっかり戦う気をなくしたようです。百鬼丸のことを、「百鬼丸」でも「キサマ」でも「おまえ」でもなく「兄上」と呼んでいます。

 

多宝丸がえぐりだした二つの目は紫色の光を放ちながら一つの塊になり、ついに12体目の鬼神が姿を現しました。鬼神に飛び乗った百鬼丸は両手の刀を鬼神に突き立て──。両目だけでは不十分だったのか、意外とあっさり最後の鬼神は討伐されました。

 

縫の方の成すべきこと、寿海の成すべきこと。

 

ついに百鬼丸の両目から義眼が飛び出し・・・呻く百鬼丸を崩れ落ちる天井から助けたのは縫の方と寿海でした。すぐ側には多宝丸も倒れています。

 

縫の方「百鬼丸。坊や──」

 

目を閉じたまま百鬼丸は縫の方に向き直ります。

 

縫の方「やっとそなたを・・・。あのとき、何があろうとこの手を離すべきではなかった。ただそなたを抱いていればよかった。どれほどそなたを愛しいと、愛しいと──

 

縫の方から流れる涙を頬に受け、百鬼丸はつぶやきます。

 

百鬼丸「あったかい」

 

次はもう一人のおっかちゃんが百鬼丸に話しかけます。

 

寿海「百鬼丸、許せ。ワシがおまえにやるべきものは、手でも足でもなかった。よいか百鬼丸。生きろ! その血にまみれた身体に、鬼ではなく人を宿せ。その火種は手に入れたはず」

 

そう言って寿海は百鬼丸に観音菩薩像を手渡します。

 

「アニキ!」聞きなれた声が近づいてきます。

 

縫の方「お行きなさい。あなたには待っている子が、側にいてくれるあの子がいる」

 

寿海「行け」

 

軽く頷いて、寿海は百鬼丸を立たせます。百鬼丸はまだ目がもどらず、フラフラしています。ようやくもどったばかりの視力で、百鬼丸が最初に見たのは、縫の方と寿海、二人の母親の顔でした。

 

百鬼丸おっかちゃん──

 

そのとたん、百鬼丸は崩れた床もろとも下に落とされ、そこにどろろが走り寄ります。

 

どろろ「アニキー! ここにいたら燃えちまう。早く! こっちだ、急がねぇと入口にも火が回ってる。煙吸い込むんじゃねぇぞ、肺が焼けちまうからな!」

 

かいがいしく話しかけるどろろの声を聴いて、安心したかのような縫の方と寿海です。やがて縫の方は立ち上がり、多宝丸にかけ寄りその頭を膝に載せます。

 

多宝丸「母上──」

 

縫の方「多宝丸、許してください。寂しい想いをさせました。でも、これからはずっと──母はあなたの側におりますよ。安心なさい、もう決して離れません」

 

縫の方の言葉に、安心したように多宝丸は目を閉じます。

 

寿海「これで、やっと──」

 

縫の方と多宝丸・母子を見届けた寿海はひとりごちました。

 

「これがおまえさんの因果の節目だ。しっかり見ておくんだね、その目で」

 

隠し通路を遡り、ようやくどろろと百鬼丸は琵琶丸の待つ井戸の下までたどりつきます。

 

どろろ「坊さん!」

 

琵琶丸「おぉ、もどったかい。百鬼丸も一緒かい。良かった、さぁ引っ張るよ、いいかい?」

 

琵琶丸は水汲み用の桶を上げる縄をつかんでいて、すぐにでも引き上げようとしています。けれどどろろは煙にまかれ、「ちょっと待ってくれ」とゴホゴホ咳込みます。

 

百鬼丸はどろろを抱えると縄をつかみ、「上げてくれ」と合図します。

 

どろろ「はぁ~助かった」(アニキの腕やわらかくてあったかいや。やっと取り返したんだな)

 

百鬼丸「きれい。空、きれいだ」

 

どろろ「空?」

 

百鬼丸どろろ、きれいだ

 

どろろ「ばっ、バカアニキ! こんなときに何言って・・・見えんのか? オイラの顔見えんのかよ? おいアニキ!」

 

琵琶丸「おぉい、落っこちちまうよ」

 

井戸の中から見上げた空はオレンジ色の夕焼け空。腕の中のどろろは真っ赤になって百鬼丸の口をふさぎます。ようやく井戸の外に出た二人は、琵琶丸と並んで焼け落ちる醍醐城を見ています。

 

琵琶丸「これがおまえさんの因果の節目だ。しっかり見ておくんだね、その目で」

 

地響きを立て、醍醐城は崩れ落ちました。縫の方、多宝丸、寿海を飲み込んだまま──。

 

醍醐城から出火し、縫の方と多宝丸が行方不明と知らされた戦場の景光は、ぎゅっと唇を引き結ぶと朝倉との戦に向かいます。ついに醍醐軍は朝倉軍を退けたものの、多くの醍醐の兵が命を落とし、人知れず地獄堂で最後の鬼神像が崩れ落ちました──。

 

火袋の遺産の使い道

 

城が焼け落ち、朝倉との合戦に勝利した醍醐の国には、つかの間の平和が訪れていました。難民村の若者3人は、どろろを相手に話しています。

 

次平太「そりゃ、おめぇの言う、武士に頼らねぇで自分たちの力で生活を立てるってのは分かるし、そうしたいのはみんな同じだけどよ」

 

弥彦「その力ってのが問題だ。おいらたちに刀や槍は扱えねぇよ」

 

どろろ「違う違う。オイラが言ってんのは、そんな力じゃねぇ」

 

道秀「では、それはどのような」

 

どろろいいか、よく聞けよ。金だ。武士の力も鬼神の力も借りねぇ。戦もしねぇ。となると、残るのは金の力しかねぇだろ

 

弥彦「おいおい、そんな金どこにあるってんだよ」

 

思わず笑いだす3人です。そりゃ、まさかどろろに大金のアテがあるなんて思いませんよね! ところがあるんですよねー! そう聞いて、思わず身体を乗り出す若者たちです。

 

どろろ「落ち着け落ち着け。ま、2~3日じゅうに取りに行くから、準備しといてくれよ!」

 

少し離れたところでそのやり取りを訊いていた琵琶丸も感心しています。

 

琵琶丸民が自分たちの国をつくる・・・か。そこに思い至らなかったのは、しょせん侍側だからだろうかねぇ

 

どろろ「え、侍側? 坊さんが?」

 

琵琶丸「いやいや。ところで、百鬼丸はどうしたんだい? あのときから、随分考え込んでる様子だが」

 

どろろ「うん。だから元気づけようと思って今の話したんだけどさ。そしたら急にちょっと確かめるもんがあるって、出かけてった」

景光との決着のつけかた

 

百鬼丸は、地獄堂の扉を開けます。そこには景光が、壊れた鬼神像に向かい一人で座っていました。

 

景光「すべて、鬼神から取り戻したか。その目で初めて見るこの国はどうじゃ? 美しいか?」

 

百鬼丸「きれいでは──ない」

 

景光「そうであろう。おまえのために、国も民もどれだけ血を流したか。いや、これからも流し続けねばなるまい。だが、この国は終わらせぬ。この世は食い食われるのが習いじゃ。食うことをやめれば食われる。なればこそ、ワシは止まらぬ。この地獄に留まり続けよう。鬼神が人を欲しいというなら、また食わせるまで!

 

百鬼丸「またオレを食わせるのか?」

 

景光「知れたことを。武将と生まれたからには天下取りに勝る望みなどない。そのために鬼神の力に頼ることも厭わぬ──過ちを犯したとすればただ一つ。あの日、おまえを産婆などに任せずこの手で・・・この手で息の根を止めるべきであった」

 

景光の後ろでカチリと、刀の柄を握る音が響きます。

 

景光「憎かろう」

 

一瞬、笑みを浮かべた景光は言った。

 

景光「死せばこの身、魂魄となりて我が子・多宝丸とこの地を守る鬼神となろう」

 

百鬼丸は左手で刀をつかみ、まっすぐに振り下ろします。

 

景光「──なぜだ?」

 

百鬼丸の刀は、景光が隣に置いた兜を貫いていました。

 

百鬼丸オレの行く道は、そこじゃない

 

燃え落ちる間際の醍醐城で、寿海からもらった観音像を床に置き、百鬼丸は続けます。

 

百鬼丸オレは人だ。あんたも鬼神になるな。人として生きろ

 

それだけ言うと、百鬼丸は地獄堂を後にしました。頭を垂れ、細かく震えながら景光は思います。

 

景光(百鬼丸。あの日、ワシがここで鬼神にすがらねば。おまえがこの国を継いでいたら。ワシが望んだ醍醐の繁栄は──百鬼丸。鬼神が欲するほどの、おまえのその生きる力の中に──)

 

地獄堂に、景光の押し殺した泣き声が響きました──。自分の過ちを認めざるを得ない景光。あまりに遅いですが・・・。

 

「半分行きかけてた修羅の道を抜けて、人の道を歩き直さなきゃいけねぇ」琵琶丸が語る百鬼丸の成すべきこと

 

その頃どろろは、なかなか戻ってこない百鬼丸を心配しています。そこに琵琶丸がやってきて声をかけました。

 

琵琶丸「まだ戻ってこないのかい」

 

どろろ「うん。城の方にもいなかった。すぐ戻ってくるって言ったのに」

 

琵琶丸「ひょっとすると、もうこの辺りにはいないのかも知れないねぇ」

 

どろろ「えっ、どういうことだよ?」

 

琵琶丸また、旅に出たのかも知れないってことさ

 

琵琶丸の言葉に思わず取り乱すどろろです。

 

どろろ「なんでだよ。そんなわけねぇだろ? オイラに一言も言わねぇで、なんで行っちまうんだよ?」

 

琵琶丸「まぁまぁ落ち着きな。あの子はね、やっと生まれたとこなのさ。いや、身体を取り戻したからじゃないよ。心持ちのことさ。半分行きかけてた修羅の道を抜けて、人の道を歩き直さなきゃいけねぇ。ただ、そうするにしちゃぁ、随分と人を殺めてきたからねぇ

 

そうですよね。自分に向かってきた人だけじゃなく、関係ない人もつぎつぎ手にかけて──。それをなかったことにするのは、さすがに虫がいい。

 

どろろ「そりゃまぁ。アニキのおっかちゃんも弟も死んじまったしな。オイラ、アニキのせいじゃないって言ったんだけど」

 

琵琶丸「もしまた百鬼丸が道を間違えりゃ、おまえさんだって無事でいられる保証はねぇし」

 

どろろ大丈夫だよ。アニキはもう大丈夫だって!

 

琵琶丸だからさ、そいつを確かめてぇんだろうよ

 

自分は本当にもう鬼にならないのか、百鬼丸は自分が大丈夫か、それを確かめに景光の元を訪れたんですね。すべての発端をつくった張本人の景光は、さらに百鬼丸を挑発してきました。さぁ、オレを斬れと。でも、百鬼丸は許しました。「オレの行く道は、そこじゃない」と、修羅の道を拒みました。

 

それでもまだ不安なのでしょう。どろろが止めなくても、ちゃんと自制することができるのか、もう二度と鬼神のようにならないのか、自信がもてるまで一人で世の中を見て回るようです。それも、いい考えですね。

 

ついに、感動のエンディング!

▲成長したどろろと、青年になった百鬼丸 出展/TVアニメ「どろろ」

 

一人で野辺を歩く百鬼丸は、ふと足を止め、懐に入れたままのお守り袋を取り出します。中には緑色の袋が──いつかミオの形見にどろろが入れてくれた緑色の袋が入っています。それから百鬼丸は、ちょっと今きた方向を振り返り、澄んだ瞳でまた歩き出します。その腰に刀はありません。

 

どろろアニキ、オイラ待ってるからな。アニキはぜったい戻ってくる。そうだろう?

 

難民村が見渡せる高台に立ち、心でアニキに語り掛けたどろろは、崖を駆け下り走り出します。

 

時代は戦国の世へと向かっています。けれど、琵琶丸は思うのです。彼らの行く手に広がるのは、決して血だまりだけではない、と。どろろは走ります。難民村の3人の若者たちもすがしい目で未来を見据えています。

 

それから何年たったのでしょう。

 

どろろは長い髪を背中で束ね、ピンク色のきれいな色の着物を着ています。橋を真っ直ぐ走っていくと、向こうに懐かしい後ろ姿が見えます。振り返ったその人は、少しだけあごに厚みが出て、少年の顔からどこか男らしさを増した百鬼丸。澄んだ眼差しに軽く口元をほころばせた、あの懐かしいアニキでした!

 

じょうじょうのハッピーエンド! 良かった!

 

鬼神・靖子とか、ラスボス・靖子とか、さんざん言われてきた鬱展開が得意な小林靖子さん脚本だから、ハッピーエンドはないだろうという予想をいい意味で裏切って、2019年版TVアニメ「どろろ」は、じょうじょうのハッピーエンドとなりました! まずはありがとうございます! って言いたい!

 

あんな不幸な生まれ方をして、16年間暗闇でもがいてきた百鬼丸だから、ぜひハッピーエンドになってほしかったんですよね。でも、二本松の丘で大暴れしちゃったから、その責任を取らないといけないし、満面のハッピーエンドはムリかなぁ~って思っていたんですが。

 

でも、なかなかどうして。かなり幸せな終わり方じゃないですか! かわいく成長したどろろも、美少年から美青年に成長した百鬼丸も見られて、眼福、眼福^^

 

終わってみれば、百鬼丸の心の成長の物語でした!

 

百鬼丸は、生まれた直後に身体じゅうのあちこちを欠損してしまいました。そのひとつひとつを鬼神を倒すことで取り戻していくんですが──途中でわたし自身が気が付いたんですが、取り戻すのは身体の一部でもあるけれど同時に「人間らしい心」だったんですよね。耳を取り戻して悲しいすすり泣きや、ミオを失った痛みを知ったし、逆に腕が取り戻せなくてどろろが助けられない悔しさを知ったし。絡新婦の巻では愛情も知ったよね。かけがえのない存在を大切に想う心も。

 

寿海は、百鬼丸に与えた義肢で他の人間と変わらず動けるようにすることはできても、人間の心を育てることができなかった。そこにずっとこだわっていました。そこが大きな伏線だったんですね。

 

最終回に百鬼丸が得た「人間らしい心」は、「多宝丸の心の痛みを知ること」でした。怒っているのは、鬼神になりそうになっているのは、平常心でいられない辛い悲しいことがあるから。多宝丸の心は深く傷ついていました。

 

母親に振り向いてもらえず、ずっと一緒に育ってきた大切な幼なじみを亡くして。最初は醍醐の国を守るためという建前からの百鬼丸討伐でしたが、ついに自分は愛してほしかったんだ、幼なじみを守りたかったんだ、その痛みを百鬼丸のせいにして、怒りにまかせてぶつけてきただけなんだと、多宝丸自身も気がつきます。百鬼丸が多宝丸の痛みに気づいてくれたことで、多宝丸は我に返ります。

 

そして最後、もっともおろかな行動に走ってしまった元凶の人、醍醐景光に向かって百鬼丸は言います。

 

百鬼丸オレは人だ。あんたも鬼神になるな。人として生きろ

 

百鬼丸は怒りを爆発させるのではなく、景光を許しました。そして、鬼神の力などに走らず人として生きろと、寿海からもらった観音菩薩像を置いていきます。もう百鬼丸には必要がなくなったんでしょう。

 

きっとこの父親・景光も、心に強い痛みがあったから、だから鬼神にすがってしまったのだと、百鬼丸はそう思えたのでしょう。

 

許すという行為。きっと、これができてはじめて人は、人たりえる。そう言われたような気がしました。

 

自分に危害を加え続けた相手を許すということ──きっとだれでも一つや二つ思い当たる節があるのではないでしょうか? 「許せない!」って思える相手。わたしは、います。一人や二人や三人・・・。わたしは許すのではなく、距離を置くことで、関わらないことで、相手が存在しないことにしています。でも──許せるかな? そう思うと、わたしはまだ人じゃないのかも。心を欠損して、容易に修羅の道に進みかねない危うい存在かも知れません。

 

許すって、難しいですよね。それができた百鬼丸はすごい!

 

それぞれの「成すべきこと」

 

作中、百鬼丸はとても素直だと思うことが多かったです。まだ人として目覚めたばかりなのだから、きっと赤ん坊のような存在として脚本は捕えていたんでしょうね。心地よい唄は好き。寿海の真似をする。自分のものを取られたから取り返す!

 

そんな素直な百鬼丸が修羅のようになってしまうほど強いストレスを与えたのは、普通ならもっとも愛情をかけてくれるはずの両親でした。どろろから聞かされた「おっかちゃん」の話から、百鬼丸には「おっかちゃん」への強い憧れがあったのに、「ばんもんの巻」で「わたくしは、そなたを救えませぬ!」なんて拒否するから・・・。強くてかっこよかった火袋と違って、百鬼丸の「おとうちゃん」は、自分の身体を鬼神に食わせた張本人で、「鬼神の食べ残し」だの「生まれ損ない」だの、ひどいことばっかり言うし。

 

縫の方は、最後にやっと気がつきましたよね。

 

ちゃんと愛してるって伝えることが大事なんだと。百鬼丸にも多宝丸にも。結局、多宝丸は死んでしまったけれど、縫の方の膝枕で頭をなでてもらいながら、きっと幸せだったでしょう。

 

寿海は、辛い現実から逃れたくて一度は海に身を投げました。けれど義肢をつくる技を覚えて、人々に亡くした手足をつくってやることが自分が生かされた理由なのだと信じました。それは正しかったと思うのです。寿海の義肢をもらった人々の嬉しそうな笑顔を忘れてしまったんでしょうか? 彼らは義肢を得ることで、心も救われていたんですよね。

 

百鬼丸の心を救うには、義肢ではダメだと虚無感に襲われる寿海ですが、最後には、自分の成すべきことを見つけます。

 

寿海「百鬼丸、許せ。ワシがおまえにやるべきものは、手でも足でもなかった。よいか百鬼丸。生きろ! その血にまみれた身体に、鬼ではなく人を宿せ。その火種は手に入れたはず」

 

と言って、おそらく自分で彫った観音菩薩像を手渡します。──実のところ、ここ、あまり納得がいきません。寿海は義肢で百鬼丸を救っている。愛情かけて育てたことも、百鬼丸が「おっかちゃん」と呼んでいることから伝わっている。ただ、せっかく頼ってくれた息子同然の百鬼丸を「ワシはおまえを救えぬ!」って突き放したのは良くなかったと思うけれど・・・。

 

寿海には、もう少し力強く生きてほしかったと思います。今後、彼の技術で救われる人がどれだけたくさんいることか・・・。

 

これからの醍醐の国

 

景光との決着は良かったですね!

 

景光「おまえのために、国も民もどれだけ血を流したか。いや、これからも流し続けねばなるまい。だが、この国は終わらせぬ。この世は食い食われるのが習いじゃ。食うことをやめれば食われる。なればこそ、ワシは止まらぬ。この地獄に留まり続けよう。鬼神が人を欲しいというなら、また食わせるまで!」

 

百鬼丸「またオレを食わせるのか?」

 

景光知れたことを。武将と生まれたからには天下取りに勝る望みなどない。そのために鬼神の力に頼ることも厭わぬ──過ちを犯したとすればただ一つ。あの日、おまえを産婆などに任せずこの手で・・・この手で息の根を止めるべきであった」

 

このシーン、景光は完全に百鬼丸を挑発していました。床に突き立てた刀の柄を百鬼丸が握る気配に、少しニヤリとしましたもんね。もう百鬼丸に殺される覚悟でした。

 

でも、百鬼丸はそうしなかった。ただ、兜に刀を突きさしただけ。それはまるで、戦などもうやめろと言っているようでした。「なぜだ?」と問う景光に、百鬼丸はこう言います。

 

百鬼丸オレの行く道は、そこじゃない

 

いいですねー! もう父親の影響を抜け出て、自分は自分の道を行くとハッキリ宣言したわけです! 見ようによっては、百鬼丸の親離れの瞬間かも知れません。

 

百鬼丸オレは人だ。あんたも鬼神になるな。人として生きろ

 

ここのセリフ、かっこよかったです! もう鬼神とは縁を切れと、景光をさとしてます。

 

今後、醍醐の国は、景光はどうなるんでしょう。

 

ある意味、武将が自らの行いを悔いながら生き恥をさらすのは、死ぬより辛いことのように思います。でも「死せばこの身、魂魄となりて我が子・多宝丸とこの地を守る鬼神となろう」なんて夢みたいなこと言ってないで、今度こそちゃんと地に足つけて踏ん張ってくれると思います。

 

どろろがもたらしたお金を武器に、ちゃんと雨水に頼らなくていい水路をつくり、隣国から攻撃されないよう外交を頑張るとかして、国を立て直していってほしい。いつか百鬼丸が帰ってきたときに、気持ちよくバトンタッチできるくらいに、国づくりに努めてほしい。次平太、弥彦、道秀の3人の若者の意見を入れてね^^

 

魚の小骨のように残った疑問

▲漂泊の琵琶法師「琵琶丸」 出展/TVアニメ「どろろ」公式

 

鬼神の力を得た多宝丸は、求め続けた母の愛情を感じながら、縫の方とともに天に召されました。最後には、ちゃんと百鬼丸と和解して「兄上」と呼んでから。

 

縫の方と寿海は、それぞれ自分たちがした過ちを悔い、成すべきことを成しました。どうやらその後、縫の方だけでなく寿海も城とともに命を落としたようです。

 

景光は「人として生きろ」と百鬼丸に言われて自分の過ちを悔います

 

結局、百鬼丸は「特別な子」でした。鬼神がその身体を欲しがるほどに「生きる力に満ちていた」のです。

 

どろろは、ようやく火袋の遺産の使い道を決めました。いずれ領主になる百鬼丸を待つ国・醍醐の国を立て直し、民が治める国をつくるために遺産をつかうと。

 

百鬼丸は一人きりの旅を経て、成長したどろろが待つ醍醐の国に戻ってきます。とてもチャーミングに成長したどろろと、青年になった百鬼丸の感動の再会は、まるでミオが夢見た一面の黄金の稲穂が実る海のように、あたりが金色に輝いていました^^

 

それぞれが、おさまりのいいポジションに収まったラストでしたが、一つだけ小さな疑問が残りました。琵琶丸って何者?

 

琵琶丸「民が自分たちの国をつくる・・・か。そこに思い至らなかったのは、しょせん侍側だからだろうかねぇ

 

どろろ「え、侍側? 坊さんが?」

 

このやり取り、結局どういうことなんだろう? 琵琶丸が侍側? ・・・彼がどういう理由であちこちさまよっているのか、ずっと得体が知れない感じだったんですよね。

 

もしかして、あれだけ腕が立つことからして忍び・・・とか? 醍醐の従者とも思えないから、だとするともしかして朝倉の──? だから、最初から醍醐の国を探ってあんな川沿いの場所にいたのかも。そして、たまたま百鬼丸が舟に載せられ流れていくところを目撃してしまったのかも? 最後まで得体が知れませんでしたね!

 

妄想エンディングの採点

 

前回の妄想エンディングは──

 

多宝丸から視力を取り戻した百鬼丸ですが、景光を依り代に実体化した12番目の鬼神が襲ってくる。臨戦態勢の百鬼丸を止めるどろろの両腕を景光鬼神が切り落としたのを見て、激昂した百鬼丸も鬼神化。鬼神対鬼神の壮絶な戦いの末、景光鬼神を倒すも、百鬼丸は人にもどることができなくて、やむなく寿海の菩薩像などの力で地獄堂に封印される。地獄堂に封印されている百鬼丸が鬼神から人に戻るまでの数年の間に、どろろは難民村の3人と一緒に国づくりに奔走する。そして数年後──ようやく人にもどった百鬼丸は、すっかり娘らしくなったどろろと再会する。

 

というものでした。

 

うーん。あっているのは「どろろは難民村の3人と一緒に国づくりに奔走する。そして数年後──百鬼丸は、すっかり娘らしくなったどろろと再会する。」ここだけですね! 点数としては10点・・・しょんぼり。

 

しかし、オープニング映像も、エンディング映像もフェイクでしたね! やられたわー!

 

[char no=”1″ char=”あいびー”]百鬼丸の心の成長をたどった2019年版TVアニメ「どろろ」。面白かったー! いっぱいワクワクしたし、考えさせられたし、泣けたし。最後はハッピーエンドで気持ちよく終われました^^ 末永く幸せに暮らすんだよ百鬼丸&どろろー! とっても楽しませていただきました。制作に携わってくれた皆さまありがとうございました^^[/char]

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