トルケルはついにトルフィンが盟友の息子と知る!シーズン1、第11話賭け」のあらすじ感想考察を紹介します。2019年7月~放送の「ヴィンランド・サガ」は、1000年前の北欧を舞台にヴァイキングの生き様を描いた骨太な物語



第11話/「いかに戦い、いかに死ぬか、それが問題だ」。いかれたヴァイキングたちの死生観がよく描かれている!

▲クヌート王子救出のため剣を抜くトルフィン 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

#11

賭け

gamble

 

1013年 晩秋 ロンドン バース近郊 マールバラ

 

ロンドン橋を出てクヌート王子配下の4000の兵を打ち破り、さらに王子を捕えてスヴェン王本隊に殴り込みをかけるため進軍するトルケル隊。あたりの木々はもう茶色い木の葉を散らし、晩秋の気配だ。

 

トルケル直参のトルケル隊はだれもがデーン人。オーディン神を最高神とする北欧神話をあがめる人々だ。それに対して、ロンドンで共闘していたサクソン人たちはキリスト教信者。この時期、ヨーロッパではキリスト教が勢力を広げていた。

 

兵士たちは進軍しながらキリスト教の噂話をしている。

 

アスゲート「おりゃぁ嫌だね、キリスト教はあれすんな、これすんなってうるせぇもん。だいたいロンドンであいつらが拝んでる木像を見たけどよ、すんげぇ弱そうじゃねぇ?」

 

兵士「たしかになぁ、ひょろひょろだもんな!」

兵士「あんなん、トール神のハンマーでイチコロだよ」

大笑いする兵士たちの話を聞いていたトルケルは、キリスト教徒のクヌート王子の意見を訊こうと声をかける。クヌート王子、側近のラグナル、神父の3人は、馬車の荷台に板に手首を通す穴を2つ開けた手錠をかけられ座っている。

トルケル「おーい王子さま。あんた、イエスと*アスガルドの神々、どっちが偉いと思いますかね?」

 

トルケルの大声が聞こえないはずもなく、しかも同じデーン人なのだから言葉が分からないわけもないのに、クヌート王子は微動だにしない。

 

*アスガルド/北欧神話の神々が住まう世界

 

トルケル「あれれ? どしたのかなぁ、ボク? みんなの前でお話しするの恥ずかしいのかなぁ?」

 

相変わらず目を閉じたまま動こうとしないクヌートの前に座っていた側近のラグナルが声を荒げて立ち上がった。

 

ラグナル「えぇい、調子に乗るなトルケル。この不忠者が! 自分のしておることが分かっておるのか? 恐れ多くもクヌート殿下に、このような辱めを!」

 

ラグナルの一喝に、荷台にどっかり座り込み面白くなさそうにトルケルは言う。

 

トルケル「そりゃオレだって、人質を取るなんざ趣味じゃないよ。でもさぁ、スヴェン王がオレのこと無視すんだもん。だから王子のガラを押さえりゃこっち振り向いてくれるかなーって思ったのよ。察してよ、オレのこの切ない気持ち」

 

兵士「大将そりゃ、恋する乙女のセリフだぜ」

 

トルケル「そう、それズバリ! やられちゃったのよわたし、スヴェン王に♥」

 

兵士「でけぇ乙女だな」

 

周りの兵士たちからバカ笑いが沸き起こる。そのやり取りをあきれ顔で見ていたラグナルは、おぞましい生き物でも見るような目つきで吐き捨てた。

 

ラグナル「いかれた連中だ。こうまで戦バカだとはな。きさまら全員しぬぞ! たった500で、デンマーク軍1万6000を敵にまわして、なんとする!」

 

トルケル「そういうことはねぇ、問題じゃないんだよラグナル。キリスト教にかぶれて久しいあんたがたは、もう忘れちまったかねぇ。我らノルマン戦士の誉れってヤツをよ」

 

ラグナル「ヴァルハラか」

 

トルケル「そうさ。ヴァルキリーたちは、常に勇者の魂を求めている。神々の戦士、エインヘリヤルと呼ぶにふさわしい勇者をな。まさに戦い、まさにしんだ者だけが、天界のヴァルハラに住まうことを許される。いかに戦い、いかに死ぬか、それが問題だ。敵は強ければ強いほどいい」

 

ラグナルもデーン人なので当然ヴァルハラの考えはよく知っている。トルケルの言葉をそこまで黙って聞いていたものの、ついに「ふん。古臭い男だ」と一蹴した。

 

ラグナル「そうやって戦場ばかりを駆けまわっておるからか。哀れなヤツよ。キサマは子どもだトルケル。なにも知らぬ。宮廷のことも、スヴェン王のことも。我が君、クヌート王子のことも」

 

「なんだそりゃ。意味深な・・・」と、もう少し話したそうにしていたトルケルの言葉を遮り、神父が騒ぎ出した。どうやら酒が切れると神が見えるという幻覚に襲われるらしく・・・まわりを歩いている兵士たちは大笑いし、ラグナルはあわてて強い酒をくれと頼む事態に陥った。

今回のテーマは「アシェラッドのクヌート王子奪還作戦」。しかしサブテーマの「トルフィンとトルケルの2度めの邂逅」の方が重要かと。第3テーマがヴァイキングの「ヴァルハラ信仰」です。

 

さて前回は、トルフィンやアシェラッドたちが生きる時代の空気を伝える回でした。キリスト教徒たちの間でささやかれているこの世の終わり、デーン人たちの北欧神話で言う「ラグナロク」があと20年もしたらやってくるという噂。かつてローマ人がサクソン人に滅ぼされたように、どんなに隆盛を誇ってもやがて滅びるという現実。

 

そんな時代をどう生きるか──アシェラッドはどう考えているのか、トルフィンはそれを訊いてどう思ったのか──が、今後の物語のカギとなりそうな回でした。

 

一方、暇を持て余した戦闘狂トルケルは直参500を連れてロンドン橋から出てきてクヌート軍4000を撃破し王子たちを捕えます。それを訊いたアシェラッドは「ここが博打の打ちどころだ」と100人の手下を焚きつけ、クヌート王子を横取りしようと考えます。

 

いったいアシェラッドがたった100人で、熊のように強いトルケル軍500人を相手にどうやってクヌート王子を奪還するつもりなのか、アシェラッドの作戦が楽しみです! これが今回メインの見どころです。

 

その間に展開するトルフィンとトルケルとの2回目の遭遇も、とても重要です。さらに、なぜデーン人がこれほど命をかけて戦うのか、彼らの「ヴァルハラ信仰」も押さえておきたいポイントです。

 

▲今回の舞台はイングランド バース近郊 マールバラ 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

アルコール依存症の神父をからかい大笑いしていたトルケルが、ふと気配に気づいた。一緒にバカ笑いしていた兵士たちもやはり何かに勘づき、行軍は一斉に立ち止まった。

 

「大将」と手渡された槍をつかみトルケルは、「そうねぇ、だいたいあの辺──」と、離れた草むらに槍を投げつける。その槍は草むらに潜んでいたデンマーク兵の一人を確実に捕らえた──壮絶な叫び声が上がる。アスゲートの号令で兵士たちは武器を手にした。

 

小高い山の中腹に立ち上がったデンマーク兵の一人が声を張り上げる。どうやらラグナル隊の生き残りのようだ。

 

ラグナル隊武将「トルケル、きさまらを包囲した。我らはクヌート王子のラグナル隊2000!」

 

「2000?」とアスゲートはいぶかし気だ。「自分から言うのはだいたいハッタリだ」と、トルケルの方はすっかりお見通し。

 

ラグナル隊武将「きさまら逆賊に最後の情けを与えてやろう。今すぐ殿下とラグナルさまを解放せい。されば、今回だけは助けてやる。おのが立場をよく考えるがいい」

 

そこに連れて来られたのがクヌート王子とラグナル、さらに神父の3人だ。「きさまに選択の権利はない! ん・・・だ・・・ぞ・・・」。大声で見栄を切っていたラグナル隊の武将は、すんなり王子を差し出されて困惑している。とりあえず王子やラグナルを引き渡してからデンマーク兵に対してトルケルは言う。

 

トルケル「ラグナルの部下よぉ、お役目ごくろう。クヌート殿下、たしかにお返し申し上げる。もはや遠慮は無用だろう。さぁ、存分に来い!」

 

プライドを傷つけられたラグナルの部下たちは、大人しく引くことができない。剣を抜こうとする兵士の手をラグナルが押さえるが、「戦士として引く理由がありませぬ!」と、いきり立っている。

 

ラグナルの部下「きゃつら逃げもせず、逮捕される気もない。ここで引けば、我ら皆、臆病者ということになりましょう!」

 

ラグナル「引く理由はある。ここは殿下の御身を第一に考えるのだ。殿下をお救いすることが、勝利と心得よ」

 

トルケル「おぉい、どうした兄さんがた、まさか2000もいてビビってるんじゃないだろうね? それとも何かい? 人質がいたせいで全力が出せませんでちた~ってな方が言い訳に都合が良かったかねぇ?」

 

ラグナルの部下「おのれ、言わせておけば!」

 

ラグナル「あ、悪い悪い、もしかして図星だったか~?」

 

ここまで挑発されてはたまらない。「てめぇら全員ヴァルハラに送ってやらぁー!」「おぉ、やれるもんならゼヒ頼むぜー」と、トルケル軍500 vs ラグナル隊自称2000 の戦いが山中で勃発した。

 

感想&考察1、ヴァイキングを理解するカギ「ヴァルハラ信仰」

Image from page 532 of
Image from page 532 of “The American educator; completely remodelled and rewritten from original text of the New practical reference library, with new plans and additional material” (1919) / Internet Archive Book Images

▲戦争と死を司る神「オーディン」

 

戦いが楽しくて仕方がないトルケルおじさんは、まぁ異常だとしても。全員が熊みたいに強いと噂のトルケル軍の面々も、対するラグナル隊のお兄さんがたも、総じて誰もかれも血の気が多いですよね。前回は、暇してるアシェラッドの手下たちがころしあいの喧嘩を始めたという下りもありました。

 

この人たち全員がデーン人で、いわばヴァイキングたちと同じ考えの人なんです。彼らの世界には北欧神話が息づいています。そこで信じられているのが「ヴァルハラ信仰」です。第2話でも紹介した、北欧神話にもとずく「ヴァルハラ信仰」について、さらに詳しく紹介します。

 

北欧神話の主神オーディンは、戦争と死を司る神。オーディン神はヴァルハラと呼ばれる宮殿に住んでいます。オーディン神は、やがて訪れる「ラグナロク」(=終末の日)の大戦争(ラグナロクについては、前回第10話で詳しく紹介しています)に備え、優れた戦士の魂を集めています。ヴァルハラでは毎日、戦いが行われ、夜になると饗宴が催されるとされています。

 

Image from page 536 of
Image from page 536 of “The Victrola book of the opera : stories of one hundred and twenty operas with seven-hundred illustrations and descriptions of twelve-hundred Victor opera records” (1917) / Internet Archive Book Images

▲勇敢な戦士の魂を連れ去るヴァルキリー

 

ヴァルハラには、戦士なら誰でも行けるわけではなく、優れた戦士のみが選ばれます。勇敢に戦い、戦死した者だけが選ばれるのです。そんな優れた戦士の魂をヴァルハラにいざなうのがヴァルキリー(ドイツ語でワルキューレ=戦乙女)だと言われています。

 

勇敢に戦い死んだ戦士だけがヴァルキリーに選ばれ、ヴァルハラに行き、やがて来る「ラグナロク」を主神オーディンとともに戦う戦士(=エインヘリヤル)となることができる──というのが、北欧の民間で信じられてきたヴァルハラ信仰です。勇敢な戦士だけがヴァルハラに行き、主神オーディンとともに戦う栄誉を得ることができるということで、それはデーン人社会において最高の栄誉なのです。

 

トルケル「そうさ。ヴァルキリーたちは、常に勇者の魂を求めている。神々の戦士、エインヘリヤルと呼ぶにふさわしい勇者をな。まさに戦い、まさにしんだ者だけが、天界のヴァルハラに住まうことを許される。いかに戦い、いかに死ぬか、それが問題だ。敵は強ければ強いほどいい」

 

だからトルケルはこんなセリフを吐き、誰もかれもがエインヘリヤルになる栄誉を得るため戦いに明け暮れるのです。主神オーディンが「戦争と死を司る神」という設定じたいがもう、弱肉強食を肯定してしまう社会しか生み出しませんよね。いや、反対か。戦い奪うことでしか生きる術がないほど、彼らが厳しい土地で生きていたという証なのかも知れません。だからこそ、そんな民間信仰が生まれたのでしょう。

 

感想&考察2、トルケルがさくっと人質を解放したワケが・・・さすがトルケル!

 

クヌート王子救出軍が現れたとき、トルケルは拍子抜けするほどあっさりクヌート王子を引き渡しましたよね。スヴェン王を本気にさせるための切り札として捕虜にしていた王子をどうして?? と、当初おどろいたのですが、その理由がふるってましたね!

 

トルケル軍に人質がいては、思い切り戦うことができないだろうからという、トルケルの優しい心配りだったわけですね──。しかも、王子救出軍を全員倒してしまえばまた王子を捕えることができるわけだから、トルケルとしてはまったく問題なしという判断だったんでしょう。

 

いやぁ、さすがトルケル。楽しく思い切り戦うことしか考えていません! いかにもトルケルらしくてイイですね!

 

漁夫の利を得る、アシェラッドの秘策

 

戦斧を両手に持ち、ズバリズバリを人垣を切り刻むトルケル。目はランランと輝き、楽しそうに大声を上げながら戦う様子は、身体じゅうからアドレナリンが溢れている。「このままではロンドンの二の舞」と、ラグナルは声を限りに引けと叫ぶが、だれもかれも効く耳なしだ。

 

トルケル「なにが2000だ。こいつらせいぜい400じゃねぇか。こりゃ半時もしねぇうちに片付いちまうな」

 

累々と地面に転がるのはラグナル隊ばかり。トルケル隊には、相手がいなくて立ち尽くしている者さえいる。そこでトルケルが異変に気付いた。振り向くと、背後の山から黒煙が立ち上っている。

 

これがアシェラッドの作戦だった。

 

トルケル軍とラグナル隊が激突したところでタイミング良く山に火を放ち、どさくさ紛れにクヌート王子を奪還しようというのだ。ロンドン橋に鎮座しているトルケルには手も足も出なくても、丘に上がれば何かとやりようがあるというワケだ。頭の回るアシェラッドにはトルケルが打って出てきたのは好都合だった。

 

アシェラッド隊はどんどん山に油を流し火を広げる。トルケル軍もラグナル隊も火と煙に巻かれて、だれがどこにいるかも分からなくなっている。

 

アスゲート「ずらかろう、山火事でしんじゃヴァルハラには行けねぇ」

 

トルケル「山火事なもんかい。こいつぁ点け火だ──こいつらの作戦じゃねぇよな。王子を救出にきて自分らごと焼くわけもねぇだろうし」

 

アスゲート「ってことは」

 

トルケル「あぁ。第3の勢力がいるってわけだ」

 

高みの見物をしていたアシェラッドは、勢いよく燃える火に逃げ惑う兵士たちを見て満足げだ。

 

アシェラッド「うん、燃えてるねぇ。ここ何日か雨が降らなかったからなぁ」

 

ビョルン「ひゅー、むごい。いろんなしに方あるけど、あれだけは勘弁だな」

 

アシェラッド「まったくだ。苦しくてつまらないしに方だよ」

 

ビョルンが「この火事でトルケルがしんでくれればいいのに」と言うのに対して、アシェラッドは「あのバケモンはこんなもんでしなんよ」と冷静だ。その上でトルフィンに命じる。

 

アシェラッド「トルフィン、よぉし水かぶれ!──王子はさっき遠目に見たな、羽飾りの兜に赤いマントだ。間違うなよ、よし行け!」

 

マントにたっぷり水をかぶったトルフィンは、燃える戦場に向かい単身で馬を走らせた。

 

ビョルン「なぁ、アシェラッド。やっぱラグナル隊の400と組んだ方が良かったんじゃないか? おれらの100と合わせりゃトルケル軍とタメだぜ」

 

アシェラッド「タメじゃ勝てねぇよ。よしんば勝てたとしても、どうせ手柄はラグナル隊がもってっちまうぜ。どのみちイチかバチかよ。この火事でクヌート王子を焼きころしてしまったとしても、ケツまくって知らんぷりすりゃ、おれらの仕業と明かせるヤツはいねぇ」

 

ビョルン「といいつつ、トルフィンなら王子を取ってこれると思ってるんだろう? なんだかんだ言って、あんた結構信用してんだよ、あの小僧を

 

アシェラッド「へっ。怖いもん知らずのバカが、使い勝手がいいだけよ」

 

煙に視界を塞がれ、どこに味方がいるのか入り乱れているトルケル軍とラグナル隊の両陣営。クヌート王子とともにこの場を逃れようとしているラグナルを呼ぶ声にラグナル隊の兵士が「おぉい、殿下はこっちだー!」と応えると、そこにやってきたのはトルケル軍の兵士だった──。

 

トルフィンとトルケル、2度目の邂逅

 

煙の中にクヌート王子とラグナルたちを見つけたトルケル軍の兵士たちは、再び王子を捕えようと迫る。そこに割って入ったのがトルフィンの乗る馬だった。馬から飛び降りたトルフィンは、両者の間でトルケル軍の兵士に向かい2本の短剣を抜いた。

 

トルケル軍兵士「なんだぁ、このチビ。なぁにガンたれてんだぁ? 随分やるきマンマンじゃねぇか」

 

トルケル軍兵士「やっていいのかなぁ?」

 

トルケル軍兵士「平気だろ。要人にゃ見えねぇ」

 

斧を振り上げ襲い掛かった兵士の懐に入り、片方の短剣で素早く兵士の喉を刺す──小さなトルフィンは、兵士の身体に隠れて他の者たちには消えたように見えていた。

 

トルフィン「あんた、クヌート王子だな。助けに来た。そこで待ってろ」

 

そう言うとトルフィンは、水をしみこませた重いマントを脱ぎ捨てた。

 

ラグナル「バカな。この場に殿下を助けに来る者など──。しかし、なぜ、なぜ殿下にはいつもこうまで選択の余地がないのか」

 

山火事の中、トルケル軍の兵士たちを前にすっかり凪いだ表情のトルフィン。全身を集中させ、相手の出方を待っているかのようだった。そこに2本の戦斧を肩に担いだトルケルが到着した。トルケルは嬉しそうに声を上げる。

 

トルケル「おぉ? トルフィン、おーいおまえトルフィンだろ。ほーら、やっぱりトルフィンだ。また会えると思ってたんだ、オレ!」

 

トルケル軍兵士「大将!」

 

トルケル「おまえら、こいつとやり合ったてたのか。手こずってるだろ? なんたってこのトルフィンは、オレに深手を負わせるほどの戦士だからな。見ろ、ナリを見て侮ると痛い目見るぞ」

 

トルケルは薬指と小指の落とされた右手を見せながら話す。口は明らかに嬉しそうに笑っている。嫌なヤツが現れたとばかりにチッと舌を鳴らし、トルフィンは両手の短剣を構えた。いつでも動けるよう足を開き腰を落とす。

 

トルケル「訊きたいことが2つある。まずこの火は、おまえらの仕業だな? ふむ、もう1つ。おまえは自分のことをトールズの子と名乗ったな。父の名はトールズ、母の名はヘルガ──違うか?

 

それまで何一つ反応を示さず口も開かなかったトルフィンは、母の名を言い当てられ、思わず表情を変えた。

 

トルフィン「なんで知ってる?」

 

一瞬目を閉じてから、トルケルはさっきより更に嬉しそうに笑い出した。

 

トルケル「うはは、そうか、そうか。やっぱりおまえ、ヨームのトロルの子だったか! なるほど強いわけだ」

 

トルケルの言葉を訊いて、周りにいた兵士たちも口々に言う。「ヨームのトロルの子だと?」「トールズどのの子だと?」「──似てねぇな」。どうやらここにいるだれもが、父・トールズを知っている

 

トルフィン「父上を知ってるのか?」

 

トルケル知ってるもなにも! 世界でただ一人のオレより強い男。本当の戦士だ

 

火の手はさらに勢いを増してきている。

 

トルケル「昔話をする時間はなさそうだな。トルフィン、王子はひとまずくれてやる。仕切り直そうぜ! どうせ向かう先は同じスヴェン王の本陣だ。オレの追撃を逃げ切れば、おまえたちの勝ちだ。オレをがっかりさせるなよ、トールズの子トルフィーン!」

 

トルケルは手を振り火の中に消えていった。

 

感想&考察その3、トルケル、トルフィン、アシェラッド。それぞれの想いが醸成されていく。

 

ついにトルケルは、トルフィンの素性を手繰り寄せました。かつて共に戦った盟友トールズの子。それを知ったときのなんとも満足そうな顔! それなら強いのも無理はないと、自分の指を落とされたことにも納得の様子です。

 

こんな出会いでなければ、トルケルもトルフィンも、もっといろいろ話したかったろうに、火の海の中ではそうも行きません。そこでトルケルは、一旦トルフィンに花を持たせましたね。クヌート王子を託していきました。

 

トルケル「昔話をする時間はなさそうだな。トルフィン、王子はひとまずくれてやる。仕切り直そうぜ! どうせ向かう先は同じスヴェン王の本陣だ。オレの追撃を逃げ切れば、おまえたちの勝ちだ。オレをがっかりさせるなよ、トールズの子トルフィーン!」

 

と、言い残しているので、そうたやすくスヴェン王のところまで帰してくれるわけでもなさそうです。そこはさすがに戦闘狂。トルフィンが盟友の子とはいえ、敵としてでも戦えるのが嬉しくて仕方がないようです! いくらアシェラッド隊100人がついているとはいえ、トルケル軍500を相手にして逃げ切れるんでしょうか? これから先も大変そうです。

 

戦闘能力の高さを武器にゴリゴリ正面突破するトルケル軍に対して、知略を巡らし最小限の力で戦果をあげるアシェラッド隊。タイプの違う2勢力の今後の戦いぶりも見ものです!

 

トルケルだけでなく、多くのトルケル軍が父を知っていると分かったトルフィンはどんな気持ちでしょう? あまりに強くて皆から恐れられているトルケルをして「世界でただ一人のオレより強い男。本当の戦士だ」と言わせる父・トールズ。こう聞かされて嬉しくないはずはありません。トルフィンはヨムスヴァイキング時代の父のことを少しも知りません。きっと、もっといろいろ訊かせてほしいと思ったのではないでしょうか?

 

まだ明かされていませんが、トルケルはトルフィンの遠い親戚です。そのことが、今後の展開に何か作用してくるのかも知れませんね! 3度目の邂逅がどんな形になるのか、それがどう物語に影響してくるのか楽しみです!

 

一方、トルフィンの生還を待つ育ての親アシェラッドは──。前回、ちょっとした化学反応を期待してトルケルにトルフィンをぶつけたアシェラッドですが、結局トルフィンがトルケルのタマを取ることはできませんでした。今度もまた「一人でクヌート王子を救出してこい」と、トルフィンに大役を命じています。

 

「拾ったガキなら惜しくない」なんて、これまでも散々トルフィンにきつい仕事を割り振ってきたアシェラッドですが、ここまでやると、さすがにひどい。トルフィンにギブアップさせたいのかと思ってしまうほどです。「こんなのやってらんねぇ!」と、アシェラッド隊を抜けるとか、もしかしたらトールズの盟友・トルケルにトルフィンを押しつけようとか、どこかで思っているのかも知れません。

 

自分のことを「戦士」だと称するトルフィンは、他の海賊たちとは明らかに違いますからね。もうそろそろ自分の手から放したいとか考えているのかも──と、ちょっと思えました。

 

ビョルン「といいつつ、トルフィンなら王子を取ってこれると思ってるんだろう? なんだかんだ言って、あんた結構信用してんだよ、あの小僧を

 

これまでずっとアシェラッドとトルフィンの関係を隣で見てきたビョルンも、アシェラッドが言葉ではトルフィンにきついことを言うくせに、じつは信用し可愛がっていることを察しています。そりゃビョルンだってバカじゃないのだから、気が付きますよね。

 

クヌート王子のご尊顔

 

森の木立ちの中でトルフィンの帰りを待っているアシェラッド隊の面々。たまたま近くに来たトルケル軍やラグナル隊の兵士に弓を引くくらいしかすることがなく、すっかり暇そうにしている。

 

ビョルン「おっせぇなぁ、トルフィン。さすがに今回ばかりは、あいつの運に頼りすぎたかねぇ。ま、いいけどな。オレらに損害はねぇし」

 

アシェラッド「また来たぞ。したいの片づけ急げ!」

 

煙の向こうから現れたのは、クヌート王子らを伴ったトルフィンだった。

 

トルフィン「打つな、オレだ。王子を連れてきた!」

 

一瞬呆けたような表情をしたアシェラッドは、ハッと我に返ってクヌート王子たちを出迎えた。揃ってひざまずくアシェラッドとビョルンに向かい、クヌート王子側近のラグナルは横柄に言い放つ。

 

ラグナル「アシェラッドとやら、きさまの強引な作戦のせいで我が隊は霧散した。その罪は重いぞ! だが、ことここに至っては、きさまに殿下の守護を任せる他あるまい。殿下をお守りし、きっと軍団本営へお送りせよ」

 

アシェラッド「ウォラフの子アシェラッド、謹んでその旨拝命いたします。つきましては殿下、近衛としてご尊顔を拝したく存じますが」

 

ラグナルはやや悔しそうに王子を促す。クヌート王子はあご紐を外し、羽飾りのついた兜を脱いだ。プラチナに近い淡い色の長い金髪を風になびかせ、同じ色のまつ毛に縁どられた青い目をもつ美貌の王子に一同は息を飲む。「王子? 姫の間違いじゃねぇのか」と、ビョルンが思わず呟いたほどだった。

 

感想&考察4、このクヌート王子がクヌート大王になるのか?

The Wisdom of Knut
The Wisdom of Knut / spratmackrel

▲クヌート大王

 

ビョルンが言うまでもなく「王子より姫」の方がふさわしいほど容姿端麗なクヌートですが・・・。「ヴィンランド・サガ」という作品には、実在の登場人物が何人かいます。たとえば主人公のトルフィンが実在の人物です。北米大陸を発見したレイフ・エリクソンも実在の人物。スヴェン王と、その第2王子クヌートも実在の人物です。

 

このクヌート王子、作中ではまるで頼りなげな女の子のような容姿ですが、実際のクヌートは、後にイングランド、デンマーク、ノルウェーの3国の王を兼ねて「大王」と呼ばれました。

 

これだけ著名な歴史的人物なので、作品中でも史実に忠実に描かれると思うのですが、今の状況からいったいどういう経緯で大王になっていくのか想像がつきません。

 

 

クヌート王子は、「ヴィンランド・サガ」のキービジュアルでもかならず登場するほどの重要人物です。クヌート自身の今後の物語も楽しみですが、それがどうトルフィンに関わってくるのか、そのあたりも見逃せません。

 

ただ、気になることがあります。クヌート王子ってまだ一言もしゃべっていませんよね。これって、もしかして・・・もしかしたら見た目だけじゃなくて、本当に「女性」の可能性もあると思うのですが! しかも、幸村先生のこんなツィートも見つけました。

 

 

「ヴィンランド・サガ」をアニメ化するにあたり、幸村誠先生からアニメスタッフにお願いがあったそうなんです。それが「女の子を可愛く描いてください!」だったそうなんですが・・・。

 

「クヌートを美人に描いてくださいね!」

 

って、この発言からしても完全にクヌートは女性設定なんじゃないですか? しかもひどい目にあうそうですよ・・・。女性で「王子」として育てられてひどい目にあい、ついに3国の大王に・・・なんて波乱万丈な! いやまぁ、ヨーロッパは歴史的にも女帝が多いから、女性でもそう不自然ではないのかもですが、それにしても壮絶な人生になりそうです。

 

おまけ/あにまるらんど・さが/アイスランドの旅プレゼント!?

 

ラグナルはアザラシでクヌート王子はふわふわのシロクマちゃんでしたね^^ ──と、思ったら、作者の幸村誠先生がこんなことツイートしてます。

 

あぁ!クヌートだけに! 熊谷くん博識だ。クヌートっていう名前のシロクマの赤ちゃんがいたのさ。もう成獣だろうけど。

 

ほうほう。・・・ってことで、少々調べてみました。

 

▲ホッキョクグマのクヌート 出展/wiki

 

クヌートは、ドイツのベルリン動物園で生まれたホッキョクグマで、その愛らしさから世界的な人気者だったそうです。DVDやぬいぐるみ、お菓子などの関連商品がつくられ、アメリカでは雑誌の表紙を飾ったこともあるとか。上の写真も、腕が太くてすごく可愛らしいですよね! 残念ながら、2011年に亡くなっています。

 

 

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