トルケルは追ってくる、脱走者に続き仲間割れから兵団崩壊。まさに弱り目に祟り目!シーズン2、第16話「ケダモノの歴史」のあらすじ感想考察を紹介します。2019年7月~放送の「ヴィンランド・サガ」は、1000年前の北欧を舞台にヴァイキングの生き様を描いた骨太な物語



第16話/知将アシェラッド大ピンチ! ここをどう切り抜ける?

▲迫るトルケル! 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

#16

ケダモノの歴史

History of Beasts

 

イングランド人襲撃の後、クヌート王子が滞在している家のテーブルにラグナルの身体が寝かされている。血しぶきの跡はあるものの、きちんと目を閉じ胸に組んだ両手の下には豪華なしつらえのラグナルの剣が載せられている。

 

アシェラッド「イングランド兵数人を相手に、獅子奮迅のご活躍でしたが、背後からの槍にあえなく・・・。ご胸中ご察しいたします殿下」

 

ぬけぬけと神妙そうに述べるアシェラッドの後ろには、ビョルンが黙って立っている。

 

クヌート王子「うさぎの煮込みを食べていたんだ。途中、飛び出して行って──あれ、変だなさっきまで・・・だって・・・」

 

王子はただ驚き、そこまで言うと床にへたりこんだ。王子の隣でトルフィンは、顔色ひとつ変えずラグナルから王子の様子に視線をやる。

 

アシェラッド「すぐに出発します。ご用意を。トルフィン、ぜったいにおそばを離れるなよ」

 

トルフィン「あ? じょ、冗談じゃねぇ。やだぜオレは。まてよ、おいテメェ!」

 

幼い頃から育ててくれた父親代わりのようなラグナルを失い、悲嘆にくれる王子の面倒など見たくないのだろう。トルフィンは猛然と嫌がるが「王子の護衛はおまえの仕事だろう」と、アシェラッドは取り合わない。

 

外は晴れ、葉を落とした梢の間から白い月がのぞいている。

 

ビョルン「腰抜かしてやんの! 大丈夫か? あのヘタレ王子、裏目ったもかぜアシェラッド、ラグナルをころしたのはまずかったんじゃねぇか?」

 

アシェラッド「でけぇ声で話すな。手下どものほとんどは事情を知らん。やったのはあくまでもイングランド兵だ。ボロを出すなよ」

 

ビョルン「どうかねぇ。あんたラグナルとはソリが合わなかったからなぁ。いくらヘタレでも気づくんじゃねぇの?」

 

アシェラッド「証拠がなければいいのよ。王子がヘタレなのは、ラグナルが甘やかすからだ。適当なところで消えてもらわにゃオレが困る

 

ビョルン「ヘタレで結構じゃんか、扱いやすいぜ? 王子を足掛かりに出世するのにもってこいだ」

 

アシェラッドは自分のことを何も話さない男だ。ビョルンに自分の計略を話したとも思えない。が、さすが長らくアシェラッド隊で副将を務めるビョルンだ。アシェラッドの心づもりは承知しているようだ。ふとアシェラッドは足をとめ、ビョルンを振り返った。

 

アシェラッド「ビョルン、おまえが今日までオレについてきたのは何でだ?」

 

ビョルン「はぁ? そりゃぁ、まぁ。オレがついて行きたかったからだよ」

 

アシェラッド「オレもさ。オレもオレの主を選ぶオレの主は、オレが付いて行きたくなるような男であるべきだ──なぁんてな。博打だよビョルン。うまくすりゃぁ、あの王子さま生まれ変わるかも知れん」

 

ビョルン「上手くいかなかったらどうするよ? 野郎、あのまま凹んじまって立ち直らんかも知れねぇぜ」

 

アシェラッドふん。そんときゃぁ、見捨てるさ。オレの主の資格はねぇ

感想&考察1、アシェラッド二人目の子育て方法も、トルフィンのときと同じスパルタで!

 

クヌート王子にしてみれば、幼い頃から付き従い育ててくれたラグナルは育ての親のようなものです。ついさっきうさぎの煮込みを美味しい美味しいと食べていたラグナルが、今は物言わぬ骸となり果てているのを見て、ただただ驚き混乱しています。まだ現実を受け入れ悲しみに至る前の状態。悲嘆にくれるのはこれからでしょう。

 

自分が命じておいていけしゃぁしゃぁと「イングランド兵数人を相手に、獅子奮迅のご活躍でしたが、背後からの槍にあえなく・・・。ご胸中ご察しいたします殿下」と言うアシェラッドの表情は、言葉とは裏腹に感情がない。

 

クヌート王子の護衛を命じられているトルフィンですが、この先、悲しみに泣き叫ぶのかもしれないクヌートのお守りなんて御免こうむりたいのでしょう。一緒にいるのを全身で嫌がっていますね。たぶんトルフィンは勘づいているでしょう。これはアシェラッドの謀略だと。それならなおさら、どんな顔をして接すればいいのか困ってしまいます。トルフィン、こういうところはアシェラッドのように冷酷になりきれません。なにしろまだ17歳です。

 

王子のヘタレを厚生しようと考えているアシェラッドにビョルンは言います。

 

ビョルンヘタレで結構じゃんか、扱いやすいぜ? 王子を足掛かりに出世するのにもってこいだ

 

たしかにそうですよね。権力があるだけで言いなりな王子の方が扱いやすい。自分は安全なところにいて、裏でしっかり王子を操っている方が何かとやりやすいはず。ところが、ここはアシェラッドのこだわりですね。

 

アシェラッドオレもオレの主を選ぶ。オレの主は、オレが付いて行きたくなるような男であるべきだ──なぁんてな。博打だよビョルン。うまくすりゃぁ、あの王子さま生まれ変わるかも知れん」

 

本音を口走ると、すぐにこうやって茶化した口をきく。ここ、まるでトールズに決闘で負けた後に「オレらの首領にならないか」って言ってすぐに茶化して取り消したときと同じです。

 

「オレの主は、オレが付いて行きたくなるような男であるべきだ」というアシェラッドのこだわりは、諸刃の剣のような気もします。王子が生まれ変わってものすごいキレ者になっちゃったら、いずれ今回のアシェラッドの謀略に気がつくかも知れないし、アシェラッドの言うことなど聞く耳持たない王子になってしまうかも!

 

ともあれアシェラッドはラグナルの代わりに王子を鍛えることにしました。そのやり方は、どうやらトルフィン方式ですね。難題をふっかけて、それで潰れるならそこまでと見切りをつけるスパルタなやり方──トルフィンは常に難題に応える優秀な子だったけれど、はたしてクヌート王子はどうですかね?

 

今回のテーマは「仲間割れ」。サブテーマに「復讐の連鎖」を選びました。

 

冬の宿と食糧を得るために、とある小村を襲い村人をみなごろしにしたアシェラッド隊。ヴァイキングの常套手段で、これまで何度となく繰り返してきた蛮行なので、アシェラッドに何のうしろめたさもありません。しかし、これまでどんなピンチも上手く切り抜けてきたアシェラッドですが、ちょっと雲行きが怪しくなってきました。

 

みなごろしにしたとばかり思っていた村人に一人だけ生き延びた者がいました。アンです。アンは近くの村までたどり着き、アシェラッドたちのことを伝えます。これを聞いたイングランド兵たちがアシェラッドたちを襲ってきました。イングランド兵を退けたアシェラッドは、この混乱に乗じて以前から意見の食い違いを見せていた王子の近従ラグナルを排除。

 

今回は、これまでほとんど負け知らずだったアシェラッドをつぎつぎ苦難が襲います。まさに「弱り目に祟り目」。アシェラッド、大ピンチです!

 

今回のテーマは分かりやすく「仲間割れ」。タイトルは「ケダモノたちの歴史」ですが、これを言い換えて「復讐の連鎖」をサブテーマとしました。これについては、後ほどの考察でまた取り上げます。

 

 

アシェラッドの言いつけに従い捕えたイングランド兵の隊長を、アシェラッドの手下たちが痛めつけている。「蹴りってのはこうやるんだ」「おめぇこそヌルイよ、次はオレにやらせろ」と、よってたかっていびっている手下たちをアシェラッドが止める。

 

アシェラッド「まてまて。ったく、手加減しなさいよきみたち。ころしちまったら何も訊き出せないでしょう」

 

アシェラッドはアンの存在を知らないので、どうして自分たちのことがバレたのか、それを訊き出したいのだ。アシェラッドは手下にハサミを取ってこさせた。

 

アシェラッド「さて。繰り返すぜイングランドの隊長さん。訊きたいことは3つ。援軍の規模と、それらがここに到着するまでの時間、それとオレたちの存在をどうやって知ったかだ。話せば助けてやろう」

 

イングランド兵の隊長ケダモノめ。きさまらには裁きが、相応しい最期が待っているぞ

 

アシェラッド隊長さん、あんた爪伸びてんな。不衛生だ。少し切った方がいい──あ、ごめん。深爪しちゃった」

 

傷みにのたうつ隊長の前にしゃがみ、アシェラッドは手下たちに「押さえてろ」と命じてもう一度さっきの言葉を繰り返す。「訊きたいことは3つだ──以下略」。さらに2本の指を切り落とされ隊長は絶叫する。

 

ふぇー、えげつね!」と、アシェラッドの拷問にビョルンすらげんなりしている。

 

イングランド兵の隊長「地獄に堕ちろデーン人ども。きさまらさえ、きさまらさえ来なければ、オレの村もきさまらに焼かれた。妻も娘のなぶられて殺された。ケダモノめ、ここはオレたちの土地だ、出て行けー!」

 

アシェラッド「ふーん、あぁそう。ボクたちケダモノですか! 無知なおまえたちに、ひとつ歴史を教えてやろう」

 

血をにじませ腫れあがった顔で憎々しげに呪いの言葉を放つイングランド兵の隊長を、眉ひとつ動かさずに見おろしていたアシェラッドは、「ありがたく訊けよサクソン人」と言い立ち上がった。

 

アシェラッド「いや、このあたりの住人はアングル人か? まぁ、どっちでも同じか。この土地はもともとは、おまえらのモノじゃないんだよ。最初の住人はケルト人だ。森に暮らし、精霊をあがめていた。今のウェールズの民の先祖だ。やがてローマ人がやってきた。彼らは支配者だったが、ケルト人とともにこの地に暮らし、知恵を技術と文化を授けた。ローマ人が去り、最後におまえたちアングル人とサクソン人がやってきた。500年ほど前のことだ。おまえたちはケルト人に何ももたらさなかった。それどころか、ケルト人を荒れ地へ追い出して、この豊かな平原を独占したんだ

 

イングランド兵の隊長「うそだー!」

 

アシェラッド「うそじゃねぇよ。デーン人がケダモノだってんなら、おまえらアングロ・サクソンも、相当ケダモノなんだぜぇ。おまえたちは暴力でこの地を奪った。オレたちデーン人はおまえら以上の暴力でこの地を奪う。まさか文句はあるめぇな?

 

イングランド兵の隊長「黙れー! 蛮族どもの言うことなどだれが信じるかー!」

 

アシェラッド「おや隊長さん。あんたの顔って、よーく見ると鼻も伸びてるな」

 

再びかがみこんだアシェラッドが隊長の鼻をハサミの刃で挟んだところで血相かえた耳が走ってきた。その様子にアシェラッドは敵襲と察する。雪が音を吸うのではっきりとした人数は分からないようだが、南からかなりの人数がやってくると耳が伝える。

 

 

こんな真夜中に仕掛けてくるとは、さすがのアシェラッドも予想外だった。足元に転がっているイングランド兵の隊長が嬉しそうな声を上げる。

 

イングランド兵の隊長「うひゃひゃひゃ、来たか。もう遅いぞキサマらはしねー! デーン人同士で共食いし合うがいい。教えてやろう、来るのはトルケルだ。相手に不足はなかろう? トルケルだ! あはははははは」

 

さすがのアシェラッドも表情を変えた。イングランド語の分からない手下たちも「トルケル」と訊いて、不安そうにしている。

 

感想&考察2、イングランドを巡る弱肉強食の現実

 

第10話「ラグナロク」の回。バース近郊のローマの遺跡が残る丘で、アシェラッドはやがてくる「ラグナロク」(終末の日)についてトルフィンに話して訊かせました。曰く、イングランドにはかつてローマ人の国があり、それを滅ぼして今はサクソン人が国をつくっている。それを今度はデーン人が滅ぼそうとしている。こうして世界の歴史は強者が弱者を征服して作られている。しかもそれを今度は絶対強者の神が滅ぼすというのだから、滑稽じゃないかと、皮肉な口調で話していました。

 

そのときのアシェラッドは、なんとも年寄りじみて、弱々しくすら見えました。

 

今回アシェラッドは、同じ内容をイングランド兵の隊長に対して話しています。ただし、今回のアシェラッドに弱々しさは微塵もありません。

 

イングランド兵の隊長ケダモノめ。きさまらには裁きが、相応しい最期が待っているぞ

 

と言われて、自分たちがまるで何の罪もない被害者だと思っているのが気に入らなかったのでしょう。かつてケルト人とローマ人は協力して国を作っていたのに、おまえたちアングロ・サクソンがローマン・ケルトの末裔をウェールズの地に追いやり、イングランドの肥沃な地を占領しているというのが本当の歴史だ。おまえたちにはデーン人に滅ぼされても仕方がないほどの罪がある、と。

アシェラッドぽい言い方をすれば、「デーン人がケダモノなら、おまえらだってケダモノだ。被害者ぶってんじゃねぇ!」とでもいったところでしょう。ここでのアシェラッドは、クヌート王子という駒を手に入れ、自分の目的を定めたことで、以前と人が変わったように力強い。

 

まぁ、アシェラッドの言うことは一理あります。かつてローマン・ケルトを迫害したことを忘れ、自分たちは善良で、自分たちを迫害するデーン人は悪だと決めつけるのは、いかにも都合がいい。でも、かといって500年前のアングロ・サクソンの蛮行を理由に今、アシェラッドたちがイングランド人を虐殺していい理由にはならないと思いますが・・・。

 

あと、アシェラッドの拷問・・・ビョルンじゃないけど「えげつねぇ~!」

 

感想&考察3、ケダモノの歴史は復讐の連鎖を生む

fighting viking
fighting viking / hans s

 

アシェラッドのやっていることは、かつてローマン・ケルト人がアングロ・サクソン人に迫害されたことに対する復讐です。復讐は新たな禍根と負の連鎖を生み、結局自分もまた新たな強者に滅ぼされるだけの運命に飲み込まれていきます。

 

これじゃ、未来永劫「ケダモノの歴史」は繰り返されるでしょう。

 

それじゃどうすればいいのでしょう? デーン人とクリスチャンのイングランド人ではまったく異なる価値観をもっているから、いくら自分のやり方だけを通そうとしてもダメです。どちらかの意見を通すだけではなく、お互いが譲歩しあって接点を見つけ、ルールを整えるところから始めなければ、価値観の異なる者同士が上手くやっていく道はありませんよね。

 

それを、ケルト人相手に実現したのがローマ人でした。アシェラッドもそれは十分知っているはずなのに、力で解決しようとしている。もちろん、今のアシェラッドにはそれしか方法がないのも事実ですが──。

 

ところでちょっと視点を変えてみると、愚かな復讐の連鎖に身を投じているトルフィンも同じ状況だと言えます。たとえばアシェラッドに復讐したら、今度はアシェラッド兵団のみんなから復讐を受けて、命を落とすなんて未来もあり得るわけで・・・。

 

復讐は復讐の連鎖を招き、やがて自らを滅ぼす──冷静になれるなら、やるもんじゃないです!

 

夜に逃走

▲王子の頬をペチン! 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

一方、村のよく見える高台にたどり着いたトルケルは、手下を左右に展開させ指示をだす。

 

トルケル「基本的にはみなごろし! 王子はころすなよ。あとナイフ使いのチビがいるはずだ。そいつもころすな。オレの遊び相手だぁ

 

トルケル軍が迫っていると知ったアシェラッドたちは、夜にも関わらずすぐに村を離れることにした。「ラグナルをこんなところに置いていけるか!」と暴れるクヌート王子にビンタを食らわしてアシェラッドがすごむ

 

アシェラッドラグナルはしんだ。もう呼んでも来ねぇ!

 

それまで敬語を使っていたアシェラッドの変貌に息を飲むクヌート王子。トルフィンもビョルンもさすがに驚いている。

 

そこに手下が二人の団員を引きずってきた。曰く「脱走者だ」と。寝藁に忍んでトルケル軍に寝返ろうとしたようだった。アシェラッドの青い目がさらに冷たく色を変えた。

 

脱走者「ラグナルの言う通りだ。あんた今ツキがない。オレたちだけじゃねぇ。みんな内心やべぇと思ってんだ。今回ばかりはいけねぇ。だって、あんた今トルケルに食いつかれちまってんだぜ」

 

アシェラッド「勝手に行けよ。いいかおまえら。自分のつきたい首領につけ。去る者は去れ、オレは咎めねぇ。オレとともに来るヤツぁ歩け! トルケルを振り切るまで、歩きぬく。食べながら歩き、眠りながら歩け。いいか野郎どもついてこれなきゃしぬと思え」

 

ビョルンは黙って荷物を持ち、王子を乗せた馬車についてトルフィンは歩き出す。二人に迷いはない。

 

夜が明け、翌日はよく晴れていた。朝っぱらからトルケルは、両方の戦斧を振るい派手に人をころしている。アシェラッドに「自分のつきたい首領につけ」と言われ、トルケル軍に下ることを決めた元アシェラッド隊員たちは、両手を上げて戦う意思のないことを示しながら必死で訴えている。

 

元アシェラッド隊員「ま、待ってくれトルケル。オレたちはアシェラッドとは違う。あんたの手下に加わろうと──」

 

トルケルに一切、手加減はなかった。ここでトルケルは、トルフィンたちの首領が「アシェラッド」という名だと知った。

 

アスゲート「あーあ、かわいそ。仲間に入れてやりゃぁいいのに」

 

トルケル「いんだよぉ、こいつらクズだ。戦いもしねぇで降参するような臆病者は、いらね

 

雪に仁王立ちしたトルケルは、戦斧を振り上げ声を張る。

 

トルケル「東だぁ。王子を追うぞチンピラども。気合入れろー!」

アシェラッド兵団の崩壊

▲密談中のトルグリムとアトリ兄弟 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

西暦1014年1月 マーシア伯領セヴァーン川上流域

 

アシェラッドたちは、なんとかトルケルから逃げのびている。小さな川を渡ったところでアシェラッドは、トルグリムとアトリに渡ったばかりの橋を壊すよう命じた。

 

アトリ「いやー相当ちべてぇぞ、これ」

 

トルグリム「なぁおい、浅くねぇかこの川! 歩いて渡れるじゃねぇか。橋落とす意味あんのか?」

 

素直にアシェラッドに従うアトリに対して、トルグリムは不平をこぼす。

 

アトリ「だからって、放っておくわけにもいくめぇ。嫌がらせぐらいにはなるかもな」

 

トルグリム「へっ。ご自慢の知略もネタ切れか、アシェラッドのだんなよ!

 

橋を落とす作業にかかっている部下たちを川岸から観ながらアシェラッドは、川の中州にいるアトリとトルグリムにチラリと目を走らせる。それからビョルンとトルフィンを呼んだ。

 

アシェラッド「ビョルン、王子をこっちの2頭立てに移せ。御者はおまえだ。トルフィンは王子と乗って待機してろ」

 

ビョルン「は? 何を──ん! おい、アシェラッド!・・・まじか?」

 

最初は意味の取れなかったビョルンは、ようやくアシェラッドの言葉の意味を理解した。歩き始めていたアシェラッドがピタリと足を止める。

 

アシェラッド「オレの特技だ。そいつがどんなヤツなのか、パッとツラ見りゃだいたい分かる。大物か小者か、利口かバカか、忠義者のなかに裏切り者が混じっているのも分かるのさ」

 

その頃、中洲で橋げたに斧を入れているアトリにトルグリムが何かを話している。

 

アトリ「はぁ? 王子を奪うって兄者!?」

 

トルグリム「バカ、声がでけぇよ。アトリよ、この兵団はもうおしまいだ。王子を手土産に、トルケル軍に入ろうや。他のヤツらも半数以上はこっち側だ。残りの半数ともすぐに話しがつく」

 

アトリ「裏切るのか? アシェラッドを」

 

トルグリム「裏切るって言い方は人聞き悪いぜアトリ。あいつはいい首領だよくやってるよ。だから首領として、責任を取ってもらうんだ」

 

アトリ「大丈夫だよ、逃げ切れるって兄者。今までもそうだったろ?」

 

あまり乗り気でない弟のアトリに対してトルグリムは「アシェラッドは博打を打って負けたんだ」と、自分の説を曲げない。

 

やがて橋が落ち、アシェラッドたちは進軍を再開した。音をうかがっていた耳が「来た!」と言う。振り返ると、橋の向こうにある丘の彼方で何かがチラチラ光るのが見えた。

 

遠くにアシェラッドたちを見つけたトルケルは、嬉しそうに歯をむき「みぃつけたー!」と叫んで力任せに槍を投げつけた。トルケルの槍はアシェラッドの手下4人を突き刺した。「まじかよ」「槍、いっぺんに4人だ」「やべぇ、まじやべぇ」と一気に動揺が伝染する。

 

アシェラッド「あーあー、落ち着け野郎ども。まだ距離はある。橋は落とした。今の槍は忘れろ」

 

トルグリム「橋? 橋がなんだってんだよ。そこの川、歩いて渡れるぜ。気休めにもならねぇ」

 

アシェラッド「そう思うか? そう思うなら今すぐ出発だ。時間が惜しい」

 

トルグリム「またかよ! 行軍、行軍、行軍て! 他に言葉を知らねぇのか、あんたはよ!」

 

アシェラッド「トルケルには勝てん。あと1日辛抱しろ。橋を壊したことの効果がでる。行軍の速度は2の速度だ。連中は必ず荷渡しにもたつく。荷を離れて兵だけで追って来ても、補給なしだ。そんな行軍なんて1日が限界だ。分かったか野郎ども。分かったら歩け!」

 

トルグリム「その1日を、生き延びられる保証はねぇ!」

 

鼻息荒いトルグリムとしばし睨み合ったアシェラッドは、くるりときびすを返して冷たく突き放す。

 

アシェラッド「あっそう。ならここでお別れだ。オレは急ぐので失礼するよ」

 

2頭立ての馬車にはクヌート王子と神父、そしてトルフィン。御者にビョルン。その脇に立つアシェラッド。それ以外の者らは全員が武器を手にアシェラッドたちを取り囲む。もはや兵団はおわりだ。「あーあ」と、ビョルンは低く呻いた。

 

感想&考察4、「あーあ」

▲兄のトルグリム(右)と弟のアトリ(左)

 

手下たちに不穏な空気を嗅ぎ取ったアシェラッドは、ついに必要最小限の人員だけで逃げる自衛策を取りました。2頭立ての馬ゾリに王子とヴィリバルド神父、王子の護衛のトルフィンを乗せ、御者にビョルンを指名。

 

なんと、あのトルグリムとアトリ兄弟も裏切りました。といっても、弟のアトリはあまり乗り気でなく、それを兄のトルグリムが言いくるめている感じです。

 

第14話でキリスト教の「愛」とは何だという会話を神父と交わしていたときに、弟のアトリは「この信頼関係は、銀にゃ代えらんねぇよな、兄者」と言うのに対して兄のトルグリムは「あたりきよ弟。ま、金額によるがな」と言っています。弟の方が忠義に厚く、兄の方が金次第でいい方につくという浮ついたところがある性格なのが分かります。こういう細かいところもキャラクターの性格づけ、しっかりしていますね!

 

(そういやなんで兄貴のトルグリムに眉がないんでしょー? すっごい気になるんですけど!)

 

まぁ、お金目当てに集まった連中なら、金の切れ目が縁の切れ目でしょう。アシェラッドから「トルケルには勝てん!」と訊かされてしまっては、もうつくならトルケルの方だと思ってしまったんでしょうね。

 

しっかし、見事に裏切られたもんです。すぐ後ろにトルケルが迫っているし、ここはさっさと逃げるべきですね! この先いったいどうなることやら! ビョルンじゃないけど「あーあ」って言いたい気分です。

 

そういやビョルン、最後までついていくつもりなんですね! ビョルン結構好きなので、ちょっと嬉しい。長く生き残ってほしいもんです! またキノコ食べて大暴れするとこ見たいし!

 

感想&考察5、ラグナルの呪いの言葉「ツキが落ちとる!」

 

しかしまぁ、雪が降ってきてからこっちアシェラッドは受難続きですね。ラグナルが言いだした「ツキが落ちとる!」という言葉、何度も何度も出てきていますが、当時はツキがものすごく重要に考えられていたんですかねぇ? くらいに思っていたんですが、本当にラグナルの呪いの言葉だったようです。

 

ラグナルの呪いはアシェラッド兵団全体に広がり、村を離れるときには脱走者が出、ついにほぼ全員が裏切るという事態に陥りました。

 

ツキが落ちているとか何とかって、やたら何度も出てくるとは思っていたんですが、まさか仲間割れの伏線だったとは! 見抜けませんでしたー!

 

不覚!

 

おまけ

 

第2期ED「Drown」のフルバージョンMVがリリースです。いや、相当かっこいい! ぜひ見てみてください!

 

ところで、海外の方のコメントに「japanese sia」って書いてる方をチラチラ見かけたので、ちょいと調べてみました。もうね、音楽関係うといので知らなかったんですが、sia はアメリカのシンガーソングライターで、顔を公表せずに活動している方。ビヨンセやブリトニースピアーズといった著名な歌手に楽曲提供をしているという超実力派なんです!

 

 

siaが注目されたのは、この「Chandelier」(シャンデリア)という曲で、MVの再生回数はなんと21億回をこえています! たしかに! たしかにmiletと声質似ていますね! ドライでややハスキー、そして押し出しがいい! どちらも素敵だと思います!

 

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