「アシェラッドは世界の終わりを語り、トルフィンは新天地を夢見るシーズン1、第10話ラグナロク」のあらすじ感想考察。2019年7月~放送の「ヴィンランド・サガ」は、1000年前の北欧を舞台にヴァイキングの生き様を描いた骨太な物語



第10話/黄昏の時代をどう生きるか──ローマ人が残した廃墟で、トルフィンはアシェラッドの言葉に耳を傾ける。

▲1013年 トルフィン17歳 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

#10

ラグナロク

Ragnar0k

 

1013年 晩秋。

 

デンマークのスヴェン王率いる本隊はウェセックスに移動し、兵4000がロンドン橋攻略に残されている。戦闘狂トルケルが守るロンドン橋攻略を任されたのはスヴェン王の第2王子クヌートだ。副将にクヌートの側近ラグナルが当たっている。

 

なかなか攻めてこないデンマーク軍にしびれを切らし、トルケルはロンドン橋の上からデンマーク軍キャンプに石を投げ込み挑発する。

 

トルケル「おらぁ、とっととかかってこーい! そんなんじゃヴァルハラに行けねぇぞー。そこで突っ立ってるだけかぁ。てめぇらカカシかよー! てめぇら、そろいもそろってタマなしかー!」

 

度重なる挑発に、デンマーク兵たちはすっかり逆上している。「突撃しましょう!」と副将ラグナルに詰め寄る兵士たち。しかしラグナルは一向に動かず首を横に振るばかり。

 

ラグナル「ならぬ。時がくれば、殿下が命を下す。今は耐えるのだ」

 

その頃、大将のクヌート王子は自分のテントで十字架にひざまずき神に祈っていた。傍らでは神父が聖書の一節を朗読している。

 

神父「そこで主は彼に言われたのです。あなたの剣を収めなさい。剣を取る者はみな、剣で滅びるのです」

 

テントを訪れたラグナルは神父に席を外させ、十字架に向かい祈る王子に「冬になれば撤退命令が下ります」と告げた。要するにラグナルはトルケルと戦う気などないのだ。そして彼は王子に並んでひざまずき、十字架に祈り始める。「神よ、どうか殿下をお守りください」と。

 

 

大好きな戦ができなくていら立つトルケルが、ロンドン橋の上で「くそっ、なんだよつまんねぇヤツらだな」と悪態をついているところに、副将のアスゲートがやってきた。

 

アスゲート「まぁ慎重になってんだろ。なんせあっちの大将はデンマークの王子さまだしな」

 

トルケル「え、なに? 王子来てんの?」

 

アスゲート「あれ、言ってなかったか? たしか第2王子のクヌート殿下・・・」

 

それを聞いたトルケルは、それは嬉しそうに歯をむいて笑った。何事かひらめいたような顔だった。

 

今回のテーマは「黄昏の時代をどう生きるか」。サブテーマは「日増しに膨らむ戦いへの疑問と嫌悪感」と、しました。

▲今回の舞台はイングランドの2か所 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

前回は、大男の戦闘狂トルケルに単身挑んでひどい目に遭ったトルフィンが、ふと心に戦いへの嫌悪感を抱くところまでが描かれていました。トルフィンは身体じゅうボロボロになりながらもなんとかアシェラッドたちと合流し、数か月を経てようやく体調も戻ったようです。

 

今回の舞台はイングランドの2か所。ひとつはトルケルが守備するロンドン橋。もうひとつは、古いローマ人の遺跡が残るバース近郊です。ここにはトルフィンを含むアシェラッド団がいます。

 

今回は、アシェラッドの内面がよく表現されています。100人の海賊を束ねる首領という立場にありながら、アシェラッドにはどこか覚めたような達観したようなところがあります。それを北欧神話に描かれる「ラグナロク」(=終末の日)やキリスト教の最後の審判を絡めて描かれています。

 

アシェラッドはすでに推定45歳です。当時としては立派な老兵。終焉に向かいつつある世界を老兵がどう生きるか、アシェラッドらしい生きざまの模索が垣間見えます。それがテーマです。もうひとつ、トルフィンに芽生えた戦への疑問や嫌悪感がより強くなっていく様子をサブテーマとしました。

 

幼い頃から戦いを遊びにして育ち、父を亡くしてからは戦うことでのみ命をつないできたトルフィン。どこまで行っても戦いはなくならず、どれだけ命を落としても人々は戦いに明け暮れ興じている。その異常さに気づき、ふと嫌悪感を抱いたトルフィンは、心に戦のない世界を思い始めています。今回は、そんなトルフィンが見た夢から始まります。

 

 

一面に花咲く野で眠っていた6歳のトルフィンはふと目を覚ます。花盛りの野の向こうでは母が羊の毛の入った桶をもち、隣で姉のユルヴァが羊をさばいているところだ。アーレたち村の若者たちは羊の番をさぼって遊んでいる。

 

トルフィン「あ、そうだ晩ごはんだ。父上を呼びに行かなくちゃ」

 

歩き出したトルフィンは羊の番をするトールズを大声で呼び、肩車してもらって一緒に帰る。二人とも嬉しそうだ。

 

トルフィン「今晩はお肉だよ。ユールのお祝いだからね」

 

トールズ「あぁそうか。もう冬至か。ずいぶん暖かいから忘れてたよ。ここはいい所だ。牧草にも不自由しない。移り住んで正解だったな

 

トルフィン「姉上はここじゃ奴隷が手に入らないから不便だって言ってるよ。奴隷買ったことないのにね、ウチ」

 

トールズ「あっはっは。アイツらしいな」

 

トルフィン「ボクはここ好き。ここに来てから母上も調子いいみたいだし」

 

トールズ「トルフィン、おまえは長男だ。母上や姉上を守ってやらなきゃダメだぞ、分かるな」

 

トルフィン「うん!」

 

トールズ「二人とも、おまえの帰りを待ちわびている。そんな人がいてくれるのはとても幸せなことなんだ。分かるか?」

 

それまでキラキラした目で楽しそうに話していたトルフィンの表情が曇る。父の言葉に一応「うん」と答えるものの、ひどく気まずそうだ。あたりの景色すら曇り空の下のように色あせていく。

 

トールズ「だからな、もう復讐なんてやめろ。そんなこと、オレが喜ぶと思うのか」

 

黙り込むトルフィン。そこに女の悲鳴が響き、見おろす入り江にヴァイキングたちが村を略奪している様子が見えた。父の肩から降りたトルフィンは驚いて声を上げる。

 

トルフィン「村が! 父上どうしよう、襲われてる。母上、姉上ー!」

 

ヴァイキングたちは弓に矢をつがえ、トルフィンに向かって矢を射た。それはトルフィンをかすめてトールズに突き刺さる。振り返ると、トールズは身体じゅうに矢を受け目を見開いたまま倒れてゆく・・・。

 

トルフィン「父上ー!」

 

毛布をはねのけ跳び起きると、トルフィンは馬小屋の藁の上にいた。──夢だったのだ。頭に手を置き、トルフィンは今みた夢を思い出す。

 

トルフィン(オレの国じゃなかったな。暖かくて、草原が波打って。どこまでも・・・)

 

また眠ろうとして、外から聞こえてくる男たちの笑い声が耳につき、トルフィンは舌打ちして夜に歩き出した。

 

「見ろよトルフィン、滑稽じゃねぇか。黄昏の時代の夜明けだ」

 

西暦1013年 バース近郊。

 

アシェラッド兵団の仲間たちはウェセックスに向かった本隊を外れ、ここバース近郊の村を襲い、今や宴の真っ最中だ。今さっきころしたばかりの村人たちの亡骸の横で、略奪品を品定めし、肉を焼き杯を酌み交わす。暇を持て余した者どもは、ささいな口喧嘩から決闘を始める始末だ。

 

ビョルン「どっちがしんでも、後でアシェラッドにちゃんと報告しとけよ。めんどくせ」

 

騒ぎをみにきたビョルンも、止める気はなさそうだ。

 

馬小屋を抜け出し遺跡の柱が転がる丘に出て、トルフィンは赤みを差してきた山際を眺めながら息をつく。頭にはさっき見た夢の光景がこびりついている。

 

トルフィン(豊かな土地だ。夢に出てきた土地に似てる。アイスランドとはえらい違いだ。きっと今頃は雪が積もり始めているだろうな)

 

夢ではなく、現実の父を思いだす。肩車をしてもらい、雪の上を歩いたこと。自分たちを助けるために身体じゅうに矢を受けながら、すがるトルフィンの頭に置いた父の大きな手──。何度思いだしても悔しさが募る。形見の短剣の柄をぎゅうと握り締めたところで、ふいに「早起きだな」と、声がかかった。アシェラッドだった。

 

アシェラッド「あいつらが騒がしくて眠れないか。ま、勘弁してやれや。ここんとこ行軍ばかりであいつらもイラついてたからな。たまにゃ、ああして気晴らしせんと」

 

トルフィン「気安く話しかけんな。てめぇら最近、勘違いしてんじゃねぇのか。オレはてめぇらの仲間じゃねぇ。てめぇはオレを上手いこと操ってるつもりだろ。今はそうやって自惚れてろ。オレに喉を裂かれてくたばるその日までな」

 

アシェラッド「ふ。怖いねぇ。あのチビガキがオレにガン飛ばすとは成長したもんだ──ま、時間は若いおまえの味方だ。おまえは成長し、オレは老いる。いつかおまえに負ける日も来るだろう。当然のことだ。どんな強者もいずれはしぬ。周りを見てみろトルフィン。この石くれは今のイングランドの住人、サクソン人が造ったものじゃない。サクソンよりも前の住人のものだ。強い民族だったそうだ。だが500年前サクソンに滅ぼされた。ローマ人だ。国の名はブリタニア。高度な文明だった。今よりもずっとな」

 

高度な文明だった証拠だとでもいうように、アシェラッドはトルフィンに古いコインを投げてよこした。一応コインを受け取ったものの、トルフィンはチラッと見ただけで興味なさげにコインを草むらに捨てた。

 

トルフィン「まわりくどいんだよ。何が言いてぇ」

 

アシェラッド「せっかちだねぇ。年寄りの話は聞くもんだぜ──まぁつまりだな。人間の世界は緩やかに、だが確実に老いてきてるってことさ。ローマ人をサクソンが滅ぼし、そのサクソンを今度はオレたちが滅ぼす。かつてのローマ帝国の栄光は、遠い過去になる。なんでも、キリスト教徒どもの言うことにゃ、あと20年もしたら最後の審判とやらが下るそうじゃないか。その日、人間はすべて神にころされ、今の世は完全に滅ぶんだそうだ」

 

トルフィン「──ラグナロク

 

月は影を潜め、昇り始めた太陽があたりを明るく照らす。アシェラッドは腰に手を当て皮肉な口調で呟いた。

 

アシェラッド見ろよトルフィン、滑稽じゃねぇか。黄昏の時代の夜明けだ

感想&考察1、ヴィンランドで暮らす夢とユール

Julafton 2009
Julafton 2009 / hepp

▲肉や魚がたっぷりのユールの食事

 

トルフィンは夢を見ます。まだ父が健在な6歳の頃の自分にもどり、花盛りの野でふと目を覚ましたトルフィン。(夢の中で目覚めるとは、器用な夢だこと!)母は健康そうな笑顔を浮かべ、姉はユールの食事のために羊をさばいている。羊番をしている父を迎えに行ったトルフィンは肩車をしてもらい、楽しそうに家路につきます。

 

トルフィン「今晩はお肉だよ。ユールのお祝いだからね」

 

トールズ「あぁそうか。もう冬至か。ずいぶん暖かいから忘れてたよ。ここはいい所だ。牧草にも不自由しない。移り住んで正解だったな」

 

ユールというのは、北欧を含むゲルマン民族、ヴァイキングの間で行われていた祭りです。もともとはキリスト教以前の冬至祭りをさしますが、キリスト教が根付いてからは、北欧ではクリスマスとユールは同義語となっています。現在でも北欧ではクリスマスを「ユール」(jul)と呼んでいます。

 

冬至を境にまた日が長くなるので、冬至は太陽が再び力強い生命力を宿す新年の日とされていました。それを祝い、ユールでは北欧神話の神々とりわけオーディンにビールやイノシシや豚などを捧げました。

 

だからトルフィンは「今晩はお肉だよ」と言っているのです。ユールのお祝いはイノシシや豚が定番なようですが、作品中では姉のユルヴァは羊をさばいています。どうやら今晩は、羊料理ですね。

 

しかし冬至は今でいうクリスマスの頃です。そんな真冬に花盛りの野が広がっているとは!

 

きっとトルフィンは、前々回の第8話で奴隷女のホルザランドに出会った際、長らく忘れていたレイフが語った「ヴィンランド」を思いだし、しかも前回の終わりでは戦うことに疑問をもちました。それらからの連想で豊かな土地に移り住むことを夢見たのでしょう。いくらヴィンランド、今でいう北米大陸が豊かな土地とはいえ、クリスマスに花咲き乱れる場所なんてないでしょう。そこは、やっぱり現実とは違っていて夢の中ということなんでしょうね。

 

トルフィンの中では「ヴィンランドは冬至にすら花咲き乱れるほど豊かな理想郷」と、思えているのでしょう。もちろんまだそう自覚しているわけではなく、無意識の内に思っているだけのようですが。

 

感想&考察2、ローマンバスとラグナロク

▲バースの世界遺産「ローマンバス」 出展/wiki

 

今回の舞台はイングランド南西部に位置するバース近郊です。バースには、ローマ人がつくった保養施設跡「ローマンバス」があり、世界遺産に認定されています。お風呂やサウナ、社交場、さらに神殿まで兼ね備えた複合施設だったようです。しかし紀元後60~70年に造られたこの施設も、500年ごろにローマ人がこの地を撤退するといつしかさびれ、洪水により泥に埋もれていました。それを再び整備し、脚光を浴びるようになったのは19世紀になってからのことです。

 

作中で、バース近郊の丘にローマ時代の遺跡があるという設定は、これらの史実にもとずいて描かれているのでしょう。

 

アシェラッド「この石くれは今のイングランドの住人、サクソン人が造ったものじゃない。サクソンよりも前の住人のものだ。強い民族だったそうだ。だが500年前サクソンに滅ぼされた。ローマ人だ

 

ヴィンランド・サガの年代は1000年ごろなので、アシェラッドの言う「この地のローマ人が500年前にサクソン人に滅ぼされた」というのも、史実に忠実です。

 

ちなみに、わたしは10年以上前になりますが、観光でバースを訪れたことがあります。ローマンバスに入浴することはできませんが、上の写真でいう列柱と壁の間の細い通路を歩き回ることができます。地下の遺跡も見学できます。イギリスに旅行に行って、古代ローマの遺跡を観るというのはちょっと奇妙な体験ですが、興味深かったです。

 

バースから車で40分くらいの場所には先史時代の遺跡ストーンヘンジがあります。このあたり一帯は、歴史的にさまざまな種族が交錯した土地だったようですね。

 

▲「オーディンとフェンリル、フレイとスルトの戦い」 エミール・ドップラー作

 

キリスト教に限らず多くの宗教には、いつか世界が終わりを迎えるという終末論があります。

 

キリスト教では、世界の終わりにすべての人間はしに、その後イエスキリストが復活して最後の審判を下すというもの。最後の審判ではそれぞれの生前の行いにより、天国に行く者と地獄に落とされる者とに分けられるという考えです。

 

北欧神話では「終末の日」を「ラグナロク」と呼びます。ラグナロクでは人間はもちろんあらゆる生き物がしに絶え、最高神オーディンですらフェンリル(オオカミの怪物)に飲まれてしに、多くの神々が命を落とします。さらに巨人スルトが放った炎が世界を焼き尽くし、大地は海中に没します。その後、再び水中から姿を現した大地に生き残りの神々が新しい時代の神となるとされています。

 

感想&考察3、弱々しく「盛者必衰の理」をとく宿敵を前に、割り切れない気分に襲われるトルフィン

▲アシェラッドとともに黄昏の夜明けを眺めるトルフィン 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

まだ夜が明けきらぬ早朝、バース近郊の丘で交わされた、アシェラッドとトルフィンの会話。この二人の会話はとても興味深いものでした。いつものようにアシェラッドに牙をむくトルフィンに対して、いつもなら軽くあしらうアシェラッドは様子が違っていました。遺跡にちんまり腰をおろし、この頃、長くなった話をまた始めます。

 

曰く「時間は若いおまえの味方だ。おまえは成長し、オレは老いる。いつかおまえに負ける日も来るだろう。当然のことだ。どんな強者もいずれはしぬ」。続けて、今いる場所の由来を話して聞かせます。これらの石の柱は強く高度な文明を誇ったローマ人が造ったもので、それを滅ぼしたのが次にやってきたサクソン人。そして今、そのサクソン人をヴァイキングたちデーン人が征服しようとしている──と。

 

せっかちなトルフィンは「まわりくどいんだよ。何が言いてぇ」と、話を急かせます。でも面白いことにトルフィンは、さっきあれほどアシェラッドに向けガンを飛ばし凄んで見せたくせに、話を訊こうとしているんですね。トルフィンはアシェラッドをいつか討ち取るべき仇と目しながらも、その一方ではアシェラッドの強さや頭の良さなどに一目置き、尊敬しているのでしょう。もちろん、本人にそんな自覚はないのでしょうけれど。

 

終末論というのは、多くの宗教に存在する考えです。現世は滅び、やがて新しい時代がやってくる。その証拠がこの場所だ──ローマ人は滅びサクソン人は滅びかけている、今や隆盛を誇るデーン人もやがて滅びるだろう──アシェラッドはそう言っているのです。日本人的に言えば「盛者必衰の理」ですね。

 

同じような考えは北欧神話にもあります。それが「ラグナロク」。絶対神オーディンすら倒され、大火とともに地面が海中に没するという壮絶な終末を迎えるという考えです。

 

この時点でアシェラッドはいくつでしょう? わたしの印象ではアシェラッドはトールズより少し年下。トールズが生きていればこの時点で51歳。(ユルヴァが生まれたときトールズ25歳。アイスランドの村にフローキが現れたのがそれから15年後だから、この時点でトールズ40歳。享年40歳でしたね。それから11年が経過しているので、トールズが生きていれば現時点で51歳です)。だとすれば、アシェラッドは45歳くらいでしょうか。

 

当然、身体のあちこちに衰えを感じる年代です。現代よりずっと寿命の短かった時代ですから、45歳といえばもうとっくに老人の域でしょう。(そういえば織田信長の時代-16世紀-で、人生50年と言われていたようですよね)。いつもは豪胆で頭の良い海賊の首領を演じているけれど、実際のアシェラッドはもうとっくに戦にも略奪にも興味を失っているのでしょう。人生の閉じ方を考えているようにすら見えます。

 

皮肉な口調で「見ろよトルフィン、滑稽じゃねぇか。黄昏の時代の夜明けだ」なんて言っていますが、それに対してどうしようという気はなさそうです。終わるもんは終わると、すっかり受け入れているように見えます。

 

父の仇の憎くて仕方のないアシェラッドの言葉に促され「黄昏の時代の夜明け」を眺めるトルフィン。この年齢で「盛者必衰の理」を諭(さと)されてもおそらくピンとこないでしょうが、感じるところはあるようです。たぶんトルフィンにとってアシェラッドは、いくら憎んでも足りないほど強くて大きな存在なのです。何度挑んでも倒せない絶対強者。トルフィンの生きる目的であり、いつか必ず倒さねばならない宿敵です。

 

そんなアシェラッドから「いつかおまえに負ける日が来るだろう」なんて弱気な言葉を聞きたくなかったでしょうね。小さく弱くなってしまったアシェラッドを前にトルフィンは、いつか来ると言われている「ラグナロク」よりも悲しいものを感じたのではないかと想像します。夢に現れ「復讐なんてやめろ」というトールズも、トルフィンの心が創り出したものです。だからトルフィン自身がもう復讐など意味がないと分かりかけているということなのでしょう。

 

でも、今までそれを頼りに生きてきたから、もう復讐なしの人生なんてトルフィンには考えられないでしょうけれど──。このあたりのトルフィンが感じるジレンマが今後の作品の核になっていくように思えます。

 

「黄昏の時代だぜビョルン、どうせならパーッと暴れてみようじゃないか!」

 

まだ日が昇ったばかりの街道を馬が駆けてくる。それはクヌート王子配下のラグナル隊から本隊に向けての伝令だった。アシェラッドは情報を得るため、アシェラッド隊の仲間がいる村に伝令をいざなった。

 

伝令「(トルケル軍は)もうそこまで来ている。数は500ほど。ヤツの直参(じきさん)だけ連れてきたようだ。本隊の足跡をたどってきてる」

 

アシェラッド「ロンドンの包囲軍は? クヌート王子の4000がいたはずだが」

 

伝令「そんなもの、とっくに撃破されたよ。オレがその生き残りだ。ヤツらトルケルを先頭に、砦から打って出てきたんだ」

 

トルケルの直参ということは、精鋭のデーン人ヴァイキングたち500人だ。トルケルは丸太を武器に、敵を文字通りなぎ倒しながら進む。副将のアスゲートもさすがに強い。ただ剣を打ち鳴らすだけでなく、髪をつかんで引き倒すなど、流儀などお構いなしの喧嘩殺法。

 

伝令「どいつもこいつも、熊みてぇに強かった。だれも成す術なかった。本隊まで一直線だ」

 

この期に及んで死者の霊が救われるよう祈るクヌート王子のテントを、ついにトルケルが見つけた。

 

トルケル「王子さま、みーっけ!」

 

こうしてクヌート王子はトルケル軍の捕虜となった。

 

伝令「殿下を奪還すべく、残存兵力が再結集を試みているが、集まった兵は400にも満たない。士気も高いとは言えん。これから本隊へ応援を頼みに行くところだ。貴公らも加わってくれ。今は100人でもありがたい」

 

ビョルン「どうする? 決めるのはあんただ、アシェラッド」

 

しばらく考えていたアシェラッドは空を仰ぎ見て言った。

 

アシェラッド「まったく、おちおち黄昏てもいられないな。──聞こえねぇかビョルン、ラグナロクの足音がよ」

 

言うやアシェラッドは一気に伝令の首を切り落とした。

 

アシェラッド「埋めとけ。こいつの乗ってきた馬もだ。──いいか野郎ども、よく聴け! 我々は今からクヌート王子殿下の救出に向かう。相手はトルケル以下500! だが他の部隊の手は借りん。ここが博打の打ちどころだ。クヌート殿下は、デンマーク王位継承権第2位のお方。どちらの軍に渡しても報酬はたんまりだ。おまえら想像できるか? デンマークとイングランド、2大国が賜るご褒美を、みすみす他のヤツらに譲る手はねぇぜ!」

 

アシェラッドの考えをきいた海賊たちは、「よぉしやろうぜ」と、すっかり乗り気だ。一人冷静なビョルンがアシェラッドに歩み寄る。

 

ビョルン「どうすんだよ、焚きつけちまって。相手はトルケルだぞ。勝算あんのか?」

 

アシェラッド「さぁな」

 

ビョルン「さぁなって、おまえ!」

 

アシェラッド黄昏の時代だぜ、ビョルン。どうせならパーッと暴れてみようじゃないか

 

アシェラッドとビョルンの会話を近くで聞いていたトルフィンは、ふと丘を見上げた。500年前、ローマ人の残した石柱が立つ丘から、黄昏の時代の幕開けを告げる朝日がまぶしく昇ってきた。

 

感想&考察4、「ここが博打の打ちどころだ」

 

たった500人でクヌート王子配下の4000を軽々と打ち破り、その4倍の1万6000を相手にしようというトルケル軍。正気の沙汰じゃありませんね。まぁ、スヴェン王の第2王子クヌートを捕縛しているので、それを盾にする気なのかも知れませんが、相変わらずの戦闘狂です。

 

伝令曰くの「どいつもこいつも熊みたいに強かった」トルケル軍500を相手にクヌート王子を奪還しようというアシェラッド。これまた正気の沙汰じゃありません。なにしろアシェラッドはその場で伝令を斬りころし、その手柄を自分たちだけで独占しようというのだから。ということは、アシェラッド隊100人でトルケル軍500を撃破するつもりなのか・・・いや、ビョルンが心配するまでもなく普通に考えて無理でしょう!

 

しかし、さすがアシェラッドの小賢しいところは、クヌート王子を奪還した後すんなりスヴェン王に返すつもりがないところ。デンマークとイングランド、どちらに引き渡せば報酬が大きいか、よく値踏みして、たんまり褒美がもらえる方に引き渡そうというのです。

 

アシェラッド、頭柔らかいですよね! この臨機応変な対応と、チャンスを逃さない目の付け所がアシェラッド隊をここまでまとめ率いてきた才覚なのでしょう。

 

──と、いうことは。アシェラッドの頭の柔らかさや、臨機応変・・・つまり忠義心もなにもなく報酬のいい方につく分かりやすい行動力からすると・・・もしかしてアシェラッド、トルケル軍に寝返るつもりかも? それとも、「ここが博打の打ちどころ」なんて言っていることからも、何やらとっておきの秘策があるのかも知れません。次回が楽しみすぎます!

 

感想&考察5、OP曲「MUKANJYO」が作品にはまりすぎて!

 

今回、BGMがとても良かったですね。もちろん、これまでもとても良かったのですが! この作品の音響はとても品がいいと感じます。雪を踏む音、風の鳴る音、重厚な戦闘時のBGMも、主張しすぎないのにそのシーンをきちんと盛り上げている。

 

今回はピアノ曲が多かったですね。一番印象的だったのが、早朝、ローマ人が築いた石の柱が転がる丘で、アシェラッドが終末論や盛者必衰の理についてトルフィンに話していたシーンです。現実を楽しんでもいなければ将来に何の希望も持たない老兵アシェラッドの心の内がよく表現されていました。トールズ同様アシェラッドも、現実のありように疑問を持っているのかも知れません。トルフィンもそんな疑問のとば口にいます。ここ、終始ピアノなんですよ。心情の揺れが美しく表現されていました。

 

とはいえ、クヌート王子をトルケル軍が捕縛したと聞けば「ここが博打の打ちどころだ」なんて、なにごとか閃いたらしいアシェラッドですが。嬉しそうにしている割には「黄昏の時代だぜビョルン、どうせならパーッと暴れてみようじゃないか」なんて、「どうせしぬんだし」「これが最期かもしれないんだし」なんて前提で暴れようと言っていて、なんともシニカルです。

 

この、アシェラッドの勇ましいんだかやけっぱちなんだかシニカルなんだか割り切れない感じ、トルフィンの戦いに嫌悪感を抱きながらも父の仇を討つことにしか生きる意味を見出せない感じ、なんとも疑問符だらけの生き様がだんだんOPの「MUKANJYO」にぴったりになってきました。

 

最初は違和感のあったこのOPが、トルフィンが内なる疑問に目覚め始めてからこっち、苦しいほどにはまってきています。この先トルフィンの疑問はどんどん膨らんでいき、楽曲の終わりのようにいつか叫び出したいほどになることでしょう。それと呼応してEDの「Torches」では、変わらぬ父の愛情深い想いが通奏低音のように力強く綴られています。

 

第2クールのOP、ED楽曲が発表されていますが、ここにきてこんなにハマル今の楽曲が変更になるのが、ちょっと惜しく感じるほど、どちらの楽曲も作品にぴったりな素晴らしい曲だと今更ながら心震えてしまいます。

 

おまけ/あにまるらんど・さが/ヴィンランド佐賀?

 

トルケルは巨大オオカミかなぁ? さすが強そうですねー! それに引きかえ副将のアスゲートちっさ! これ・・・オコジョ? かわいいけどね^^

 

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