アシェラッドがトルフィンへの本音をポロリ!」シーズン2、第22話孤狼」のあらすじと感想・考察を紹介します。2019年7月~放送の「ヴィンランド・サガ」は、1000年前の北欧を舞台にヴァイキングの生き様を描いた骨太な物語。



第22話/アシェラッドの膨大な一人語りと、泣き崩れるトルフィンの名演技!

▲「てめぇ、王子。なめてんのか」 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

#22

孤狼

Lone Wolf

 

風吹きすさぶ雪の丘。

 

ビョルンが一瞬跳び退り、大きくアシェラッドに斬りかかる。アシェラッドは真っ直ぐビョルンの胸に剣を突き立て──。ビョルンをヴァルハラに送るための決闘で、アシェラッドはビョルンの急所を外してしまった。ビョルンは必死の形相でアシェラッドの胸元に手をかけると、喉の奥から絞り出すように言った。

 

ビョルンアシェ・・・ラッド。あんたと、友だちに──

 

アシェラッドあぁビョルン。おまえは、オレのたった一人の、友だちだ

 

ビョルンの表情がゆるむ。

 

ビョルン「送って・・・くれ」

 

こうしてアシェラッドの唯一の友だちビョルンは、アシェラッドの手により逝った。

 

さすがのアシェラッドも、いつものひょうひょうとした雰囲気は影を潜め、身体じゅうから張りつめた気配が立ち上っている。

 

アシェラッド「さて、待たせたな小僧。来い、遊んでやる」

 

ビョルンを送った直後だというのにアシェラッドは、いつものトルフィンへのご褒美の決闘をしようというのだ。アシェラッドのただならぬ気配にトルフィンは息を飲む。ぱたぱたと落ちた汗が雪に小さな穴を開ける。包帯を巻いた腕にくくりつけた右手の短剣、左手にもう1本の短剣を構えたままトルフィンは動けない。

 

 

観戦しているトルケルが面白そうにクヌート王子に話しかける。

 

トルケル「ふふふん。で? どっちが勝つと思うね王子。賭けるかい?」

 

クヌート王子「どちらでも構わぬ。どちらもしなぬ内に止める」

 

トルケル「つまんねぇこと言うなよ~。こんな手練れ同士の決闘、そうそう拝めるもんじゃねぇんだぜ?」

 

トルケルの見立てとしては、アシェラッド有利と見た。「銀1ポンド」賭けるという。王子は賭けに乗らない。

 

相変わらず仕掛けてこないトルフィンに業を煮やし、アシェラッドは剣を投げ捨てた

 

アシェラッド「ほれ、攻めやすくなったろ? 来い、坊主」

 

投げ捨てられ雪に突き立つ剣をみて、素手で十分となめられたと思ったトルフィンは、いつものように激昂する。その怒りのまま真っ直ぐアシェラッドに挑みかかった。が、両腕をがっちりアシェラッドに捕まれ、トルフィンは身動きできなくなってしまった。

 

アシェラッド「な? まだ分かんねぇのか、なんでこうなるのか」

 

両腕をころされたトルフィンは足で蹴りを入れる。と、アシェラッドの方は頭突きだ。よろめき後ろに倒れかけたトルフィンは態勢を立て直し、剣を繰り出す。

 

▲いいように殴られるトルフィン 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

が、アシェラッドの拳が早かった。みぞおちからえぐり上げ、横から真っ直ぐ頬に、倒れかけたトルフィンの髪をつかんで今度は胴にパンチが入る。トルフィンはなにもできない。ただアシェラッドにいいように殴られている。

 

トルケル「勝負になってねぇやこりゃ。トルフィンのヤツ、クセから何からアシェラッドに見抜かれてらぁ。この二人、相当やってんなぁ。決闘の理由は?

 

クヌート王子「知らぬ。訊いていない」

 

ついにトルフィンは、雪に突っ伏したまま動かなくなった。

 

アシェラッド「たくぅ。成長のねぇガキだ。トルケルに勝って調子に乗ったか。いい加減、うんざりするぜ」

 

唸るように言うと、アシェラッドは傍らに突き立っていた剣を手にする。クヌート王子が止める。

 

クヌート王子「やめよ。そこまでだ!」

 

アシェラッド「片手でこのオレに勝てると思ったか」

 

左足をトルフィンの背中にかけ、剣を下に向ける。

 

アシェラッド「まったく、今日はクソ気分のいい日だぜ」

 

剣は、トルフィンの頭のすぐ横に突き立った。クヌート王子が走り寄る。

 

クヌート王子もうよせ、気絶している。そなたの勝ちだ

 

クヌートの呼びかけで我に返ったトルフィンは、まだ決闘を続けようと剣を構える。

 

クヌート王子「よせ、もう終わりだ。気を失ったのだ。既に止めを刺されている。右腕が治ってから、またやり直せ」

 

左目を大きく腫らし、鼻は赤黒く変色し、鼻血を垂らしながら悔しがるトルフィン。一方アシェラッドは、崩れかけた低いレンガ塀の上の雪をちょっと払ってそこに腰を下ろした。

 

アシェラッド「治っても同じですよ。ケガのせいじゃねぇ。そのバカは、バカだから負ける。普段はちったぁ考えて戦うようになってきちゃいるが、いっぺん頭に血が登ったらぜんぶ台無しだ。首筋を狙ってるのが、目線で丸わかりなんだよ。すぐにブチ切れて、でけぇ声だして、柄物振り回すのはバカの戦だ。まったく、どいつもこいつも。美しさの欠片もありゃしねぇ

 

低くドスの効いた声音だが、さっきまでの殺気は消えている。

 

アシェラッド「ビョルンの言うとおりさ。オレぁ戦士ってのが大嫌いだ。ノルド戦士、ヴァイキングはとくにな。初めてころした相手もノルド戦士だった。美しくない男だったぜ。オレの親父だ。小僧、後学のために教えてやろう。憎い相手の殺し方をな

今回のテーマは2つ。「アシェラッドの過去」そして「トルフィンの涙」です。

 

前回第21話の「感想&考察7」に書いたように、アシェラッドのデーン人嫌いの理由は、父親が嫌いだからです。ウェールズの高貴な生まれの母・リディアをさらい、奴隷扱いしたデーン人の父親ウォラフ。どうやらアシェラッドは、この父親をころしているようですね。

 

ビョルンの自分への純粋な気持ちを知ったアシェラッドは、いつになく自分がどのように育ったのか、そしてどのように父をころしたのか、その方法を詳細に語り始めます。

 

長い、長いアシェラッドの過去語り。CV内田直哉さんの圧巻の演技あってこそ成り立つ、シーンです。まずは、これまで語られてこなかった「アシェラッドが最初に仕掛けた頭脳戦」を、抜群の声の演技力とともに見ていきましょう。

 

もう一つのテーマは「トルフィンの涙」です。

 

6歳からアシェラッド兵団でヴァイキング生活を送ってきたトルフィン。必死に生き、アシェラッドへの復讐だけを目的にひたすら剣の腕を磨いてきたトルフィン。どんな辛いことも歯を食いしばって耐えてきたトルフィン。そんなトルフィンが流した涙の意味は? 大きな変化を予感させるトルフィンの涙にも大注目です!

 

アシェラッド11歳。計画の最初の一手。

▲アシェラッドの父・ウォラフ 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

鍛冶場で男たちが真っ赤に燃える鉄を打ち、斧を鍛えている。ここは、アシェラッドがかつて過ごした父親の家の側だ。

 

アシェラッド「オレは、奴隷の母親から生まれた。おふくろは病気で、働くことができなかった。なんで、物心つくころにゃ、鍛冶場や厩の下働きだった。身体はいつも灰やススや、馬のくそやらで、白かったり黒かったりでな。ついたあだ名が”アシェラッド”。”灰まみれ”って意味だ

 

そこに父ウォラフが帰ってきた。馬に乗り、片手に戦利品の首を下げている。後ろにはぞろぞろと3人の息子をはじめ多くの手下が従っている。

 

アシェラッド「親父はユトランドの豪族だった。酒と女ところしが好きな、まぁ、どこにでもいるようなヴァイキングだ。オレみたいなガキをあちこちの女に産ませてたらしいが、名を与えたのは本妻の産んだ年長の子どもたちだけだった。それ以外のガキなんざ、顔も覚えちゃいなかっただろうぜ」

 

若い頃は父親のお気に入りの奴隷だった母・リディアは、病を得てから厩で生活していた。

 

アシェラッド「おふくろはよく、先祖の英雄アルトリウスの話しをした。同じ話しを何度もした。500年前、蛮族の侵入からおふくろの故郷を守った将軍の伝説だ。おふくろは英雄復活の伝説を信じていた。自分を病や奴隷の身分から解き放ってくれる者の再来をな。あんまり繰り返すもんだからよ、オレも信じるようになった。遥か西の彼方、常人にはたどり着くことのできない彼岸の地に、英雄アルトリウスの住む楽土があるという。平和と豊穣、不老不死が約束された理想郷だ

 

レンガ塀に腰かけ、雪に差した剣に両手を添えてアシェラッドは話し続ける。顔を腫らしたトルフィンは、膝をついたままアシェラッドの言葉に耳を傾けている。その隣にクヌート王子が立っている。

 

アシェラッド「英雄はそこで、今も戦の傷を癒しているらしい。いつの日か彼は万軍を従え来て、蛮族どもを誅し、この世を平定してくださる。おふくろの一族は、それを待ちつづけた。待ちに待って500年。英雄はまだ現れない。だが考えてもみろよ、もしご先祖さまが、そんないいとこに暮らしてるならよ、好き好んでこんな世界に帰ってくるわけがねぇ。そして、オレが11歳のとき、ついにおふくろの心が折れた」

 

アシェラッド11歳のある日、母・リディアは布をかざして裸足で歩いていた。そして嬉しそうに父親のウォラフに駆け寄ると、そのマントにすがりついた。

 

▲アシェラッド11歳 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

どうやら狂った目には、ウォラフが英雄アルトリウスに見えていたのだ。ウォラフは剣を抜くと母親に振り下ろそうとした。

 

アシェラッド「一瞬で悟った。今このときアルトリウスがおふくろを助けに来ないのなら、そんな者は永遠に来ないのだと。分かるか若造ども。だれかがやらねばならん。英雄でも神でもねぇ、誰かがな

 

鍛冶場にかかっていた剣を手にすると、アシェラッドは父・ウォラフに斬りかかった。

 

アシェラッド「不思議なもんだ。初めて使ったのに、剣はオレの手によくなじんだ。どう振ればいいのか、分かっていた。オレの身体に目の前のクソ野郎の血が流れている証拠だと思った

 

しばらく剣を打ち合わせた後、ついにアシェラッドの剣はウォラフにより跳ね飛ばされた。ウォラフはアシェラッドの顔に剣を突き付けながら訊く。

 

ウォラフ「おまえ、その女の子か。ワシの子か?」

 

「そうです」と答えると、ウォラフは静かに剣を収めた。

 

ウォラフ見込みがある。今日から館に住め

 

この日から、アシェラッドは正妻の息子3人とともに、ウォラフの館で暮らすようになった。

 

アシェラッド「さすがに11歳のガキにやれる相手とは思ってなかった。まずは親父の目に留まること。──成功だ。館では行儀よくしていたよ。武術や馬術の鍛錬を怠らなかった。腹違いの兄貴たちとも、上手くやってた。いつも親父を立てるように気を使ってな。奴隷暮らしから救ってくれた恩をけして忘れない忠実な息子だった。じきに、周りも身内も、すっかりオレを親父の息子と受け入れるようになった。この作業に2年をかけたぜ

「狙いは二つ。親父の油断と、遺産の相続権だ」

 

2年後の13歳。アシェラッドは用意周到に準備を進めてきた計画を実行に移した。父親の寝室に入り込み、兄の剣で父をころした。隣にいた女もろとも。

 

アシェラッド狙いは二つ。親父の油断と、遺産の相続権だ

 

ここでアシェラッドは、ふふふ・・・と、肩を揺らして笑う。

 

アシェラッド「おまえらにも、見してやりたかったよ。親父のあの”なぜ?”ってツラぁ。使ったのは兄貴の剣だ。親父と仲の悪いヤツから選んで盗んだ。他の兄貴たちは犯人と思い込んで、そいつをリンチにかけちまいやんの。まったく単純なヤツらだぜ。バカで不潔で、てめぇの欲望以外なにもねぇクソどもさ。あぁいう美しくねぇヤツらが、そこらじゅうから湧いて出てきて、幅を効かせやがる。いくらブチころしてもキリがねぇ。アルトリウスでもラグナロクでも、最後の審判でも、なんでもいいからよ、マジに来るなら、急いでもらいたいもんだぜ」

 

アシェラッドはふと雪混じりの空を見上げ、また視線を地上に戻した。

 

アシェラッド「ま、そんときゃぁオレも、生きちゃいられねぇだろうがな」

アシェラッドのトルフィンに対する本音

 

昔語りを終えたアシェラッドは、ようやくレンガ塀から腰を上げた。それから剣を肩に担ぎ、静かに聞き入っているトルフィンに向かいこう締めくくった。

 

アシェラッド「長くなったな。要するにだ。トルフィン、10年以上かけてオレ一人倒せないおまえは、ボンクラだって話しさ

 

トルフィン「うるせぇ、オレは、オレはなにがあってもてめぇをころす。ぜってぇころしてやる!」

 

いつものように、いきり立つトルフィンのセリフを背中に訊きながら歩き始めたアシェラッドは、ふと足を止める。

 

アシェラッド「ったく。言ってる側からそれかよ。犬みてぇにエサにつられて、駆け回りやがって。おめぇの働きには、マジで頭が下がるよ。茶番みてぇな決闘に付き合ってやるだけで、あのトルケルにまで、ホイホイ挑んでいくんだもんなぁ。便利なガキだよ、おまえは

 

アシェラッドはトルフィンに向き直った。

 

アシェラッドまったく──トールズにも、感謝しねぇとな

 

それだけ言うとアシェラッドはまた背中を向けて歩き出す。アシェラッドの言葉に衝撃を受け思わず言葉を失っていたトルフィンは「ま・・・まて」とアシェラッドを追おうとし、雪に足を取られ転倒する。

 

クヌート王子「もうよせ」

 

這いつくばったまま、トルフィンは包帯の先につけた短剣で激しく雪をかく。

 

トルフィン「うるせぇ、うるせぇ、うるせぇー! 黙れ!」

 

クヌート王子「今は傷を癒せ」

 

王子がトルフィンを止める。「あーあ、なっさけね」。トルケルはあきれ顔だ。

 

アシェラッド「やれやれ。すっかり固くなっちまったなビョルン」

 

トルフィンには目もくれず、アシェラッドはビョルンを担ぎ上げた。

 

クヌート王子の疑問。

▲「なぜ、わたしなのだ」出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

ビョルンを運ぶアシェラッドにクヌート王子が問う。

 

クヌート王子なぜ、わたしなのだ。英雄の末裔はそなたであろう、アシェラッド。才気もある。己(おのれ)自身が王となり、世を変えようとは思わぬのか

 

「御冗談でしょう、話し訊いてなかったんですか?」。アシェラッドはビョルンを担いだまま、振り返る。

 

アシェラッドあなたの方が王にふさわしい。オレやスヴェン王よりもね。顔見りゃぁ分かります。オレは、ただのヴァイキングですよ

 

それだけ言うと、アシェラッドは雪を踏みしめ去っていった。

 

トルフィンの悔し泣き

▲父の短剣に写るトルフィン 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

立ち上がり、のろのろとアシェラッドの足跡を追うトルフィンは、ほんの数歩でガクリと膝を落とした。父の剣を覗きこむと、醜く変形し鼻血に汚れた自分の顔が見えた。

 

父の仇討ちをする──そう誓いただ必死に生きてきた、これまでの11年間が蘇る。すべてアシェラッドの手の平の上で踊らされていただけと知ったトルフィン。うめくような泣き声が、雪空にこだました。

 

感想&考察1、アシェラッドの決意。「だれかがやらねばならん。英雄でも神でもねぇ、誰かがな

 

今回は、アシェラッドの過去語りという、巨大な1シーンで構成されていました。アシェラッドのセリフ量がものすごいことになっています。残り3話という段階で、これだけ長いシーンをアシェラッドの過去語りに割いたということは、それだけこの場面が重要だという証拠です。

 

この大きなシーンをいくつかに分解しながらみていきましょう。

 

まずアシェラッドがデーン人を嫌っている元凶は、父・ウォラフの存在でした。それは前回の第21話「感想&考察7」で書いた通り。アシェラッドの過去は、これまで小出しに何度となく繰り返されているので、彼の幼少時代のあらすじはみんなが理解していることでしょう。

 

ウェールズの高貴な生まれの母・リディア。その子であるアシェラッドは、500年前の英雄アルトリウスの血を受け継ぐ最後の一人なのだと。そして、いつか現れるアルトリウス公に仕え、この世を平定するための役に立てと、アシェラッドは母から言われ続けて育ったのだと。

 

そんな母・リディアはデーン人の父・ウォラフに略奪され、ユトランド半島で奴隷として使われていました。二人の子として生まれたアシェラッドも奴隷として、鍛冶場や厩で働きながら育ちました。

 

そのためついたあだ名が「アシェラッド」。アシェラッドにはそれ以外の名前がありません。

 

ウォラフが母や自分にした仕打ちに、アシェラッドは幼い頃からウォラフに対する強い復讐心をもっていました。母を奴隷の身分から、辛い生活から解放するために。「だれかがやらねばならん。英雄でも神でもねぇ、誰かがな」と、思い続けてきました。

 

いくら待っても英雄アルトリウスが来ないなら、自分の手で望む未来をつかみ取るため、アシェラッドは行動に出たのです。

 

感想&考察2、話しを訊かせる相手は、直接的にはクヌート王子

▲崩れたレンガ塀に座り昔語りするアシェラッド 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

アシェラッドはこの話をクヌート王子とトルフィンに向け訊かせています。アシェラッドが取ってきた行動は、今クヌート王子がやろうとしていることに、とても良く似ています。だから、直接的にはクヌート王子に向け話しているのでしょう。

 

当時たったの11歳だったアシェラッドは、父・ウォラフに目を留めてもらうことを第1目標にしました。剣の腕を見込まれ、上手く父の目に留まったアシェラッドは、館に住むことを許されます。それから2年かけて、用意周到に父と腹違いの兄たちに取り入り、自分がウォラフの息子だと周りの者にかしずかせます。

 

13歳のある日、ついにアシェラッドは寝室にいるウォラフをころします。とある義兄の剣を使って。その義兄は、疑心暗鬼に陥った他の兄によりころされました。

 

アシェラッドの復讐は、父をころすだけでなく、その財産の正当な相続者になることでした。

 

残るは二人の兄。その兄たちをどうしたかまでは語られていません。が、アシェラッドはその二人もなんらかの方法で葬り、自分がウォラフの財産を相続したのです。だから14歳でモルガンクーグ王国に現れたとき、アシェラッドは船団を引きつれてきていたのでしょう。

 

英雄の再来を待ち続けたアシェラッドは、ついに自らの手で行動を起こし、望みを勝ち取りました。

 

神の救いを待ち続けたクヌート王子も、ついに自らの手で行動を起こし、望みを勝ち取ろうとしています。

 

クヌート王子がこれからやろうとしていることは正しいと、アシェラッドは彼の背中を押しています。そして、そのためには知略が必要だと言っているのですね。

 

感想&考察3、クヌート王子の疑問への返事。「ヴァイキングは、バカで不潔で、美しくねぇ!」

▲アシェラッドのもつヴァイキングのイメージ 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

アシェラッドの中には半分はアルトリウス将軍につながるウェールズの血が、もう半分は父・ウォラフが属するヴァイキングの血が渦巻いています。才気はアルトリウスから、剣の腕はウォラフから受け継いだのでしょう。「ヴァイキングは、バカで不潔で、美しくねぇ!」というアシェラッド自身に同じヴァイキングの血が流れているから。だからアシェラッドはデーン人が嫌いで、自分自身も嫌いなのです。ビョルンが見抜いた通りに。

 

そんな野蛮なヴァイキングである自分に王になる資格はない。そうアシェラッドは思っています。

 

でも、キリスト教を学び、無益な殺生をいさめるクヌート王子なら楽土がつくれると、アシェラッドはクヌート王子を認めるようになったのでしょう。暴力で解決するのではない、別の方法で国づくりをするだろうと。それをアシェラッドは「美しい」と感じたのでしょうね。「顔見りゃ分かる」なんて言い方していますが。

 

感想&考察4、「要するにだ、トルフィン。10年以上かけてオレ一人倒せないおまえは、ボンクラだって話しさ」

▲「ボンクラ」と言われ絶句するトルフィン 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

一方、アシェラッドがトルフィンにこの話を訊かせた理由は、クヌート王子とは違っています。たった6歳から、ただアシェラッドと決闘したいがためにアシェラッド団に同行しているトルフィンは、間違いなくデーン人です。

 

トールズはアシェラッドが首領として仕えたいと思わせたほど惚れ込んだ男でした。決闘を通して「美しい」と感じたのでしょう。でもその息子のトルフィンはというと、剣の腕は立つが、きちんと人と話すこともできず、ただ感情的にわめき散らす、ヴァイキングそのものです。アシェラッドはこうも言っています。

 

アシェラッド普段はちったぁ考えて戦うようになってきちゃいるが、いっぺん頭に血が登ったらぜんぶ台無しだ」

 

少しはマシになってきていると、褒めているわけです。でも最終的に、こんな言葉でバッサリ斬り捨てました。

 

アシェラッド要するにだ、トルフィン。10年以上かけてオレ一人倒せないおまえは、ボンクラだって話しさ

 

アシェラッドは11歳で初めて剣を取ったときから作戦を決行し、わずか2年で憎い相手を仕留めました。ところがトルフィンは11年たってもまだアシェラッドが倒せない。だから、アシェラッドともトールズとも違っておまえは「ボンクラ」だと言われたわけです。

 

こりゃ悔しいですね~。

 

しかも、決闘をエサにアシェラッドに便利に使われていたことに、これまで少しも気づいていなかったのだから、さらにショックです。ずっとどんなに辛くても歯を食いしばって耐えてきたトルフィンの、壮絶な悔し泣き。もうぐぅの根も出ませんね。

 

たしかにトルフィンには、アシェラッドのような才気もなければ、100人の首領を張れるようなカリスマ性もない。格の違いは明らかです。

 

こんなこと言われて、この先トルフィンはどうするんでしょうね? それでもこれまでの11年間を無駄にしたくないから、まだアシェラッドに固執するしかないのかも──。それともまさか、ここで諦めてレイフと一緒にアイスランドに帰る? この先のトルフィンの行動には大注目です!

 

しかし──。アシェラッドが言いたいことは、要するに「もう復讐なんて諦めろ」ってことなんだと思う。「いい加減、目を覚ませ」と。

 

今回アシェラッドはずいぶんひどい言い方していますよね。たしかにアシェラッドはトルフィンを便利に使ってきたけれど、それだけじゃなかったはずなんだけどね。ビョルンのこともあって気が立っているから、こんな言い方したけれど、アシェラッドはぜったいにトルフィンを可愛がっていたし、最後の最後までトルフィンの戦士としての誇り高さを信用していました。

 

そんな気持ちを、この先ちゃんと伝える機会があればいいんだけど。このままじゃ、アシェラッドはただの憎まれ役になってしまう──。

 

感想&考察5、「孤狼」とはだれのこと?

 

今回のタイトル「孤狼」とはだれのことなんでしょうね? OP映像からするとトルフィンのように思えるんですが、今回の内容からするとアシェラッドですよね。

 

父を嫌い、父の属するデーン人もヴァイキングも嫌い。父をころし、義兄を謀殺し、母を亡くし。手下を「てめぇらが心底嫌いだった」と斬り捨て、自分の中のデーン人の血すら憎んでいる。周りじゅうの誰も彼もを拒みズタズタな心を抱え、たった一人で戦うアシェラッド──。

 

それじゃトルフィンはどうなんだろう? これまではアシェラッドに養ってもらいながら、負けてもころされない不平等な決闘を生きる糧にしてきた愚かな人生でしたよね。アシェラッド団の他の手下たちとは一線を画した存在で、慣れ合ってもいないようだったから、ある意味「孤狼」のようだとも言えますが・・・。

 

でも今回のこの一件で、アシェラッドから切り離され、本物の「孤狼」になってしまう可能性もあります。

 

クヌート王子はどうだろう? 力になってくれる人がいて、彼らを大切にする限り「孤狼」ではないように思います。「孤狼」って中二的なカッコよさや響きはいいけれど、厚みがなくもろい印象ですよね。

 

感想&考察6、アシェラッドとトルフィンの決闘の原因を知ったらトルケルは──?

▲「あーあー、なっさけね!」 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

最後に、ちょっと気になったのがトルケルがどう思うかです。アシェラッドとトルフィンの決闘の最初、トルケルは何のための決闘かクヌート王子に訊いています。でも、王子は「訊いていない」と。

 

この流れからいうと、この先トルケルは決闘の理由を知ることになりそうです。盟友トールズをころしたのがアシェラッドだと知ることに。そのとき、トルケルはどう思うんでしょう?

 

今回の決闘でも、一切トルフィンに肩入れしなかったトルケルの言動からすれば、たいして気にしないかなぁ? それとも今はアシェラッドの才気に一目置いているトルケルの、アシェラッドを見る目が変わったりするのかなぁ? 考えすぎですかね?

 

おまけ

▲髪がピンクでかわいい♪ 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

 

今回の作画、全体的に人物の顔がきれいでかわいかったですね。お肌ツヤツヤで、目もくるんとして瞳がちょっと大きかったように思います。とくにクヌート王子の髪がピンク色をしていて、すごく女の子っぽかったです。このところ目付きに含みが出て、男っぽい顔つきになってきたクヌート王子だけに、少し違和感ありましたかね。
 
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