2020年1月から全12回にわたり放映されたTVアニメ「宝石商リチャード氏の謎鑑定」の個人的な感想(レビュー)と評価を綴っています。ネタバレは極力ありません。



これは美しい宝石になぞらえ、純粋な人間の心を綴った物語


宝石商リチャード氏の謎鑑定 (集英社オレンジ文庫)

 

原作は集英社オレンジ文庫(少女向けライトノベル)の辻村七子氏による同名小説ですが、わたしは未読のため、アニメをざっと視聴しての感想になります。

 

原作者のねらいは「美しい宝石になぞらえ、人間の純粋な心を描きたい」というものだろうと思います。

 

ご存知のように、宝石はとても美しく希少です。それゆえに高価で、人を魅了するものでもあります。婚約や結婚といった一生の決意を形に凝縮したような使われ方もします。だからこそ、そこには数限りないドラマが隠されている──この作品では、それをオムニバス形式で見せてくれています。

 

主人公は金髪青眼の若きイギリス人宝石商リチャード氏と、アルバイトの大学生・中田正義くん。前半ではリチャードの店「エトランジェ」を訪れる客が抱える問題を、リチャードの慧眼で解いていくという形で進みます。さまざまな問題解決を通してリチャードは正義の無鉄砲なほどの真っ直ぐさに惹かれ、正義はリチャードの外見の美しさに負けないほどの人間性に惹かれていきます。

 

後半ではリチャードと正義の個人的な問題が解決され、より絆を深めるまでが描かれています。読者層を意識してか、ややBLを匂わせるところがありますが、全体的に主人公二人の人間的な結びつきを強調した作品です。

 

各回それぞれに宝石にまつわるミニ知識も得られて、なかなか楽しめます。

 

色彩設計と絵の構成が美しい!

▲リチャードは甘党 出展/TVアニメ「宝石商リチャード氏の謎鑑定」公式

 

主人公は人間ですが、本作の主役は宝石です。そのため、映像の美しさにはこだわったのだろう心意気が見て取れます。背景映像の色彩設計や絵の構成がとても美しく、宝石の描き方はさすがにこだわった美しさを感じました。光の入り方も心地よく、気持ちよく観ることができます。

 

ただ、外見の美しさを強調されているリチャードの描き方はいいのですが、それ以外の登場人物たちは個人的に少し苦手です。目がびっくり目すぎるのと、正義のカジュアルすぎる服装ともの言いは最後まで慣れませんでした。

 

「あらゆるものに偏見を持たず差別的発言をしない」

▲美貌のイギリス人宝石商リチャード氏 出展/TVアニメ「宝石商リチャード氏の謎鑑定」公式

 

第2話でリチャードが正義に言う言葉に「あらゆるものに偏見を持たず差別的発言をしない」というものがあります。たしか正義が店でアルバイトするにあたっての心構えだったろうと思います。これがリチャードの信条です。

 

だからリチャードは小さな男の子のお客様にもきちんと接客するし、結婚を迷っている女性をムリに結婚させようともしません。世間の常識に縛られず、客が望む未来を自分で選び取るための手助けをするというスタンスです。とかく常識に縛られがちな日本人には、ちょっと珍しいタイプの大人といえます。そこは、リチャードがイギリス貴族出身だからこその素養というところで納得できます。

 

そんなリチャードの言葉は、世間を気にして周りに流され、意に沿わぬ未来を受け入れなければいけないのかと悩む視聴者の癒しとなるでしょう。リチャードには迷える者の背中をそっと押してくれる優しさが、説得力あるまさに宝石のような言葉があります。

 

「オレ、おまえのことが好きだ!」

▲とことん真っ直ぐな正義 出展/TVアニメ「宝石商リチャード氏の謎鑑定」公式

 

落ち着いた大人の魅力をたたえるリチャードに対して、大学生の正義はいつも正面突破です。「尊敬する」「きれいだ」と、リチャードを前に彼をほめまくります。とても端正な外見をもつリチャードですが、じつはそれが彼のコンプレックスでもあって──それで、正義が「きれいだ」とほめるたびに彼はちょっと複雑な心境になっていました。

 

ここでもリチャードは、センスある方法で正義の言葉が人にどう受け取られるのかを知らせます。自分の軽率な言動を素直に恥じた正義ですが、そんなエピソードを重ねるたび二人の信頼の絆は強くなっていきます。

 

ついに正義は「オレ、おまえのことが好きだ!」と臆面もなく言いだすのですが──。正義の「好き」は、あくまでもプラトニック。家族のように信頼のおける相手という意味あいです。それはリチャードにもじゅうぶん伝わっているようです。

 

そんな二人だからこそ紡ぎだせる、リチャードと正義のそれぞれの過去の清算を経て、気持ちの良いエンディングへと向かいます。

 

勇気をくれる珠玉の言葉が散りばめられた良作

▲宝石にさす光の表現にこだわりを感じる! 出展/TVアニメ「宝石商リチャード氏の謎鑑定」公式

 

宝石は美しいけれど、この世は美しいばかりじゃない。実際、リチャードの店を訪れるお客たちが抱える問題は、あまり楽しいものではありません。第1話からして、正義の祖母がかつてスリで盗んだ指輪を巡った物語です。

 

そこに偏見をもたず差別的発言をしないリチャードが絡んで、それぞれの抱えるわだかまりがほぐれていく様子は、お客たちが痛みを伴いながらも前を向いて歩いていく助けとなっています。各回でみせる示唆に富んだリチャードがとてもスマートで素敵です。

 

自分の選択をまっとうしたいとき、間違ったときその間違いに向き合い乗り越えたいとき、リチャードの言葉はいくつもの勇気をくれるはず。だからじつは、何度も読み返せる小説や漫画の方がより伝わる媒体かも知れないと思えました。アニメだと、どうしても流れてしまうから。

 

それくらい、珠玉の言葉が散りばめられていた良作だと思います。

 

その反面、やはりファンタジーだと思ってしまう

▲雇い主を「おまえ」呼ばわりはさすがに違和感 出展/TVアニメ「宝石商リチャード氏の謎鑑定」公式

 

アルバイトの正義は、雇い主のリチャードを「おまえ」と呼びます。接客態度もまったくなっていません。

 

リチャードの店は石だけを扱う店のようです。おそらく選んだ石に好みの加工を施し1点ものの宝飾品に仕上げるのでしょう。そんなハイジュエリーを扱う店に、いくらチンピラから助けてもらったからといって初対面の大学生を雇うなんてあり得ない。訪れる客たちも、とてもそんな店に出入りするような人とは思えない方々で・・・。

 

いろんな設定があまりに甘すぎて、まぁ、ファンタジーだよなぁと思ってしまう。個人的には、もう少しリアリティのある設定の方が好みなので、そこはかなり残念に思えました。

 

人間ドラマなのに、人間の描き方が希薄

▲じつはリチャードの実家はイギリスの名家 出展/TVアニメ「宝石商リチャード氏の謎鑑定」公式

 

もうひとつ残念に思ったのは、題材が人間ドラマなのに、人間の描き方が希薄なことです。少女を対象にしたライトノベルが原作だから仕方がないのかも知れませんが、なんとも物足りない。

 

このシリーズの見どころは、やはりリチャードの実家にまつわるエピソードだと思うのですが、もっともっと盛り上げられるはずなのに、たった2話でさらっと流してしまっている。もちろん全12話で収めるために仕方なくなんでしょうが、すごくもったいなく感じました。

 

本来ならリチャードを主人公にすえて、彼の過去にまつわるエピソードに首をつっこんだ正義との間に強い絆が生まれるまでを描けば十分いい作品になりそうなのに、いろんな宝石を登場させてうんちくを盛り込むという構成にしたために主軸がぶれてしまったような印象です。

 

第2期はないと思われますが、まだリチャードには解決すべき大きな問題があります。自分の家や母、幼い頃の家庭教師との問題は解決されましたが、最愛の人の情報だけ出て本人が出てきていませんよね。そこが語られないのが、とても残念です。

 

TVアニメ「宝石商リチャード氏の謎鑑定」の個人的総合評価は★×7.3

▲オークション用に正装したリチャード。眼福! 出展/TVアニメ「宝石商リチャード氏の謎鑑定」公式

 

脚本/6

CV/8

キャラクターデザイン/7

作画/8

アニメーション/6

美術/8

音楽/8

 

総合評価 51/70 = 約73/100 73点なので★×7.3

 

 

絵はきれいだと思います。端正なリチャードの顔も、うまく引き算された背景も、銀座の街角の描き方もセンスの良さを感じさせます。正義など、リチャード以外のキャラがびっくり目すぎるのが、個人的には少し嫌だけど。でも、恋愛ものでもなく、変にこびたつくりではないので、安心して観られる作品で楽しめました。

 

アニメーション評価が辛くなっていますが、アクションでみせる作品ではないので、このままでいいと思います。作画も音楽も安定していました。

 

ただ、脚本だけはもったいなく感じる部分が多かった。もっと良くできる題材なのに、原作をさらっとなぞった感じがとても残念に思えましたね。でも、自分のありかたに悩んでしまったとき、常識に目がくもってしまいそうなとき、とても有益な言葉をくれる良作だと思います。時間をおいて、また楽しみたいと思える作品でした。

 

スポンサーリンク