「悟った者特有の輝きをたたえた目をクヌートが獲得!」シーズン2、第19話共闘」のあらすじと感想・考察を紹介します。2019年7月~放送の「ヴィンランド・サガ」は、1000年前の北欧を舞台にヴァイキングの生き様を描いた骨太な物語。


第19話/覚醒クヌートの威光を目の当たりに、あのトルケルが、アシェラッドがひざまずく!

▲ヨーム戦士団時代のトールズ 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

#19

共闘

United Front

 

薄っすら目を開けたトルフィンの前に大男が歩み寄る。「大丈夫か?」と声をかけてくる。吹き飛ばされた衝撃でまだトルフィンは、自分が今どんな状況にいるか思い出せていない。「決闘どうするよ?」と、さらにトルケルは訊いてくる──ここで、ようやくトルフィンは思いだした。今、トルケルとの決闘のさいちゅうだったことを。

 

トルケル「まだやれそうだな。手当の時間やるよ」

 

トルフィン「なめんな。とっととかかってこい!」

 

トルケル「いやぁ、さすがにそれじゃ戦えないだろう」

 

トルフィン「っせぇ。てめぇの情けなんざぁ!」

 

粋がってみせたトルフィンだが、右ひじの関節が完全に外れている。もしくは折れている。ありえない方向にだらりとぶら下がった右腕に気づいて今更痛みにくずおれる。そこに、剣を杖にアシェラッドがやってきてトルフィンに手当てをほどこそうとする。

 

トルフィン「ひっこめハゲ。てめぇの手当てでもしてろや。さわんな!」

 

アシェラッド「熱くなるな。おまえの悪いクセだ。頭を使え。勝つために今なにをしたらいいと思う?

 

感情のままアシェラッドの手当てを拒否するトルフィンと、冷静にこの場を乗り切ろうと画策するアシェラッド。二人の前にイスをもってこさせ、腰を据えたトルケルは機嫌良さそうに言った。

 

トルケル「久しぶりに楽しませてもらったぞトルフィン。約束通り話を訊かせてやろう。おまえの親父、トールズの話だ

今回のテーマはタイトルそのまま「共闘」。サブテーマを「戦士の目」としました。

 

第15話「冬至祭りのあと」の冒頭。トルフィンが盟友トールズの息子と知ったトルケルがつい嬉しくなってクヌート王子を渡してしまったことを悔やんでいるシーンで。

 

トルケルあの王子は腰抜けだけど、使い道はあったんだよなぁ。あれを担ぎ上げて新王朝を旗揚げとかよ。兵隊集めるだけでも効き目あるぜ

 

もっと戦争を楽しみたいトルケルは、こんなことを言ってました。そしてアシェラッドもまた、王子を担ぎ上げて次期イングランド王に据えることを目論んでいます。

 

ということは。

 

トルケルもアシェラッドも自分の望みのためにクヌート王子を利用しようとしている。つまり。今は対立しているけれど、ちゃんと話し合うことすらできればこの二人は手を組めるはず! わたしはそう思ってきたのですが──その読みは的中! なにしろタイトルは「共闘」なわけですから!

 

が・・・。

 

その手の組み方が予想のナナメ上行ってました! すごいすごい。ほんと原作者天才! なにはともあれ、メインテーマはトルケルとアシェラッドの「共闘」です。どういう展開で手を結ぶことになったか、その超絶面白い展開をみていきましょう!

 

サブテーマは「戦士の目」としました。だれの目なのか、こちらもちょっと注目していきましょう^^

 

 

▲ヨーム戦士団の軍船 TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

決闘で十分楽しませてもらった見返りに、トルケルはトールズの昔話を始める。

 

トルケル「ヨーム戦士団を知っているだろう。オレとトールズはともにその軍団の大隊長だった。なかでもトールズは半端なく強かった。並の戦士じゃ入団さえ許されない戦士団にあって、トロルとあだ名されるほどにな。首領のシグバルディはヤツを気に入り、娘の一人を与えた。それが、おまえの母ヘルガだ」

 

トルフィンヨームの首領がオレの祖父──」

 

トルケル「そうだ。そしてオレの兄でもあるつまりオレは、おまえの大叔父ってことだな──最後の戦は、ノルウェーのヒョルンガバーグ。負け戦だった。海戦のさなか、トールズは海に落ちて浮かんでこなかった。オレぁ泣いたよ。いつかヤツを倒すつもりだったんだ。オレの、この手で。だが・・・トールズはしんじゃいなかった

 

トルケルの回想は続く。西暦987年 ヨーム戦士団本拠地 ヨムスボルグ。トールズの葬式から3ヵ月後の夜、トルケルはしんだはずのトールズに再会することになる。

 

トルケル「おぉい、コソ泥かぁてめぇら。ここが戦士団幹部トールズの家だと知っててか?」

 

トールズの家から出てきたマントをかぶった二人連れに、トルケルが声をかけた。トルケルは屋根で酒でも飲んでいたようだ。

 

トルケル「普段はコソ泥なんざほっとくんだが、友人を亡くしたばかりでな、近頃機嫌が悪い」

 

そう言って繰り出したトルケルの斧を、不審者は素手でよけた。その拍子にフードが外れトールズの顔が現れた。マントの不審者は、トールズと赤ん坊を抱えたヘルガだった。

 

 

すっかりしんだとばかり思っていたトールズの生還に大喜びのトルケル。「兄貴にはもう会ったか、まだか。よっしゃ、叩き起こしてきてやる!」とはしゃぐが、トールズは黙ってフードをかぶりなおし声を落とす。

 

トールズ首領には会わない。オレたちはここを出ていく

 

トルケル「なにしに? 明日にしろよ。帰ってきたばっかだろ」

 

トールズこの街、ヨーム戦士団をぬける。今夜オレに会ったことは、忘れてくれないか。オレはしんだということにしておいてくれ。頼むトルケル」

 

ここに至り、ようやくトルケルにもトールズの真意が分かった。しかし納得はできない。

 

トルケル「話が見えねぇよ。なに言ってんだ突然」

 

トールズ「決めたんだ。もう戦はしない」

 

トルケル「だから! 話がみえねぇって! まさかしにかけてビビッたとか言わねぇよな。兄貴はおまえを後継者にって考えてんだぞ」

 

「すまぬ」と一言謝ってから、落ち着いた口調でトールズは続ける。

 

トールズ「オレは、分かったんだ。本当の戦士とは何かが。だからもう、ここにはいられない」

 

澄んだ瞳で見据えられ、トルケルはトールズの本気を察した。激昂したトルケルが斧を振るい家の柱をなぎ倒し、その拍子に赤ん坊のユルヴァが泣き出す。

 

トルケル掟は知ってるな。首領の許しもなく抜けるヤツは死刑だ。ここは戦士の都だ。戦しか能のねぇおまえが、ここを去ってどこ行く?」

 

トールズここではない、どこかだ」

 

もはやトルケルにできるのは、身体を張ってトールズを止めること。斧を構えたトルケルの前に、トールズは歩み寄った。

 

トルケル「おまえ、剣は?」

 

トールズ「いらん」

 

一瞬、驚きに目を見開いたトルケルが繰り出した斧を手で払い、続いて繰り出すトルケルの拳をかわしてトールズは懐に入った。トルケルが最後に見たのは、トールズのいやに澄んだ瞳──。

 

トルケル「──気がついたときには、もうトールズたちは消えていた。それから15年たって、今度こそトールズがしんだと知った。ヤツのことを15年間考えて、肉体の生き死には問題じゃねぇと気がついた。戦士に大切なのは魂。その在り処だ。ヤツの魂は遠くへ行った。オレにはまだ分からない。オレにはまだ届かない。ここではないどこかへ──きっとそこで、本当の戦士ってやつになったんだろう」

感想&考察1、「ここではないどこか」

▲「ヴィンランド・サガ」キーヴィジュアルのひとつ 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

トルフィンの祖父はヨーム戦士団の首領シグバルディ。そしてトルケルはその弟。つまりトルケルとトルフィンは親戚だったわけですね。トルフィンの腕が立つのは、戦士の血筋は争えないってとこですか。

 

それらはまぁ、いいとして。盟友トールズの息子であり、しかも姪っ子の息子であるトルフィンと、こんなマジ決闘をやってしまうトルケルのおかしさは問題ですよね。いやぁ、ヴァイキングの世界ならおかしくもなんともないのかな? 愛も情もない世界なんだろうか?

 

ユルヴァが生まれたことで、トールズは戦う毎日を捨てる覚悟をしました。本当の戦士とは何かが分かったから。トールズが何をどう悟ったのかはっきりと言及されていませんが、少なくとも「剣で人をころすのが本当の戦士ではない」ことだけは確かなようです。

 

だからそんな毎日と決別するため、トールズはヨーム戦士団を去りました。あてはないけれど「ここではないどこか」へ行くために。

 

気がつきましたか? 「ここではないどこか」って、第1話のタイトルです。つまり、トールズにとって「ここではないどこか」は、結局アイスランドでした。そこでトールズは小さな家を建て、羊を飼い、妻と二人の子どもとささやかで温かい家庭を築きました。

 

トルケルは、トールズの残した言葉に囚われ続けている

 

トルケルが昔話をしている間、アシェラッドはトルフィンの右腕を布で巻いて胴に固定した。

 

トルケル「トルフィン、ヤツはアイスランドでどんな風に過ごしていた。教えてくれ」

 

トルフィンふん。やなこった!

 

「オレは話してやったのに!」と、怒るトルケル。

 

トルケル「つぅか、話さないんじゃなくて、話せないだけなんだろ。目を見りゃ分かるぜ。ヤツのあの不思議な輝きがねぇ!

 

トルフィン「んだとぉ!」

 

トルケル「トールズからなんにも学ばなかったのがバレるのが恥ずかしいんだろう!」

 

年若い甥っ子をからかうトルケルと、その挑発に簡単に乗るトルフィン。「待て」とアシェラッドに肩をつかまれ、アシェラッドにも当たり散らす。

 

トルフィン「放せ、てめぇからころすぞ!」

 

アシェラッド「普通にやれば間違いなく負けるぞ。おまえの勝敗は、いまやオレの生死だ。だから教えてやる。あのバケモンの倒し方をな

 

トルフィン「でたらめ言うなハゲ! 倒し方知ってんなら、なんで勝負しなかった?」

 

アシェラッド「戦は将棋とは違うんだよ坊主。大将を倒せば終わるってもんじゃねぇ。だが今は違う。ヤツは勝てば逃がすと言った。やろうは誇りを重んじる。決闘の誓いは守るだろう。おまえの戦う目的を思いだせ。決闘でオレを倒すことだろう。今だけでいい。オレを参謀として認めろ。オレたち二人がこの場を生き延びるためだ」

感想&考察2、アイスランドでのトールズは・・・。

▲アイスランドの村でのトールズ 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

本当の戦士とは何かが分かったから、もうここにはいられない」というトールズの残した言葉に囚われ続けているトルケルは、15年間考えた末「肉体の生き死には問題じゃねぇと気がついた。戦士に大切なのは魂。その在り処だ」と結論づけました。

 

けれどその答え合わせをしてくれるトールズはもういない。だからトルケルはトルフィンに訊きたいのです。「本当の戦士とはなにか」を悟ったトールズがアイスランドでどんな暮らしをしていたのかを。そこにトールズの言葉の答えを見出すために。

 

でも、トルフィンは言えませんでした。

 

なにしろトールズは、戦士らしいことなど何もしていない。ただ、他の村人たちと同じ生活をして、ユルヴァとトルフィンの優しい父親だっただけなのだから。少し人と違うところがあったとしたら、奴隷を使わなかったこと。逃げてきた奴隷にも優しかったことでしょうか?

 

そんな話をしてトルケルが納得するとは思えない。だからトルフィンはなにも言えなかったのでしょう。

 

しかし・・・。いくら気が立っているとはいえ、トルフィンものすごい言葉遣いですよね! アシェラッドに「ハゲ!」って連発してます。まぁ、アシェラッドには1ミリもダメ与えてませんけど。

 

感想&考察3、「将棋」?

A Viking playing Hnefatafl
A Viking playing Hnefatafl / f4niko

▲ヴァイキングのボードゲーム「ネファタフル」(Hnefatafl)

 

アシェラッドから「将棋」ってセリフが出てきて、え? って思った人は多いでしょう。わたしも引っかかりました。なんで将棋? と。

 

じつは当時ヴァイキングたちが日常的に行っていたボードゲームに「Hnefatafl」(ネファタフル)というものがあって、原作では「将棋」と書いてルビで「ネファタフル」と書かれていたそうです。

 

アニメではそのまま「将棋」とセリフにしたようですが・・・。しかも英語字幕でも「SHOGI」と訳していて、「アシェラッドが日本の将棋を知ってるとは思えない!」と、外国人視聴者からツッコまれまくりでした。たとえば「ボードゲーム」「戦争のボードゲーム」または単に「ゲーム」の方が良かったんじゃないかなぁ。

 

とはいえネファタフルって、上の写真からするとたしかに将棋やチェスそっくりのボードゲームですよね!

 

またしてもアシェラッドの策略ドンピシャ!

 

うぉぉぉりゃぁー!

 

トルフィンの手当てが終わり、決闘再開。

 

トルケル「痛むかトルフィン。アシェラッドはあきらめて、降参すっか?」

 

痛む右腕を固定したまま、左手に短剣を握り締め、トルフィンは右に左にトルケルの斧をよけている。ついにギャラリーに飛び込んだトルフィンに、トルケルが罵声を飛ばす。

 

トルケル「なんだそのザマぁ。最後まで誇りをもって戦え! トールズの名を汚す気か」

 

その間アシェラッドはじりじりと場所移動して、雪を手にとり剣の刃を磨く。トルケルの攻撃から逃げ回るトルフィンは左手の短剣すら飛ばしてしまった。ついに丸腰だ。アシェラッドは心の内で声援を送る。

 

アシェラッド(うまいぞ。万策尽きたとヤツに思わせるんだ)

 

雪にはいつくばり、大きく喘ぐトルフィンを見おろしながら、トルケルはため息をついている。

 

トルケル「どうしたトルフィン、もう逃げ疲れたのか? ふぅ、ガッカリだなぁ。もう少し根性見せるかと思ったのによぉ」

 

トルフィンを挟んで目の前にはトルケル、真後ろにはアシェラッドが控えている。そしてトルケルの後ろには太陽が輝いていて──。

 

アシェラッドいい位置だ。よくやったトルフィン。そうだトルケル。トドメを刺しに来い。後は──一瞬の隙

 

雪で磨いた剣の刃で、アシェラッドは太陽光を跳ね返した。その眩しさに思わずトルケルは目を細める。その一瞬で十分だった。トルフィンは素早く起き上がりジャンプして、トルケルのあごを思い切り横から蹴った。トルケルは斧を投げ出し雪の上に大の字に倒れ込んだ。どうやら気を失っている。

 

うあぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!

 

猛然と駆け寄ったトルフィンはトルケルに襲い掛かり、その左目をつぶした。

 

大将!」アスゲートが叫ぶ。

 

ばかやろう、柄物もなしで!」とアシェラッドがトルフィンに短剣を渡そうとする。

 

しかしトルケルの手下たちの方が早かった。武器を手にこぞってトルフィンに襲い掛かる。

 

アスゲート「あのガキをころせ!」

 

トルフィンに馬乗りに、今や剣で刺し殺そうとしている手下たちをトルケルが一喝した。

 

トルケルやめろバカ者ー! てめぇら、よくもオレに恥をかかせてくれたな! よくもオレの決闘を汚してくれたな!

 

半分、真っ赤に染まった顔のまま、トルケルはアスゲートに歩み寄った。

 

トルケル「アスゲートてめぇ、戦士の誇りとはなんだ?」

 

アスゲート恨んでくれていい。だがあのガキはころす。オレをころすならころせ。だが、あんたは生きろ。あんたの他に、だれがこの500人のケダモノをまとめられるっていうんだ!

 

アスゲートの頭と首に手をかけていたトルケルは、唸りながらその手を離した。

 

感想&考察4、トルケルの弱点はあご!

▲ひげで隠れているがトルケルのあごは結構長い! 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

かつてアシェラッドは、トルケルとともに戦ったことがありました。そこでほんの一瞬、トルケルが崩れるのを見た。その経験からアシェラッドはトルフィンに、トルケルを倒す策を授けます。

 

まずトルフィンはトルケルから逃げ回り、万策尽きたと思わせたあげくに「太陽-トルケル-トルフィン-アシェラッド」が一直線になるように位置取る。そこでアシェラッドが雪で磨いた剣の刃で太陽光を跳ね返し、トルケルの目をくらました瞬間にトルフィンが横から思いっきりあごを蹴る。

 

するとなんとトルケルは気を失って雪に倒れてしまいました!

 

え、なに? どうしたの?

 

って、思いましたよね! ワケが分からなかったので、ちょいと調べてみたところ、どうやら横からアゴを強打すると脳しんとうを起こしやすいらしい。ボクシングでも、よくあることのようです。そしてトルケルは、あごが長いので脳しんとうを起こしやすい、ということのようです。

 

ここで素手のトルフィンは、トルケルの急所を狙いにいきましたね。目をつぶしに行くなんて──リアルです。たしかに素手でこの状況なら、目が一番襲いやすい。

 

これを見て怒った手下がトルフィンに襲い掛かるのも、決闘を汚されたとトルケルが怒りアスゲートをころす勢いなのも、すごくまっとうなリアクション。しかしえぐい。もう状況めっちゃくちゃじゃないですか!

 

こんなんで、どうやったらまともな話し合いができるワケ? これじゃトルケルとアシェラッドが共闘なんて無理でしょ! 面白いけど、どーすんのこれ? と、呆れながら観ていたら・・・・。なんとここで、覚醒王子登場です!

 

トルケル「トルフィンを放せ。この決闘はオレの負けだ」

▲「そこまでだ」 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

重症のビョルンを助けるためアトリとともに馬で引き返してきたクヌート王子が、威圧するような口調で場を鎮めた。

 

クヌート王子そこまでだ。これ以上、争ってはならぬ。この戦でしぬ者は犬死にだぞ。飽きもせず、よくもこれほどに殺し合うものだな」

 

トルケル「王族だろうと、決闘に水差す権利はねぇ。引っ込んでなお嬢さん」

 

顔半分を真っ赤に染めているトルケルと、トルケルの手下に組み敷かれているトルフィンを一瞥して、王子は続ける。

 

クヌート王子もはや決闘の様相ではあるまい。そなたも一党の首領なら、誇りと潔さを示してみせるがいい

 

トルケル「うるせぇぇぇぇぇぇ。そんなことテメェに言われなくても分かってんだよー!」

 

髪かきむしり、叫ぶトルケル。それから思い切り鼻から息を吹き出すと、ようやく落ち着いた声音を取り戻した。

 

トルケルトルフィンを放せ。この決闘はオレの負けだ

 

手下たちが情けない声を上げる。「大将は負けてねぇ。オレたちが邪魔しただけだ」と。「黙れボンクラども!」手下を黙らせ、さらにトルケルは自分の負けを認める。

 

トルケル「オレの負けだ。ちったぁ恰好つけさせろ。あ~不愉快だ。50年生きてきて、今日ほど不愉快な日はねぇぜ。酒ぇ!」

 

憤懣やる方ないトルケルはドカリとイスに座り、手下たちが毛皮や酒を大将に運ぶ。

 

クヌート王子「父王と喧嘩だ!」

 

一方、トルケルの手下から逃れたトルフィンは、アシェラッドの袖を引いた。

 

トルフィン「おいハゲ、今のうちにずらかるぞ」

 

アシェラッド行きたきゃ行け。オレは残る

 

トルフィン「は? オレがなんのためにここまで!」

 

アシェラッド「黙って見てろ」

 

酒を一気に飲み干したトルケルは、酒樽を投げ捨てた。

 

トルケル「で? なんなんだ王子さま。のこのこと喧嘩の仲裁に来たわけか」

 

クヌート王子ソリと食糧を所望する。それと、トルフィンとアシェラッドはわたしの従者だ。連れていくぞ

 

トルケル「パーかおまえは。獲物を黙って逃がす猟師がいるか?」

 

トルケルに背を向け、その場を去ろうとしていた王子がトルケルの手下に囲まれ立ち止まった。

 

クヌート王子「スヴェン王とまみえる際の切り札になる──そう考えているのか?」

 

トルケル「はい、王子さま。あんたエサで人質で、金づるだ」

 

トルフィンは、一刻も早くこの場を去りたい。

 

トルフィン「王子はあきらめろ。欲かくんじゃねぇ」

 

アシェラッド「いいから観てろ!」

 

これまでにも増してアシェラッドの表情は真剣だ。

 

下がれ下郎!」クヌート王子を捕えようとロープを手に近づいてきたトルケルの手下に、王子はぴしゃりと言い放った。続けて「逃げはせぬ」と。ここに至り、ようやくトルケルも王子の変貌を感じ取った。

 

トルケル「ほぉ、短い間にお口が一丁前になったじゃねぇか。なにがあった。昨日寄った村にラグナルの死体があったぜ」

 

クヌート王子「トルケルよ。わたしに人質の価値はない。なぜなら、父はわたしを愛してなどいないからだ。父は王位を兄ハラルドに継がせる。わたしは兄の備えにすぎぬ。だが、そのことが臣下の者たちを争わせ、王国の基を危うくさせはじめた。わたしの生存は、父王にとって憂いの元だ」

 

トルケル「つまりスヴェン王は、オレがあんたをころすことを期待していると」

 

クヌート王子「暗殺に比べれば、戦死は穏当だ。父王自身の手が子殺しに汚れぬ」

 

トルケル「仮にこのまま見逃したとして、どこへ行く気だ」

 

クヌート王子ゲインズバラの軍団本営へ。父王と喧嘩だ

 

トルケル「勝てると思ってんのか? おめでてぇな」

 

クヌート王子「すべきことをするだけだ。どうせ、惜しむような命ではない

 

ここまで訊いて、トルケルはイスから立ち上がった。

 

トルケル「オレぁな、命は惜しくないなんて抜かすヤツぁ、くさるほど見てきた。大抵は軽くこづいただけで、泣いて命乞いしやがる。てめぇもそのクチだろう。あ?」

 

言うや右手に拳を固めた。それをみたアシェラッドがうろたえる。

 

王子、ついにトルケルを従者に!

▲トルケルの拳が王子に迫る! 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

トルケルの右の拳が王子の顔面を直撃する。いや、直撃する寸前に拳は鼻先で止まった。王子は瞬きすらしない。王子の目を見て、トルケルは舌打ちする。

 

トルケル(チッ。嫌な目だ。こういう目には見覚えがある。おまえらはその目でなにを見てる

 

王子の目が、かつてのトールズに重なって見えた。しばし黙って王子と睨み合っていたトルケルが口を開いた。

 

トルケル「野郎ども。こんなオレでもな、たった一つ後悔してることがある。なぜあのとき、オレはトールズについて行かなかったのか、ってな。あんときヤツについてってれば、本当の戦士の秘密を知ることができただろう──よし、決めた。その喧嘩、助太刀しよう。オレぁアンタについてくぜ。アンタがこれからなにをして、何者になっていくのか、見届けてやる。その代わりぬるいことしやがったら、即ぶっころすからな」

 

クヌート王子いいだろう。そなたは今日からわたしの従者だ

 

クヌート王子「ついてきたい者はついてこい。スヴェン王を玉座から引きずり下ろす!」

▲「お斬り捨てください」 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

目の前で起きていることがよく理解できずにいるトルフィンの隣で、アシェラッドが肩を震わせ笑い出した。ついにもう耐えきれないとばかりに大爆笑したアシェラッドは、ひとしきり笑い終ると、痛む足でのろのろと王子の前に進み出る。

 

アシェラッドクヌート殿下。ラグナル殿をころしたのはわたしです。お斬り捨てください

 

ひざまずき剣を差し出すアシェラッドを見降ろしていたクヌートの表情に怒りが載る。

 

アシェラッドですがもし! 生かしおきくださると言うのなら、お役に立ちます。この一命に替えても

 

アシェラッドの真剣な目を確認したクヌートはくるりと背を向け、低い声を絞り出した。

 

クヌート王子ラグナルの分も働け。それが弔いだ

 

アシェラッドはっ。必ず!

 

アシェラッドは頭を垂れる。

 

クヌート王子は歩き始める。

 

クヌート王子ついてきたい者はついてこい。スヴェン王を玉座から引きずり下ろす!

 

ここにトルケルとアシェラッドは共闘することになった。立ち上がったアシェラッドにトルケルが言う。

 

トルケル「なんだおまえ。真似っこすんな」

 

アシェラッド「なーにが真似だ。家来になったのはオレの方が先なんだよ」

 

トルケル「まぁとにかく。仲良くやろうぜ!」

 

アシェラッドとトルケルは王子について歩き出す。

 

トルケル「おめぇの手下はあらかたころしちゃったけど、水に流せやなぁ」

 

アシェラッド「へっ。どの道、水に流すしかねぇだろうが」

 

状況を見守っていたトルフィンもアシェラッドについで歩き出す。その後ろを、トルケルの手下たちがそろってついてゆく。

 

感想&考察5、各キャラの言動が、あまりにもハマりすぎてすごい、すごい!

▲常に冷静なアシェラッドと、常に熱いトルフィン 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

うははははは! なるほどぉ~! こういう形での共闘ですか! 味方の味方は味方方式ですね! 戦闘狂トルケルが敵将のアシェラッドと話し合うことなんてできない。しかもいくら親戚とはいえ、トルケルは神聖な決闘でトルフィンに手加減などしない。

 

このまま突っ走れば、主人公・トルフィン&主役の一人・アシェラッド死亡ってことになり、この物語は幕を閉じるしかないわけで・・・。その寸前まで追い込んでおいてからの、覚醒王子の采配で場を収めるなんて! 憎い演出ですねー!

 

トルケルとアシェラッドがどうにかして頭を冷やして話し合いをする、さらにトルケルが最後には親戚のトルフィンに手加減しなけりゃ収まらないと思っていたので、この展開は本当に意外で面白かったです。

 

トルケルは終始戦闘狂のトルケルだったし、アシェラッドは終始知将のアシェラッドだったし、トルフィンは終始腕は立つけどすぐ感情的になるトルフィンだったし。さらに言えば、アスゲートも終始トルケル軍の副将だったし、チンピラの手下たちも間違いなくチンピラでした。

 

それぞれが、ぶれることなくそれぞれのキャラクターを演じていて、少しの違和感もないところが本当に素晴らしい! ただ、クヌート王子が覚醒した、それがこのメチャクチャな状況を見事に収めてしまうのだから、なんって気持ちのいいこと! ただただ、面白かった!

 

感想&考察6、トルケルとアシェラッドが王子に課した試練

▲アシェラッドが王子に課した試練 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

自分が主と認めるに足る器か。トルケルとアシェラッドはそれぞれの方法で王子を試しましたね。

 

まずトルケルは王子の肝の座り具合を。一撃で馬すら殴りころすトルケルの拳を、王子の顔面に真っ直ぐ繰り出しました。王子は微動だにしません。「命は惜しくない」という王子の言葉に嘘偽りのないことを確認したトルケルは、王子の命を賭けた決意を認めました。

 

続いてアシェラッドは、今なにが必要か大局を冷静に判断する王子の知力を試しました。ラグナルをころしたのは自分だと告白し「お斬り捨てください」と迫ります。

 

アシェラッドですがもし! 生かしおきくださると言うのなら、お役に立ちます。この一命に替えても

 

ラグナルは、本当の父のように愛情をかけて育ててくれた恩人。クヌートにとり、この告白は苦しいものでした。しかしここでアシェラッドを斬り捨ててもラグナルが戻ることはない。これから自分が成そうとしていることを考えれば、従者は一人でも多い方がいい。そう冷静に考えられるなら、アシェラッドを斬ることはない。

 

けれど感情に流されるようなら──それはアシェラッドが主と認めるに足る器ではない。もしクヌートがアシェラッドの剣を取り斬りつけるなら、アシェラッドはひらりとその剣を避け、王子を見限り姿を消したかも知れません。

 

結局、クヌートはアシェラッドの課した試練にも耐えました。

 

クヌート王子ラグナルの分も働け。それが弔いだ

 

満点の解答でしたね。ついにアシェラッドは仕えるべき主君を見つけたわけです。

 

要するにクヌートは復讐という不毛な感情を克服し、未来に歩み出したわけです。トルフィンとは対照的に。

 

感想&考察7、戦士の目

▲「おまえらは、その目で何を見てる」 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

かつてトールズが「本当の戦士とはなにか分かった」と言ったとき、トールズの目は不思議な輝きをたたえていました。それから26年を経た今もトルケルが忘れられないトールズの目。

 

今、クヌート王子の目が同じように不思議な輝きを放っています。トルケルにはとうてい到達することができない域に、クヌート王子もまた達してしまったのです。

 

トールズを失い「本当の戦士」とはなにかの答え合わせが叶わなくなったトルケルが、クヌートにひかれるのはこの目のせいでしょう。

 

トルケル「オレぁアンタについてくぜ。アンタがこれからなにをして、何者になっていくのか、見届けてやる」

 

今度こそトルケルは「本当の戦士とはなにか」を、クヌートを通して知ることができるかも知れないと、そう考えているのでしょう。

 

ところで第1話の最初から、わたしにはどうも不自然に思えていたことがありました。トールズに感情が感じられなかったのです。トールズの目はいつも澄んでいて、冷静でした。ヴァイキング時代も、アイスランドで雪下ろしをしているときも、フェロー諸島でアシェラッドと決闘しているときも、死にゆくときですら。

 

キャラデザインのせいかと思ったのですが、違ったんですね。トールズは、悟った者特有の輝きをたたえた目をもっているという設定だったのですね。ここにきて、やっと最初に感じた違和感の正体が分かりました。

 

感想&考察8、印象的なラストシーン

▲クヌート王子を先頭に。 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

知将アシェラッド、戦闘狂トルケル、主人公トルフィン、そしてトルケルの手下たち。これまで敵味方入り乱れて血で血を洗う戦いを繰り広げてきた者たちが、わずか17歳のクヌート王子を先頭に、同じ方向に向かい歩き出す。今回のラストシーンは印象的でしたね。

 

ここでひと段落、といった絵です。

 

これから先は、このクセの強いツワモノたちが、王子のために活躍してくれることでしょう。しかし、王子の目的がまさかスヴェン王を玉座から引きずり下ろすことだったとは!

 

ここから先、また一段と面白くなりそうです!

 

しかし、ここには描かれていませんが、今まさに苦しんでいる家臣もいることをお忘れなく! 早くビョルン助けてあげて~!

 

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