クヌート王子vsスヴェン王、世紀の親子喧嘩の開幕!」シーズン2、第20話王冠」のあらすじと感想・考察を紹介します。2019年7月~放送の「ヴィンランド・サガ」は、1000年前の北欧を舞台にヴァイキングの生き様を描いた骨太な物語。



第20話/クヌート王子の目的は、ズバリ「スヴェン王暗殺」!

▲すっかり目つきが変わったクヌート王子 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

#20

王冠

CROWN

 

西暦1014年 1月 イングランド北東部 ゲインズバラ近郊

 

部下からの報告に激しく動揺し、その報告は「トルケルの方便」だとフローキは声を荒げる。いら立つフローキの傍らには盾を前に槍を立て整列するヨーム戦士団。トルケル軍の襲撃に備えて迎撃態勢を整えているのだ。

 

フローキ「あり得ぬ。あのクヌート殿下がトルケルを従えて生還するなど決してあり得ぬ!」

 

そう言い放ったフローキの前に姿を現したのは、あし毛の馬にまたがったクヌート王子。王子の右隣に2本の斧を肩にかけ笑顔のトルケル、トルケルのさらに右隣にはトルフィン。トルフィンの右には、トルケル軍の副将アスゲートの姿もある。さらに王子を挟んだ左型にはアシェラッドが立っている。彼らの後ろにはトルケル軍500が控えている。

 

トルケル「いようフローキ、やる気かぁ? 相手になるぜ」

 

クヌート王子「控えよトルケル。わたしが帰還する旨、数日前に使者を送ったはずだぞフローキ。槍をもって出迎えるのがキサマの礼か」

 

フローキ「いえ、そのようなことは決して・・・」

 

目の前の状況が理解できないとばかりに口ごもるフローキは、アシェラッドを見つける。「アシェラッド、なぜきさまが・・・」。かつてトールズを暗殺させ、ここ数ケ月はスヴェン王のイングランド攻勢に参加していた海賊の首領がクヌート王子の側にいるのだから、さらにフローキには状況がつかめない。

 

 

ただただ狼狽するばかりのフローキにクヌート王子の冷えた声音が響く。

 

クヌート王子「耳が聞こえぬのかキサマ。キサマはデンマーク王家に対し、弓を引く気かと訊いているのだ」

 

フローク「い、いえその・・・。我がヨーム戦士団は、敵軍襲来との誤報を受けまして──申し訳ありませぬ」

 

クヌート王子「王陛下の館へ夕刻までに参じると報告しておけ。正確にな」

 

馬上から射すくめるように見おろす王子に圧倒され、フローキはただ「はぁ」と頭を下げるばかり。傍らを通り過ぎた王子を振り返りフローキは思う。(いったい何が。まるで別人ではないか)と。

 

今回のメインテーマは「宣戦布告」です。サブテーマをタイトルから取り「王冠の意思」としました。

▲デンマーク王の王冠 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

前回、もう修復不可能かと思えるほど泥沼化してしまったトルケルとトルフィンの決闘。これを一瞬に収めてしまった、覚醒王子の手腕は見事でしたね! 「父王と喧嘩だ」と言うクヌート王子の本気度を試したトルケルも、野望のため感情を捨てられるか、王子の冷静さを試したアシェラッドもついに従え、クヌート王子は二人を仲直りさせることに成功しました。

 

武将トルケルと500人のトルケル軍、知将アシェラッドと腕の立つ護衛トルフィンを従え、いよいよ一行はスヴェン王のいるデンマーク軍本拠地ゲインズバラにやってきました。

 

経緯を知らないフローキが、王子の変わりように驚くのも無理はありません。しかし、この際フローキなどどうでもいい存在です。クヌート王子の目的はスヴェン王の座すデンマーク王の椅子です。

 

今回のテーマは、この親子喧嘩の第1幕。「宣戦布告」です。王子はどう出るか、迎え撃つスヴェン王は? ピリピリした緊張感とじっとりウェットな腹の探り合いが、なんとも面白い! こういう場面ではアシェラッドが頼りになります。今回は、意外とアシェラッドの活躍回でもあります!

 

サブテーマは「王冠の意思」。スヴェン王との謁見で、王が語った言葉です。その意味とは? あわせて見ていきましょう!

 

 

▲ゲインズバラに掲げられた十字架 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

ゲインズバラ城 市内 デンマーク軍本営

 

クヌート王子を先頭に、トルケル、アシェラッド、アスゲート、トルフィンの5人はスヴェン王の待つ館に徒歩で向かっている。王子はそれまで着ていた端に白い毛皮のついたマントから、首元から胸にかけて青いボタン飾りが3対6個並んだ美しい赤マントに着替えている。

 

クヌート王子「全員、歩きながら訊け。今はまだ仕掛けてはならぬ。わたしの味方はこの軍中に少ない。ただ手向かえば反逆者となろう。手回しの時間がいる。トルケル、そなたは一度裏切ったが、今も戦士たちに人気がある。各部族たちの首領たちと交わり、関係を修復しておけ」

 

トルケル「つまりアレかい? あんたのおごりでジャカジャカ酒飲めってこと?」

 

クヌート王子他の首領を誘ってだぞ──行け」

 

トルケル「すーばらしい命令だ! あんたについてきて正解だったぜぇ。行くぞー!」

 

大喜びのトルケルはアスゲートを伴い酒盛りに出かけていった。

 

クヌート王子「アシェラッドはわたしと共に王のところだ。そなたの人物評を訊きたい。──それと、今後だ。いかに事を運ぶ?」

 

アシェラッド「はぁ。短期的には暗殺がよろしいかと。兄王子ハラルド殿下は、遠くデンマークにいらっしゃいます。これは好機です。今、王陛下が崩御されれば、イングランド方面軍の最高指揮官は、あなた様ということに。この場合、首謀者を偽装する必要がありますなぁ

 

クヌート王子「うん・・・。トルフィン、今後は護衛以外にも働いてもらうことになるだろう。頼むぞ」

 

トルフィン「命令すんな。オレぁあんたの手下になった覚えはねぇ」

 

アシェラッド「ご無礼をお許しください。このバカへはわたしから指図しておきます」

 

アシェラッドの言葉をふっ、と鼻で笑い、王子は続ける。トルフィンの反抗的な言葉をたいして、気にしていない様子だ。右隣りの建物の屋根に十字架が輝いている。

 

クヌート王子「神はこうしている今も、我々をみていらっしゃるのだろうな。友を失い、親と子がころしあう。そんな様のすべてを天空の高みから見下ろしておられるのだろう。──許せぬ! わたしはこの地上に楽土をつくるぞ。平和で豊かな、生きることに苦しむ者たちの理想郷を。わたしの代では成しえぬかも知れぬ。それでも最初の1歩をわたしが踏み出すのだ。神はきっとわたしを愛で御許へ召そうとするだろう。だが、そのときわたしはこう言うのだ。もはや天の国も試練もいらぬ。我々の楽土は地上にある、とな。我々が失ったものを取り戻すのだ。そのためには、鬼にもなろう

 

立ち止まり、十字架を見上げながら決意を語るクヌート王子。

 

 

トルフィンは黙ってその言葉に耳を傾ける。

 

アシェラッド「お手伝いいたします、殿下」

 

地上に視線を戻し歩き始めた王子の背中に、真剣な表情のアシェラッドが声をかけた。

 

感想&考察1、「暗殺」ですかっ! そりゃまた分かりやすい・・・。

 

まずは、それぞれに合った王子の采配が光りますね! トルケルには人脈をつくって味方を増やすよう命じ、アシェラッドとトルフィンはスヴェン王との謁見に連れていく。どうやら王子、アシェラッドがもつ、顔を見ればその人が何を考えているか、その人の器までも見抜いてしまう眼力も理解しているようです。

 

で、今後どうする? って訊かれてアシェラッド、ずばっと「暗殺」を提案しています。そう言われても王子、顔色ひとつ変えません。まぁ、想定範囲内なんでしょう。野望のためには「鬼」にもなると神に向かって宣言しちゃってます。腹くくってますね。

 

でも王子、クリスチャンやめる気はなさそうですね。天に召されて幸せになるよりも、生きている間に幸せになれるよう、地上の楽園を作りたいと思っているのだから。キリスト教的にいえば、それが王子の使命であり、神に与えられた試練なんでしょうね。

 

その試練を行うために「暗殺」までしちゃうのはキリスト教的にどうなの? って気もしますが──。それでもやると決めたんですよね。十字架を見上げながら話す、クヌート王子の表情は厳しい。

 

少し前までうじうじと、自分の言葉で話すことすらできなかった王子の覚悟を、トルフィンは黙って訊いています。彼はどう思っているんだろう? 王子の変わりよう、その意思と行動を、どう捉えているんだろう?

 

目にトールズと同じ輝きを宿したクヌート王子は「本物の戦士」になったはず。トルフィンも、そのことに気づいているのかな? 「命令すんな。オレぁあんたの手下になった覚えはねぇ」なんて噛みついているあたり、トルフィンは相変わらずトルフィンですがw

 

スヴェン王謁見

 

スヴェン王の座す部屋の扉が開かれた。白いマントをまとった二人の従士の間に座るスヴェン王が口を開く。

 

スヴェン王「よくぞ戻った。嬉しいぞクヌート」

 

奥に深く幅の狭い長方形の室内は、左右の壁の高いところに並んだ小窓から夕陽が差している。部屋の中はひどく赤く、そして薄暗い。

 

クヌート王子「ありがたきお言葉。陛下よりお預かりした兵を失ってしまった、不肖の身に余ります」

 

「近う寄れ」と手招くスヴェン王の言葉に応じようとする王子を、右後方に控えるアシェラッドが止めた。

 

アシェラッド「お待ちください──どうだ、トルフィン」

 

トルフィン「いるな。20人ってところか。高いところにもだ。弓兵だな」

 

アシェラッド殿下、伏兵です。どうやら王陛下は、こちらの腹をお察しのようですな

 

一見、スヴェン王の他には両脇に2人の従士と、扉を開閉する係がいるだけに見えて、じつはこの部屋には20人の伏兵が隠れている。高窓の下に弓兵が伏し、左右の壁に垂らした布の裏には武器を携えた兵が息を殺している。「どうした、早う寄らぬか」と王は催促する。

 

クヌート王子そなたたち、何があっても剣を抜いてはならぬぞ。先に抜いた方が負けだ。これは、そういう喧嘩だ

 

後ろの二人に命じ、王子は静かに歩み出る。王子の右後ろにアシェラッド、左後ろにトルフィンが従う。

 

アシェラッド(暗さに目が慣れてきたな。もう少し近づけば、王の顔が分かる。顔を見れば──)

 

スヴェン王「止まれ。そこで良い、ひざまずけ」

 

アシェラッド疲れた目だ。これが、デーン人の王か

 

赤い衣服に紫のマント。金の腕輪に両手に光るいくつもの金の指輪。赤い宝石を飾った王冠を頭にいただいたスヴェン王の顔には無数のイボが散っている。まぶたは重く、たるんだ頬に歯の抜けた口もと。髪にもヒゲにも白いものが混じっている。王はふぅと息を吐き、杯に酒をつがせた。

 

スヴェン王「ラグナルはどうした、姿が見えぬが」

 

クヌート王子「死にました。マーシアの地にて」

 

スヴェン王「そうか、それは惜しいな。あれはまことの忠臣であった──本来なら酒肴をもって帰還を祝うべきだが、一度そなたとは形式ぬきで話し合おうと思うておった。クヌートのみ立て。10歩前へ進め」

 

立ち上がり進み出たクヌート王子の顔つきが、以前と一変しているのをスヴェン王は認めた。

 

スヴェン王「ほぉ、ほんのわずかの間に顔が変わったな。予の若き日に似ておる」

 

クヌート王子「──されば、我が心の内もお分かりでございましょう

 

スヴェン王「困った子だ。そのようなところまで、予に似るとは」

 

クヌート王子「子は、親の成しようを見て育つのです。よもやお責めになりますまいな」

 

スヴェン王かつて若き日。予は父である先王を国外に追い放ち、この王冠を奪った。それが王国のために良きことと信じたからだ。先王は性残忍にして臆病者だった。そのような者が王冠をいただいては世が乱れる」

 

「先王は臆病者だった」というセリフに、ひざまずいているトルフィンがこっそり笑う。

 

トルフィン「へっ、こんだけの護衛に囲まれていて何言ってやがる」

 

アシェラッド「だまれ、聞こえるぞ」(腹芸を使う気はねぇってかよ、殿下よ。敵の巣の中にいるってことを忘れなさんなよ

 

王子のド直球な言葉に、アシェラッドは肝を冷やしていた。

 

「意思があるのだ、この王冠には」

▲王冠の意思とは・・・? 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

スヴェン王は王冠を手に、かつての自分を振り返る。

 

スヴェン王「善きことを成した。善きことを成せると、思うておった。これをかぶるまではなぁ。意思があるのだ、この王冠には。かぶれば千の船、万の兵を統率できる。遠国のあらゆる宝を取り寄せることができる。神々のごとき力が身に宿る。──だが、だがクヌートよ。力を使うのは王ではない。王冠の意思が使うのだ

 

クヌート王子王冠が、陛下に命じたというのですか? わたしをころせと

 

スヴェン王「王冠が王に命じるのは、ただふたつ。力を使うことと、力を増やすことだ。抗うても無駄なことよ。王冠は、そなたを欲してはおらぬ

 

ゆっくりと王は右手を上げた。そのとたん、左右の壁に垂らした布の裏から兵が現れ剣を抜き槍を前に王子を取り囲む、高窓の下に伏していた弓兵も起き上がり弓を構えた。

 

スヴェン王「クヌート、そなたにコーンウォールの一部をやろう。そこで聖書でも読みながら平穏の日々を送るがよい。嫌だと申すなら、この場でしぬがよい」

 

クヌート王子「ふっ。そのお言葉も、王冠が言わせているのですか? 陛下」

 

武器をつきつけられながら王子にひるむ様子はない。口の端で笑って見せてから、さらに挑発するようなことを言う。ここに至り、突然アシェラッドが口を開いた。

 

アシェラッド陛下! おそれながら、発言をお許しください

 

緊迫した空気がややほどける。王はアシェラッドに「名乗れ」と命じた。

 

アシェラッド「ウォラフの子、アシェラッドと申します。失礼ながら、果たしてこのご沙汰は、王冠の意思にかないましょうや? 王子殿下は、ロンドンよりトルケルという戦力を奪い取りました。陛下がイングランド王にご即位なされれば、かの街には降伏よりほか道はありません。ロンドンの富は無傷のまま陛下のものとなります。多大なる犠牲を払い、この戦果をもたらしたるは、クヌート殿下に他なりません。功労ある者が罰せられる道理がありましょうか? このご沙汰、新たな領土の割譲において、各将軍に動揺を与えます。なにとぞご再考を

 

スヴェン王「──ふん、口の回る男だ。アシェラッド”灰まみれ”か。それはあだ名であろう。キサマの父が授けた名を申せ」

 

アシェラッド「──ただ、アシェラッドと。父はわたしに名を与えませんでした」

 

スヴェン王妾の子か。いや、奴隷に産ませた子かのぉ

 

ひざまずき、床に置いているアシェラッドの指先に力が入り甲の血管が大きく盛り上がった。アシェラッドの身体から、怒りのオーラが立ち上る。

 

スヴェン王「クヌート、よい従士をもっておるな。そやつの申す通りだ。そなたたちには、褒美をやらねばならんな。予は明日ヨークにたつ。かの席にて宴席をもうけん。ほうびはそこで授けよう」

 

王は玉座から立ち上がり、部下をともない部屋を出ていった。

 

▲「このご沙汰は王冠の意思にかないましょうや?」 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

一人ひざまずいていたアシェラッドは立ち上がり、ふぅ~と大きく息を吐いた。

 

アシェラッド「肝を冷やしましたぞ殿下」

 

クヌート王子「なにを慌てることがある。そなたの察する通り、王には今、わたしをころすだけの大義名分がない。賢王と呼ばれたいお方なのだ。こちらさえ軽挙に出ねば、王の内懐はむしろ安全だろう

 

アシェラッド「では尚のこと、先ほどのような挑発はお控えください」

 

クヌート王子「ふ。なんのことはない。スヴェン王は王冠の奴隷というわけだ王冠の力、わたしが使いこなしてみせようぞ

 

謁見を終え部屋を出たスヴェン王は、従者を率いて廊下を歩きながら思う。

 

スヴェン王アシェラッドか、少々、警戒せねばならんな

感想&考察2、スヴェン王、クヌート王子サイドの力量を測る!

▲老獪なスヴェン王 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

スヴェン王との喧嘩、第1幕は「宣戦布告」から始まりましたね。いくら覚醒したからといって、クヌート王子はまだ17歳。老獪なスヴェン王相手の駆け引きなど通用しないと踏んだのでしょう。真っ向勝負です

 

一方、フローキから連絡を受けたスヴェン王は、伏兵を20人も仕込んでクヌート王子を迎えました。クヌートがこれまでのようなナヨナヨ王子でなくなったと知り、身の安全のためとクヌートを試すための伏兵です。

 

スヴェン王は、クヌート王子の覚醒を自分の目で確認しました。そして、その意図も。クヌートがデンマーク王の王冠を欲していることも確認しました。その上で、クヌートの力量を試しましたね。

 

伏兵にクヌート王子を取り囲ませ、その上でコーンウォールの田舎に引っ込んで大人しくしていろと脅します。クヌートは怯えるどころか鼻で笑いました。しかも「そのお言葉も、王冠が言わせているのですか?」と、挑発までする。

 

さすがにまずいと察したアシェラッドが口を挟み、スヴェン王もそれ以上の行動に出ることなく引き上げていきました。

 

クヌートの覚悟と、側近アシェラッドの頭の良さを確認したところで、スヴェン王は第1ラウンドを終了しました。スヴェン王としては、相手を「手ごわい」と踏んだようです。とくにアシェラッドは、早速その頭の良さに目をつけられました。

 

なんともピリピリした神経戦。見ているこちらも胃が痛くなりそうでしたね!

 

感想&考察3、スヴェン王は王冠の奴隷

crown
crown / trainjason

 

またしても出てきました! 第8話で登場したアシェラッドの名言「人間は皆、なにかの奴隷だ」。なんとスヴェン王は、王冠の奴隷でした。

 

スヴェン王「善きことを成した。善きことを成せると、思うておった。これをかぶるまではなぁ。意思があるのだ、この王冠には。かぶれば千の船、万の兵を統率できる。遠国のあらゆる宝を取り寄せることができる。神々のごとき力が身に宿る。──だが、だがクヌートよ。力を使うのは王ではない。王冠の意思が使うのだ

 

スヴェン王は、先王を国外追放して国王の座についた人でした。先王が残忍で臆病者だったので、王の座にふさわしくないと思ったからです。だから先王から王冠を奪った自分の行動は「善きこと」、正しい行いだと思っていたのです。そして、これから自分は「善きことを成せる」、正しい政治を行えると思っていたのです。

 

でも実際に王冠をいただいてみて、その考えは打ち砕かれました。結局スヴェン王は、先王と同じような政治を行ったのでしょう。神のように強大な権力に溺れてしまったようです。

 

スヴェン王「力を使うのは王ではない。王冠の意思が使うのだ

 

とはいえ、この言葉は言い訳にしか聞こえません。結局、王の権力に溺れた自身の弱さが露呈しただけじゃないかと思えてしまいます。

 

クヌート王子「ふ。なんのことはない。スヴェン王は王冠の奴隷というわけだ王冠の力、わたしが使いこなしてみせようぞ

 

クヌートもそう思ったようです。しかし、これは取りようによってはフラグとも取れる発言ですね・・・。この先、クヌートはこの王冠を手にします。はたして彼は初心のとおり「地上の楽園」をつくることができるのか、それともスヴェン王のように王冠の奴隷になってしまうのか──。

 

アシェラッドのスヴェン王評

 

一方、人を集めて酒盛りを楽しんでいるトルケルは──。

 

トルケル「さぁ、じゃんじゃんやってくれ。ぜーんぶクヌート殿下のおごりだぜ!」

 

人々は酒を満たした角杯を上げ「殿下、ばんざーい!」と歓声を上げる。スヴェン王との謁見を終えたクヌートも、アシェラッドと並んで椅子に腰を下ろし、杯を上げてみせる。さきほどまでとは打って変わり、くつろいだ表情だ。

 

酒宴では、酒の飲み比べが始まっていた。若い僧侶が杯を飲み干し、向かいに座る男が潰れてしまった。僧侶は顔色一つ変えない。「57杯目だ、バケモンだこいつ!」と、ギャラリーから驚きの声があがる。

 

トルケル「おぉい、さっきからガブガブ、ガブガブ飲みやがって。だれだおめぇは、坊主なんぞ招いた覚えねぇぞ」

 

ヴィリバルド「わたしはヴィリバルドです。お忘れですか?」

 

なんとその酒豪は、ひげをそり、髪を短くしてこざっぱりしたヴィリバルドだった。「ヴィリバルド」ときき、トルケルも周りの者もあんぐりと口を開ける。「若いな、いくつだよ?」。「23です」。相変わらずヴィリバルドの話し方は淡々と、酩酊している様子はまるでない。

 

クヌート王子「不思議な男だ。好き放題に生きながら、まわりの者に憎まれない」

 

つぶれてしまった手下を追い払い、ヴィリバルドの前に腰を下ろしたトルケルが、今度は酒豪を競うつもりだ。またひと際高く、歓声が上がる。

 

クヌート王子「──で、どうだ? やれそうか、あの王を」

 

アシェラッド「難しい──と、言わざるを得ませんな。頭の良いお方とお見受けしました。洞察力と、先手を打つ行動力をお持ちです。我々が脅しに屈さぬとみるや、次の手に転ずるあたり、戦上手とも申せましょう。さすがは1国の王、といったところでしょうか。手ごわいですぜ」

 

クヌート王子「いずれ、ころすにしても、今ではない・・・か」

 

アシェラッド「ま、当分は王陛下の隙をうかがいつつ、恭順の亭で行きましょう」

ラグナルの弟、グングナル登場

▲はげ頭のてっぺんが尖っている! 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

「殿下、殿下」と声高に近づいてきた男。はげて尖った頭に茶色の髪とひげ。ラグナルの弟、グンナルだ。

 

グンナル「無事のご帰還、御悦び申し上げます。このグンナル、どれほどに心配したことか。ご入城にお出迎えもせず、申し訳ございません。なにぶんたった今、異国より帰ってまいったものですから。もちろん、きっとのご生還、信じておりましたぞ~! おや、こちらの御仁は新しい従士殿ですか? ご紹介いただけますかな?」

 

よく喋る男だ。王子がグンナルをアシェラッドに紹介し、アシェラッドは自己紹介した。

 

グンナル「──ところで殿下。かねてよりの計画、メドが立ち申した。ノルマンディー公国です。その件について、兄も交えて後ほど」

 

クヌート王子「ラグナルはしんだ。わたしのために、すまぬことをしたな。それから、亡命はせぬ。そなたが諸国を奔走してくれていたことは大義であった。さきほどスヴェン王には喧嘩を売ってきた。そなたも力を貸せ。──グンナル、そなたの仕事は、王の監視と報告だ。使う兵は信用できる者を選べ

 

はかりごとを酒席で指示するクヌートに「そのような話をこんなところで」と慌てて止めるグンナルにクヌートは「構わぬ。むしろこの場は密談によい」と涼しい顔。さすがのグンナルもクヌートの変化に気がついた。

 

グンナル「殿下・・・お変わりになられた」

 

クヌート王子「変わるさ。すべてを変えていかねばならぬ」

アトリとトルグリム。そしてレイフ

 

アシェラッドのグンナル評はあまり良くない。酒宴を抜け出し、雪に小便をしながら一人つぶやく。

 

アシェラッド「あのグンナルってのはいかんな。口ほど殿下への忠心があるとも思えんし」

 

どこからかカンカン響いてくる音に目をやると、そこではトルフィンがもくもくと訓練をしているところだった。折れた右腕に添え木をし、包帯でぐるぐる巻きにしている。「アシェラッド!」。ふいに呼ばれて振り返ると、アトリとトルグリムが立っていた。トルグリムは、トルケルが与えた恐怖から抜け出せず、すっかり幼児退行してしまっている。

 

アシェラッド「そうか、国に帰るか」

 

アトリ「あんたは気にしねぇと言ってくれたけど。やっぱオレたちは裏切り者だし。なんつうか、この先どのツラ下げて会えぁいいのか・・・いてぇ!」

 

しんみり話すアトリの横面に雪玉が飛んできた。雪玉を両腕に抱え「やぁーい当たったぁ」と、無邪気に笑う兄のトルグリム。

 

アトリ「なんか、兄者もあんなんなっちまったし。ビョルンの傷、治るといいなぁ・・・」

 

アシェラッド「はっ! アトリ~、おまえそれでもヴァイキングかよ。よくもまぁ、こんな真人間がオレの手下になったもんだぜ。──ビョルンは長くもたねぇよ。傷がはらわたまで達してる。これでもう、昔っからの手下はトルフィンだけってことになるな。再出発にはちょうどいい」

 

アシェラッドは自分の腕から金の腕輪を外して「もってけ」とアトリに差し出した。感激したアトリが「すまねぇ」と受け取ろうとすると、アシェラッドはひょいと腕輪を持ち上げる。

 

アトリ「なんだよ、くれんのかくれねぇのか、どっちだよ?」

 

アシェラッド「条件がある。二度と剣を握るな。おまえにゃ似合わねぇアトリ。羊を飼い、嫁をもらって、ガキをこさえてベッドでしね。これから先、おめぇを戦場でみかけたときぁ、味方でも斬るぞ」

 

アトリ「──あぁ、分かった」

 

トルグリムを伴い、アトリは遠ざかる。「それなに?」とトルグリムが訊いている。「これか? これは大切なもんだ」とアトリが答える。

 

西暦1014年2月 ノーザンブリア地方 デンマーク軍占領下の街ヨーク

 

レイフは奴隷市場に立っている。右に左に視線を走らせるが、目当ての奴隷はいない。もちろん、レイフが探しているのはトルフィンだ。

 

感想&考察4、再出発にあたり、これまでの人脈整理

▲子どもに戻ってしまったトルグリムと、きまり悪そうなアトリ 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

クヌート王子が企むクーデターを支援するという目的の下、共闘することになったトルケルとアシェラッド。トルケルとしては手下はほぼ無傷で、ただイングランド軍についていたのが元のデンマーク軍に帰ってきただけ。もともと人気があるので、なんの違和感もなく溶け込んでいる様子。

 

しかしアシェラッドは状況が大きく変わりました。クヌート王子の側近という、狙っていたポジションを得たものの、手下はほぼ全滅です。わずかに残ったアトリとトルグリムが国に帰るというので、首領らしく厳しい戒めとともに路銀を与えて送り出しました。こういうところ、男気があるんですよね。

 

しかしビョルンは長くもたないか・・・。うーん残念、次回あたりしんじゃうのかなぁ?

 

クヌート王子の教育係、ヴィリバルド神父もついてきているようです。しかし23歳だったとは! 意外と若かったですね!

 

ラグナルが遺言で残したとおり、王子を亡命させるために動いている弟のグンナル。満面の笑みと奇妙な動きがユーモラスな男です。しかしアシェラッド評はあまり良くない。もしかして、このグンナルという男、この先なにか問題の種となるのだろうか? もしも兄をころしたのがアシェラッドだと知ったら──絶対に火種になりますね。

 

最後にレイフ。自分たちの身代わりに亡くなったトールズの一人息子トルフィンを、ずっと探し続けています。あれからもう11年。今日も奴隷市場にトルフィンがいないかと見まわっています。場所はヨーク。そういえばスヴェン王がこう言っていましたよね。

 

スヴェン王「そなたたちには、褒美をやらねばならんな。予は明日ヨークにたつ。かの席にて宴席をもうけん。ほうびはそこで授けよう」

 

もしかして、次回の舞台はヨークでしょうか? クヌート王子の護衛として同行したトルフィンとレイフが、もしかして再会してしまうのでしょうか?

 

と、思ったら次回タイトルは「再会」。来ましたねぇー!!!

 

感想&考察5、スケープゴートは誰?

Scapegoat
Scapegoat / h.koppdelaney

 

最後に、ちょっと気になることを。

 

クヌート王子に、クーデターをどう進めるかと問われたアシェラッドはこう答えました。

 

アシェラッド「はぁ。短期的には暗殺がよろしいかと。兄王子ハラルド殿下は、遠くデンマークにいらっしゃいます。これは好機です。今、王陛下が崩御されれば、イングランド方面軍の最高指揮官は、あなた様ということに。この場合、首謀者を偽装する必要がありますなぁ

 

スヴェン王を暗殺するとして、その首謀者はクヌート王子であってはいけないというわけです。先王を暗殺した者が次代の王になっては、家臣がついてこないからでしょう。ましてやハラルドという兄がいるなら、王にふさわしいのはクヌートではなくハラルドだという機運が高まってしまう。

 

そのため濡れ衣を着せる者が必要。首謀者は、スヴェン王からクヌートに王位が代わることで利益を得る者であるべき。──つまり、クヌート陣営の誰かであるべき。

 

それじゃいったい、スケープゴートは誰か?

 

アシェラッドが上の発言をした直後に、クヌート王子はこう言っています。

 

クヌート王子「うん・・・。トルフィン、今後は護衛以外にも働いてもらうことになるだろう。頼むぞ」

 

まさか、トルフィンに罪をかぶせる気ですかっ? いや──クヌートが王座についてトルフィンが得をするともっていくのは、結構ムリ筋。しかも主人公特権で、トルフィンがしぬことはあり得ない。

 

こう考えると、答えは一つしかないんですよね・・・。うう~~~~ん、イヤな予想です。できれば外れてほしいのですが・・・。

 

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