TVアニメ「蟲師 続章」第1話「野末の宴」(のずえのうたげ)。ヒトとは在り方の違う「命の別の形」それが蟲。「蟲師」は、蟲が人に影響したときに現れる奇妙な現象を集めた奇譚集。案内役のギンコと共に「蟲師」の世界の詳細あらすじを追う。感想・考察も加え、作品を深掘り!



第1話/「俺、父さんの酒の味、覚えてるから。あれを目指してまた一から、まっとうに酒を造ろうと思ってる」

出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

第一話

野末の宴

nozue no utage

 

第1期から8年を経て「蟲師」が「続章」として帰ってきた。制作スタッフは、長濱博史(ながはま・ひろし)監督はじめ、第1期のスタッフが再集結。第1期と同じスタンスで、同じ熱量で、同じ緻密さで、新しい「蟲師」が始まる。

 

続章の冒頭は、第1期の第1話と同じ。土井美加さんのとつとつとした語りから始まる。

 

およそ遠しとされしもの。

下等で奇怪。見慣れた動植物とはまるで違うとおぼしきモノ達。

それら異形の一群をヒトは古くから畏(おそ)れを含み いつしか総じて「蟲」と呼んだ。

 

あぁ「蟲師」だと思う。リアルタイムで「蟲師」を観ていた人には、どれだけ感慨深かったろう。待つこと8年だ。リアルタイムではない我々にしても、いやがおうにも期待は膨らむ。

 

黄金色の光を帯びた酒を飲んだ杜氏

▲えも言われぬ芳しい香りの光る酒 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

今作の主人公は「禄助(ろくすけ)」という若者だ。年の頃は──25~26歳くらいだろうか。酒蔵に勤める蔵人だ。父親は杜氏をしていたが、今はもう退いている。そんな父親が、酔うとよく話してくれた思い出話から物語は始まる。

 

ある晩、父親が隣の村から帰る途中に道に迷ったことがあった。散々、歩き回るも、とうとう道すらなくなり困り果てていると、樹々の向こうに提灯を提げた人が歩いているのが見えた。「助かった。あっちに道が・・・」と近づくと、松明を灯し、大勢の人が集まっている。

 

何だろうと、さらに近づくと、えも言われぬ酒の芳しい匂いが漂ってきた。その酒が飲んでみたくなった父親は、こっそりその宴に紛れ込んだ。

 

その酒は、黄金色の光を帯びていた。

 

場面は現在に戻る。甑(こしき)を横倒しにブラシで洗っていた禄助が、ようやく洗い終えて一息ついているところに蔵元がやってきた。酒造りの仕事も一区切りといったところのようだ。

 

蔵元「ご苦労だったな。おまえも今日は家に戻ってのんびりするといい」

 

禄助「はい。あの、蔵元。今年の酒、少しばかり持って帰りたいのですが」

 

蔵元「ああ、いいとも。今年の出来なら、親父さんもおまえの酒を認めてくれるだろう」

 

禄助は酒壺を手に山道を歩く。季節は──樹々に葉がないこと、下草が茂っていることから晩秋あたりのように見えるが・・・。

 

▲甑(こしき)を洗う禄助 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

醸造の知識はまるでないので、少し調べてみたのだが。酒蔵で酒造りをする職人を「蔵人」(くらびと)といい、蔵人を束ねる最高責任者を「杜氏」(とうじ)というそうだ。禄助の父親が杜氏だったということは、蔵の最高責任者だったということ。そして息子の禄助はまだそこまで行っていないので「蔵人」なのだ。

 

甑(こしき)は酒米を蒸す大きな蒸籠(せいろ)で、この甑(こしき)を取り外して洗うというのは、そのシーズンの蒸米が終わったことを意味する。これを「甑倒し(こしきだおし)」と呼び、酒の仕込みがひと段落することを意味する。

 

作品中で禄助が甑を横倒しにして洗っているのは「甑倒し」をする時期だと伝えているわけだ。

 

江戸時代中期以降、蔵人は季節労働者の農民が多く、春~秋までは米を作り、晩秋~春先まで蔵で酒をつくる。多くの蔵元では甑倒しは4月上旬とあった。

 

これらからすると、今作の季節は晩秋ではなく、樹々が芽吹く直前の春先なのだろう。そしてこの時期にまだ木の芽が堅いということは、舞台は関東より寒い地方だ。米どころの新潟か東北あたりだろうか?

 

父親の酒は、なぜか山道で減っていた

▲山道で決まって何かにまとわりつかれた 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

夜道を歩きながら、禄助は、子どもの頃に思いをはせる。(子どもの頃、よくこうして、父の造った酒を隣の村まで届けに行ったな)と。

 

そんなとき、山道に入ると、いつも何かにまとわりつかれるような気がした。そして、やっとの思いで使い先へ着いた頃には、明らかに酒の量が減ってしまっているのだった。

 

ある時、それを蔵元に告げられ、私はひどく叱られたが、父は、それを咎めようとはしなかった。

 

その頃、まだ杜氏をしていた禄助の父親は、「山で何かにからまれたか」と訊いてきた。

 

禄助「うん。何だか目に見えないものがずっと周りにいて・・・。それで気が付いたら酒が減ってて。ほんとだよ」

 

そう言うと父親は機嫌良さそうに言った。

 

父親「あれらはうまい酒が好物なんだ。どうやら今年の酒も気に入ってくれたようだな」

 

そして「だが、まだまだだ。あの酒に比べれば」とも。「あの?」と禄助が聞き直すと、山で道に迷ったときのことを持ち出した。

 

父親「おまえにも話した事があるだろう。”光る酒”だよ。あの味が今でも忘れられんでな。父さんは、ずっとあれを目指してるんだよ。酒は生き物だ。感覚を全部使って言葉のすべてを聞き取れれば、いずれはきっと応えてくれる」

 

禄助「言葉?」

 

父親「ああ。おまえも跡を継ぐ気なら、それをよーく覚えておきな」

 

もろみの様子を見ながら、父親はそう言っていた。

 

「金色の光を帯びた酒」と書いたが、蟲師ファンならすぐに気づく。どうやらこの父親、「光酒」を飲んでしまったようだ。そして、その味の再現を目指している。

 

父親の酒はなかなかイイ線を行っていたらしい。どうやら蟲たちが寄ってきて、お使いの禄助の酒樽から酒をくすねて飲んでいた。だから父親は、酒樽の酒が減っていたと聞き喜んでいるのだ。一方、何も知らない禄助は、とんだとばっちりで叱られというわけだ。

 

禄助の父親がつくる酒は、蟲だけでなく人にも評判が良かった。しかし父親が退いてからは、どうしても味が落ちた。禄助はそれを挽回しようと、頑張っているところだ。

 

禄助「ついにできたよ、父さん」

 

禄助はそう言うと、手にした酒をぐびりとやった。

 

禄助「うん、美味いっ!」

 

今年の酒は、かなり自信がありそうだ。

 

夜の山に集う人々

▲「この盃どこかで・・・」 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

いい気分で山道を歩いていると、足元がもつれるようになってきて、禄助は道を見失った。

 

禄助「あれ、ここどこだ。どっかで道を間違えたか。戻るか──」

 

踵を返すと黒い毛のようなものが足に絡まってきた。さらにその毛は酒壺にも忍び寄り、山の奥の方に引きずってゆく。やっとの思いで酒壺に追いつき捕まえると、木立ちの向こうに大勢の人が集まっているのが見えた・・・。

 

木の影から様子をうかがっていると、後ろから「何してんだ?」と、声をかけられた。現れたのは白髪、碧眼、洋装の──ギンコだ。

 

ギンコ「何だ、光酒持ってんじゃねえか。なら遠慮するこたねえよ。見ねえ顔だな。新参蟲師か?」

 

そう言うとギンコは自分の酒壺の蓋を開け、パタパタ酒を地面に落とした。その酒は、光っていた。

 

禄助(光る酒。それじゃ、これが父さんの言ってた──)

 

ギンコが落とした光る酒に、黒い毛が集まった。酒をやれば毛のようなものが離れると知った禄助は、自分も試してみることに。禄助の落とした酒にもやはり黒い毛は集まった。それらは酒に集まった後、ギンコの背負い箱に入っていった。

 

蟲師たちの何人かは露店を開いていた。とある店主がギンコに声をかける。

 

店主「よぉギンコ、蟲煙草のいいのがあるぞ。光酒と交換でどうだ」

 

「俺ももうほとんど残ってねえんだよ」と、ギンコは断るが、店主は「頼む、一滴でいいからよ」と食い下がる。周りの蟲師たちも皆、酒壺をもっている。この集まりに「光酒」は必須のようだ。

 

ついに店主は隣にいた禄助に目をつけた。

 

店主「おいあんた。そん中、光酒だろ? ちょっとばかし分けてくれよ。ずいぶん重そうじゃねぇか。ケチケチすんなよ。煙草がいらねえなら他にもいろいろあるぞ?」

 

「いや、これは」と言い淀んでいた禄助は、店主の広げる品の中に見覚えのある盃を見つけた。父親が使っていたものだった。

 

店主「ん、そいつか? なんでも名のある器だそうでな、昔、光酒一杯と交換してやったのよ。いや兄ちゃんお目が高い」

 

「その後、売りに行ったらガラクタ同然と言われたわけだが」と、ギンコがぼそり呟く。店主とギンコの掛け合いが面白い。結局、禄助は、その盃をもらう代わりに店主の酒壺に自分の酒を注いだ。「ありがとよ」と、店主は酒壺を傍らに置く。

 

禄助(飲まないのか。・・・そういえば、誰もあの光る酒を飲んではいない。一体、あの酒は何のために・・・)

 

店主とギンコは別の話を始めた。「しかし遅いなワタリの連中」「ああ、何やら準備に手間取っているようだぞ」──と。「ちっと様子見てくるわ」。ギンコは木立ちのさらに奥の方へ行ってしまった。

 

野末の宴

▲独特な雰囲気をもつイサザ 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

「ワタリ」は、「蟲師」第1期の最終話「草を踏む音」に登場した光脈筋をたどりながら旅暮らしをしている一団だ。「草を踏む音」では、光脈を記した地図や蟲絡みの情報を蟲師に売って生計を立てているとされていた。今回彼らが行うのは、光脈から光酒を分けてもらう儀式だ。

 

そして今回、「草を踏む音」では顔を出さなかった、大人になったイサザが登場する。

 

イサザ「誰だい?」

 

ギンコ「イサザ、俺だ」

 

「草を踏む音」で大人になった沢(たく)に話していたように、ギンコは今でもイサザと馴染みだ。イサザは──思ったよりクセのある感じに成長していた。

 

ギンコ「光脈のヘソが、また見つけにくくなってんのか?」

 

イサザ「まぁ、ここも古い光脈だからな。次からは別の光脈から分けてもらった方がよさそうだ」

 

ギンコ「・・・寿命か」

 

イサザ「地中深くに潜るだけさ。きっとまた、力を蓄えたら戻ってくる」

 

ヂャーン!

 

ドラの音を合図に露店を開いていた蟲師たちが一斉に移動し始めた。そしてイサザたちワタリのいる手前で手に手に酒壺をもち列をつくって並んだ。

 

▲野末の宴の儀式 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

見ると平らな盃が8カ所、輪をつくって置いてある。ワタリは蟲師から預かった酒壺から8カ所の盃に1滴ずつ光酒を落としてゆく。それが終わると、輪の中心に酒壺を据えた。

 

光酒が盃の底に吸い込まれると、酒壺が小さく揺れて口から光酒が溢れ出た。盃の光酒が呼び水のようになり、中央(これがおそらくギンコが言っていた”ヘソ”だ)に置いた酒壺から光酒が湧いてくるという感じだろう。

 

禄助(光る酒が増えた。一体どういうカラクリだ?)

 

禄助は唖然として、その様子を見守っている。

 

次は、さっきの露店主の番だ。店主の酒壺を預かったワタリは、これまでと同じように盃に1滴ずつ酒を落としてゆき、最後に輪の中心に酒壺を置いた。

 

──しかし、一向に酒壺から光酒が湧いてこない。(そりゃそうだ)。

 

周りからざわめきが起きる。「おい、おかしいぞ」「もしや、ニセモノか?」と。

 

店主「ち、違う。俺じゃない。あいつだ! あいつから買ったんだ。ニセモノ持ち込んだのは、あいつだ」

 

店主は一番後ろに並んでいた禄助を指さし迫ってくる。思わず禄助は逃げ出した。「捕まえろっ!」。後ろで声が上がった。

 

光酒そっくりの酒は、蟲を酵母に造ったものだった

▲「悪気はなかったんだ」と禄助 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

わけが分からず逃げ出した禄助は、夜陰に紛れて山を下りようとした。が、折あしくギンコに見つかってしまった。

 

禄助「悪気はなかったんだ。俺はただ、あんたらの光る酒を飲んでみたくなって・・・。同業のふりして紛れ込んだのは謝る」

 

ギンコ「おまえ、蟲師じゃねえのか」

 

禄助「いや。俺はふもとの里の蔵人だ」

 

ギンコ「蔵人? じゃあ、その酒は」

 

禄助「今年、うちの蔵で造った酒だ。何年も、試行錯誤してようやくできた酒なんだ。病で伏せってる父に飲ませてやりたくて、持って帰る途中、道に迷って紛れ込んじまっただけなんだ。どうか見逃してくれ」

 

人に見られてはいけない、怪しい秘術を行っていたわけでもなし。(まぁ、そう見えるが)。たまたま、よそ者が紛れ込んだだけなら大した問題ではない。問題は禄助の持っている酒だ。ギンコは最初に禄助と会ったとき、その酒に黒い紐状の蟲が群がっていたのを見ている。どうやら、それがあり得ないことだったのだ。

 

ギンコ「一体、どうやって造った?」

 

禄助「杜氏だった父が倒れてから、うちの蔵の酒はすっかり味が落ちてしまってな。父の言う通りにやってるつもりだったが、そうすぐに父の経験に追いつけるはずもない。それでも蔵の名を落としたくなくて・・・。米を替え水を替え、手を尽くしたが無駄だった。だが、ある時ふと、酵母を替えるとどうなるか、と思った。うちではずっと蔵にいる酵母を使ってきたが、野生のもので試してみようと思ったんだ」

 

それで禄助は、野に咲く花を集めた。

 

禄助「酵母は糖分を好むため、花の蜜にいる酵母を集めて歩いた。それらを増やして使ったが、ほとんどは大した変化は見られなかった。だが、たったひとつの樽だけが、黄金色に輝く美酒となった」

 

ギンコ「花の蜜から・・・。その酒、飲んでも異常なかったか」

 

禄助「少量じゃわからなかったんだが、ちょっと妙な酔い方をしたな。赤黒い毛のような幻覚が見えたり・・・」

 

これで、話が繋がった。「赤黒い毛のような幻覚」とは、最初に禄助の足にまとわりつき、酒壺を山の奥に運んでいったあの蟲たちだ。

 

ギンコ「そりゃ幻覚じゃねぇよ。猩々髭(しょうじょうのひげ)って蟲だ。蟲師が講を行う時の案内に使う。酒を好む蟲は多いが、ヤツらは光酒だけを巣に持って帰る。ヤツらまでだまされたわけだ。大したもんだ。いいだろう、あんたの話、信じよう」

 

禄助「見逃してくれるのか」

 

ギンコ「その代わり、その酒を世に出すのはやめてもらう」

 

ギンコの説明によると、酔うと蟲が見える酒では騒ぎになるから、そして、いくら味が良くても幻が見える酒では蔵の評判にも良くないだろう、と。それを聞いて、禄助はすっかりしょげてしまった。せっかく苦労して造った酒を世に出せないのでは、たしかに辛い。

 

禄助が知らずに使ってしまったのは「吸蜜糖(すいみつとう)」という蟲で、酵母と同じように糖を食べて酒にする蟲だった。光酒偽造の原料にするという説はあるが、実際に成功したという例は今までない。

 

ギンコ「あんたの蔵人としての技量は確かって事だろうな」

「俺、父さんの酒の味、覚えてるから。あれを目指してまた一から、まっとうに酒を造ろうと思ってる」

▲「あの時、酒を分けてもらった人にゃ悪い事したなぁ」 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

その晩、禄助は父親に自分が体験してきたことを話した。父親は、かつて自分が光酒一杯と引き換えに売った盃を手に、嬉しそうに息子の話を訊いている。

 

父親「そうか。おまえもあの人らに会ったのか。あの時、酒を分けてもらった人にゃ悪い事したなぁ。それで、おまえもあの酒を飲んだか」

 

禄助「いえ」

 

父親「そりゃ、惜しい事したな」

 

禄助「俺、父さんの酒の味、覚えてるから。あれを目指してまた一から、まっとうに酒を造ろうと思ってる。ちゃんと、酒の言葉、聞き取れるように」

 

ココが作品の肝だ。禄助は光酒を飲まなかった。父親は「惜しい事したな」と言ったが禄助は、自分の目指す酒は父親の造った酒だから必要ないと言った。そして、今回たまたまできた吸蜜糖という蟲を使った酒も、もう追求するつもりがない。

 

蔵の酵母を使って、昔通のやり方で、まっとうに造って、父親は蟲を騙せるほど光酒に似た酒を造り上げたのだ。そちらを目指すという。父親としては、これ以上嬉しい言葉はなかったろう。

 

──禄助は結局、父親に偽造光酒を飲ませなかったと思う。

 

禄助が実家に戻っていたその晩、蔵では宴会が開かれていた。仕込みが終わった打ち上げのようなものだ。そこで例の酒を飲んだ蔵人たちや蔵元が、幻覚が見えると騒ぎになっていたようだ。

 

そんなこともあり、その酒の出荷は取りやめとなった。しかし、その後時折、妙な客がその酒を買いに来るようになった。

 

ギンコ「その代わり、その酒を世に出すのはやめてもらう」

 

と、言ったギンコだが、その後、ちょっとした付け足しがあった。

 

ギンコ「あんたの造った酒な、世に出せないってのは表向きにって話でな」

 

禄助「表向きには・・・って?」

 

ギンコ「俺らにとっちゃ使える酒だ。噂流しといてやるよ。面白い酒つくる蔵があるってな。–中略– 見えないモノが見える事で解決する事柄もあるんでな」

 

その後、禄助は父親の酒の味を目指してまっとうな酒造りに没頭している。物語の最後はこんな台詞で締めくくられる。

 

酒造りはまだまだうまくいかない時もある。そんな時、残しておいたあの酒を飲んでみる。酔っている間だけ見える鮮明に息づくモノ達の姿が、自分はまだまだやれるような、そんな気にさせてくれる。

 

偽造光酒の見せる幻覚が、禄助の造ったこの酒に騙された蟲がいたことを思い出させ、ギンコの言葉も蘇るのだろう。

 

ギンコ「あんたの蔵人としての技量は確かって事だろうな」

 

この経験を支えに、これからも禄助は精進を続けるのだろう。未来につながる良いエンディングだ。

 

酒造りを通じた父子の絆、禄助の仕事にかける真摯な想いが伝わる良作!

▲「俺、父さんの酒の味、覚えてるから」 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

今作も見どころは多い。まず、酒造りを通じた父子の絆が鮮明に描かれている。

 

優秀な杜氏だった父親と、父親の酒に近づきたいと精進する息子。なんと、父親の目指していた酒は、光酒だった。息子もその光酒を飲む機会を得たが、彼は飲まなかった。しかし息子は、それを悔いていない。目指すべき父親の酒の味を覚えているから、と。この台詞を訊いた父親は、どれほど嬉しかったろうか。

 

だからといって、そう簡単に父親の味に近づけるわけもない。それでも今までのように、米を替えたり水を替えたり酵母を替えたり・・・そんなことはしない。父親のやってきたやり方を踏襲し、地道に腕を上げていこうと決意している。この、未来につながる感じの締め方が、とても心地よいと思った。

 

第2の見どころは、やはりイサザだろう。

 

子どもの頃のイサザは、第1期第26話「草を踏む音」で登場している。そのイサザが大人になって再登場だ。ワタリの仕事の一環や、蟲師たちがどんな暮らしをしているかも垣間見られて興味深い。野末の宴の儀式も、不思議な感じで面白い。

 

第3の見どころは、ギンコの茶目っ気や大岡裁き。

 

ギンコは、どこかとぼけたところがあり、それが彼の魅力の一つなのだが。今回も、店主との茶目っ気のあるやり取りが楽しかった。偽造の光酒を持ち込んだ禄助の話を信じる代わりに、この酒を世に出すのはやめてもらうという裁きも人情味がある。しかも、ちゃんと蟲師仲間に情報を流して、その酒の売りさばきにも貢献している。相変わらず目の付け所がいいと、感心させられる。

 

「蟲師」は、現地に赴き、ていねいに取材してある!

▲もろみをかき混ぜる作業 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

第4の見どころは、今作に限らないが、丁寧な取材をベースに創作してある跡が良く見えること。

 

「蟲師」は、ギンコが日本中のあちこちを旅しながら蟲がらみの事件を解決していく。そのため、各話ごとに舞台が異なる。その舞台がどこかを考えるのは、とても面白い。

 

ときに白川郷だったり、ときに山口県のカルスト台地だったり。今作では、季節描写と酒造りの工程からいって、新潟や東北あたりではないかと思われる。

 

それぞれの地方に特徴的な家の造りや、障子の形などもきちんと描かれていて、「あぁ、今度はギンコこの辺りをうろついているのか」などと分かると、さらに「蟲師」の世界が楽しめる。

 

酒造りは、江戸中期までは通年何度も行われていたそうだ。そのため「新酒」は、新米を使った酒とされていた。新米が取れてすぐに酒造りをするので、「新酒」の季語は11月~12月。

 

江戸中期を過ぎると、酒造りは寒い時期の方がやりやすいことから、農民が農閑期に行う仕事になっていった。「蟲師」の世界は江戸時代と明治時代の間とされているので、酒造りも農閑期に行う「寒造り」になっている。4月初旬に酒米を蒸しあげた後、酒が完成するのは12月~1月だ。

 

今回、禄助が父親のために「今年の酒を」と持ち帰ったのが、この12月~1月にできた新酒だ。この時期から甑倒しをする4月初旬まで、仕込みの仕事が忙しく、蔵人は家に帰ることもできないほどだが、甑倒しをするとやっと少しゆっくりできる。実家にも帰ることができるようになる。禄助も作中で、このスケジュールに沿った動きをしていることが分かる。

 

酒造についての丁寧な下調べと、現地に足を運んだからこそ描ける酒蔵の様子が緻密で、手間暇かけてしっかりつくられている作品なのがよく分かる。

 

「第2期制作の心構え」長濱博史監督インタビューより

▲第2期のOPエンドに流れる映像 出展/TVアニメ「蟲師 続章」

 

「蟲師」第2期「続章」が放映されるタイミングで、「コミックナタリー」で長濱博史監督にロング・インタビューが行われている。その中から、いくつか抜粋して紹介しよう。監督の作品づくりにかける意気込みが、よく伝わってくる。

 

まず、第2期を制作するにあたっての心構えから。

 

長濱監督「スタッフにもそのまま「あの当時に戻って、同じことをやってほしい」とお願いしました。 ~中略~ 取り組み方、我々作り手側のスタンスは同じものでありたい。「蟲師」を表現する上で、前と比べてあまりにも違うっていうことはやりたくない」

 

第1期が素晴らしかったから。講談社の「アフタヌーン編集部」も、「1期のスタッフで作ってくれるなら、全面的にお任せします」という感じだったらしい。アニプレックスのプロデューサーから2期の話が出たときも、こんな感じのやり取りだったそうだ。

 

長濱監督「僕が「1期と同じことをやりますよ。2期だからって『もっとダイナミックに』とか『もっとCGを使って』って言われても出来ませんよ」と聞いたら、「むしろ同じことをやってほしい。同じスタッフで同じことを同じように納得いくまでやってくれればいいです」と言ってくださったので、じゃあやりましょうと」

 

8年間で、アニメーション技術は向上したけれど、「蟲師」は以前と同じつくりでいくことになった。

 

長濱監督「もしギンコのディテールが増えて、なんか細かいリアクションがいっぱい入って、タバコを吸うとファーって先端が光ったりとか、常に光がバーって出てる映像を見たいか?って言われたら、自分は見たくないです。変わらないギンコが見たい」

 

たしかにそうだ。

 

漫画を原作にアニメ化するとき、アニメオリジナルな設定を追加したり、ストーリーを端折ったり改変したりということは、割とよくある。しかし「蟲師」に関しては、原作リスペクトがすごい。原作漫画と見比べてみると、本当に漫画をそのままアニメーション化してある。その同調ぶりには目を見張る。

 

1コマ、1コマの動きや意味を深いところまで丹念に考えて作られている。「原作が素晴らしいのだから」と長濱監督は言うが、ここまできっちり創り込んでくれたことには、本当に感謝しかない。

 

続章の第2話以降も絶対に期待できる。

 

参考/「蟲師」アニメ再始動──長濱博史監督が明かす8年間

 

▼「蟲師」(第1期)の、すべてのページ一覧はこちらから。

 
▼「蟲師 続章」(第2期)の、すべてのページ一覧はこちらから。

 

スポンサーリンク