狂人たちの楽しげな戦いに、ついにトルフィンが疑問を抱く!シーズン1、第9話ロンドン橋の死闘」のあらすじ感想考察を紹介します。2019年7月~放送の「ヴィンランド・サガ」は、1000年前の北欧を舞台にヴァイキングの生き様を描いた骨太な物語



第9話/「おまえら手ぇ出すな! あぁいう愉快な大バカ者は、オレが独り占めだぁ!」戦闘狂トルケル無双! トルフィンほぼボロ雑巾・・・。

▲通称「のっぽのトルケル」生粋の戦闘狂 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

#9

ロンドン橋の死闘

Desperate struggle of London Bridge

 

西暦1013年10月 イングランド ロンドン

 

デンマーク・スヴェン王側の傭兵として、アシェラッド団の軍船はテムズ川をさかのぼりロンドン橋の手前まで来ている。テムズ川を横切るロンドン橋は、兵が身を隠せるよう板塀を巡らし、3か所に見張り台が立っている。橋の上には、敵勢力がぎっしり弓を構えて並び立つ。

 

アシェラッド橋っつかなんつか。要塞だなありゃ。さすがはロンドン、長年の襲撃に耐えてきた街だ。年季を感じるぜ」

 

ビョルン「悠長なこと言ってる場合じゃねぇぞアシェラッド。この街は手こずるぜ。あんたが楽勝って言うから参加したのによ」

 

ロンドン橋が見えるところテムズ川の中に駐留しているアシェラッドの船の上。へさき側でアシェラッドとビョルンは話している。

 

アシェラッド「悪い、悪い。まさかあのトルケルが敵につくとは思ってなかったもんでな」

 

ビョルンのっぽのトルケルか。金でロンドンに寝返りやがって。裏切りもんが!」

 

アシェラッド「へっ。金目当てはオレらも同じだろう。スヴェン王に勝ち目ありと踏んだからデンマーク軍についたんだ。他の部族もみんな同じさ。手柄を立てて、戦利品の配当を少しでも多くもらおうと必死だ。ま、こんだけ集まっちゃ、タカが知れてるがな」

 

軍船の数も、岸にテントを張っている兵の人数も相当のものだ。ここテムズ川をおさえればウェセックスへの補給船が通せるようになる、つまりここは戦の要衝。首脳陣注目の戦場だ。ここで目立った功績を上げれば配当の分が良くなる──アシェラッドには何か策がありそうだ。

 

アシェラッド「策ってほどのもんでもないが──トルフィン、働いてもらうぜ。トルケルの首取って来い

 

トルフィン「ほうびを約束しろ」

 

アシェラッド「OK、OK。いつものヤツだろ? 懲りないねぇ、おまえも。勝てねぇ勝負にムキになる。そういうところ、親父似なのかねぇ

 

その瞬間、アシェラッドが持つ酒瓶をトルフィンの短剣が壊した。マストの上で短剣の手入れをしていたトルフィンが投げつけたのだ。

 

トルフィン忘れるなよアシェラッド。戦士として、てめぇを決闘で破ることだけがオレの望みだ。次の勝負がてめぇの最期だ。心臓をえぐりぬいて、父上の霊に捧げてやる

 

アシェラッド「ならば働け! 戦場では働いたヤツだけが欲しいものを手にできる。それが戦士の流儀だ。オレの首は安くないぜぇ。決闘なんざいくらでも受けてやろうじゃねぇの。トルケルのタマぁ取ってこい!

今回のテーマは「トルケル無双」でいいですか?w サブテーマは「トルケルとトルフィンの初手合わせ」ってとこでしょうか。意外に重要なサードテーマが「戦への嫌悪感」です。

▲いつも元気なトルケルおじさん 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

冬は進軍をやめ、鋭気を養う時期にあてたスヴェン王率いるデンマーク軍は、翌2013年、イングランドに猛攻を開始しました。正規軍としてともに戦うのはフローキ率いるヨーム戦士団です。さらに各地から集結したヴァイキングたちもデンマーク側に加わっています。もちろんアシェラッド団もこちらについています。

 

対するイングランド側についているのが、元ヨーム戦士団の大隊長トルケルです。全体的に背の高い北欧人種の中でも際立って身長が高く、「のっぽのトルケル」とあだ名されています。アシェラッドとビョルンの会話からすると、二人ともトルケルのことをよく知っているようですね。

 

トルケルが元ヨーム戦士団大隊長だったということも、戦局を変えるほどの力があることも。だから「裏切り者」と言っているのです。

 

音に聞こえた武将トルケルのタマ取って来いなんて、アシェラッドは言いますが──。なかなか無茶な要望ですよね。そこは、いつものアシェラッドらしいずるーい策略あってのこと

 

▲今回の舞台はイングランド ロンドン橋周辺 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

一隻の船がロンドン橋に近づいていく。乗っているのはフローキ率いるヨーム戦士団だ。橋の上から弓矢や石が飛んでくる。

 

フローキ「打つな、軍使だ。トルケルどのと話がしたい」

 

トルケル「全員、打ちかたやめろー!」

 

殺気だっていたイングランド兵たちは、トルケルの一言で一斉に攻撃をやめた。

 

トルケル「いようフローキか、久しぶりだな! 元気そうでなによりだ」

 

フローキ「あいさつはけっこう。総大将スヴェン王陛下のお言葉を伝えに参りました。陛下のお言葉によりますと、イングランド王はフランクの地へ逃げ去った。これ以上の抵抗は無意味である。降伏せよ。さればトール神の名において、貴君とその部下の命、および財産は保障するとのこと。軍団へお帰りくださいトルケルどの。陛下もそれを望んでおられます

 

トルケル「スヴェンの王さま来てんの? がんばるなー、もういい年だろうに!」

 

フローキ「トルケルどの! この期に及んでなぜともがらに対し弓を引くのです。我らは長き年月、船首を並べて共に戦った仲ではありませんか。世の流れを見誤ってはなりません。兄君のシグバルディさまもご心配なされております」

 

橋を覆う板塀にひじをつき頬杖ついて船を見おろしながら、フローキのセリフを聞いていたトルケルは身を起こし、腕を組んだ。ここまではイングランド語で、ここからはノルド語でトルケルは話す。周りのイングランド兵には何を言っているのか分からない。

 

トルケル「流れかぁ、そうねぇ。オレも去年までイングランド人と戦ってたから分かるよ。ほーんとこいつら弱くってさぁ、大都市のもやしっ子っていうのか、覇気が足りないっていうのかよ。おまえらデンマーク軍とまともにやりあえる将軍なんざぁ、エドモンド王子ぐらいだったよ。この国はもうダメだね」

 

「おぉ、では!」と、すっかり要望を飲んでくれるに違いないと確信したフローキは顔をほころばせる。

 

トルケル「うん。てことはつまり──おまえらと戦った方が面白いってことさぁ! さぁ話は終わりだ。続きやろうぜ、続き!」

 

「ま、まてトルケルどの。今ならばイングランドの倍の厚遇を約束しますぞ」というフローキの言葉をまったくムシして、トルケルは巨大な岩を頭の上にかつぎあげ、ニタリと笑った。

 

トルケルいっくぞー、フローキー!

 

この大岩を船にくらってはたまらない。フローキは慌てて全速力で船を回避させるよう部下に指示した。橋の上からトルケルは、遠ざかりつつあるフローキに呼びかけた。

 

トルケル「おぉいフローキよぉ。スヴェン王に訊いてみてくれ。勝ち戦ばっかしてて退屈じゃねぇのかってなぁ!」

 

交渉は決裂した。

 

感想&考察1、次回あたりロンドン橋落ちる?

▲現在のロンドン橋 出展/wiki

 

デンマークのスヴェン王率いるヨーム戦士団&ヴァイキング連合軍 vs イングランド軍の戦いがロンドン橋を舞台に勃発しました。フローキの言葉によると、どうやらイングランド王はもうフランスに逃亡してしまっていて、イングランド軍には大将なしの状態です。

 

つまり元ヨーム戦士団の大隊長トルケルは、もう負けが確定しているようなイングランド軍に加担しているのです。その理由が「おまえらと戦った方が面白いってことさぁ!」という、イカレタ──もとい、イカシタおじさんです。

 

今回のこのロンドン橋を舞台にした戦いは、じつは史実に基づいています。

 

現在のロンドン橋は、石造りのなんの変哲もない橋です。ロンドンの名所として有名なタワーブリッジをロンドン橋と勘違いしている方が多いのですが、タワーブリッジとはまったく別の橋です。この橋、1209年に石造りの橋になる前は木造の橋でした。今回の舞台は1013年なので、まだ木造なのですね。石造りの橋になる前のロンドン橋は、造っては流されてというくり返しだったそうです。

 

アシェラッドが言っているように、当時この橋はただ岸から岸へと人が渡るためにあるのではなく、川を遡上してくる軍船を食い止める要塞の役目をしていました。そのため人為的に流されたこともあったそうです。史実にのっとったストーリー展開がされるとすると、次回あたり、もしかしたらロンドン橋が落ちるかも知れませんね!

 

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▲スイスのルツェルンにあるヨーロッパでもっとも古い木造橋「カペル橋」 出展/wiki

 

当時の橋の雰囲気をよく伝える木造の橋がスイスのルツェルンに残っています。写真の「カペル橋」は、ヨーロッパ最古の木造の橋としてスイスの観光名所となっています。カペル橋は敵の攻撃からルツェルンを守ることを主眼に1333年に建造された屋根つきの橋です。

 

わたしはこの橋を訪れたことがあるのですが、妙な造りだと思ったんですよね。まず川に対して斜めにかけられていて、さらに手前が曲がっているんです。しかも、14世紀なんて昔に造られたのに屋根がある。川の真ん中に塔があるのも妙です。

 

橋は船の遡上を阻み、屋根で敵からの矢を防いだのでしょう。そして、板塀と屋根の隙間から弓を射たのでしょう。今はスイスらしく花を飾ってきれいな景観にしていますが、かつて壮絶な戦いが繰り広げられた場所だったと思えば見え方が変わってきます。川の中に建つ八角形の塔は、かつて監獄や拷問部屋として使われていたそうです。

 

「トルフィン。トールズの子、トルフィンだ」

 

トルケルがヨーム戦士団に戻る意思のないことをきいたスヴェン王は、フローキに命ずる。「今一度攻めよ!」。デンマーク勢の総攻撃が始まった。

 

ヴァイキングの船団は、こぞってロンドン橋を目指す。雨と降り注ぐ矢をかいくぐり、ついに1隻の船が橋脚までたどり着いた。一人の男が橋脚に斧を入れる。橋の上から石を投げ落とすイングランド兵をかき分けて、トルケルが丸太をかついでやってきた。

 

「いっくぞー!」と投げ入れたのは、先を尖らせた丸太だ。まるで砦の門を破壊するのに使うような、長さ5~6mはありそうな丸太を、船めがけて投げ落とす。丸太は船を突き破り破壊し沈没させた。

 

トルケル「見たか、必殺! えーと、丸太落とし!」

 

次から次へと丸太を落とされ、ヴァイキングたちの戦船は壊滅状態だ。

 

トルケル「どうしたースヴェン軍。ちったぁ工夫しろぉ。おまえらもっとやればできる子だろうが! そんなこっちゃなぁ、100年かかってもこのロンドン橋は! ──ん?」

 

マストにトルフィンを載せた船が近づいてくる。

 

アシェラッド「トルフィン聞こえるか、正面の丸太を持ったバカでかいヤツ。あれがトルケルだ」

 

橋から石が飛んでくるぎりぎりを船が旋回したところでトルフィンは矢よけの盾を捨て、マストを走って橋に向かい跳んだ。

 

トルケルおまえら手ぇ出すな! あぁいう愉快な大バカ者は、オレが独り占めだぁ!

 

船から跳び移ってきたトルフィンに向かい、トルケルは手にした丸太をスイングする。トルフィンは丸太に手をつき、くるりと回って着地した。トルケルの丸太攻撃は容赦ない。ぐるぐる回してなぎ倒し、叩きつける。橋の板塀が砕け散る。

 

 

攻撃を身軽にかわし切って両方の短剣を前に構えたトルフィン。トルケルは「うーん、やるじゃん。若いの!」と、心底嬉しそうだ。周りにはイングランド兵が山といる。イングランド兵は武器を手にじりじりとトルフィンに迫る。それをトルケルが制止した。

 

トルケル手出しすんなよおまえら。特効野郎の心意気にこたえてやろうじゃねぇか。サシの勝負だ! さぁ、ドンと来いおチビちゃん

 

トルケルは丸太を捨て、両手を広げて「さぁおいで」といざなう。

 

トルフィン(サシで素手、なめやがって!)

 

正面から突撃したトルフィンをトルケルの拳が襲う。かろうじて拳を避け、繰り出した剣でトルケルの手首を浅く切って素早く引いた。

 

トルケル「おぉ、手首を狙ったのか。やるな、おチビちゃん!」

 

余裕しゃくしゃくのトルケルを見ながらトルフィンは思う。

 

トルフィンいい気になるわけだ。あの身体であの拳。一発もらえばしぬな

 

トルケル気に入った。おじさん張り切っちゃうぞ!

 

言うやトルケルは大きく跳躍してとびかかってくる。右から左から襲い掛かる拳をよけるトルフィン。トルケルの拳が板塀に当たれば、さっきの丸太よろしく板塀は粉々だ。身を低くして拳をよけたトルフィンは一瞬の隙をついてトルケルの首に向かって腕を伸ばす──しかし短剣は首を捕えることができなかった。

 

トルフィン「届かねぇ」(狙える急所の位置が高ぇ。脇の下、首──よし)

 

続いて低く突進してくるトルフィンに向かい、トルケルは脚で蹴る。脚の下を抜いたトルフィンは背後に回り、膝の後ろを思い切り蹴った。トルケルを転がそうというのだ。一瞬床に手をついたトルケルはトルフィンの短剣を自分の右手で受けた。短剣はトルケルの手のひらを貫通している。真っ赤な血が流れ出る。

 

トルケル痛ぇ~! でも捕まえた!

 

トルケルは短剣ごとトルフィンの手をつかみ、大きく振り上げ床に叩きつけた。

 

トルケル「まだまだー! よいしょぉ!」

 

いいように右に左に身体を叩きつけられているトルフィンの様子を船から眺めていたアシェラッドは、「だめだこりゃ。こてんぱんだなトルフィンのヤツ。やっぱりムリだったか」とつぶやいた。

 

そこに退却を知らせる太鼓が鳴り響き、無常にもトルフィンを見捨てて全軍、退却していった。もちろんアシェラッドの船も。こういうところは、相変わらず薄情だ。

 

トルケル「あぁ? しまった。チビと遊んでるうちに戦が終わってるじゃねぇか。──おまえ、見捨てられちゃったみてぇだな可哀想に。頑張ったのになぁ・・・あれ、死んだかな?」

 

すっかり動かなくなったトルフィンを片手で持ち上げ覗きこんだトルケルの指を、もう片方の短剣を振るって2本落とし、トルフィンはトルケルの手から逃れて床に座り込んだ。つかまれ、さんざん振り回されていた左腕はおかしな方向にねじれている。右手に父の短剣を握り前にかざし、肩で息をつきながらトルフィンは目をむく。

 

トルケルおぉ、おぉ、まだ闘志を失わないか、小兵のくせに大したヤツだ

 

片方の短剣を手の平に突き刺し、さらに薬指と小指の先を切り落とされた右手から真っ赤な血が流れだす。トルケルは短剣を引き抜きながら問うた。

 

トルケル「戦士よ、そなたの名を訊こう」

 

トルフィントルフィン。トールズの子トルフィンだ

 

トルケルん? トールズ? あぁおい、そのトールズって──

 

盟友トールズの名が飛び出してきて驚いている間にトルフィンは、板の壊れ目から川に落ちそのまま泳ぎ去った。

 

トルケル「あぁぁ、行っちまった──おぉい、戦士トルフィンよぉい、楽しかったなぁ。またやろうなぁ! 今度はケリつけようなぁ! 約束だぞー!」

 

振った右手から血が噴き出した。

 

感想&考察2、みんな大好きトルケルおじさん!

 

うひゃぁ! なんですかこのトルケルって男は! でかくて怪力。根っからの戦好き。巨大な丸太を垂直に投げ込んで船を壊すなんて! さすが船の弱点よく知っていますね。戦っている間じゅうニッコニコの上機嫌なのが何とも微笑ましい。

 

(ちなみに、船に丸太がささって壊されている様子をパパッとフラッシュで見せた場面の絵、突き刺さった丸太の尖った方が上になっていたのは凡ミスでしたねぇ・・・)

 

そこにトルフィン乱入です! さすが、ここが見せ場と分かってますね。この戦闘シーンはかなり気合入ってますよ! 動きが豪快かつ小気味いい! トルケルが丸太をつかむとき、ポンッと小さく丸太が跳ねるところなんて、小技も効いています。

 

単身乗り込んできた特攻野郎と戦えるのが嬉しくて仕方ないのっぽのトルケルと、暗く殺気だっているチビのトルフィン。対照的なのは見た目だけじゃない。戦い方もすごく対照的です。大柄で力自慢のトルケルは丸太や拳を使い、正面からぐいぐい押していく戦法。一方トルフィンは、小回りのきく身体を生かしてヒットアンドアウェイ。フットワーク軽く急所を攻める戦法。

 

でも、捕まってしまってはもうどうしようもなかったですね。トルケルは短剣を手のひらで受け、短剣ごとトルフィンの手をつかんで右に左にビタンビタンと床に壁にと身体を打ち付けます。トルフィン相当痛そうですね、これ。でも最後にはトルケルの指を2本切り落として、その手から逃れました。

 

しかし自分の指が落ちたのを見てトルケル、すごい驚いた顔をするんです。驚き、心底感心したとでもいいたげな表情。おかしいよこの人! そこ、怒るとこでしょ! いやその前に痛がるとこでしょ!

 

そして、トルフィンに名前を尋ねます。

 

トルフィン「トルフィン。トールズの子トルフィンだ」

 

トルケル「ん? トールズ? あぁおい、そのトールズって──

 

トルケルの言葉を待たずにトルフィンは戦線離脱。泳いで逃げていきました。

 

この出会い方は最高でしたね。お互いころす気まんまんの白熱バトルからの名乗り。そこで飛び出た盟友の名。トルケルがトールズと別れてすでに25年が経過しています。それでも決して忘れることのできない名前です。

 

トルケルは、きっと思うのでしょう。あの小柄な身体、身軽な動き。高い戦闘力。考えれば考えるほど、あのトールズにそっくりじゃないか! と。もしや、トルフィンはあのトールズの息子なのか? と。これは確かめずにはいられないはず! この後、トルケルがどんな行動に出るのか、楽しみですね!

 

トルケルは、みんな大好きなキャラクターのようです。わたしも大ファンになりました! でも年齢からいうと、このとき既に50歳なんですよね。トルケルおじさん若い!

 

もう一つ小ネタを。トルケルがフローキを呼び捨てするのに対して、フローキがトルケルに敬語を使うには理由があります。ヨーム戦士団に所属していたとき、トルケルは大隊長でフローキは小隊長だったのです。しかもトルケルはヨーム戦士団首領シグバルディの弟です。フローキにとっては、めんどくさい格上の男なわけです。

 

フローキにはもう一人めんどくさい格上の男がいました。それがトールズです。トールズもトルケルと同じ大隊長でした。そして首領シグバルディの娘婿です。だからフローキはトールズに対しても敬語だったんですね! 対してトールズはフローキを呼び捨てしていました。覚えていますか?

 

感想&考察3、アシェラッドのずるい策略とは!?

トルケル一人に振り回され、ロンドン橋を攻略できないでいるスヴェン軍。ここでいいところを見せようと、アシェラッドは懐刀(ふところがたな)のトルフィンを投入です。トルフィン一人なら、身軽に敵陣に乗り込むことができると踏んだわけです。

 

でも、さすがにまともにやり合って、トルフィン一人でトルケルを倒せるとは思っていなかったでしょうね。そこがアシェラッドのずるいところ。ちょっとした化学反応を期待したのでしょう。

 

トルフィンがトールズの息子と知れば、必ずトルケルに隙ができる。アシェラッドと決闘することしか頭にないトルフィンがその隙を見逃すはずがない。トルケルにトルフィンをぶつけることで起きる化学反応で、もしかしたらトルフィンが本当にタマ取っちゃうこともあるかも~?──といったところだったろうと思います。

 

アシェラッドたちはトルケルの素性をよく知っているようだし、トールズのことも知っています。だからこそ思いついた策なんでしょう。あまり確実ではないから「策ってほどでもないが」と、曖昧な言い方をしていたんでしょう。

 

アシェラッドの策略は半分あたって、半分外れましたね。

 

化学反応は確かに起きた。勢い余ってころしかけてたトルフィンから「トールズ」の名が飛び出して、トルケルに一瞬の隙が確かにできました。でも、もうこれ以上戦えそうになかったトルフィンはその隙で川に落ち逃げることしかできませんでした。

 

スヴェン王の命令

▲スヴェン王と後ろをうかがうフローキ 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

その日の夕刻。退却したアシェラッドたちは、ともに戦っているヴァイキングたちのキャンプに来ている。血を流し呻く負傷兵たちであたりは騒然としている。誰ともなく声をかける男が、剣を肩にあたりを歩き回っている。

 

トドメ欲しいヤツぁいるかー? トドメ刺すぞー

 

アシェラッド「ダメだなこいつは。腸(はらわた)をやられてる。もう助からん」

 

アシェラッドとビョルンが包帯を巻いた男を覗きこんで話している。彼らにとっては日常風景だ。

 

デンマークのスヴェン王は負傷兵たちの間を歩きながら、フローキにロンドン攻略から本隊を退かせる旨を告げていた。ロンドン攻略に時間がかかりすぎることを懸念して、他を先に掌握しようとの判断だった。1013年も既に秋を迎え、そう悠長に構えてもいられない様子だ。

 

スヴェン王ロンドン包囲は、兵4000を残して続けさせよ。──4000の指揮は、そうさのう、クヌートに任せよう。あれの男ぶりを上げる良い機会だ」

 

ラグナル「はっ、話が違うではありませぬか。殿下のご同行は、民に示しをつけるためと。そうおおせられたはず」

 

フローキ「ラグナル殿、お控えなさい。陛下のご意思ですぞ」

 

ラグナルトルケルには、全軍ですらかなわぬのです。その5分の1の兵力で当たるなど、ご無理です!

 

クヌートはスヴェン王の次男。ラグナルはクヌートの側近だ。戦争経験の浅いクヌートの身をラグナルは案じているのだが、父王のスヴェンはクヌートに不満をもっている様子。どうやらキリストの教えを取り入れて育てられたクヌートには勇猛さが足りないというのだ。その責任の一旦は、近従のラグナルにもあるとスヴェン王に叱責され、ラグナルは言葉もない。

 

スヴェン王「クヌートには包囲軍の将を任ずる。貴公が付き添い副将として補佐せよ」

 

背中越しにそう言いおいて、スヴェン王はフローキとヨーム戦士団員を引き連れ、振り向きもせず歩み去った。

 

夕暮れの中、ぞくぞくと引き上げていくヴァイキング船を見て、ロンドン橋のイングランド軍は「勝った、勝った」と大喜びだ。しかしトルケルだけはひどくがっかりしている。

 

トルケル「おいおい、もっとやろうよ。ねぇ、ちょっと! おーい!──ぐぬぅ──バカやろうー。ロンドンは諦めるってのかー! 戻って来い腰抜けー! オレと戦えーーーーー!

 

切り落とされた指の手当てもせず、拳をつき上げ叫ぶトルケル・・・。

 

「イカレ野郎どもが! 戦のなにが、そんなに面白ぇんだ!」

▲ぼろぼろになりながら進軍に参加するトルフィン 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

あちこちに死体の浮かぶ川から岸に上がったトルフィンは、身体で息をしながらのろのろと木に背中をあずけ激痛に顔をゆがめた。

 

トルフィン(肩が外れてる。右足首はねんざか。あとあばらが何本か・・・)「くそっ、あのいかれ野郎が!」

 

街道に出たトルフィンは、こぞってどこかに進軍しているヴァイキング兵たちの列に出会った。そこには馬に乗るアシェラッドの姿もあった。

 

アシェラッド「あーあ、面倒くせぇな。たく。トルケルの野郎め──あ、おいなんだおまえ、生きてたのかよ。あーあーひでぇサマだな。ま、今回は相手が悪かったなトルフィン。ところでオレらウェセックスへ進軍するけど、どうする? 歩くのが辛いならここへ置いてくけど」

 

トルフィンは地面に左手をついて固定し、右手で肩を押して外れた左肩を自力で入れた。それから肩に手を当て、右足をかばいながらヒョコヒョコと兵の列に並ぶ。進軍する兵たちからは「だれでもかかってこい、ぶっころしてやんぞ」と、物騒な声が聞こえてくる。トルフィンの様子を気にする者など一人もいない。

 

トルフィンは、終始嬉しそうに戦っていたトルケルを思いだしていた。トルフィンの身体を塗れ雑巾のように床を引きずり叩きつけたかと思えば、指を落とされてもまるで気にせず「楽しかったなぁ、またやろうなー」と手を振ったトルケルの姿を。

 

傷みと悔しさと、嫌悪感に顔をゆがめ、食いしばった歯の間からトルフィンは呻くように絞り出す。

 

トルフィンイカレ野郎どもが。戦のなにが、そんなに面白ぇんだ!

感想&考察4、剣の腕はいっちょ前以上。でもそれ以外は・・・。

▲暇なときにやることと言ったら剣の手入れだけ! 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

わたしもそれなり長いこと人間やってきて、上手く生きていくためには人間て結構いろんなスキルが必要だと思うんですよ。でも今のトルフィンは、仕事はできるけれど、それ以外がまるでダメ人間です。コミニュケーション能力ほぼゼロだし、共感することも相手の立場に立って考えることもできない。大局をつかむこともできなければ、将来の展望もない。

 

トルフィン忘れるなよアシェラッド。戦士として、てめぇを決闘で破ることだけがオレの望みだ。次の勝負がてめぇの最期だ。心臓をえぐりぬいて、父上の霊に捧げてやる

 

殺気だってこんなこと言ってますが、ここに何の疑問も持ってないところがダメ人間の証明です。トルフィンは決闘に勝ちアシェラッドをころす気でいますが、これまでさんざんアシェラッドに負けてきた自分がケガ一つ負っていないことを何とも思わないんでしょうか?

 

本来なら、決闘に勝ったアシェラッドはトルフィンをどうしようが好きにできるはずですよね。もちろん決闘をエサにきつい戦働きをさせているところはありますが、6歳からずっと食べ物と寝るところを提供してもらっている現状を、アシェラッドに「守られている」と思えないところは致命傷

 

トルフィンの中に詰まっているのは「アシェラッドへの報復」がほとんどです。これでもし望み通りアシェラッドに決闘で勝利したら、その心臓を父上の霊に捧げたら──それからどうするんでしょうね? いきなり生きる目的をなくしたら、残りどうやって生きていくつもりなんでしょう? あまりに色んなものが欠けすぎていて、トルフィンの将来が心配です。

 

感想&考察5、トルフィンに戦への疑問が芽生える

▲負傷兵のうめき声だらけのキャンプ地 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

血だらけの負傷兵が転がるキャンプ地を、「トドメ欲しいヤツはいるかー?」と呼びかけながら歩き回る男──リアルですね。川には弔われることなく浮かぶ死体が、カラスに狙われている。やっとの思いで生還したトルフィンを気にかける者など誰一人いない。

 

この生臭くて残酷な戦を、兵士たちはなんの疑問ももたずに受け入れている。トルケルに至っては、戦うのが楽しくて楽しくてたまらないというのが全身から溢れている始末だ。

 

アイスランドの村にいた頃、毎日のようにやっていた戦ごっこ。木の剣ではつまらないと、本物の短剣に見惚れた6歳のトルフィン。かつて冒険に憧れ、戦士に憧れたトルフィンの胸に、ようやく芽生えた戦への嫌悪感です。これを引き出すために描かれたのが、今回の凄惨な戦争描写だったのでしょう。これを経験して初めて、トルフィンは戦への疑問を感じはじめました。

 

自分の力で気づくしかないのかもなぁ」と、トールズの幻影が言っていた通りでした。アイスランドの村を出て11年目、17歳にして、ようやくトルフィンは大切なことに気づきかけています。これをきっかけに「アシェラッドへの復讐」以外のものに目を向けるようになってくれればいいなと、心から思います。

 

おまけ/「あにまるらんど・さが」「第2クールOPにマンウィズ!」

 

おぉ! トルフィンとアシェラッドの連携プレイGJ! ・・・って、本編ぜったいそんな話じゃなかったでしょ。トルフィンおもいっきりズタボロなってたし(笑

 

 

第2クールのOPが発表されました。楽曲担当はMAN WITH A MISSION。曲タイトルは「Dark Crow」です。第1期はトルフィンの中に渦巻く疑問を激しく叫ぶソウルフルな1曲でしたが、今回はかなり雰囲気が違いますね。淡々と抑えたどこかポップでおしゃれですらある曲調が、「ヴィンランド・サガ」の舞台・中世ヨーロッパのどろどろした社会を冷めた目で俯瞰しているような、逆説的なんだけどピタリとはまる表現だと思えました。

 

今はこれまでの動画をつなげたPVですが、実際のオンエアではどんな感じになるのか、すごい楽しみです! マンウィズは「ゴールデンカムイ」1期OPも素晴らしかったし、期待しちゃいます!
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