成長したトルフィンの、爽快でもなんでもない毎日がリアルで!シーズン1、第7話北人(ノルマンニ)」のあらすじ感想考察。2019年7月~放送の「ヴィンランド・サガ」は、1000年前の北欧を舞台にヴァイキングの生き様を描いた骨太な物語



第7話/薄汚い戦いに明け暮れる、アシェラッド団とトルフィンの日常

▲「一番乗りは倍の分け前だー!」 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

#7

北人(ノルマンニ)

Northern people

 

1012年、10月。デンマーク軍とその傭兵をつとめるヴァイキングたちのイングランド進攻は、激化の一途をたどっていた。アシェラッド率いるアシェラッド団もデンマーク軍の傭兵としてイングランド軍と戦いを重ねていたが、冬を控えて進攻を中止する命令がデンマークのスヴェン王より下された。

 

ビョルン「アシェラッド、このまま冬を越すのはチト寂しくねぇか? めぼしい村はたいらげちまったしよぉ」

 

アシェラッド「だよなぁ」

 

ビョルン「どうするつもりだ?」

 

アシェラッド「どうするもこうするも、渡り鳥と一緒さ。エサのあるところに移動するだけよ

 

お金になりそうな小競り合いを見つけてやってきたのが フランス王国 ロアール川周辺。ここではちょうど攻城戦のまっただなかだ。(正しくは城ではなく砦だが)。赤い鎧の攻め手側は先を尖らせた丸太(攻城槌)で門を破壊しようとするも、砦の上から青い鎧の兵士たちに弩(いしゆみ=クロスボウ)で狙われ門の破壊もできずに敗走している。アシェラッドとビョルンは高台から小競り合いの様子を眺めながら値踏みする。

 

ビョルン「フランク人同士の小競り合いか。砦側は少数。攻め手は800ってとこか。あの砦に正面からぶつかるとはなぁ。

 

アシェラッド「土豪の本拠地ってところか。どうだ、お宝のニオイがぷんぷんしねぇか?

 

ビョルン「おぉ、これが狙いってわけか。やるか? アシェラッド」

 

アシェラッド「攻め手につくぞ。宝箱ぶっこわして中身をごっそりいただこう」

 

二人の後ろから現れた海賊の面々は「さすがアシェラッド」と、やる気まんまんだ。アシェラッドは仲間を振り向き言った。

 

アシェラッドそんじゃトルフィン、出番だよ

 

呼ばれたトルフィンは2本の短剣を体の前と後ろのさやに収めながらアシェラッドの前に歩み寄る。彼がアイスランドの村を出てから10年がたっている。トルフィン16歳。仲間たちの肩くらいまでしかない小柄な身体ながら、全身から戦士のオーラを放っている。

 

腕を組みながらアシェラッドはトルフィンに攻め手側の親分に交渉してくるように言う。

 

アシェラッド「分かったら行け。──ん? どうした? 行けよトルフィン」

 

トルフィン「これまでに、どれだけころしたと思ってる。斥候にも出たし、しんがりも務めた。手柄は十分にたてた。なのに、てめぇは!」

 

トルフィンは、いい加減、決闘に応じろとアシェラッドに迫っているのだ。

 

それなら兜首のひとつくらい取ってこなけりゃならんだろうぜ」と言われてトルフィンは、アシェラッドを睨んでいた視線を前方に移して走り出した。

 

ビョルン「でもいいのか? 大事な交渉をまかせちまって」

 

アシェラッド「劣勢の兵は気が立ってる。交渉の前にころされるなんざぁ、よくある話さ。へっ。拾ったガキなら惜しくはないだろう

今回のテーマは「アシェラッド団の日常」。サブテーマを「トルフィンの成長」としました。

 

西暦1012年。トルフィンがアイスランドの村を出てから10年の月日が流れています。もうすっかり声変わりも終えたトルフィンは16歳。相変わらず小柄だけれど、すっかり海賊たちになじんでいます。

 

言うなれば、ここまでの第1話~第7話はプロローグ。次回以降からが本編といったところです。今回は、アシェラッド率いる海賊アシェラッド団の日常と、16歳になったトルフィンの成長ぶりにフォーカスして描かれます。

 

これまでの10年、アシェラッドはトルフィンにさまざまな仕事を割り振ってきたようです。そういえば前回の第6回では、たった12歳のトルフィンに斥候を任せていました。今回の仕事は交渉です。ビョルンが心配するように、交渉は大役です。交渉相手の懐に入り込み、自分たちを信用させ、要求を飲ませるという、臨機応変な対応が求められる仕事。並外れた度胸と、有利に話しを進めるたくみな話術が必要です。

 

「拾ったガキなら惜しくはないだろう」という言葉が、口の悪いアシェラッドらしい照れ隠しなのは、ビョルンにはお見通しでしょう。10年も二人の関係性を見てりゃ、ね。本来ならアシェラッドは「なぁに、トルフィンならやってくれるさ」とでも言いたいところでしょうか。アシェラッドは親がわりですからね。もちろん、トルフィンはそんなこと微塵も思っていませんが。

 

▲今回の舞台はフランス南部。ロワール川周辺 出展/TVアニメ「ヴィンランド・サガ」公式

 

攻め手側のどこかガマガエルのような風体の将軍は、汚く肉を食べながらおよそ礼を失した態度でトルフィンに会っていた。「戦利品の半分をよこせだと。たいした自信だな、ノルマンニ(北人)の小僧よ」と将軍が言うのを聞いて周りにいた兵士たちがざわつく。隣国イングランドを荒らしているヴァイキングたちの噂は、ここフランス南部にまで響いているようだ。

 

トルフィン小僧のオレにでも分かる。正門ばかり攻めても兵が死ぬだけだ。湖の防備は薄い。オレたちはそこを叩く

 

左目を負傷している軍師らしき男が「浅知恵だな」と、トルフィンに砦を取り巻く地形を説明する。

 

軍師「湖に至る川は、上るにつれ勾配がきつくなる。あまつさえ滝もあるのだ。われわれの船も、下流で往生しておる。湖から攻撃せぬのはそういうことだ

 

トルフィン断るか? この話。ならばアシェラッドの兵100人は、砦側と手を結ぶ。オレが死んだ場合も同じだ。商談成立の合図がない場合、北海の猛者100人がおまえの敵になる

 

兵士に取り囲まれ、左右から槍を喉に当てられても顔色一つ変えないトルフィンの様子に、将軍は交渉を受け入れた。トルフィンは夜空に合図の火矢を打ち上げた。高く1本、低く2本。それを見たアシェラッドは、手下に命じる。

 

アシェラッド「急ぐぜぇ、月が上り切る前に峠を越えるぞ」

 

湖から流れ出る川下の滝の下で野営している攻め手側の兵たちは、夕食を取っているところだった。「ずっと船の護衛かよ、オレも戦いてぇなぁ」と愚痴をこぼしながら。これが軍師が言っていた「下流で往生している船」なのだろう。滝にはばまれ、敵の砦がある湖に船をもっていくことができないのだ。

 

急にカラスが騒ぎ出して兵たちは夜空を見上げる──と、森の向こうに月を横切る竜の頭が見えた。

 

翌朝。

 

砦前に槍をもち整列する攻め手側の兵士たちの真ん中を、例のガマガエル将軍が歩いている。後ろには片目の軍師とトルフィン。通訳も付き従っている。大あくびしながら将軍が言う。

 

将軍「竜が、竜が山を登ったじゃと?」

 

軍師「はい。船の守備兵全員が見たとの報告が──凶兆です閣下」

 

将軍「はっはっは。ワシも一度見てみたいもんじゃ。・・・小僧、きさまの仲間は来ぬではないか。もう日が昇ってしまったぞ」

 

通訳から将軍の言葉を逐一聞いていたトルフィンは、眉も動かさずに言った。将軍たちが言う「山を登る竜」が、アシェラッドたちの軍船だとトルフィンは分かっている。アシェラッドたちは、作戦通りに動いているのだ。

 

トルフィン「いいから突撃しろデブ。すぐに分かる」

 

もちろん、トルフィンの言葉を将軍は理解できない──はずなのだが。

 

将軍「今、悪口言っただろう。どうやらきさまの首は今宵の余興になりそうだな! ──前進用意!」

 

軍師「突撃ーーーー!」

 

角笛の合図とともに、兵士たちはときの声を上げ一斉に盾を構えて突撃を開始した。昨日と同じように正面突破しようとする攻め手側の兵士たちは、砦の上から弩(いしゆみ)に狙われバタバタと倒れてゆく。これまた昨日と同じ展開だ。


後ろの森で鳥たちが騒ぎ出したのを聞きつけ、トルフィンは傍らの通訳にたずねた。

 

トルフィン「おい、敵の大将はどいつだ」

 

通訳「羽飾りのついた兜が見えるだろう、あいつだ」

 

トルフィン「──兜首」

 

つぶやくやトルフィンは、砦に向かって全速力で走り出した。それを見たガマガエル将軍は、トルフィンが裏切ったと勘違いする。

 

将軍「うぁぁキサマ、やはりウソか!? ころせー小僧をころせ!」

 

将軍の側にいた弓兵たちが一斉にトルフィンめがけて矢を射かけるが、トルフィンはさらに速度を増して矢を振り切る。

 

将軍「おーのーれー! 小僧は逃がすわ、砦は落ちぬわ、どーぉなっとるんじゃこの軍は! 雪が来れば帰れると思うとるんじゃろう。そうはいかんぞ、砦が落ちるまでは絶対に──」

 

憤慨して地団駄ふむ将軍の声をきいていた兵士たちの顔が、やれやれといった表情を浮かべる。そのとき、背後の森から雄たけびとともにヴァイキングの軍船が現れた。竜をかたどったへさきには、アシェラッドが悠々と立っている。軍船は、手下たちの手により担がれて山を越えてきたのだ。

 

砦に向かい全速力で走っていたトルフィンは、掘の前で大きく跳びあがり、両方の短剣を砦の壁に突き立てた。

 

感想&考察1、知将アシェラッドの策略が冴える!

Viking Ship
Viking Ship / Adrian Wallett

 

強さだけが生きる正義のような中世において、100人からなる手下を養っているアシェラッドは、策略にたけた知将です。冬前にもう一稼ぎしようとやってきたフランス南部のロアール川周辺で、攻砦戦をしている攻め手側の傭兵につこうとトルフィンを交渉に出しました。

 

トルフィン「小僧のオレにでも分かる。正門ばかり攻めても兵が死ぬだけだ。湖の防備は薄い。オレたちはそこを叩く」

 

攻め手側の将軍の前で、正門を破るばかりの正攻法で戦う戦法に、トルフィンは異を唱えます。それを軍師が浅知恵だと、たしなめました。

 

軍師「湖に至る川は、上るにつれ勾配がきつくなる。あまつさえ滝もあるのだ。われわれの船も、下流で往生しておる。湖から攻撃せぬのはそういうことだ」

 

そんなことは、とっくに考えたうえでの正攻法だと言いたいわけですね。作戦が悪いと言われて黙っていられなかったのでしょう。今回、どんな手段を用いても勝ちさえすればいいという戦いを生き延びてきた知将アシェラッドの奇襲が冴えます。

 

下流に滝があって船で遡上することができないと思われる湖の砦に船で攻め入るため、手下たちに船を担がせ山を越えてきたのです。船の固定概念を華麗にくつがえしましたね! なんとも小者臭ただようガマガエル将軍の慌てふためいた様子が痛快です!

 

トルフィンの肝の座った交渉術も見事でしたね! もう、すっかり有能な海賊です(涙)

 

アシェラッドがトルフィンの力量を買っているのと同時に、トルフィンもアシェラッド率いる海賊たちの実力を信じている様子もうかがわせて。幸せとは言い難い両者の関係性がなければ、この二人、案外いい親子のような存在になれるのになぁと──思ってしまいます。

 

感想&考察2、キリスト教徒とヴァイキング、まったく違う竜に対しての考え方。細部にこだわった丁寧な描写がすごい!

▲竜、雄牛、鳥、巨人が守護するアイスランドの国章

 

ここでもう一つ目を留めたいのが、竜に対する人々の考え方です。

 

じつはここに登場するフランク人たちはキリスト教徒です。キリスト教では竜=蛇と考えます。蛇はエデンの園でアダムとイヴを騙して知恵の実を食べさせるという逸話からも、人を騙す悪魔の化身と考えられています。

 

だから月の前を竜が横切ったとき兵士たちは慌てふためき、それを将軍に報告する軍師も「凶兆」と言ったのです。

 

ところがヴァイキングたちは軍船の船首に竜をデザインした飾りをつけます。ヴァイキングたちはキリスト教徒ではありません。実際、第2話のラストでは、フェロー諸島の村で神父に斧を投げつけて楽しんでいるアシェラッドの手下たちの様子が描かれていたように、キリスト教を嫌っているようです。

 

北欧神話ではアイスランドの四方を竜、雄牛、鳥、巨人が守護しているとされています。ヴァイキングたちは守り神として船首に竜をいただいているのです。竜に対するこの時代の人々の感じ方の違いまで、細部にこだわった描写が興味深いですね!

 

「なんて奴らだ北人(ノルマンニ)!」

 

攻め手側の兵士をかき分け湖に船を下ろしたアシェラッドは、砦を回り込んでみて大笑い。

 

アシェラッド「はっはっはっは。お粗末だぜー! 湖側は防壁どころか、絶好の浅瀬なんだもんよぉ。よし、ぶっこむぞー!」

 

そのとき、遥か遠くの砦の上から飛んできた矢が盾を貫き、漕ぎ手の肩に刺さった。通常の弓矢で、しかもこの距離でこれだけの威力が出るはずもない。「弩(いしゆみ)か。多少、損害が出るな」と、アシェラッド。通常の弓と違い、弩(いしゆみ)は速射はできないものの誰でも威力の強い矢を射ることができる。

 

弩(いしゆみ)部隊を指揮していた砦側の大将は、いきなり背後に現れたトルフィンに驚く。掘を飛び越え両方の短剣を突き刺し砦の壁にとりついたトルフィンが上がってきたのだ。

 

弩(いしゆみ)の準備をしていた砦兵たちはやおら剣を抜く。狭い通路に立ちふさがる砦兵たちを次々と短剣で倒し、ついにトルフィンは頭の先に赤い羽根飾りをつけた大将に手をかけたアシェラッドと決闘するために、ただその目的のために大将首を取りにきたのだ。

 

勢い余って湖に転がり落ちた大将首を追い、トルフィンは「しまった!」と湖に飛び込んだ。トルフィンのかく乱もあり、弩(いしゆみ)の攻撃が止んだ好機をとらえ、アシェラッドたちは上陸する。

 

アシェラッド「おーし、暴れまくれー! 門の方は大丈夫なのかねぇ、こいつら」

 

アシェラッドたちヴァイキングとフランク人たちとの体格差は歴然だ。大柄なヴァイキングたちにとり、小柄なうえ普段は農業をやっているようなにわか兵士たちでは相手にならない。

 

一方、ガマガエル将軍率いる正門側は、砦の弩(いしゆみ)部隊は湖側に回り、トルフィンの手にかかり指揮官を失い、すっかり手薄になってしまっている。ついに攻め手側の攻城槌が砦の正門を突き破った。

 

うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

雄たけび勇ましく砦になだれ込んだ攻め手側の兵士たちは、中の様子に思わず足を止めた。そこには砦側の兵士たちの死体が累々と連なっていた。

 

「なんて奴らだ、ノルマンニ」。

 

さすがの彼らも、音に聞こえたヴァイキングたちの蛮行に、それ以上の言葉が出なかった。

 

将軍「わっはっはっは! ワシの傭兵術にかかっては、こんな砦イチコロよぉ」

 

軍師「砦の守備隊長は戦死しました。配兵の話のよると、子どもの仕業とか」

 

将軍「あの小僧か、侮れんなノルマンニ。このまま帰しては、我らの敵となるやも──

 

軍師「いかがいたしましょう」

 

将軍「連中は峠を越えてきたな。帰りも船を担いでいくだろう。そこを叩く。陸に上がった船乗りなど、赤子同然よぉ」

 

白馬にまたがり、ちんたらと砦に入ってきたガマガエル将軍は上機嫌だ。しかしトルフィンたちの力で砦を落とせたというのに、敵に回ってはやっかいだというので今度はトルフィンたちを襲うよう命令する。

 

そこに海賊たちが宝物をすべて奪い取ったという知らせを受け、ガマガエル将軍は呆然自失。遠くからアシェラッドの声が響いてきた。

 

アシェラッド「フランク人の長に申し上げる。戦利品の半分として貴殿は勝利を、我らは財宝を、文句はあるまいな? これでも謙虚な方だと思うぜぇ。砦はくれてやるんだからなぁ!」

 

怒りにかられて口汚く喚き散らすガマガエル将軍。

 

船に引き上げたアシェラッドは、王冠をかぶり緋色のマントを肩にかけ、すっかり王様気取りだ。

 

感想&考察3、どう頑張っても薄汚い殺戮劇

Bloodied nose
Bloodied nose / henribergius

いやぁ、アシェラッドたち残虐ですねぇ・・・。もちろん戦争なんだから、やるかやられるかなわけで。戦争にキレイも汚いもないわけです。奇襲が卑怯だとか、ころしかたが残酷だとか、そんな戯言(ざれごと)ナンセンスなのです。

 

弱冠16歳にして、単身で敵の砦に乗り込み、並み居る敵をばったばったと斬り倒し、挙句に大将首を取ってしまったトルフィンの活躍は目覚ましいものがありましたよね!

 

でも──どうですか? 若くて強い主人公の爽快アクション・・・でしたか?

 

わたしには、とてもそうは思えませんでした。

 

アシェラッドは頭がいいし、トルフィンの身体能力も素晴らしい。でもどんな言葉で飾っても、どちらも残虐なことには変わりない。同じようにガマガエル将軍は汚いし、人間性については描かれていなかった砦側の大将だって褒められた人物ではなかったはず。

 

汝の敵を愛せよ」と教えるキリスト教徒同士ですら、こんなころしあいをするのです。それはなにも、この時代に限ったことではなく、世界中のあらゆるところでくり返し行われてきたことです。

 

血で血を洗う戦争に、正義もへったくれもありません。漫画もアニメも、戦いを美化したり、勝者は正義と無邪気に称えたりしがちです。平和ボケしてるような現代日本では、戦いという非日常に憧れを感じたり、おかしなロマンを追加して美化したりしがちですよね。でも、現実ってこうなんですよね。

 

もちろん、わたしも実際の戦争なんて知りません。ありがたいことに、毎日平和に暮らしています。でも、現実の戦争は理不尽で臭くて汚くて、だれもが精神を病んでいる、異常な世界だということは分かります。

 

異常なものを異常に描いているこのアニメのリアルな正常さに、拍手を送りたいと思います。

 

「約束だ。嫌とは言わせねぇ」

 

王様のように飾り立てたアシェラッドの前に大将首を投げ入れ、トルフィンが湖から上がってきた。

 

トルフィン「アシェラッド! 大将首だ」

 

アシェラッド「へぇ、取ったのか」

 

トルフィン約束だ、嫌とは言わせねぇ

 

全身ずぶ濡れのトルフィンは形見の剣を前にかざし宣言する。

 

トルフィン「──アイスランドの戦士・トールズの子トルフィン、我が父の剣にかけて、アシェラッドに決闘を申し込む。貴君は我が父の仇であるがゆえに」

 

アシェラッド「オラフの子・アシェラッド、我が祖・アルトリウスの名にかけて、トルフィンの挑戦を受けよう──が、後にしてくれぇ!」

 

怒り狂ったガマガエル将軍の後ろに並んだフランク人兵士が、長弓で矢を射てくるので、とても船上で決闘などやっている場合ではなかったのだ。

 

トルフィン「てめぇ、ふざけんなー!」

 

アシェラッドたちはガマガエル将軍の読みを外れて、滝を下って去ってゆく。

 

アシェラッド「はーはっはっはっは。さらばだ、フランクの衆よ!」

 

大笑いしながら川下におりてゆくヴァイキングの船を、前日、月に浮かび上がった竜を見て肝を冷やしていた兵士たちは腰を抜かしたまま見送っていた。

 

これで冬が越せると大喜びのアシェラッドと海賊たちの姿を、トルフィンは一人悔しそうに眺めている。せっかくの大将首、せっかくの決闘の機会を逃してしまったのだから。

 

感想&考察4、アシェラッドの決闘の宣誓に注目!

 

奪った王冠とマントを着込んで大笑いするアシェラッド。醜いですね。そんなアシェラッドの前に大将首を転がし決闘を迫るトルフィン。こちらも劣らず醜い。

 

もちろん「醜い」というのは現代の感覚で、当時の分かりやすく「弱肉強食」な世界では当たり前のことでした。

 

ただ、少しの救いもあります。トルフィンは傭兵として戦ってはいるけれど、その目的はあくまでもアシェラッドと決闘をすることです。四六時中アシェラッドとともにいるのだから、それこそ寝首をかけば仇は討てるわけですよね。でも、トルフィンは決闘でアシェラッドに勝ちたいと思っています。たぶんそれはころすことではなく、アシェラッドに負けを認めさせること。かつてのトールズのように。

 

そこに、戦うことに対するトルフィンなりの一本、筋の通ったものがあるのが救いです。海賊稼業をしているとはいえ「ノルドの戦士」だという誇りだけは持っているようです。もちろん、今はただの自己満足ですが。それでも自分の中に誇りがあるとないとでは、ぜんぜん違うと思うのです。

 

ここで、ちょっとアシェラッドの決闘の宣誓の言葉に注目してみましょう! これまで約3回の決闘シーンがあるので、それぞれの言葉を列記してみます。

 

対トールズ戦/第4話

「ウォラフの子アシェラッド、オーディンの名において誓う」

 

対6歳のトルフィン戦/第5話

「ウォラフの子アシェラッド、オーディンの名において、決闘を受けてやるよ」

 

対トルフィン戦/第7話

「ウォラフの子・アシェラッド、我が祖・アルトリウスの名にかけて、トルフィンの挑戦を受けよう」

 

最後だけ、ちょっと違いますよね? wikiによると、ウォラフはデーン人の父親の名前アルトリウスは母方の先祖の名前。母親はウェールズの元王女だった女性で、デーン人に略奪され奴隷として暮らしていたということです。アシェラッドは生粋のデーン人ではなく、デーン人とウェールズ人の混血なのですね。

 

このことをちょっと覚えておくと、後の展開で納得いくシーンが出てくるかも知れません! アシェラッドも、なにかと複雑な事情を抱えた人物のようです。

 

オーディンの名において」とだけ言う宣誓よりも「アルトリウス」の名をつけて誓うときには、より厳格に誓うという意味合いが込められているそうです。このことからも、アシェラッドがいかにトルフィンを可愛がっているかがうかがえますね!

 

感想&考察5、この創りは「大河ドラマ」!

 

小説でも漫画でもアニメでも、作者が頭を悩ませるのが冒頭の情報開示です。冒頭では読者または視聴者の興味をぐっと引き付けたい。でも、かといって、いったいどんな時代のどんな状況で主人公はどんな人で──といった基本情報は必要な分をしっかり伝えたい。この二つを両立するのは、なかなか難しいもんです。

 

じつは原作漫画の第1話は、今回のフランク王国領での戦いから始まります。原作者の幸村誠さんの緻密で迫力ある絵で、まずぐっと読者の心をわしづかみにしているのです。ここで大活躍する凄腕の少年トルフィンとは、いったいどういう人物なのか──が、その後、時間を遡って語られるという構造です。小説だと短編でよく使われる手法です。

 

でも、今回のTVアニメでは、時系列順に語られました。まず6歳のトルフィンが暮らすアイスランドの村の描写から始まり、父親のトールズがアシェラッドとの決闘に勝ちながらもころされてしまうまで──が、ていねいに描かれました。それからアシェラッド団に帯同しながら剣の腕を磨き、初めて人をころして叫び、助けてくれたイギリス人の母親の恩をあだで返してしまった苦い思いなど。トルフィンの成長を順になぞっています。

 

主人公の成長を時系列順に描く方法は、いわば「大河ドラマ」方式。主人公や時代背景などがしっかり描かれる反面、やや腰の重い刺激のない冒頭になりやすい。小説でいえば、長編小説を読み慣れている人なら我慢できるけれど、スピーディに展開していく若者向けの小説を読み慣れている人には、我慢するのが難しい構造。

 

アニメは基本的に若者向けにつくられているので、冒頭からほとんどがスピーディで刺激の多い展開です。アニメで「大河ドラマ」方式は、なかなか受け入れられ難いのではないか、とちょっと心配になってしまいます。

 

この先時代も場所も、どんどん変わっていくようだし、刺激のかなり少ない(けれど重要な)物語が続くところもありそうだし。視聴者がちゃんとついてこれるか、これまでがとても良いつくりこみなので、この先も視聴率に左右されずにこのクオリティを維持してくれるか──。せっかくNHKなのだから、ぜひ、時間をかけてもいいので、最後までトルフィンの旅路を見届けたいと思いますね!

 

おまけ/「あにまるらんど・さが」と人気者ジャバザ

 

このシリーズ、じつは大好きです!

トルフィンが気の荒い猫で、アシェラッドが鳥っていうキャスティングがあまりにピッタリで!

 

 

阿比留隆彦さんは、キャラクターデザインと作画監督を兼任しています。

 

わたしが本分ちゅうで「ガマガエル将軍」と表現しているこの右側の人は「ジャバザ」という名前です。このユーモラスな風貌から、多くの方に愛されているキャラクターのようですよ!

 

▼「ヴィンランド・サガ」関連の、すべてのページ一覧はこちらです。

 

スポンサーリンク