ついにトルケルにクヌート王子の居場所がばれた!シーズン2、第15話「冬至祭り(ユル)のあと」のあらすじ感想考察を紹介します。2019年7月~放送の「ヴィンランド・サガ」は、1000年前の北欧を舞台にヴァイキングの生き様を描いた骨太な物語



第15話/「えーい、なんてこった。早めに言ってくれよ、そういうことはよ!」アシェラッドの計画に暗雲が・・・。

▲厳しい表情で額に汗を浮かべるラグナル 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

#15

冬至祭りのあと

After YULE

 

西暦1013年12月 マーシア伯領グロースター

 

イングランドは冬を迎え、森も野も村の屋根も見渡すばかりの雪景色へと姿を変えていた。指の欠けた右手で舞い落ちる雪片を受け、冬の訪れを嘆く男が一人・・・トルケルだ。

 

トルケル「あぁ雪が降る。戦争が終わる。冬よ、おまえは戦士の心さえ凍らせるのか~。おぉ、冬よー!」

 

背後のドアを開け、アスゲートが訊く。

 

アスゲート「大将、焼き豚と煮豚、どっち食う?」

 

トルケル「両方!」

 

トルケル隊500人はここグロースターで数日を過ごしている。領主の屋敷の食堂で、今日もこれから夕食をとるところだ。

 

トルケル「いやーなんだかんだ言ってさ、あそこで王子に逃げられたのは痛かったなぁ」

 

アスゲート「いやいや、あんたが渡したんだろう」

 

トルケルあの王子は腰抜けだけど、使い道はあったんだよなぁ。あれを担ぎ上げて新王朝を旗揚げとかよ。兵隊集めるだけでも効き目あるぜ

 

アスゲート「ま、あんたが神輿(みこし)の担ぎ手なら、ちょっとした勢力になりそうだな」

 

トルケル「だろう? ──おーい、そこのイングランド娘、ビール樽で持ってきて!」

 

給仕の娘が厨房に伝えると、厨房にいた領主は頭を抱えた。「この街を食いつくす気か!」と。「これじゃ略奪と大差ないっすよー!」と、使用人たちも泣きを入れる。

 

トルケル軍はけっして略奪しているわけではない。イングランドのために戦ってくれているトルケル軍を、領主として無下にできないだけだ。しかもいくら不満があろうと、剛腕のトルケル軍500人を相手にできる者などイングランドにはいない。しかし、食料供給のない冬に大食いの500人の戦士に駐留されてはたまったものではない。

 

トルケル「どーせ王子取られんだったら、イングランド軍にくれてやっても良かったなぁ」

 

山と積み上げた空き皿を乗せたテーブルで酒を飲みながら、まだ王子を渡したことを悔やんでいるトルケル。その向かい側で、アスゲートが笑い声を上げる。

 

アスゲート「困った人だな、あんたは。戦争が下火になると、そうやってまた火種を探す」

 

トルケル「ったりめぇよ、この野郎! オレたちは戦士だぜ。戦士は戦場でいてこそ戦士だ」

 

アスゲート「だがよ、それに関しちゃチト悪い噂を訊いたぜ。今度ウェセックスの賢人会議でな、スヴェン王がブレトワルダとして認められるそうだ

 

トルケル「はぁ? それって全面降伏じゃん!

 

アスゲート「だな。デンマークがイングランドを飲み込むんだ。貴族どもは王権を捨ててでも、戦争を終わらせたいらしい」

 

トルケル「あぁ~、悪い予感ってのはどうしてこう当たるのか」

 

アスゲート「どうする? 玉砕覚悟でスヴェン王軍にかちこむかい?」

 

トルケル「あほぉ! オレぁ喧嘩は大好きだが、負けるのは大嫌いだ。やるなら勝ちに行く!・・・あぁ~つまんねぇなぁ。世界中がずーっと喧嘩してたらいいのになぁー!」

 

戦争が終わると訊きため息をこぼすトルケルの後ろで、勢いよく扉が開いた。

 

伝令「伝令だ。領主さまはおられるか!」

 

今回のテーマは、表面上は「ラグナルの遺言」です。が、もう少しふくらませて「父の愛」としました。サブテーマを「トルケルの切ない想い」とでも!

 

前回は、雪に降りこめられたアシェラッドが、しばしの休息を得るために農村を襲撃し、善良な村民をみなごろしにしたという後味の悪い回でした。アシェラッド隊は、まだこの村に留まっています。

 

続く今回では、さまざまな父親像が描かれます。それは「我らが父」と呼ばれる神の愛だったり、デンマーク王スヴェンのクヌートへの想いだったり、トールズのトルフィンへの想いだったりします。父の愛に思いを巡らせながら観て行きましょう。

 

サブテーマは「トルケルの切ない想い」としました・・・そうです、トルケルはスヴェン王が愛しくて愛しくてたまらない! いや、正確にはスヴェン王との喧嘩を続行したくてたまらない。相変わらずの喧嘩バカです。この単純明快な思考のトルケルの思惑にも注目です!

 

▲トルケル軍が駐留するグロースターとアシェラッド隊が潜む村の所在地図 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

スヴェン王はベッドで食事をしている。若い女が肉をひと切れ、またひときれと、王の口に運んでいる。あらわになった王の半身には、数限りない傷跡が浮いている。

 

スヴェン王「そうか、クヌートはしんだか」

 

フローキ「いえ、正確には行方不明とのことです。ラグナル隊はクヌート王子の救出を試み、マールバラにてトルケル軍と交戦。混乱の中、王子殿下の消息も途絶えました」

 

スヴェン王「おぉ、では、いまだトルケル軍に囲われておるのではないか?」

 

フローキ「は。ですが、その後2日間、殿下とおぼしき姿は敵軍中に認められずとのことです」

 

スヴェン王「生き延びて救助を待っておるやも知れんが、助けを送るとしても、春まで待たねばならん」

 

直立不動のまま目を伏せ、神妙なおももちでフローキは言う。

 

フローキ「王陛下におかれましては、ご心中いかばかりかと」

 

スヴェン王クヌートがもし、兄のハラルドを上回る器量を持ち合わせていたならば、行方知れずになどならずに済んだかも知れんな

 

 

マーシア伯領北部 アシェラッド兵団占領下の農村

 

すっかり葉を落とした木に登り、耳は周りを警戒している。「異常はねぇか?」と訊ねるアシェラッドに対し、「雪が音を吸うんだ。さすがのオレでも聞き取れる範囲は狭くなる」とこぼしている。

 

その傍らでは、神父とクヌート王子、そしてラグナルが雪にひざまずき木で組んだ粗末な十字架に祈っている。村人たちの墓のつもりなのだ。

 

神父ヴィリバルド「いと高き方、天にいます我らの父よ、ここに眠る村人たちの魂をどうか御許にお召しください。この者たちをあやめし者たちの魂をお救いください。わたしどもの罪をお許しください」

 

護衛のトルフィンは、すぐ側にある井戸の木枠に座りいつものように短剣の手入れに余念がない。聞こえてくる神父の言葉に「フン、他人のために祈ってる場合かよ、てめぇら」と、口を歪める。なおも神父は言葉を続ける。

 

神父ヴィリバルド「父よ、わたしの声はあなたに届いているのでしょうか? 我らの父よ、あなたは、あなたの姿に似せてわたしたちをお創りになった。でもその力を分けてはくださらなかった。父よ、あなたが善き者も悪しき者も等しく愛されるというのなら、なんのために無力なわたしたちを試されるのですか? 父よ、わたしの声はあなたの耳に届いているのでしょうか? われらの父よ、わたしはあなたの愛を、疑っています

 

クヌート王子「やめよ! 父を疑うだと? そなたそれでもキリスト教徒か? 恐れを知るがいい。我らが父の愛を疑ってはならぬ! 我が子を、我が子を愛おしく思わぬ父親など、いない

 

激しい口調だった。これまできいたこともないほどの激しい口調でヴィリバルドに反論すると、クヌート王子は踵を返して立ち去った。その剣幕にラグナルは驚き、あわてて後を追った。

 

トルフィンは布で磨いていた短剣に目を落とす。その刃にそっと触れ「父上」と呟いた。

 

感想&考察1、クヌートの激昂には、裏があるのかも・・・?

▲険しい表情でヴィリバルドを非難するクヌート 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

まず驚いたのが、スヴェン国王の傷跡の多さです! 身体じゅういたるところに切り傷があって、今はさすがに前線に立つことはないけれど、若い頃にはさぞや勇敢に戦ったのだろうことがうかがえます。もうひとつ強く感じたのが、老いです。小さく切った肉片をひとつづつ口に運んでもらいながら食べる様子は、介護を受けている老人にしか見えません。そろそろ跡目も考えなければならなさそうです。

 

一方、スヴェン王の第2王子クヌートはというと。アシェラッドたちが虐殺した村人たちのため墓をつくり、神父、ラグナルとともに神に祈りを捧げています。「わたしどもの罪をお許しください」と。ここでのシーンはちょっと面白かったですね。

 

神父ヴィリバルドわれらの父よ、わたしはあなたの愛を、疑っています

 

神父とは思えないこの言葉。信仰心が強ければ強いほど、人の痛みに寄り添い共感する能力が高ければ高いほど、今回の農村襲撃は耐えられないものだったでしょう。なんとか村人を救いたいと奮闘するも、結局ただの一人も救えなかった事実に、神父は深い悲しみと自らの無力への憤りを感じているはずです。聖職者であるヴィリバルドの人間としての苦悩が凝縮されていて、とてもリアルで興味深かったです。

 

今回の感想で、とある外国人の方が書いていました。「常に疑い、乗り越えることが信仰だ」と。敬虔なクリスチャンである、わたしの義姉もかつて言っていました。「神は乗り越えられない試練はお与えにならない」と。大きな試練であればあるほど「あなたなら乗り越えられる」と、神に見込まれたと捉えるのだそうです。

 

──なんだかマゾいですよね。常に自分と向き合うことを強いる、禅問答みたいなところがあるんですね、キリスト教にも。この先ヴィリバルドがこの試練をどう乗り越えていくのか、それも見守っていきたいところです。この人、今はクヌート王子の教師ということになっていますが、もしかしたらトルフィンの心を動かす役目も帯びているのかなぁ? と、ちょっと思ったりもしました。

 

で、神父の言葉にクヌート王子激昂!

 

クヌート我が子を愛おしく思わぬ父親など、いない!

 

と、今まで見たこともないほど激しく声を荒げるわけですが。クヌートは父スヴェン国王の愛情をしっかり感じているということなのですね──いや、それとも逆の意味あいかな?

 

父王の愛情にクヌート自身が疑問をもっているから。それを信仰心で必死に押さえつけているのに、神父のヴィリバルドの口から父(神)の愛を疑問視する言葉をきかされ思わず逆上してしまったということかも・・・。「我が子を愛おしく思わぬ父親など、いない!」というクヌートの言葉も、必死で自分に言い聞かせようとしているとも取れます。だとすると、かなり痛々しい。

 

近くにいたトルフィンも、ふと父・トールズに思いを馳せます。とてつもなく大きな存在だった父。愛情深く、自分たちを救うために命を投げ出した父。トルフィンが父の愛を疑うことなど微塵もありません。

 

たった一人の生き残り「アン」がトルケルを動かす!

▲アンは生き延びて村の惨状を伝える 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

場所は変わってトルケル軍の駐留するマーシア伯領グロースター。領主は伝令の言葉をトルケルに伝える。

 

トルケル「デーン人の部隊? マジか?」

 

領主「はぁ。伝令はそのように。セヴァーン川上流の小村を占領しているらしく、地元領主から援軍の要請が来ておりまして。生き残った村民の話によると、敵兵はおおよそ100~200。すでに近隣の兵が向かっておるそうですが、ここは武名とどろくトルケル閣下にも、ゼヒ」

 

もちろん「生き残った村民」はアンだ。アンが近隣の村に、アシェラッド隊のことを伝えたのだ。

 

トルケル「どう思う?」

 

アスゲート「どうもこうも。この季節、その位置に単独行動のデーン人部隊など、そういくつもねぇだろうよ」

 

トルケル「海路と見せかけて陸路でゲインズバラへ。雪に降りこめられて休息中ってとこか」

 

アスゲート「十中八九は」

 

意を決したようにトルケルは立ち上がる。

 

トルケルトルフィンとクヌートだ。よぉし、全員起こせ。進軍用意! ──それと。おいあんた、弁当の用意頼むぜ。500人前を~5日分でいいや」

 

ようやくここを出て行ってくれると喜んだのもつかの間、領主はまた悲嘆にくれた。

 

トルケル「よぉし、よし。面白ぇぞ~この喧嘩、上手くするとまだまだ楽しめるかもなぁ

 

トルケルは嬉しそうに歯をむいた。

 

感想&考察2、当時の勢力図や、トルケルとアシェラッドの位置を解説

▲当時のイギリス勢力図

 

ここでもう一度、1013年当時のイングランドの地図と歴史を整理します。

 

イングランドは5世紀~9世紀にかけて7王国時代と呼ばれます。上の地図で①~⑦にナンバリングしてある7つの王国が並び立つ時代です。ヴィンランドサガの時代で最も重要なのが⑦のウェセックス王国で、ウェセックスのアルフレッド大王により9世紀にイングランドは政治的に統一されました。そのため、これ以降それ以外の王国は「~伯領」と呼ばれています。

 

つまり旧マーシア王国は「マーシア伯領」と呼ばれています。

 

今、トルケル軍は、ピンク色の点で示した「マーシア伯領グロースター」にいます。クヌート王子を連れたアシェラッド隊を猛追していたけれど、セヴァーン川を渡って逃げられてしまい、目標を失ってまだその辺りに駐留しているのですね。

 

グロースターの南にはウェセックスがあります。ここがこの戦争の本丸ですね。イングランド側としては最後の砦なわけです。しかし季節は冬を迎え、戦争は春まで一時中断です。翌春には、デンマーク側は猛攻撃をしかけるでしょう。

 

こういう状況のなか、アスゲートの情報によると「今度ウェセックスの賢人会議でな、スヴェン王がブレトワルダとして認められるそうだ」とのこと。ブレトワルダとは、日本語にすれば「覇王」とか「王の中の王」となるそうで、要はウェセックスの王よりも上の位置にスヴェン王をつけるということ。まぁ、かっこつけた言い方してるけど全面降伏ですね。

 

感想&考察3、トルケルの思惑

▲トルケル(右)と副将アスゲート(左) 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

トルケルって単純明快。とにかく本気の喧嘩がやりたくてたまらない。そのためなら、デーン人でありながら同胞デーン人を裏切りイングランド軍につくほどの喧嘩バカです。ところが悲しいことに、イングランドの全面降伏で戦争が終わってしまうらしい。

 

すっかりつまらなくなったトルケルは、どうやったらもっと喧嘩ができるか考えます

 

トルフィンが盟友トールズの息子と知り、つい嬉しくてクヌート王子をトルフィンに渡してしまったわけですが、今になってそれを後悔しています。

 

トルケルあの王子は腰抜けだけど、使い道はあったんだよなぁ。あれを担ぎ上げて新王朝を旗揚げとかよ。兵隊集めるだけでも効き目あるぜ

 

大きいこと考えてますねー。デンマークの第2王子を旗印に内乱を画策しているわけです。クヌート側につくデーン人もいるだろうし、イングランドのために戦ってきたトルケルがバックについているのだからイングランド側からも兵を集められるかも知れません。デンマーク軍を弱体化させつつ自軍を増強させる・・・たしかにこれなら、まだまだトルケルは楽しめそうです。

 

そこに飛び込んできたアシェラッド隊の立ち往生の知らせ。アシェラッドたちが潜伏している村は、地図でいうとグロースターの北に記したピンク色の点のあたりです。もう少し東に行けばデーン人居住地区のデーンロウに入りますが、敵陣の端で雪のため動けずにいます。

 

──スヴェン王との喧嘩を続行するため、クヌート王子の奪還めざして、トルケルとしては行くしかないでしょう! アシェラッド隊100人に対してトルケル軍500人! いや~、これどう考えてもアシェラッドに勝ち目なしですよね! それとも、いつもの機転で何とか乗り切るか? ついにアシェラッドも運に見放されたか?

 

人には言えない、クヌート王子の趣味

▲スープの味見をするクヌート王子。女子力高いよ! 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

耳が異変をキャッチした。人数はそう多くない。「50か100か、林伝いに包囲線を伸ばしてる」と、アシェラッドに伝える。それを受け、アシェラッドは大工に逃走用のソリ造りを急かせた。今夜にも出発する予定だと。50人や100人のイングランド兵に負けるアシェラッド隊ではないが、後からやってくるに違いないトルケル軍はいただけない。一刻も早くこの地を離れなければ!

 

さらにアシェラッドはビョルンに指示を出す。

 

アシェラッド「ビョルン、ごろつきどもに応戦の体制を取らせろ。指揮官は捕えるぞ。なんでバレたか知りてぇ」

 

「了解」と立ち去ろうとしたビョルンをアシェラッドが引きとめる。

 

アシェラッド「あぁっと、待てビョルン。もう一つ。いい機会だ、ついでにアレやるぞ

 

うさぎを一羽、肩にかけて歩いているトルフィンをラグナルが呼び止めた。「肉だけのメシは良くないぞ、野菜と一緒に煮込め」と。ラグナルが手にする籠にはキャベツが載っている。「るっせぇなぁ、オレのメシをオレがどう食おうと勝手だ!」と、いつもの調子で応えるトルフィン。

 

それでもしぶしぶラグナルについて家に入ると、髪を束ねたクヌート王子が料理をしているところだった。うさぎを処理して野菜を加え、出来上がった料理にトルフィンは目を丸くする。湯気を上げる肉と野菜のスープにパン、ワインもある。

 

ラグナル「うーん、粗末な食材の割にはなかなか」

 

クヌート王子「うさぎのおかげだ。塩漬け肉には飽いていた。礼を言うぞ──どうした? 遠慮するな、そなたのうさぎだ」

 

おそるおそる一さじ口に運び、堰を切ったように掻きこむトルフィンの様子を、ラグナルは面白そうに眺めている。

 

ラグナル「はっは、美味かろうが。次は鹿でも取ってこい!」

 

トルフィン「貴族ってのは食うばかりだと思っていたぜ」

 

クヌート王子「趣味だ。普段は作らぬし、ラグナルの他はだれも知らぬ。そなたも口外してはならぬぞ」

 

トルフィン「別に悪かねぇだろう」

 

「むかしに、タラの料理を作ったときにな──」ワインの杯に手をかけたまま、王子はまだ幼かった頃のことを話し始める。

 

クヌート王子「むかしに、タラの料理を作ったときにな──良いできだったので、父王陛下にもっていったことがある。だが陛下は、召し上がるどころか、激しくお怒りになった。王の子がいやしき奴隷の真似事をするな、と。以来ボクは、料理などせぬことになっておる。王の子には、こんな技など必要ないのだ」

 

ラグナルが、慰めるように言う。

 

ラグナル「あの頃は、王陛下もお忙しかったのでしょう。戦が終わったら鳥料理でも作ってお持ちしましょう。きっと喜んでくださいます」

 

鶏はどうだ鴨はどうだと、楽しそうに料理の話をするクヌート王子とラグナル。その隣でスープを飲むトルフィン。思いがけず訪れたおだやかな時間を、それぞれが楽しんでいた。

 

アシェラッドがビョルンに話した「アレ」

 

そこに伝令が飛び込んできた。イングランド兵がやってきて戦闘が始まったと。

 

伝令「とにかく、イングランド兵を蹴散らしたら、移動しますんでよろしく」

 

ラグナル「だから始めからウェールズに引き返せと」

 

伝令「いや、向かうのはダービーっす」

 

ラグナル「この期に及んでまだ敵地を進むと抜かすか! アシェラッドを連れてこい。今すぐだ!」

 

伝令「今は前線で指揮を執ってます。話しがあるならご自分で出向けばいいんじゃないですか? 案内しますよ」

 

ラグナルは怒り心頭。「首領が首領なら部下も部下だ、口のきき方も知らん!」と一足ごとに毒を吐きながら、2人の伝令に続いて林の中を行く。──と、ラグナルはおかしなことに気づいた。アシェラッドがいるはずの前線に向かっているはずなのに、戦闘のざわめきが右の林の向こう側から聞こえてくるのだ。

 

ラグナル「おい、おーい! ときの声はあっちから聞こえるぞ」

 

伝令「やっと気づいたか。にぶいねあんた」

 

足を止めた伝令が振り向いて言った。ラグナルは「きさまら何を──」といぶかしげにしたかと思うや、事態を察知して剣を抜いた。──が、剣をさやから抜ききる前に、雪に忍んでいたアシェラッドの部下が繰り出した槍がラグナルの腹を貫いていた。

 

伝令「すまねぇなトンガリ頭。アシェラッドの命令なんでね。──やるかい? オレらは構わねぇけどよ、どうせ助からねぇ」

 

ラグナル「アシェラッドをここへ呼べ。大事な話がある。いいから呼べ。王子殿下に関わることだ。直接話す。急げ!」

 

クヌート王子に関わることときき、「うかがいましょう、その遺言」と、近くに忍んでいたアシェラッドが姿を現した。人払いして二人は話し始める。

 

アシェラッド「貴殿には感謝しています。あの腰抜け王子をよくぞ今日まで生かしてくださった。そして貴殿の死がさらなる成長を促すでしょうお役目は、今日からわたしが引き継ぎます。イングランド兵にころされた貴殿の代わりにね

 

ラグナル「キサマの神に誓え。不足なくワシの後を引き継ぎ、なにがあろうとクヌート殿下をお守りすると」

 

仕方ないとでも言いたげに一つ息を吐き、アシェラッドは右手を上げて誓いの言葉を述べた。

 

アシェラッドなにがあろうとクヌート殿下をお守りし、戦士ラグナルの意義ある死に報いる──ご満足かな?」

 

ラグナル「口惜しや。キサマなどに殿下を託そうとは」

 

アシェラッド「急がれた方がいい。血をだいぶ失っておられる」

 

ラグナルの足を伝った血が雪を染めている。息を乱してラグナルは、絞り出すように語りだした。

 

ラグナル「ゲインズバラに着く前に、心構えをしておけ。*イェリングの廷臣たちは今、次代のデンマーク王の座を巡って大きく2派に分かれておる。クヌート殿下は一方の派閥の旗頭にされておる。もう一方はクヌートさまの兄君のハラルドさまだ。りょ・・・両殿下のご意思など関係ない。奸臣どもの勝手な勢力争いだ。そして王陛下は、デンマーク王国の分裂を恐れたのだろう。おそらく一つの決断を内心に下された。両殿下のうち、どちらかをころそうと

 

*「イェリング」は、ヴァイキングの玉座が設けられている場所。現在ではユトランド半島の小村。

 

アシェラッド「スヴェン王が王子を?」

 

ラグナル「こたび王陛下が殿下を戦場へ伴ったのは、殿下を戦死させるためだ。心せよ。クヌート殿下の真の敵は、今や御父上のスヴェン王陛下その人なのだ。ぼ、亡命しろ。もはやそれしかない。ゲインズバラにワシの弟が段取りをつけてお・・・・」

 

ラグナルは気丈にそこまで言うと、血を吐き雪に倒れ込んだ。驚いた表情でラグナルの言葉を訊いていたアシェラッドは、思わず頭に手をやり、敬語すら忘れていまいましげに言う。

 

アシェラッド「えーい、なんてこった。早めに言ってくれよ、そういうことはよ」

 

虫の息のラグナルは「一目殿下にお別れを」と懇願するが、アシェラッドは冷たく「ダメだ」と言い放った。

 

感想&考察4、ラグナルの遺言

 

アシェラッドがビョルンに話した「アレ」は、ラグナルの排除でした。ラグナルが遺言を残すことを想定していたのでしょう。アシェラッドはラグナルを罠にかけるあたりに潜伏し、イングランド兵との戦闘指揮はビョルンに任せているようです。

 

ラグナルはクヌート王子が幼い頃から仕えてきた忠実な従者です。しかしもともと王子が優しい性格だったうえにキリスト教を教えたために、クヌートはデーン人らしい勇猛さのない人間に育ちました。それがスヴェン王には不満です。スヴェン王は、その責任の一端はラグナルにあると第9話で叱責しています。

 

追撃するトルケルから逃げるために、セヴァーン川を越えウェールズに渡ったアシェラッドたち。そこで出迎えてくれたモルガンクーグ王国のグラティアヌス将軍も、ラグナルがクヌート王子を甘やかしすぎだと第13話で指摘しています。

 

グラティアヌス将軍「──あの男、ラグナルと言ったか。ヒナ鳥もいつかは巣立つということを知らんな。あれでは却ってヒナに良くない。計画のために、おまえのやるべきことは多いようだな。まずはヒナを巣立たせることか

 

ヒナはもちろんクヌート王子のことです。グラティアヌス将軍のこの発言に対してアシェラッドは「はぁ、心得ております」と返事しています。今回の凶行は、このときのグラティアヌス将軍の発言を実行に移したというところでしょうか。

 

貴殿の死がさらなる成長を促すでしょう」と言っていることからも、アシェラッドはクヌートを成長させるためにラグナルを排除したにすぎません。

 

でも、予想外の遺言が飛び出してきましたね。

 

年老いたスヴェン王の跡目を巡って、廷臣は長男のハラルド王子派と次男のクヌート王子派で2分されている。そしてスヴェン王は、デンマーク王国の分裂を嫌い、次男のクヌート王子をころそうと目論んでいる。もうクヌート王子には亡命しか道がない──と。

 

そんな事情をまったく知らなかったアシェラッドは、少なからず動揺しています。スヴェン王がクヌート王子をころそうとしているのなら、このままノコノコとゲインズバラに王子を連れていったところで、アシェラッドが重用される道はありません。

 

クヌート王子をイングランド王に据え、ウェールズと不可侵条約を結ぶというアシェラッドの目的にたどり着くまで、まだまだ高い障壁がいくつも立ちふさがっていそうです。

 

感想&考察5、トルケルをどうやり過ごすか!?

 

さてさて。アシェラッド隊は、ついにトルケルに居場所を知られてしまいました。50人ばかりのイングランド兵を倒して、さっさと逃げる予定のアシェラッドたちですが、ソリの準備がまったく間に合っていません。トルケル軍はしっかり準備をしてくるだろうし、なにしろ人数が5倍です。まともにやって勝てる相手ではありません。

 

絶体絶命! なわけですが。ここでアシェラッド隊に全滅してもらうわけにも行きません。なにしろアシェラッド隊には主人公のトルフィンがいます。さらにアシェラッドにはクヌート王子を担ぎ上げてイングランド王に据えるという大望があります。

 

アシェラッドはトルケルに敗れ、志半ばで命を散らした・・・なんて、ここまで盛り上げておいて、それはないでしょう~! それじゃ、どうやってトルケル軍をやりすごすか?

 

またアシェラッドの策略がピタリと当たってうまく逃げることができるのか? とも思ったのですが、なんとなく違うような気がしますね。同じことをそう何度も繰り返さないでしょう。そういえば、トルケルこんなことを言っていましたね。

 

トルケルあの王子は腰抜けだけど、使い道はあったんだよなぁ。あれを担ぎ上げて新王朝を旗揚げとかよ。兵隊集めるだけでも効き目あるぜ

 

あれれ? これって、王子をゲインズバラに連れて行っても仕方がなくなってしまったアシェラッドには、渡りに船! じゃないですか! トルケルは喧嘩を続行できるし、アシェラッドはトルケルという心強い味方を得て自力でクヌート王子をイングランド王に据えることができる! アシェラッドとトルケルがちゃんと話し合いできれば、手を組むって線もアリだと思うのですが──。さてさて、どうなりますか!?

 

しかし王子さまつかまえて「使い道」だの「あれ」だの。「クヌート」という個人はどうでもよくて、「スヴェン王の息子」というそれだけで勝手に周りの人間があれこれ利用しようと画策する。王子さまも大変だ。

 

ラグナル「バカな。この場に殿下を助けに来る者など──。しかし、なぜ、なぜ殿下にはいつもこうまで選択の余地がないのか

 

第11話で、トルケル軍に囚われていたクヌート王子を単身、救助に現れたトルフィンを前に言ったラグナルのセリフです。今から振り返ってみれば、含みの多い言葉だったわけですね。

 

感想&考察6、余計な詮索かも知れないけれど・・・。

▲デンマーク国王スヴェン陛下の思惑は・・・? 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

ラグナルの遺言に関して、ちょっと気になることがあります。ラグナルの遺言には、事実と想像が混じっています。

 

イェリングの廷臣たちは今、次代のデンマーク王の座を巡って大きく2派に分かれておる。クヌート殿下は一方の派閥の旗頭にされておる。もう一方はクヌートさまの兄君のハラルドさまだ。

 

これは事実

 

そして王陛下は、デンマーク王国の分裂を恐れたのだろう。おそらく一つの決断を内心に下された。両殿下のうち、どちらかをころそうと。

 

これはラグナルの想像。ラグナルはそう感じていたようだけど、本当にそうなんだろうか?

 

第12話のラストで、ブリケイニオグ王国の使者アッサーが、兵を引き連れてきたとき、じつはスヴェン王が黒幕で、「ブリケイニオグに王子抹殺を命じた」なんて想像をしてしまったわたしですが──。たしかにそんなことを考えてしまうほど、スヴェン王はクヌート王子に冷たい態度を取っていると思えたんです。

 

でもそれに続く第13話で、フローキから王子が安否不明だと訊かされたとき、スヴェン王はこう言ったんですよね。

 

スヴェン王余の大事な息子だ。状況が分かり次第、すぐに伝えよ

 

さらに、今回もこう言っています。

 

スヴェン王生き延びて救助を待っておるやも知れんが、助けを送るとしても、春まで待たねばならん」

 

クヌートをころそうと決心しているなら、こんな言い方するかな? もしかしてラグナルの思い違いじゃなかろうか・・・と、そう思うのですがねぇ。どうなんでしょ?

 

おまけ

 

BD DVD Vol.1の描き下ろしジャケット美しい~! オーロラの下の本当の父親トールズとチビトルフィン、月光の下の育ての父親アシェラッドとクソガキトルフィン。いい画です♪

 

 

マンウィズのOP楽曲がシングル発売されたそうです。そのジャケットが・・・左のトルフィンはいいとして、右のクヌートが~~~! なんか目つき超厳しくてりりしいんですけどっ! やっぱりこの先、クヌート化けるのかっ!?

 

あいびー

話数が進むにつれ書きたいことが増えてしまって、どうも更新が遅れ気味です。がんばって追いつきま~す!

 

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