2019年版アニメ「どろろ」のデータ&レビュー感想)をまとめています。原作、制作陣、主題歌、声優、あらすじなどのデータと、個人的な感想、総評価まで。



「どろろ」は、手塚治虫の漫画を原作とする作品

 

「どろろ」は、1967年~1969年10月まで「週刊少年サンデー」および「冒険王」に掲載された手塚治虫の漫画です。手塚治虫は今では「漫画の神さま」と呼ばれる、日本漫画の黎明期に数多くの名作を残した漫画家。少女漫画からSF、医療もの、宗教もの、歴史ものと、作風は幅広く、そのなかでも「どろろ」は特異な作品です。

 

主人公は身体のあちこち(原作では48カ所)を欠いた人物で、子どもの泥棒と一緒に旅をするという、難しい設定の物語。しかも戦国時代の民衆生活を舞台にした妖怪もので、手塚得意の重いヒューマンドラマの要素もあります。なかなか子どもに受け入れられず、なかば打ち切りに近い形で終わっています。

 

今から考えても相当にすごい設定ですよね!

 

「どろろ」には1969年版TVアニメ、ゲーム、実写映画、ノベライズもある

 

1969年版アニメは、日曜日の夜7時半~8時という、子ども向け番組の枠組みで放送されました。総監督は虫プロ出身の杉井ギザブロー。音楽を冨田勲が担当しました。

 

内容が陰惨なため、夕食どきに血しぶきが飛ぶような作品は・・・という配慮からモノクロ作品として制作されました。それでも視聴率は思わしくなく、途中からおっちょこちょいなどろろを主人公としてギャグを取り入れなるべく明るい雰囲気にするなど路線変更を余儀なくされました

 

ゲームでは1989年版と2004年版があります。2004年版はプレイステーション2でプレイできるソフトとして制作されました。制作はセガ。原作漫画も1969年版アニメも、次に紹介する実写映画版もすべてあまり良い結末を迎えていないのに対して、プレステ2版ゲームのエンディングはハッピーエンドで、よく練られていると評価が高い作品です。

 

実写映画は2007年に塩田明彦監督で東宝配給作品として制作されました。百鬼丸役に妻夫木聡どろろ役に柴咲コウ。古い時代の日本をベースにしながらも、架空の異世界を舞台としています。ヨーロッパ、アジア、アメリカを含む世界24カ国で配給されました。アクションを随所に取り入れ興行は大成功し、第2弾、第3弾も予定されていましたが、結局、続編は創られませんでした。

 

ノベライズはいくつかありますが、全体的にあまり高評価はなさそうです。

 

2019年版TVアニメ「どろろ」制作はMAPPAと手塚プロダクション

 

最初のTVアニメから50年を経て、TVアニメ「どろろ」が2019年にリメイクされ1月~6月まで2期半年にわたり放送されました。放映はTOKYO MXなど。夜10時~という時間枠で、小さい子ども向けではありませんアニメーション制作はMAPPAと手塚プロダクション。原作の雰囲気を残しつつ、絵柄や設定などに大幅な改変が加えられました。

 

監督は、「機動戦士ガンダムユニコーン」、「将国のアルタイル」などを手がけた古橋一浩

シリーズ構成に、「ジョジョの奇妙な冒険」、「進撃の巨人」などを手がけた小林靖子

キャラクター原案に、「テガミバチ」の漫画家・浅田弘幸

製作ツインエンジン

 

2019年版TVアニメの特徴

設定が大幅変更!

 

百鬼丸が鬼神に奪われた部位が原作では48だったものが12に大幅に減りました。このため最終話ではしっかり最後の部位まで取り戻すことができるようになっています。

 

原作でも前作のTVアニメでも実写映画でも、百鬼丸は不思議な力で目も見えれば耳も聞こえる話すこともできるという設定でした。リメイク版では、最初の百鬼丸はほんとうに目も見えないし耳も聞こえず話すこともできません。ただ、魂の炎と呼ばれる人の影のようなものや、その色だけは見えています。これによりリアリティが大幅にアップしました。

 

キャラクターデザインがイイ!

 

さらにリメイク版TVアニメの際立った特徴としてあげられるのが、浅田弘幸のキャラクターデザインです。手塚治虫の丸っこい作風から、切れ長の目と華奢な線が特徴の絵柄に変更。とても現代的になりました。

 

美麗な背景画とアニメーション

▲墨を使った美術背景 出展/TVアニメ「どろろ」公式サイト

 

墨を使ったという美麗な背景美術と、百鬼丸の華麗な殺陣が秀逸です。ただし、作画とアニメーションは話数によりブレ幅が大きく、驚くほど異なった雰囲気の回もありました。

 

出色の主題歌

▼1期(1話~12話)のオープニングは女王蜂の「火炎」

 

▼1期のエンディングはamazarashiの「さよならごっこ」

 

▼2期(13話~24話)のオープニングはASIAN KUNG-FU GENERATIONの「Dororo」

 

▼2期のエンディングはEveの「闇夜」。

とくに印象的だったのが1期のオープニング曲「火炎」です。「どろろ」の厳しい世界観にあった楽曲で、ところどころ和楽器を思わせる演出や、曲背景の映像ともよく合っていて、素晴らしい作品でした。動画でも海外を含む多くの方にカバーで歌われています。amazarashiの「さよならごっこ」も、言葉を大切にするamazarashiらしい良曲で、歌詞をひも解くとなんとも切ない。

 

対して2期のオープニングは明るくポップな印象。ASIAN KUNG-FU GENERATIONは「NARUTO」のオープニング曲も手掛けているので、その印象が強いという意見が目立ちました。2期エンディングの「闇夜」は、はかない印象の楽曲で、背景映像もちぎり絵のようなぼんやりしたもの。全体的にきれいでした。

 

迫力の1期、明るさと繊細さの2期という印象です。

 

百鬼丸とどろろの声に俳優・女優を起用

 

百鬼丸CV:鈴木弘樹(俳優/「刀剣乱舞」三日月宗近役など)

どろろCV:鈴木梨央(女優/「こどもしょくどう」木下ミチル役など)

 

最初のころはまったく言葉を発しない百鬼丸に比べて、最初からしゃべりまくるどろろの鈴木梨央の演技が秀逸です! たどたどしく話しはじめる鈴木弘樹の、少しかすれた声も味があります。鈴木弘樹は、舞台でも主演の百鬼丸役を務めています。

 

百鬼丸もどろろも、個人的にばっちりはまり役だと思います! また、百鬼丸の淡い初恋の相手「守り小唄の巻」の「ミオ」は、水樹奈々が演じました。これはもうさすがです。文句なしですね!

 

2019年版「どろろ」のあらすじ【ネタバレなし】

▲我が子の身体を鬼神に与えた醍醐景光 出展/TVアニメ「どろろ」公式

 

舞台は室町時代から戦国時代に移行するころの北陸。度重なる災害と流行り病でもはや滅亡の危機に瀕している醍醐の国の領主・醍醐景光は、国の繁栄を約束する代わりに何でも望む者を与えると12体の鬼神と取引します。その結果、景光の第1子が生まれてすぐ、赤ん坊の身体じゅうから手も足も目も鼻も耳もなくなってしまいます。鬼神が取引に応じたと喜ぶ景光。泣いて嫌がる妻の縫の方から赤ん坊を取り上げると、産婆に命じて川に赤ん坊を捨てさせます。

 

それから16年後。育ての親の寿海の手で義肢を与えられた百鬼丸は、鬼神を倒せば自分の生身の身体が戻ることを知り、一人で身体を取り戻す旅をしています。そこで出会ったのが、孤児のどろろです。作中ではっきり言及されていませんが、アニメ誌によるとどろろの年齢は11歳と設定されているそうです。

 

百鬼丸の身体を取り戻す旅を続ける百鬼丸とどろろは、訪れた村でさまざまな体験をします。百鬼丸の耳が聞こえるようになり、たどたどしく話すことができるようになり・・・と、身体を取り戻すたびに百鬼丸に感情が生まれ始めます。

 

厳しい世界に生きる人々の辛さを肌で感じ、自分がなぜこんな身体を欠いた姿になっているのか、その理由を知るうちに、次第に百鬼丸は心に鬼を宿すようにときに怒りを爆発させる百鬼丸を全身で人に留めようとするのがどろろです。

 

ついに百鬼丸は自分を鬼神に捧げた醍醐景光が治める国にたどり着きます。そこで百鬼丸は母親の縫の方や弟の多宝丸に出会います。百鬼丸が鬼神を倒し身体を取り戻すたびに、醍醐の国を守る鬼神の力が弱まりさまざまな厄災が起きていることを知った多宝丸は、父・景光とともに百鬼丸討伐に意欲をみせ、何もできない縫の方はただオロオロするばかり。

 

百鬼丸一人を犠牲にすることで醍醐の国の繁栄を取った景光の行いが正しいのか、醍醐の国に暮らす多くの人を不幸にしても自分の身体を取り戻す百鬼丸の行動が正しいのか、答えの見えない問いを視聴者に投げかける作品です。

 

2019年版TVアニメ「どろろ」の総評価・レビュー(感想)【ネタばれあり】

 

2期全24話それぞれの感想は、それぞれのページをご覧いただくとして。ここでは、総評価と総レビューを述べたいと思います。ここから先は【ネタバレありです】。

 

▼それぞれの回のあらすじと感想はこちらをご覧ください

 

「どろろ」という作品は、原作漫画が打ち切り同然の未完の作で、1969年TVアニメも途中から方向転換を強いられた不遇の作品でした。それにも関わらず、その強烈な印象は多くの人の心を捕え、当時子どもだった原作・旧アニメ世代の方が今なお忘れられない作品です。

 

なにがそんなに印象深いかというと、それはただのおどろおどろしい妖怪ものというだけでなく、妖怪を倒すことで百鬼丸の身体がもどるという、奇想天外な設定が子ども心にも印象深く刻まれたのだろうと思います。しかも百鬼丸が身体を取り戻すことで醍醐の国に厄災が起きるというジレンマもあり、当時の人々の厳しい生き様などと相まって、きれいごとでは済まされない深い社会的な問題を提起しているところも、記憶に残る作品だったのでしょう。

 

2019年版「どろろ」は、個人的にとてもよくできたリメイクだと思っていますが、原作派や旧アニメ派の方々には不評のようです。リメイク版は、彼らにはどうしても軽く見えてしまうようです。でも、けして軽くありません。中にはほっこり回もありますが、今回のリメイク版は全体として原作の言わんとする芯を捕え、表現を現代的にした作品だと思っています。古橋監督も「換骨奪胎」と表現しています。でも、旧作派、新作派わかれて論争が巻き起こるというのは、それだけこの作品が愛されている証拠で、良いことだと思います。

 

百鬼丸がとにかく喋らない!

 

リメイク版「どろろ」でとくにイイと思ったのが、百鬼丸がとにかく喋らないことです。百鬼丸は生まれてすぐに鬼神に身体じゅうのあちこちを奪われました。そのため見ることも、聞くことも、話すこともできません。それなのに、原作漫画でも1969年版TVアニメでも、超能力のような力で最初から見ることも聞くことも話すこともできます。これをなくしたのです。とても大きな改変で、格段に物語にリアリティが生まれました

 

そのため、最初のころは人形のように表情のなかった百鬼丸が少し微笑んだだけでドキリとさせられたり、一言喋っただけでそれはそれは嬉しく思えました。前半、百鬼丸の見た目の成長が、すごく面白かったですね。初めて聞いたお須志の悲しいすすり泣き、初めて知った火の熱さ。百鬼丸の一つ一つの体験の描き方が面白くてワクワクしました。

 

そして、前半最大の山場。「守り子唄の巻」で、ミオの死を知り獣のような絶叫とともに侍を斬りまくったあの表現。恐ろしくて悲しくて、やり場のない百鬼丸の気持ちが見えるあのシーンは忘れられません。そしてミオの身体を抱きたどたどしい言葉で「ミオ」と言ったあのシーンも、百鬼丸の深い悲しみが感じられて見ごたえがありました。

 

前半・第1期の完成度が素晴らしい!

第1話からリメイク版「どろろ」は、気合の入りかたが半端なくすごかった。ギリギリと張りつめた緊張感が伝わってきて、監督はじめ制作陣の今作にかける意気込みが伝わってくる素晴らしい滑り出しでした。オープニングとエンディングの楽曲も素晴らしく、これはどんなすごい作品になるのだろうかと、期待しかないほどの完成度でした。

 

後半・第2期でやや失速

しかし、第2期になり、オープニング曲が明るくポップな印象になったのと同時に作品内容もやや失速していきました。百鬼丸がどろろを構わなくなったという変化も、終わってみれば「ばんもんの巻」で深く心が傷ついた結果なのだと分かるのですが、視聴当初は「アニキいったいどうしちゃったの???」と疑問にしか思えませんでした。もう少し、傷ついていると分かる演出にしてほしかった。

 

マイマイオンバの回は・・・もう別作品でしたね。作画ばかりかアニメーションも背景もガラリと変えてしまうのは、さすがに受け入れられませんでした。

 

2期ではどろろの父親・火袋が残した財宝を巡る謎を追う展開があります。ここから先、多宝丸は何度も百鬼丸に挑んできます。この二人の衝突は面白かったですね。多宝丸とその従者、兵庫と陸奥の関わりもよく描けていたと思います。

 

キーパーソン多宝丸の心の寂しさも、よく描けていたと思います。

 

気持ち良く終われたエンディング

▲成長した百鬼丸とどろろ 出展/TVアニメ「どろろ」

 

ラストは、当初ぬるい展開だったかな、と思いました。なにしろ辛い展開が得意な小林靖子さんのシナリオですから、どんな厳しいエンディングかと思ったら、意外や意外、ハッピーエンドでした。でも、良かったと思います。これまでなかなかハッピーエンドになれなかった二人。何度目かの正直で、やっと・・・です。

 

今作のどろろは11歳の設定だそうです。だとすると、百鬼丸とは5歳違い。ラストの成長したどろろは15歳くらいに見えたので、百鬼丸が20歳。当時とすれば、ちょうどつり合いの取れた二人ですね。

 

温かく、希望に満ちた金色のエンディングは、続編を必要と思えないほどのスッキリしたラストでした。

 

2019年版「どろろ」のテーマは百鬼丸の心の成長

 

結局、リメイク版「どろろ」の全体テーマは「百鬼丸の心の成長」だったと思うのです。

 

身体を取り戻すことで心を育てていった百鬼丸が、人の世の辛さや悲しさ厳しさ、その中にある優しさや愛しさかけがえのなさ、そして怒りも知り、最後に自分を生き地獄のような境遇に落とした張本人の父親を許すまでの物語です。

 

原作からここまでよく昇華させたものだと思います^^

 

ただ、それが十分、描ききれていたかというと疑問な部分もあります。とくに後半で失速したあたりが、百鬼丸の心の成長を十分に描くべきだったと思うのですが、うまく機能していなかったように思えます。後半は鬼神を倒すというサイドストーリーを入れるために、百鬼丸を掘り下げて描く暇がなく、シナリオがかなりきつい感じに思えることが多かったです。後半のストーリー配分を、少し練り直した方が良かったのかも知れません。

 

2019年版「どろろ」の個人的総合評価は「★×8」

▲「どろろの総合評価は★×8だー!」 出展/TVアニメ「どろろ」公式

 

リメイク版「どろろ」の総合評価です。

 

脚本/7(後半前期がやや惜しいかんじ)

CV/9

キャラクターデザイン/9

作画/7(特に後半でブレが目立ったので)

アニメーション/8

美術/前期9 後期7

音楽/8

 

総合評価 64/80 = 80/100 80点なので★×8

 

[char no=”1″ char=”あいびー”]第2期の前半がややもったいなく感じましたが、全体によくまとまっている秀作だと思います。絵もアニメーションも良く、声の演技も素晴らしかった! 最後の百鬼丸と景光の決着のつけ方が気持ちよく、いい終わり方だったと思います。多宝丸が少し可哀想でしたけどね──。[/char]



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