知将アシェラッドの出自に迫る!シーズン1、第12話対岸の国」のあらすじ感想考察。2019年7月~放送の「ヴィンランド・サガ」は、1000年前の北欧を舞台にヴァイキングの生き様を描いた骨太な物語



第12話/小国とはいえ手紙ひとつで国を動かすアシェラッドとは? 謎多い人物アシェラッドの出自に迫る!

▲デンマーク王第2王子クヌート 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

#12

対岸の国

The Land on the far Bank

 

1013年 11月 イングランド西部 セヴァーン川下流東岸

 

トルケル軍からクヌート王子を奪還したアシェラッド隊は、デンマークのスヴェン王率いる本隊と合流すべくトルケルの追撃から逃れるためひたすら行軍していた。やがてイングランド東部を流れるセヴァーン川の川岸でアシェラッドは行軍を止めさせた。

 

川岸で暇そうに釣りをしている老人を「渡し」と見込んで、とある手紙を託したのだ。

 

渡しの老人「で、これを対岸のどなたへ?」

 

アシェラッド「元老のどなたかへ大至急。リディアの子、アシェラッドからとお伝えいただきたい」

 

老人はアシェラッドのローマ風鎧を見て「ほぅ」と呟いてから、やがて「承知しました、大至急」と告げ、すぐに船を出した。

 

その頃、アシェラッド隊の「」が地面に耳を当て遠くの音を探っていた。そこに「耳」のことを知らないラグナル(クヌート王子の側近)がズカズカと歩み寄り隣に立つビョルンに声高に話しかける。

 

ラグナル「アシェラッド、アシェラッド! おらぬか、おい!」

 

ビョルン「ラグナルさん、お静かに願いますよ」

 

ラグナル「なぜ進軍を止める。トルケルに追いつかれてしまうぞ!」

 

ビョルン「耳が仕事をしているときは、物音を立てない決まりだ」

 

「ビョルン、そのとんがり頭に息をさせるな」

渡しに手紙を託したアシェラッドが戻ってきて耳にどんな塩梅かとたずねる。

 

「昨日より近づいてる。徒歩と馬の行軍。数は──500近く。後ろにぴったりつけてるぜ。歩いて1日の距離だ

 

ビョルン「マジかよ耳。つい昨日は、2日の距離だっつってたじゃねぇか」

 

アシェラッド「早いな。よほどの強行軍なんだろうぜ。この分だと数日のうちにゃ、追いつかれるな」

 

そこで耳が急に「静かにしろおまえら」と言い左手の人差し指を口の前で立てた。じっと耳を澄まし、左の丘を指さす。

 

「馬だ。2騎!」

 

指さす先の遠くの丘に、慌てて遠ざかる2頭の馬が見えた。

 

アシェラッド「完全に補足されたな」

 

ラグナル「どうする気だ。迎撃するなら今の内に陣を張らねば」

 

アシェラッド「いやぁ、ムリでしょう。かないやしませんて」

 

ラグナル「しかし、このままでは」

 

アシェラッド「援軍を要請しました。それまでは、逃げ回りましょうや」

 

ラグナル「は、援軍?」

 

援軍を要請したと聞き驚くラグナル。ここはイングランド。スヴェン王の本陣まではまだ遠く、一番近い砦のレスターまでも2週間かかる距離がある。いったいアシェラッドがだれに援軍を頼んだのか、ラグナルはもちろん、アシェラッド隊の手下たちにも皆目見当がつかない。しかし、ただひとつ言えることがある。

 

アトリ「アシェラッドが言うんだぜ。あいつがその手の嘘言ったことあるか?」

 

トルグリム「あー、まぁねぇな確かに」

 

さすが長らく首領を張っているだけある。アシェラッドは大事なところで嘘をつかないのは手下たちもよく分かっている。それだけ信頼されているのだ。

 

今回のテーマは「アシェラッドの出自の謎」。これに尽きます。サブテーマに挙げるなら「ナヨナヨ王子クヌート」ですか。

 

前回は、クヌート王子を捕虜にしているトルケル軍と、クヌート王子奪還を目指すラグナル隊の部下たちが激突している山にアシェラッドたちが火を放ち、どさくさ紛れにクヌート王子確保に成功したというお話しでした。

 

といっても実際は、トルフィンが盟友トールズの息子と知ったトルケルが、一時的にクヌート王子を渡してくれただけなんですが。後ろを追ってくるトルケル軍に怯えながら、アシェラッド隊はスヴェン王のいる本隊を目指します。

 

序盤、アシェラッド隊の手下の中でも特異な才能をもった「」が活躍します。この人、やたらめったら耳がいいんです。なんと、トルケル軍が自分たちの後ろ1日のところを進軍しているとか、2日のところを進軍しているかまで分かるというのだからすごい!

 

「耳」の言うには、どんどんトルケル軍は距離を縮めてきているので、ついにアシェラッドはどこかに援軍を要請したようです。どうしてアシェラッドにそんなことができるのか? 今回は、ただ略奪を楽しむ海賊の首領というだけで収まらない、アシェラッドの出自にぐぐっと迫ります。それがメインテーマ。ここを中心に見て行きましょう。

 

サブテーマを挙げるとすれば、クヌート王子のダメっぷりでしょうかね。今回は、トルフィンにあまり出番はありません。

 

連日の行軍で手下たちはぐっすり眠っている夜更け。アシェラッドは焚火の前でしげしげ地図を見ている。そこにビョルンが現れた。

 

ビョルン「あんた、ここ数日ちょっと変だぜ。なに考えてる。──王子の顔を見てからだ。そうだろ?」

 

アシェラッド「オレぁ悪党の中で40年余り生きてきてな。そいつがどんなヤツなのか、大物か小者か、りこうかバカか、パッとツラ見ただけで分かっちまうのさ。王子のツラ見てな、分かっちまったんだよ。王者のツラじゃねぇってな」

 

ビョルン「あぁま、女みてぇなツラだよな。だがよ、ありゃまだガキじゃねぇか」

 

アシェラッド「まぁ、そうだな。まだ若い。これからだ!」

 

ビョルン「ん? これからって?」

 

ビョルンの問いかけに答えずアシェラッドはぐっすり眠る手下たちを大声で起こす。「行軍準備!」と。アシェラッドたちはひたすら行軍する。朝も夕も、晴れた日も雨の日も。眠る時間も惜しんで歩き続ける。

 

ウェールズの小王国からの助け船

 

アシェラッドの言った通り、ついに援軍がやってきた。合流地点に立つのはマント姿の二人の男。馬を降りたアシェラッドは二人の男に歩み寄り、片膝をついて頭を下げた。

 

アシェラッド「軍団長みずからおいでくださるとは、恐縮です」

 

軍団長「久しいな、アシェラッド」

 

もう一人の男が吹く口笛に応じて霧の中から現れたのは、船首に目を描いた3隻の船。はらりとマントを肩にかけた軍団長が身にまとう鎧は、アシェラッドと同じ形の鎧だった。

 

後ろを追跡していたトルケルたちはついにセヴァーン川の川岸にたどりついていた。そこで斥候に出した者たちの目撃談を訊く。

 

トルケル「──で。その船が連中を乗せて川を渡ったってわけだ。どこの船だったか分かるか?」

 

しかし斥候たちも濃い霧の中、よく分からなかったと言う。ただし、竜頭がなかったのでヴァイキングの船ではないと証言する。ギョロッとした目が描いてあったと言う者も。

 

トルケル「ん~。スヴェン王の船じゃなさそうだな。ま、なんにせよトルフィンたちの足跡をたどることはできなくなったな。ちーとヤツらのことを侮ってたな。まさかセヴァーン川の向こう岸を味方につけてるとはな

 

トルケルの部下「川向うの住人は、イングランドからデンマークに寝返ったってことすか?」

 

トルケル「バーカ、おまえモノ知らねぇな。寝返るもなにも、この川の向こうはそもそもイングランドじゃねぇんだぜ。ウェールズってんだ

 

ウェールズ。イングランドの西に位置する山岳地帯である。険しい山々に資源は乏しく、耕作に適した平地もわずか。イングランドに比べ、貧しい土地と言える。ローマ支配時代の終焉以降、全地域を統一する国家が育つことはなく、多数の小王国が割拠する状態が数百年続いていた。アシェラッドの救援要請に応じたのは、そんな小王国のひとつだった。

 

感想&考察1、イギリスの細かい地名なんて分かるかぁー!

▲当時のブリテン島の勢力図

 

場所移動も多いし、今いるところではない都市の名前が出てきたり。イギリスの地図が頭に入っていないので、なにがどうなっているのか、すごーく分かりにくい・・・。地名とか川の名前とか言われても、分かるかぁーーーーー! って、思わず叫びたくなりますよね。で、ちょっと必要な情報を一つにまとめたブリテン島の当時の勢力地図を作ってみました。

 

まず、この時代のブリテン島の歴史をおさらいしてみましょう。ヴィンランド・サガ内での設定も併記しています。

 

1、いつごろからかは定かではないが、ブリテン島にはケルト民族がいた。

2、紀元前55年。カエサル率いるローマ人によりほとんどの地域が征服される。

3、紀元後50年ごろ。ゲルマン民族がガリア(今のフランス)に進攻したのを機にローマ人はブリテン島を放棄。その後、今のドイツ起源のアングロ・サクソン人が侵入して広がった。ただしヴィンランド・サガでは、サクソン人がローマ人を滅ぼしたとアシェラッドが語っている。(第10話)

4、8世紀ごろ。アングロ・サクソン人による7王国が乱立。上の緑色に塗った地域にある「ノーザンブリア」「マーシア」「イースト・アングリア」「エセックス」「ケント」「サセックス」「ウェセックス」が、その7王国。ただしウェールズにはアングロ・サクソン人の支配は及ばず、ケルトの言語が残った。

5、9世紀後半以降、ヴァイキング(デーン人)たちの支配下に置かれた場所を「デーンロウ」と呼ぶ。上の地図でグレーの網掛をしたあたりが「デーンロウ」。かなり広範囲に支配していたのが分かる。

 

今回の舞台となったのはセヴァーン川の河口。濃い青色の丸で囲っているところ。セヴァーン川がイングランド(緑色の地域)とウェールズ(赤色の地域)の国境になっているあたりです。

 

感想&考察2、どうやらウェールズはアシェラッドの故郷!

▲モルガンクーグ王国グラティアヌス将軍 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

イングランドでもないデンマークでもない第3国のウェールズに救援を求めるというのは、とてもいいアイデアですが、どこの誰とも知れぬ人間がいくら助けてくれと言っても動いてくれる国はありません。それなのにアシェラッドは、手紙一つでウェールズの国を動かしました。

 

実際に援軍にやってきたのは、ウェールズのモルガンクーグ王国軍団長でした。どうしてアシェラッドにこんな芸当ができたのでしょう?

 

冒頭、アシェラッドは川で釣りをしている老人に声をかけます。あらすじ紹介では省いていますが、ここでこんなやりとりがありました。

 

アシェラッド「釣れますかな、ご老体。魚もそろそろ冬ごもりの時期でしょう」

 

老人「釣れずとも構わんのですよ。本業は渡しですからな。あんたがた、デーン人ですな。なかなか達者なイングランド語を話されるが、少しなまっていらっしゃる。わたしの国のなまりに似ている

 

ここ、アシェラッドと渡しの老人はイングランド語で話していますが、老人はアシェラッドに自分の国とよく似たなまりが少しあるといいました。ウェールズではケルト語が残っていると上で書きましたが、それを差しているのだろう、と思います。さらにアシェラッドは老人に手紙を渡してこう続けます。

 

アシェラッド「元老のどなたかへ大至急。リディアの子、アシェラッドからとお伝えいただきたい」

 

それで渡しの老人は、しげしげとアシェラッドを見ます。アシェラッドのデーン人のものとは違う鎧を見て納得したようで、すぐに手紙を届けるため船を出します。この老人は直接アシェラッドの知り合いではなさそうですが、アシェラッドの母親「リディア」、または「リディアの子アシェラッド」を間接的に知っているように見えました。

 

その後やってきた「軍団長」のつける鎧は、アシェラッドと同じタイプの鎧です。しかも軍団長は「久しいなアシェラッド」と、挨拶しています。この二人、もともとの知り合いなのですね。

 

これらのことから、どうやらウェールズはアシェラッドの故郷のようです。しかもウェールズの元老院を動かすことができ、軍団長と知り合いとなると、かなり力のある血筋なのではないでしょうか。アシェラッド・・・何者!?

 

ちなみに、船首に目を描く習慣は国の東西を問わず広く行われていることですが、とくに有名なのがローマの軍船に目が描かれていたことです。アシェラッドや軍団長のつける鎧もローマ風です。ウェールズではローマの文化が残っているとされているようです。ウェールズとローマとの関わりは「感想&考察5」でも詳しく説明しています。

 

シャイなクヌート王子殿下

 

ウェールズ モルガンクーグ王国東部

 

まんまとトルケルから逃れられて上機嫌のラグナルは、このまま船で自分たちの拠点まで帰ろうと言う。が、アシェラッドは歩いて行くと。

 

ラグナル「何を言うとるキサマ。そこに船があろうが」

 

アシェラッド「大国の物差しで考えちゃいけませんよ。この国にとって、軍船3隻は貴重な戦力なんです。トルケルをまくのに協力してくれただけでもヨシとしなけりゃ」

 

「なら2隻でも~」と言うラグナルに、アシェラッドは1歩も譲らない。「これ以上、殿下の御身を危険にさらすわけには~」と、まだ食い下がるラグナルだが、当のクヌート王子は空を舞うハヤブサに見とれていた。

 

クヌート王子「ラグナル、捕まえてくれ」

 

さすがのラグナルも「今、大事な話を・・・」と、困り顔だ。

 

アシェラッド「トルケルに追われながらイングランドを北上するよりはマシですよ。少なくともこの国はわたしの味方です。それでも心配だとおっしゃるんなら──トルフィン! この者をクヌート殿下におつけします。ナリは小せぇが腕は立ちます。殿下とは年も同じなので、気が合うでしょう。ご挨拶しろ、トルフィン」

 

「勝手に決めんじゃねぇ」とチッと舌打ちしながらも、トルフィンはクヌート王子の前に進み出た。

 

▲これが本作主人公の顔・・・。 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

口を思い切り歪めてガンを飛ばすトルフィンを見て、クヌート王子はそそくさとラグナルの背中に隠れる。

 

アシェラッド「アホか! メンチ切ってどうすんだよおめぇはよ!」

 

隣にいたビョルンが思わず吹きだした。

 

トルフィン「見返りはあるんだろうな?」

 

アシェラッド「分かった、分かった。ゲインズバラについたら相手してやる」

 

そこに道案内をするためグラティアヌス将軍がやってきた。アシェラッドの要請に応えて最初にやってきた「軍団長」と呼ばれていた男だ。グラティアヌス将軍は、そこに立っているトルフィンをクヌート王子と勘違いしたらしい。

 

グラティアヌス将軍「ほぅ。少し剣があるが、良い顔だ」

 

アシェラッド「軍団長どの、それはわたしの部下です。クヌート王子殿下はそちらにおわします」

 

クヌートは目をそらし、指で髪をいじっている。

 

グラティアヌス将軍「目に力がない。本当に次代のイングランドを統べる者か?

 

ラグナル「きさま、無礼であろう!」

 

グラティアヌス将軍「我らがデーンの王子の逃避行に協力する理由はひとつ。ウェールズへの不可侵条約の締結だ。すべては貴公次第。王子よ、誓われよ。イングランドの王となった暁には、決してウェールズには干渉せぬと」

 

しばらく考えた後、クヌート王子はラグナルに耳打ちした。それをラグナルが将軍に伝える。

 

ラグナル「殿下はこう申しておられる。そなたらが船3隻を提供するならば・・・」

 

グラティアヌス将軍「わたしは王子本人に聞いているのだ」

 

こう言われてもクヌート王子は目をそらしたまま黙っている。「まぁいい、後で訊こう」と、将軍は引き上げていった。

 

感想&考察3、アシェラッドの手紙の内容は──?

▲渡しの老人に手渡したアシェラッドの手紙 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

手紙ひとつでモルガンクーグ王国を動かしたアシェラッド。アシェラッドがいったいどんなバックグラウンドをもつ人物なのか興味は尽きませんが、とりあえずその全貌を知るのはまた後日ということで。ここでは、アシェラッドが手紙に何を書いて送ったのか、それについて考えてみようと思います。

 

モルガンクーグ王国のグラティアヌス将軍の言うことには、

 

グラティアヌス将軍「我らがデーンの王子の逃避行に協力する理由はひとつ。ウェールズへの不可侵条約の締結だ。すべては貴公次第。王子よ、誓われよ。イングランドの王となった暁には、決してウェールズには干渉せぬと」

 

当然ですね。デンマークの王子を助けたことでデンマークに貸しが作れるから、それを見越して助けたということです。だから今回助けてやる代わりに「ウェールズへの不可侵条約の締結」を迫ったわけです。このやりとりの後、将軍が道案内してクヌート王子を含むアシェラッド隊は陸路ゲインズバラ(スヴェン王率いるヴァイキングの拠点)を目指します。

 

つまり、アシェラッドが出した救援要請の手紙に書いてあったのは、「現在、自分たちが護衛しているクヌート王子は次代のイングランド王だ。彼に貸しをつくり不可侵条約を締結することはモルガンクーグ王国にとって大きなメリットとなるだろう。だから救援を要請する」という内容だったはずです。

 

これに応じ、モルガンクーグ王国では将軍を派遣して王子救出に動いたのです。もちろん、その手紙の主が「リディアの子アシェラッド」だからこそ信用してもらえたわけですが。

 

感想&考察4、クヌート王子の資質

 

度重なるデーン人の襲撃にイングランド王は既に大陸に逃亡してしまい、ちゃくちゃくとイングランド全土を掌握しつつあるデンマーク軍の勢いから察するに、デンマーク王家の縁者が次代のイングランド王になるのは時間の問題でしょう。でも、かならずしもクヌート王子が「次代のイングランド王」になるとは限りませんよね!

 

普通に考えればスヴェン王がデンマークとイングランドの両方の王になるかも知れないし、クヌートの兄がイングランド王になるかも知れません。もちろん、クヌートがイングランド王になる可能性もあります。

 

しかしクヌートは女の子のような顔立ちで、ラグナルを通してしか話すことができないほどのシャイな性格。北欧神話の神々ではなくキリスト教を信仰している──勇猛果敢を良しとするヴァイキングの王子としてやや物足りないところがありますよね。父のスヴェン王も、クヌート王子を頼りないと思っているようです。

 

ところで前回の考察で、クヌート女性疑惑を書きましたが、今回初めて聞けたクヌートの声からしてやはり「王子」で間違いなさそうですね!

 

当然アシェラッドも、必ずしもクヌート王子が次代のイングランド王になるとは限らないことくらい読んでいるはずです。ということは、アシェラッドが手紙に書いたことは、救援要請を聞き入れてもらうための「ただのハッタリ」だったのでしょうか?

 

それがそうでもなさそうなんです。アシェラッドとビョルンのこのやりとりに注目してみましょう。

 

ビョルン「あんた、ここ数日ちょっと変だぜ。なに考えてる。──王子の顔を見てからだ。そうだろ?」

 

アシェラッド「オレぁ悪党の中で40年余り生きてきてな。そいつがどんなヤツなのか、大物か小者か、りこうかバカか、パッとツラ見ただけで分かっちまうのさ。王子のツラ見てな、分かっちまったんだよ。王者のツラじゃねぇってな」

 

ビョルン「あぁま、女みてぇなツラだよな。だがよ、ありゃまだガキじゃねぇか

 

アシェラッド「まぁ、そうだな。まだ若い。これからだ!

 

ビョルン「ん? これからって?」

 

ここ、普通に考えれば「アシェラッドはクヌート王子に王の資質なしと判断した」と思いますよね。でも、最後にビョルンが疑問を持ったように、これ、ミスリードを狙った引っかけですね。

 

「オレぁ悪党の中で40年余り生きてきてな。そいつがどんなヤツなのか、大物か小者か、りこうかバカか、パッとツラ見ただけで分かっちまうのさ。王子のツラ見てな、分かっちまったんだよ。王者のツラじゃねぇってな」の言葉の真意は、こんなところだろうと思うのです。

 

「この頼りなげに見える王子には王者の資質がある。りこうな大物だ。ただし今は若く、まだ王者のツラ構えをしていない。王者の風格を備えるのはこれからだ」

 

つまり、アシェラッドはクヌート王子の優れた資質を見抜いたからこそ、本来なら伏せておきたい自分の出自に絡むウェールズの国を動かしてまで守ることにしたということでしょう。

 

前回第11話の考察でも書いたように、クヌートは歴史上実在した人物で、やがてイグランド、デンマーク、ノルウェー3国を統べ「クヌート大王」と呼ばれることになる人物です。今は頼りないこのクヌート王子がどんな風にして大王になっていくのか、楽しみですね^^

 

「わたしの求めているものに比べれば、金銀も美女もつまらないものだということです」byアル中神父

▲アル中神父。 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

モルガンクーグ王国のグラティアヌス将軍の先導で、クヌート王子、側近のラグナル、神父を乗せた馬車を伴ったアシェラッド隊は徒歩でゲインズバラを目指す。クヌート王子を助けた功績に賜る褒美に思いをはせるアシェラッド隊の面々は、行軍しながらこんな会話を交わしている。

 

アトリ「楽しい話しようぜ。そりゃおまえスヴェン王のご褒美よ。オレたちゃ、あのトルケルから王子を救ったんだぜ──やっぱり黄金よ。金にまさるものはないぜ」

 

トルグリム「何でも王の寝室にゃあ、世界中からさらってきた美女の奴隷が100人もいるってよ──おーい、神父さんよ。あんた王宮にいたんだよな。王の家にはどんなものがあったね?」

 

馬車の上の神父は、酒樽を手に座っている。酒をあおっている割には、その目は澄んでいた。

 

神父「いやまぁ、これといって価値のありそうなものはなかったです」

 

トルグリム「うそ、美女は?」

 

神父「女性の奴隷はけっこういましたね」

 

トルグリム「──あんた、女に興味ないのか?」

 

神父「いやいや。わたしの求めているものに比べれば、金銀も美女もつまらないものだということです」

 

アシェラッド隊員「ぜひ教えてくれ、そりゃいったい何なんだ?」

 

神父「──愛です」

 

神父の言葉に周りを歩く隊員たちは「なんだそりゃ」「聞いたこともないな」「食いもんじゃねぇの」「銀でいうと何ポンドのものだ」と、初めて聞く言葉に困惑している。トルグリムだけは聞きかじっているらしく「オレ知ってる。キリスト教徒がよく言う呪文かなんかだよ」と。まだまだ北方民族たちにキリスト教は広まっていない。

 

神父「銀では測れません。銀に価値を与えるのも愛だからです。愛なくしては金も銀も美女も、すべて無価値だ」

 

隊員たちはますますワケが分からない。「小難しいこと言いやがって」「はったりこいてんだよ」「無視、無視」と口々に言うなかに一人、続きを訊きたがった者がいた。

 

隊員「坊さん、おい。続けてくれよ今の話。もう少し訊きたいんだ」

 

ブリタニア復興の伝説

▲伝説の剣エクスカリバー 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

いよいよ一行はモルガンクーグ王国と隣国との国境に差し掛かっていた。先導するグラティアヌス将軍の言うには、話はつけてあるから心配するな、と。グラティアヌス将軍とアシェラッドは並んで馬を歩かせながら話す。

 

アシェラッド「ご尽力、痛み入ります」

 

グラティアヌス将軍「おまえたちのためではない。利害の一致だ。ウェールズ小王国はかねてより、イングランドの侵攻に苦しめられてきた。おまえたちデーン人が黙らせてくれるならば、我々に都合がいい」

 

アシェラッド「王子殿下はきっと、さように約束されましょう」

 

フン、と鼻を鳴らした将軍は、ちらりと後続の馬車に乗るクヌート王子の横顔を見た。相変わらずクヌートは俯き加減に髪をなでている。

 

グラティアヌス将軍「あれがおまえの王か、アシェラッド」

 

アシェラッド「血筋は申し分ありません。あとはまぁ、若さに期待しています」

 

ここでアシェラッドは脳裏にトールズの姿を思い描いた。

 

アシェラッド「惚れた男ほど、思い通りにはならんもんです。案外、あのくらいの器の方がちょうどいいのかも知れません」

 

グラティアヌス将軍「我らは誇りあるブリタニアの末裔だ。デーンの王には従わぬ」

 

アシェラッド「グラティアヌスどの。今だ伝説を信じておいでですか。アルトリウス公が西の彼方のアヴァロンから戻られ、古のブリタニアを復興なさるという伝説を」

 

感想&考察5、モルガンクーグ王国の人々はブリタニアの末裔

▲11世紀当時のウェールズ 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

現在ではイギリスの1地方となっているウェールズ(上図 薄緑色の地域)ですが、長らくイングランドとは異なった国として独立を保ってきました。日本でいう四国ていどの広さの土地に、小国が勃興と収束を繰り返していました。なかでも作中で「モルガンクーグ王国」(上図 赤いライン)とされている国(MORGNNWG)や隣国「ブリケイニオグ」(上図 青いライン)(Brycheiniog)は、他に吸収されることがほとんどなく独立性が高かった国なのだそうです。

 

グラティアヌス将軍によると「我らは誇りあるブリタニアの末裔だ」とのこと。ブリタニアとは、ローマ帝国が現在のグレートブリテン島に置いた属州です。ウェールズ人は現在でも、自分たちはローマ時代にローマ人と先住民ケルト人が混血・同化した「ブリトン人」であるという考えがあるそうです。

 

アシェラッドが言っている「古代ブリタニア復興の伝説」とは、アーサー王伝説に由来するものです。アーサー王は、6世紀初めにブリトン人を率いてサクソン人の侵攻を撃退し、ブリテン、アイルランド、アイスランド、ノルウェー、ガリア(現在のフランス)にまたがる大帝国を築いた英雄です。アーサー王が実在の人物かどうかは、現在でも定説はありませんが、一説ではローマ時代の英雄アルトリウス(ルキウス・アルトリウス・カスティス)がそのモデルと言われています。

 

アーサー王の活躍は、12世紀の歴史書「ブリタニア列王史」に記されています。そこにはアーサー王がもつ魔法の力を秘めた剣エクスカリバーが登場し、アーサー王は死後、伝説の島アヴァロンへ船出したとされています。

 

これらのことから、ウェールズでは自分たちがローマ人の誇り高き末裔であり、いつかローマの英雄アルトリウスが復活し、再びブリテン島全体を統一するという伝説を信じているのだと分かります。

 

いや~設定が史実に忠実で緻密ですね。深いけれど、ひとつひとつひも解いていくと、とても興味深いです。

 

隣国ブリケイニオグの裏切り

▲崖の上から狙う弓兵がギッシリ 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

さて。隣国ブリケイニオグとの国境にさしかかったグラティアヌス将軍とアシェラッド兵団。ブリケイニオグの使いの者を前に将軍は「出迎えごくろう」と言ったが、耳がいち早く異変に気付いていた。隣国の使いはなんと兵を率いて来ていた。

 

ブリケイニオグの使い「──気づいたか。だが、もう遅い」

 

街道の両側は小高い崖。弓で狙うには絶好の地形だった。トルフィンもまた異変に気付き、盾を手に立ち上がる。アシェラッドの馬が矢に射られて暴れ出し、アシェラッドは慌てて飛び降りた。隣国ブリケイニオグに敵意があるのは明らかだった。

 

その頃トルケルは、セヴァーン川の川岸を進軍する馬車の荷台で暇そうに落ちてくる木の葉を握りつぶしていた。やおら身体を起こしたトルケルは不敵な笑いを浮かべる。

 

本陣に陣取るスヴェン王は、幾多の兵を前にゆっくりと角杯で酒を飲んでいる。

 

すっかり髪の薄くなったレイフは、港で作業をしながらふと目に入った奴隷の後ろ姿にハッとする。小柄な体に金髪のザンバラ髪──繋がれたロープで引き立てられた奴隷は、女の子だった。それを確認して思わず息をつくレイフ。レイフはその奴隷がトルフィンではないかと思ったのだ。

 

絶体絶命のアシェラッドたち。この苦境をどう乗り越えるか!?

 

感想&考察6、黒幕は誰だ?

▲スヴェン王 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

緊張感マックス! こんなとこで回を分けないでくれぇ! と、思わず頭を抱えたくなるところでブツ切ってくれましたね。

 

トルケルの追撃から逃れてようやく一息つけたというのに、今度は隣国の裏切りです。隣国ブリケイニオグは一体どんな意図で裏切ったんでしょう? 当然、モルガンクーグ王国から話は通っていて、だからこそ使いが街道まで出向いているわけです。けっして不審者だと思われているわけではない。

 

モルガンクーグ王国からの話には「ここでクヌート王子を助けてスヴェン王に貸しを作っておけば、不可侵条約を締結できる」と伝えてあるはずです。それはブリケイニオグにとっても悪い話ではないはず。では、いったいどんな思惑があって、こんな真似をしているのでしょう? いくつか考えてみます。

 

1、「トルケルの差し金」説。追跡を吹っ切られて怒ったトルケルが、ブリケイニオグに圧力をかけて王子を捕えるよう指示した?

 

トルケルの性格上、そんな姑息な真似をするとは思えないですね。もしそんな指示を出しているのなら、馬車の荷台でのんびり空なんて眺めていないでしょう。ただ、何事か思いついたような笑みを浮かべたのは気になります。

 

2、「ブリケイニオグの疑心暗鬼」説。もしかしたら、ブリケイニオグとしては本物のクヌート王子ではないと思っているのかも。一旦捕えて、自分の目で確認したいと考えているのかも?

 

これもちょっと考えにくい。使いの者の「──気づいたか。だが、もう遅い」という言葉や、アシェラッドの馬をころしているやり口からして、脅しではなく本気に思えるのですが・・・。

 

3、「スヴェン王の差し金」説。王子に勇敢さが足りないと不満を持っているスヴェン王が、茶番を演じさせた。

 

これまでの様子から、かなりスヴェン王はクヌート王子に不満をもっています。トルケルが陣取るロンドン橋にこれまでの1/5の兵を置いてクヌートを大将に据えて引き上げるなどと、まるで切り捨てるようなことを平気でやっています。だからブリケイニオグに頼んで王子を奮起させるために茶番を演じてもらったとか・・・・。

 

いや、もしかしたら茶番じゃないかもですね。「ナヨナヨ王子なんぞいらん!」ってことかもですね・・・。第1王子がいるからそれで充分だということかも知れません・・・。ブリケイニオグに王子抹殺を命じた──なんてこともあるかも! だとすれば「クヌート王子の首をもって不可侵条約を締結する」なんてこともあるのかも・・・怖い発想ですが、当時の情勢だとなきにしもあらずです!

 

最後に久しぶりにレイフが登場しました。トールズが亡くなったあの日からもう11年。すっかり髪が薄くなり、年を取りました。

 

レイフ「ヘルガさん。トルフィンは、あの子だけは、ワシが必ず見つけ出す。何年かかろうとも──

 

かつてトールズの遺品を渡しにアイスランドの村を訪れたレイフは、こう言って言葉を詰まらせました。それから11年、片時も忘れたことはなかったのでしょう。海賊に捕まれば、生きているなら奴隷になっているはず──そう考えて、金髪の子どもの奴隷を見るたびにトルフィンではないかと思って見てしまうレイフです。

 

はたしてレイフがトルフィンに会える日は来るのでしょうか?

 

[char no=”1″ char=”あいびー”]いよいよ次回から第2クール。OP、EDが新しくなります。第1クールが全体的に素晴らしい出来だったので、このまま完走してほしいですね! 次回タイトルは「英雄の子」。おー! どうやらトルフィンの活躍が観られそうです。楽しみ~^^[/char]

おまけ/やぶた監督から一言

 

第1話~3話まで一気放送だったり、途中で台風のため1週間放送が延期になったり。いろいろありますが、なんとか無事第1クール終了ですね。おつかれさまです。すっごく高クオリティで安心して観ることができます。第2クールも期待していますよー!

 

上の英文を和訳すると「12話をご覧いただいた皆様、ありがとうございました!現場はいつも綱渡りですが( ̄▽ ̄;)皆様のご声援に支えられて何とか乗り越えております!まだまだ面白くなりますので、引き続き2クール目もご覧いただければ幸いです!色々なお話があります!ご期待ください!」。

 

今回、やぶた監督も幸村誠先生も海外の視聴者に配慮した英文ツイッターを積極的に配信しています。今、日本のアニメは世界じゅうで視聴されているので、こういう取り組みはとてもいいですよね^^

 

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