2019年1月~放送のアニメ「どろろ」。第12話「ばんもんの巻・下」の詳細なあらすじと見どころを紹介します。百鬼丸は、ついに自分の出自と因果を知ります! あわせて感想もどうぞ!【注意】完全ネタバレです!

第12話/多宝丸の決断、そして縫の方の決断。



ばんもんの巻・下

banmon no maki/ge

 

この戦乱の世に、みんなが真っ白なご飯を食べられるほど栄えた国があると聞いて醍醐の国にやってきたどろろと百鬼丸。そこは百鬼丸の生まれ故郷です。実の弟・多宝丸が化け物退治に手こずっているところを百鬼丸が助け、二人は初めて対面しました。もちろん、このときは二人ともお互いを知りません。

 

両親に何か隠し事があると睨んでいる多宝丸は、さまざまな方法でその秘密に迫り、ついに百鬼丸がその秘密に関係しているとつかみます。

 

一方、国境に立つ「ばんもん」という巨大な板塀にバケモノが住みついていると聞きつけたどろろと百鬼丸は、「ばんもん」に様子を見にやってきます。そこで、「ばんもん」のために両親と引き裂かれた助六という少年と出会います。助六は、今は「ばんもん」の向こう側にある自分の村に帰りたがっていますが、なかなか「ばんもん」を越えられずにいるのです。そこで、助六を助けるためにも、どろろと百鬼丸は「ばんもん」のバケモノ退治に挑みます。

 

日が暮れると狐火が集まり、ついに「ばんもん」のバケモノがその姿を現しました。それは鬼神・九尾でした。百鬼丸が九尾と戦っている、ちょうどそこに現れたのが醍醐景光。百鬼丸の父親です。景光は、百鬼丸が鬼神を倒して回っているので、醍醐領地にさまざまな厄災が起きているのを知っています。それを止めるため、今度こそ百鬼丸の息の根を止めにきたのです・・・。

 

「百鬼丸、自分の因果を知る!」これが今回のテーマ。サブテーマは「おっかちゃん」に注目しましょう。


生まれたときから手も足も視覚も聴覚もない暗闇に生きてきた百鬼丸は、自分のことをどう思ってきたんでしょう。辛いとか苦しいとか劣っているとか、そんな感情はまるでないと思うのです。比べる相手がいないし、自分の状態を疑問に思ってもいなかったでしょう。

 

でも少しずつ身体を取り戻し、人の声を聴いたり、少し話せるようになってきて、人とのつながりをもつことは彼にとって、どれほど素晴らしい経験になっていることか! もちろん、喪失の悲しみもあったけれど・・・。ミオの唄を聴いてその優しさに触れたり、絡新婦のように人と共生できるバケモノもいると知ったり、いつも明るいどろろの過去を追体験したり。さまざまな経験を経て、百鬼丸は身体のすべてを取り戻したいという、人として当たり前の欲求を以前より強く持つようになったことでしょう。それは百鬼丸の当然の権利です。

 

ところが百鬼丸の当然の権利を否定し、はばむ者が現れました。実の父・醍醐景光です。

 

百鬼丸「おまえは、何だ?」

 

景光「なぜ生きている。この、生まれ損ないの鬼子めが!──殺せ!」

 

景光の号令の元、率いる兵から雨のように矢が降ってきて、百鬼丸は矢を切り返しながら落ちている義手を拾って森に逃げ込みます。

 

百鬼丸「オレは・・・生まれ・・・損ない? 鬼?

 

木の上に逃げた百鬼丸は、景光の言葉を思い返します。百鬼丸には、それが父親とは分かっていません。分かるのは、白黒のまだら模様の炎をもつ人間だということ。・・・しかし・・・ひどい。あまりにひどい。一度、犠牲にした息子が奇跡的に生きていたっていうのに。「生まれ損ないの鬼子」ってなに? そうしたのは自分だってのに!




その頃、いつものように首のない菩薩像に祈っている縫の方の元を多宝丸が訪れます。

 

縫の方「多宝丸、どうしたのです」

 

多宝丸「母上は、手足も目も鼻も耳も、すべてを鬼に食われた赤子を覚えておられますね? 16年前、父上と母上が、無残にも鬼に食わせた赤子のことを

 

縫の方「忘れたことなどありませぬ──」

 

・・・・・

 

多宝丸「──赤子を川に! 何も知らぬまま、国のために。それでも、人の親ですか!

 

縫の方の話を聞いた多宝丸は、その真っ直ぐな気性のまま母をなじります。そこに、ばんもんから帰ってきた景光が現れ口を挟みます。

 

景光「親なればこそ、なしえたのだ。多宝丸、そなたは知るまい。かつてこの国にあった地獄のごとき日々を。度重なる飢饉、流行り病、天変地異、それにつけこもうとする周辺諸国。もはや、風前の灯だったこの国を、鬼神との約定が救ったのだ。この国の豊かさを喜ばぬ民はおらぬ」

 

多宝丸「民のためとは名ばかり。その実は、父上の野望のためではございませぬか」

 

景光「領主の利は、すなわち民の利ぞ。そのために犠牲にしたは、他でもない我が子。武士として何ら恥じることはない

 

多宝丸「しかし・・・」

 

人権の概念のない時代です。自分の子どもは親の好きにしていいという考えです。今でこそ子どもに対する虐待が問題視されますが、ほんの少し前まで親は自分の子どもに何をしてもいいという考えはごく一般的でした。子どもは親の所有物だと思っているのです。誰に迷惑かけるわけでもなく、自分の子ども(自分の所有物)を犠牲にして何が悪い? と、心の底から思っているのです。

 

しかし「武士として何ら恥じることはない」というなら、どうして「景光が鬼神を倒したから、菩薩の加護があるから、だから醍醐領は豊かなのだ」なんて、ウソ話を流布させるのよ! それが自分でばらまいたウソじゃなくて、領民から自然発生した作り話だとしても。だったら「いや違う。我が息子を鬼神に差し出し犠牲にしたからこその国の繁栄ぞ! 我が国は鬼神に守られておるのだ!」とかなんとか堂々と言えばいいじゃない! ムカムカ!(まぁ、ムカムカするのも、景光がいい悪役っぷりってことではあるんだけどね)。

 

そこに百鬼丸が現れます。屋敷を取り囲む塀の上から景光たちを見ています。思わず縫の方は「坊や!」と呼びかけます。百鬼丸から見た景光、多宝丸、縫の方の3人は、だれもが白黒まだらの魂の炎を持っています。百鬼丸を含めた一家すべてが同じ炎をもつのです。景光と百鬼丸には赤い炎が混じっていますが──。

 

集まってきた侍たちに矢を射かけられ、塀の上を走って逃げた百鬼丸を追えと、景光は侍たちに命じます。

 

景光「あれを逃すな、必ずや仕留めよ」

 

縫の方「殿!」

 

多宝丸「父上、あれはわたしの兄上──」

 

景光「多宝丸。その兄のために国を差し出すか? 何の痛みも背負わず、ただ己の善良さのために、再び民を地獄に突き落とすか? その覚悟あらば、あの地獄堂へ行け! 行って我が鬼神との約定を破ってみせよ。さすれば兄の身体は戻るであろう。国は亡ぼうともな!

 

どうやら多宝丸は、町の狂女の言葉から、百鬼丸が自分の兄だと分かっていたのですね。ここでは、縫の方と一緒になって景光に異を唱えています。

 

醍醐の領民はどれくらいでしょう。数千人か、数万人か。たった一人の兄の命を助けるため、領民たちの命を犠牲にする覚悟があるか、と景光は問います。数で比較しちゃうと難しい問題に思えてしまうけど──

 

しかし痛み? 景光は、「ワシは生まれたばかりの息子を犠牲にした痛みを背負っている」とでも言いたいのかな? 笑っちゃう! 「またすぐ次の子を産めばいい」とか縫の方に言ってたよね。針で指を突いたほどの痛みも感じていないようにしか思えないけど! 領主としてはどうか知らないけど、親としちゃ、ひとりの人間としちゃ、クズですね、かげみっちゃん!

 

多宝丸の悩みと決断

 

景光が指さした山腹にある「地獄堂」。そこに何があるのか、多宝丸は兵庫と陸奥を伴い馬で出かけます。道中、青々とした田んぼの前で3人は馬を止めて。

 

陸奥「戦が近いとは思えぬ景色ですね」

 

多宝丸「これを守るということは、兄上を──それはあまりにも人の道にもとる。そうだろう?」

 

陸奥「我らは答える立場にありませぬ。ありがたいことに

 

多宝丸「おまえはいつもそうだ」

 

陸奥「ただひとつ、我ら兄弟は、幼きときに敵方の捕虜になっておりました。醍醐の国の隆盛がなければ、今ここにおりませぬ

 

兵庫は無口な怪力で、陸奥は弁の立つ知性派といったキャラクターですね。しれっと「我らは答える立場にありませぬ。ありがたいことに」なんて多宝丸を突き放すところ、なかなかいいキャラです。 きっと幼い頃からそうなんですね。ちょっとした助言はしても、大事な判断には口を出さず、すべて多宝丸の責任で選ばせる。まぁ、それが責任を負えない陸奥の賢い立ち回りだし、多宝丸の領主としての自覚と責任を育てるんでしょうけれど。

 

地獄堂に到着し、祀られている鬼神像のいくつかが真っ二つに割れているのを見た多宝丸たち3人は、百鬼丸が鬼神を倒すたびに像が割れ、景光と鬼神との約定が破られつつあることを知ります。多宝丸は、赤子だった百鬼丸に起きたこと、景光が鬼神と取り交わした約定と、今まさに百鬼丸が鬼神を倒すことにより醍醐の国に災いが降りかかり元の荒廃した国にもどりつつあることを正しく認識しました。

 

その上で、どう判断し、どう行動するのか──。

 

「おっかちゃん」

 

前回「ばんもん」のバケモノと百鬼丸が戦っている隙に朝倉領に入った助六は、結局、見張りの朝倉兵に捕まってしまいました。一人で行くのは危ないと助六を追ってきたどろろも同じように捕まってしまい、岩穴を利用した牢に囚われてしまいました。

 

牢には醍醐兵も数人、囚われています。村は焼かれ、村人も皆殺しにされたと聞いた助六はすっかりしょげています。もう逃げる気力もなく、死ねばあの世でおっかぁに会えると泣き出します。けれどどろろは、諦めません。

 

どろろ「おいら侍には、戦には負けねぇって決めたんだ!

 

そうだよね。どろろは決して諦めない。おっかちゃんが残した言葉だしね。そうして上を向いたどろろは頭上に開いた小さな穴から逃げ出し、なんとか百鬼丸と合流します。

 

どろろは、醍醐兵の鉢巻きについている家紋と百鬼丸のお守りの家紋が同じこと、さらに百鬼丸が醍醐家に様子を見に行ったとき「坊や」と呼ばれたことを訊いて、ひらめきます。

 

どろろ「間違いねぇ、見つかったんだよ。アニキのおとうちゃんとおっかちゃんが! 兄弟もいるってことだ。すげぇ、よかったなアニキ!

 

百鬼丸「オレの──」

 

どろろ「そう、アニキの!」

 

百鬼丸「お、っか、ちゃん──」

 

にっこにこ顔のどろろと、「おっかちゃん」と口に出して呼んでみて、小さく微笑む百鬼丸です。でもかわいそうな助六のおっかちゃんは・・・。助六を助け出すため、どろろは百鬼丸を急かせます。

 

醍醐vs朝倉 合戦のはじまり!

 

「ばんもん」に巣くっていた狐火の集合体・九尾は、百鬼丸と戦ったとき片足を斬られて逃げていきました。もう「ばんもん」にバケモノがいなくなったと踏んだ朝倉勢は、この機に醍醐領に攻め入ろうと兵を上げます。

 

「ばんもん」を挟んでにらみ合う朝倉軍と醍醐軍。「ばんもん」には、朝倉軍に捕えられた醍醐兵と助六が打ち付けられています。醍醐軍が景光の到着を待って動かないのにしびれを切らした朝倉軍の武将は、先に仕掛けます。

 

朝倉軍の武将「もはやばんもん恐るるに足らず。我が朝倉の挨拶がわり。受け取れぃ!」

 

朝倉の武将の号令に従い、「ばんもん」に打ち付けられた捕虜たちに向け、一斉に矢が放たれます。絶命する捕虜たちの真ん中で、助六だけには矢が放たれませんでした。かろうじて助六は、合戦場の真ん中に一人生き残ります。

 

これを皮切りに両軍は開戦。戦が始まりました。

 

助六を助け出そうと朝倉の牢屋に向かう途中、「ばんもん」を通りかかったどろろと百鬼丸は、雄たけびを上げ刀を打ち合う大勢の気配に合戦が始まったことを察します。そこで「ばんもん」に打ち付けられている助六も見つけます。

 

両軍が激しくぶつかり合うなかに、狐火がまたわいてきて、朝倉の武将の首に食らいつきます。武将を失った朝倉軍は後退。狐火は醍醐軍には手を出しません。完全に醍醐を守っている形ですね! これじゃ朝倉勢が醍醐の国を「バケモノの国」と呼び嫌うのも仕方ないです。

 

狐火を倒そうと「ばんもん」に躍り出た百鬼丸の前に、景光が到着します。バケモノたちが朝倉を襲う様子に驚いた兵が景光にこうたずねます。

 

兵「殿、これは?」

 

景光「鬼の仕業よ

 

え? ちょ! ひどい! バケモノが出てきたのは百鬼丸のせいだとでも言わんばかりの・・・。「ばんもん」の鬼神は、完全に醍醐が飼いならしているようなモンでしょ

 

片腕の兵「やっぱりあいつだ! あいつがオレをこんな身体に!」

 

そう叫び出したのは、「守り小唄の巻」で、ミオや子どもたちに残虐の限りを尽くしていた、あの太ったおっさん兵です。(びびってお漏らししてるしw)。百鬼丸が鬼になりそうに思えて怖くなったどろろが百鬼丸を制止している間に、一人だけ逃げていったあの兵です! ミオを思いだした百鬼丸は目の色を変え獣の唸り声をあげ、我を忘れそうになります。そして「ダメだって、アニキは鬼じゃねぇ」と、またしてもどろろに止められます。

 



このごたごたの場に、多宝丸が兵庫と陸奥を伴い現れます。

 

多宝丸「兄上、わたしは多宝丸。あなたの弟です。兄上、あなたに父上がしたこと、わたしは正しいとは思いません。生まれてくる子を鬼神に食わせ、見返りに国の繁栄を願うなど

 

百鬼丸「生まれ・・・損ない」

 

どろろ「そんな。じゃ、アニキをこんな風にしたのは──」

 

多宝丸「そうだ。我が父・醍醐景光! しかし、そこまでしても守らなければならぬのが国!」

 

どろろ「そんな・・・そんなのひでぇよ!」

 

多宝丸「兄上、今、鬼神との約定を反故にすれば、国は滅びます。いえ、今や国を脅かす兄上こそ、この国にとっての鬼神!

 

景光「よくぞ言った、多宝丸」

 

多宝丸「よってわたしはあなたを、討つ! 手出し無用!」

 

一人、刀を抜いた多宝丸は、百鬼丸に襲い掛かります。実の兄弟が刀で打ち合っている様子を、景光は笑みを浮かべながら眺めています。──結局、多宝丸は人道より国を取ったのですね。景光のしたことが正しいとは思わないけれど、それでも国を守りたいと。彼にとって、幼い頃からつき従っている兵庫と陸奥が生きているのが、景光と鬼神の約定のおかげだという現実も、この判断に背中を押した理由の一つなんでしょう。

 

とても善良ないい子に描かれてきた多宝丸も結局、景光と同じ結論になったというわけです。ガッカリですよ。

 

激しく打ち合う百鬼丸と多宝丸。そこに、どろろの声が響きます。

 

どろろ「アニキーーー!」

 

どろろは、「ばんもん」に打ち付けられている助六の縄をほどこうとしていて、なかなかほどけずにいるところに、狐火が集まってきたので百鬼丸を呼んだのです。

 

百鬼丸は多宝丸の刀を折り、(その拍子に多宝丸の片目が傷つきました)今やどろろと助六に襲い掛かろうとする九尾を粉々に打ち砕きます。粉々になった九尾はばんもんに吸い込まれていきました。いや、ここの百鬼丸の身軽な動きと凄まじい太刀裁きの美しいこと! ほれぼれしちゃいます!

 

「おっかちゃん」パート2

 

そこに現れたのが供もつけずに馬を走らせてきた縫の方。百鬼丸の母親です。縫の方はあの首のない菩薩像を手に百鬼丸に語り掛けます。

 

縫の方「百鬼丸。あの日、なんとしてもそなたを守れなかった母を、そなたを鬼神に食らわせた父上を、そなたの犠牲の上でのうのうと暮らす我ら醍醐の民を」

 

どろろ「ひどい。アニキが、アニキがどんなに・・・ひどすぎるじゃねぇかよ!」

 

景光「奥! 多宝丸さえ分かった道理を、おまえはいつになったら飲み込めるのだ」

 

縫の方「百鬼丸、許してください。わたくしは、わたくしは──そなたを、救えませぬ! どれほど人の道にもとるとも、そなたの苦しみを知っていても、それでも我が国はそなたに許しを請うしかありませぬ。我が国は、修羅となってそなたを食らい続けるのみ。百鬼丸。そなたばかりを犠牲にはしませぬ。鬼神どもよ、これ以上、人の身が欲しければ、我が身を!」

 

縫の方は小刀を取り出すと自分の胸に突き立てて──。驚いた陸奥がすぐに止めに入ります。

 

百鬼丸「お、っか、ちゃん」

 

多宝丸「母上ーーー!」

 

そのとたん、「ばんもん」が怪しく光り、音を立てて崩れます。景光にとり「ばんもん」の崩壊は、ここで朝倉を足止めできなくなるということ。自害しようとする縫の方を眉ひとつ動かさず静観していた景光は、「ばんもん」の異変に驚き、全軍を撤退させます。

 

景光「醍醐にとってこれ以上ない災いを。百鬼丸!」

 

憎々し気に振り向く景光です。──いや、それ百鬼丸のせいじゃない・・・。頭に血が上って、そんなことも分からないのでしょうか、このトーヘンボクは・・・。

 

ばらばらに崩れ落ちた「ばんもん」の向こうから助六を呼ぶ声が聞こえてきて、数人の大人が走ってきます。

 

助六「おっかぁ! 生きてたのか、おっかぁ!」

 

助六の母「みんなで逃げて隠れてたんだよ。ばんもんの守りがゆるくなるのを待ってたのさ」

 

少し離れたところから見ていたどろろはつぶやきます。

 

どろろ「良かったな助六。アニキ、アニキにはおいらがついてるからな!

 

両親と死に別れたどろろと、家族に捨てられた百鬼丸。決定的に天涯孤独になってしまった二人は、連れ立ってまた旅立ちます。


[char no=”1″ char=”あいびー”]一つ言わせて! 九尾って鬼神だよね? たしかに百鬼丸がそう言ってたし。吸い込まれたばんもんが崩れ落ちたってことは、九尾は討伐されたってこと・・・よね? 百鬼丸の身体、どこか戻らないのー?[/char]

琵琶丸の目と菩薩像

 

ここまであらすじを追うなかで、琵琶丸の描写はすべて省いていますが、じつはちょくちょく登場しています。

 

琵琶丸は当初、荒れた国ばかりの戦乱の世にここだけ別天地なのが不思議に思えて醍醐の国にやってきました。そして、領主が撃ち果たした鬼神像が祀られているお堂があるというので、地獄堂を見物に出かけたのです。地獄堂に集う鬼神像を見ながら、琵琶丸はつぶやきます。

 

琵琶丸「領主が撃ち果たしたなんてとんでもない。なんとか封じられているのはこの1体だが、それもどうやら怪しいねぇ。こいつぁ、あたしなんかが生半可に関わっていいもんじゃない。しかし、あれだけの鬼神をどうして抱えていられるのやら」

 

琵琶丸の目に、封じられている鬼神はただ1体のみ。──これって、縫の方の観音菩薩の加護のため現世に実体化できなかった鬼神ですね。百鬼丸の身体を取りそこなった唯一の鬼神です。それ以外の鬼神の封印は解かれ、現世に実体化しているのを琵琶丸は見破ります。

 

11体の実体化した鬼神を醍醐の国が抱えていられる理由を考えながら歩く帰り道、ちょうど地獄堂に向かう多宝丸、兵庫、陸奥とすれ違います。そこで琵琶丸は、百鬼丸とそっくりな魂の炎をもつ多宝丸を見て驚きます。

 

「なにやら因果の歯車が一巡りしそうな雲行きだねぇ。見届けるのもまた、因果」

 

因果に引かれて「ばんもん」の合戦場にやってきた琵琶丸は、そこで繰り広げられた醍醐家の家人と百鬼丸のやりとりをすべて聞いてしまいます。そして、醍醐の国が11体もの実体化した鬼神を抱えていられる理由が、領主の景光が息子の百鬼丸の身体と引き換えに契約したからだと知ります

 

武将を失った朝倉軍が去り、やがて「ばんもん」が崩れ落ちて醍醐軍が去り、助六が迎えに来た村人と去り、最後にどろろと百鬼丸がまた旅立った後に残された菩薩像を、琵琶丸は拾い上げます。菩薩像は、今や真っ二つに割れています。

 

琵琶丸の目に菩薩像は、緑色の輝きを放っています。それは、舟に乗せられ川に流された赤子の百鬼丸に宿っていたのと同じ輝きでした。やがて菩薩像の輝きは薄れ、消えてなくなってしまいます

 

菩薩像に宿っていた輝き、百鬼丸を守護する輝きは、母親である縫の方の祈りだったのでしょう。縫の方はもう菩薩像に祈りません。赤子の頃から百鬼丸を守護してきた力が失われた瞬間でした。菩薩の力が弱まれば、最後の12体目の鬼神が力を取り戻します。最後の鬼神は実体化し、今後、百鬼丸から何かを奪うか、もしくは奪おうとするのかもしれないですね・・・。

 

百鬼丸の旅は続く

 

こうして百鬼丸は、自分がなぜ身体のあちこちを欠いているのか、その理由を知りました。冷酷な父親、迷いを経て父親の行動を支持した弟、自分たちのしたことを詫びるしかできない母親。生まれ故郷に百鬼丸の味方はだれもいませんでした。

 

たとえば犠牲にして申し訳ないと思うなら、捨てるのではなく殺すのではなく、逆に手厚くもてなし共存をお願いする方法だってあったはずです。それなら百鬼丸はこの先、まだ不自由なところのある身体とはいえ、家族とともに幸せに暮らすことだってできたかもしれない。血のつながった者同士、きっとお互いを思いやる気持ちはより強くなる。

 

でもこの家族は、結局みんな百鬼丸を捨てました。これでは百鬼丸に自分が犠牲になるのは不当だという気持ちしか芽生えませんよね。たとえば「さるの巻」のさるのねぇちゃんが、村人のために黙って犠牲になろうとしたように、百鬼丸が犠牲を受け入れることなんて気持ち的にできない!

 

強く優しかったどろろのおっかちゃんの話しを知っている百鬼丸は、自分のおっかちゃんが見つかったと知ったとき、微笑んでいました。なのに、やっと出会えた百鬼丸の母親は、「そなたを救えませぬ!」と断言しました。百鬼丸の母親は、景光のしたことをなじりながら、それでも百鬼丸の犠牲の上に成り立っている豊かさを享受してきた、善良だけれど弱い人です。どろろのおっかちゃんとは、かなり違っていますね──。ついでに言うと、じっと助六に会える日を信じて身を隠し、ちゃんと迎えに来た辛抱強い助六のおっかぁとも違います。

 

かわいそうな百鬼丸。最初は「おっかちゃん」と言って微笑んでいたのに──。

 

もう、百鬼丸にこの地に留まる理由はありません。どろろと一緒に旅立つだけです。「ばんもんの巻」は、百鬼丸にとり悲しく辛い経験になりました。でも、自分の因果を正しく知ることができて良かったです

 

景光の行いは正しいか否か?



「どろろ」を観ているだれもが、どうしてもこの問いに突き当たってしまうのですが。生まれたばかりの自分の赤子を犠牲に、国の繁栄と天下取りを願った景光の行動は果たして正しいのかどうか。

 

もちろん、人としてはNO GOOD です。自分の望みをかなえるために誰かを犠牲にするなんて、倫理的にやっちゃいけないことです。ところがこれが、為政者の立場からすると正しかったりするから厄介です。

 

かつて醍醐の国は、飢饉に流行り病でもはや滅びるのを待つばかりに荒れ果てていました。いくら仏にすがっても一向に良くなる兆しがないので、とうとう景光は地獄堂に赴き、鬼神と取引をしたのです。その結果、多くの領民が命拾いをしました。たった一人の犠牲のもとに、たくさんの人が救われたのです。

 

犠牲になったのが生まれたばかりの赤子だから。目も鼻も口も手も足も皮膚すら奪われ、イモムシのような哀れな姿になって川に捨てられるというひどい仕打ちをしたから、感情的に許せない気持ちになるけれど。これって現代でもいくらでもある話し。

 

たとえば我が家は結構大きな山持ちで、かつて家計の多くを林業に頼っていたのだけど。この国は自国の林業を潰しにかかった。洋材を輸入して家を造るようになり、切りだしにお金のかかる日本の木が使われなくなった。その結果、林業で生計を立てていた山の集落に人はいなくなり、山は荒れて災害を招き、切られることのない杉はばんばん花粉を飛ばす。山持ちは、売れもしない木を管理するのも、固定資産税を払い続けるのもバカらしくなり、相続放棄することになる。すると、今度は国が税金を使って山を管理しなきゃいけなくなる(ザマァミロ)。日本の優れた大工もいなくなる。

 

海外から肉を輸入しまくって畜産が傾いているし、農産物を輸入しまくって農家が風前の灯。形は違うけれど、林業も畜産業も農業も、いわば百鬼丸と同じ。外交という名の国策の犠牲。

 

景光も国も、より多くの人が幸せになる方策を取ったと。それだけのこと。結果的に国に大きな利益がもたらされたのなら、為政者としては正しい判断だったのでしょう。

 

でも切り捨てられる側にとってはたまったもんじゃない。景光はもっと百鬼丸に優しいやり方を考えることができたし(たとえば醍醐を救った神さまとして大事に育てることもできたはず!)、国も林業に配慮した政策をすることができたはず。でも理由はどうあれ、そうしてくれなかったわけよ。なら、過去の事実は変えられないし、この先自分が生きていくためにどうするか考えて歩き続けるしかないじゃん!

 

景光が正しいとか正しくないとかは、もうこの際どうでもよくて。自分の置かれた状況で、どうあがいてより良い未来を切り開いていくか、そっちのが大事。だから、わたしは百鬼丸をすごく応援しちゃう! 誰がなんといっても自分の身体を取り戻せ! 醍醐の国には多くの国民がいるのだから。知恵をしぼって国難を乗り越えていただきましょう。今ある豊かさには時間の限りがあると分かった上でどう対処していくか、それこそ景光や多宝丸の腕の見せ所ですよ。縫の方は、尼寺にでも行ってください!

 

次回から第2クール!



今回で第1クールが終了。次回から第2クールに入ります。百鬼丸は、これまで通り、自分の身体を取り戻す旅を続けます。でも、いつかまた醍醐の国にもどってきて景光と対峙し、なにがしかの答えを出すときがくる。百鬼丸だって、自分が鬼神を倒すことで国が亡びるのは望んでいないはずだしね。

 

百鬼丸はこれからも多くの経験を重ね、悩み、成長していきます。それと同時に、多宝丸だって成長してほしい。今は景光の考えに同調してしまっているけれど、時間をかけて、鬼神に頼らず国を立て直す方法を考えてほしい。多宝丸にはその知恵があると信じたい!

 

そしていつかまた兄弟が巡り合ったとき、たぶん菩薩の封印する力がなくなり実体化してしまうだろう12体目のラスボス鬼神を倒した後、百鬼丸と多宝丸の考えが化学反応して、素晴らしい結末が導き出されることを願って!

 

第2クールを楽しみにしましょう^^

 

[char no=”1″ char=”あいびー”]ところで思うんだけど。これほど鬼神に好かれる百鬼丸って、身体のあちこち不自由なのにこれほど腕の立つ百鬼丸って、もしかしてすごーく特別な存在なのかな? だって、普通に考えて国の繁栄や天下取りの代償がただの赤子一人って、つり合い取れてないよね・・・。[/char]

・・・・。

 

なんか、最後の方書いてて思った。もしかして新「どろろ」の大きなテーマって、「父親を乗り越える」ってことじゃなかろうか? 二人の息子は景光がとった過去の行動に疑問をもち、他の道を模索する。百鬼丸は百鬼丸なりの考えと行動で過去を乗り越え、多宝丸は多宝丸なりの考えと行動で過去を乗り越えていく。やがて二人が協力することで、闇を払い、新しい時代を切り開いていくような。そんなテーマが物語の底に流れているのかも知れないなぁ、と。

 

どん底の辛いところから始まったこの物語、意外とハッピーエンドするんじゃないかと。なんとなく、そう思いました。まぁ、まだぜんぜんどうなるか分かんないけどね^^

 

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